資格の基本から転職まで 「中小企業診断士」は転職に有利?

大手資格スクールの人気資格ランキングでも5位にランクインするほど、近年知名度が上がってきた中小企業診断士。

「どんな転職に役立つのか?」「取得するメリットはあるの?」など、資格の概要や難易度、転職でどう有利になるのかなど、これから資格取得を検討するうえで知っておきたい情報をお伝えします。

そもそも中小企業診断士ってどんな資格?

資格概要

中小企業診断士資格は、経営の診断・助言について一定の能力を有すると認められた人に与えられる資格で、経営コンサルタントに関する国家資格です。

経済学、経営戦略、人事、マーケティング、財務・会計、物流、店舗管理、IT、法務など、幅広い知識を身につけられます。

資格保有者の人数・属性

中小企業診断士として登録している人数は、約27,000人(2019年度)

独立行政法人中小企業基盤整備機構のデータによると、資格保有者の職業は、経営コンサルタント(コンサルティング会社勤務&独立開業)として働く人が約47.0%、企業内で勤務(コンサルティング会社除く)している人が約47.4%。

年齢構成は、40歳代~50歳代で約52%を占めており、30歳代は約9.8%という状況です。

資格取得には1年間は学習期間が必要

この資格は2ヶ月、3ヶ月勉強すれば取得できるものではなく、一般的に、約1000時間程の勉強時間が必要だといわれています。

2019年の合格率は1次試験は30.2%、2次試験は18.3%。1年間で資格を取得できる確率は3~5%と難易度の高い資格であるため、2年、3年と勉強をして資格取得する人も多いのです。

中小企業診断士資格は確かに転職で有利になりますが、この資格がなければ申し込めない求人が少ないのも事実。この資格の有無が採用の決め手になる可能性は高いとはいえません。

転職で有利になることだけを目的に、この資格取得を目指そうとしている人は労力を考慮のうえ、資格取得に取り組むべきか判断しましょう。

※参照:「中小企業診断士(経済産業省)」「データで見る中小企業診断士(一般社団法人 中小企業診断協会)

中小企業診断士資格は転職で有利になる

中小企業診断士資格は何かと転職で有利になります。

コンサルティング業界の転職で有利に

中小企業診断士資格は、特にコンサルティング業界の転職で有利なります。

この資格は経営コンサルティングに関わる国家資格。コンサルティングをするうえで必要となる知識があることをアピールすることができます。

経営戦略、人事、財務等、幅広い知識があることの証明になるため、戦略系コンサル・組織人事コンサル・財務コンサルなど、コンサルティング業界であればどんな分野でも評価されます。

ただし、この資格を持っているだけでコンサルティング業界の転職市場で優位にたてるわけではありません。あくまでコンサルタントとしての実力・実績があったうえで、プラスアルファの要素としてこの資格が評価されますのでご注意ください。

コンサルティング以外の業界・職種の転職でも有利に

コンサルティング業界以外でも、幅広い業界・職種で中小企業診断士資格は転職で有利になります
それは中小企業診断士資格を取得するために学ぶ領域が広いことと、難易度が高いからです。

中小企業診断士試験では、経済学、財務・会計、経営理論、運営管理(サプライチェーンマネジメント)、法務、情報システムなど、ビジネスで役立つ幅広い知識を求められます。

この資格はこれらの知識があることを証明するものなので、クリエイターなどの専門職種を除いて、多くの職種・業界の転職で有利になる場合が多いです。

さらに、試験科目が多く、最低1年の学習期間が必要とされているため、企業側が知識の習得に粘り強く取り組める人、継続力のある人だと見てくれることもあります。

また、企業をコンサルティングできる知識があることから、経営者の視点から考えられる人だと見てくれることもあります。知識そのものだけでなく、こういった印象面でも転職で有利になることがあります。

地方の転職に有利なことも

幅広い業界・職種の転職で有利になる中小企業診断士ですが、都市部より地方の転職で有利な傾向があります。

公共機関からの仕事の依頼をもらえることがこの資格のメリットの一つですが、地方は公的業務の受注をめぐる競争率が低いため、都心よりも仕事が得やすく、独立開業をしても安定的に収益を上げられる可能性が都心よりも高いといえるためです。

人脈を活用して転職することも

一般に転職する方法は、ハローワークや各種求人サイト、紹介会社の利用などがありますが、この資格を活かして転職をしたい場合は中小企業診断士になって築ける人脈を活用して転職をする人も多いです。

また、中小企業診断士には独占業務がなく、必須応募条件に記載している求人は多くありません。そのため、より待遇の良い転職先を探す際は人脈を活用することが多いのです。

中小企業診断士のネットワークに加わることで、いろいろな業界・職種の人と交流ができるのがこの資格を取得するメリットの一つ。
その人脈を活かして、この資格を活かせる仕事ができる・この資格を評価してもらえる企業を紹介してもらうこともできます。

中小企業診断士資格取得のその他のメリットは?

ビジネスに役立つ幅広い知識が身につく、多くの業界・職種の転職で有利になることの他にも中小企業診断士には下記のようなメリットがあります。

会社内でのポジションを上げる要素に

企業によっては、この資格取得を管理職になるための優遇条件にしています。条件に入っていなくとも、管理職として必要な幅広い知識があることの証明になりますので、評価されやすいでしょう。

新たな収入源になる

副業が可能な人は、この資格を活かせば本業とは別の新たな収入源を手に入れることができます。

中小企業診断士協会からの仕事の依頼がくることもあれば、人脈を活かして仕事を得ることもできます。仕事内容としてはコンサルティング業務全般を任される大きな仕事もありますが、財務・会計の一部をお手伝いする仕事もあれば、知り合いの税理士を紹介するだけで手数料をもらえることもあります。

副業が難しい人でも企業によっては、この資格を取得すればお祝い金や資格手当を出しているところもあるので収入が増える可能性があります。

独立開業の選択肢が増える

中小企業診断士は会計士や税理士、司法書士のような独占業務がないため、独立開業をしても稼ぐことが難しいといわれることがありますが、実質独占業務である仕事が存在します。

その一つに公的診断(公共機関からの経営診断依頼)があります。

一般企業であれば経営診断の依頼を民間のコンサルティング会社にお願いすることが多くありますが、公共機関は中小企業診断士協会に依頼をすることがほとんどです。同協会に依頼がきた仕事は中小企業診断士が担当するため、実質独占業務となるのです。

もちろん仕事を依頼するためには実力や実績が求められますので、開業してすぐに公的診断を行える可能性は高くはありませんが、独立開業をしてこの資格を活かすことが難しいわけではありません。

人脈・ネットワーク形成に役立つ

中小企業診断士になることで診断士の仲間や、他の資格保有者(会計士や税理士など)と交流する機会が多くあります。中小企業診断士資格保有者は多種多様な業界・職種の人がいるため、ネットワークを広げることができます。

具体的な人脈形成の機会として下記が挙げられます。

研究会、勉強会

中小企業診断士には数多くの研究会、勉強会が存在します。
プロコン塾や、業界に特化した内容を勉強する会、営業のスキルアップ方法を学ぶ会、人事労務の知識を学ぶ会などがあり、資格保有者なら誰でも参加することができます

交流会

全診断士が集まる交流会・パーティーや、診断士になってから3年しか経っていない人限定の交流会など、中小企業診断士が集まる会が定期的に開催されています。

他にもフットサル同好会やマラソン同好会、マジシャン同好会など、同じ趣味を持つ診断士が集まる会もあります。

2次試験合格後の実務補習

中小企業診断士として協会に登録するためには、2次試験合格後、3年以内に実務補習を15日以上受ける、もしくは診断実務に15日以上従事することが必要です。

実務補習では2次試験合格者6名以内と担当官が、実際の企業をコンサルティングします。企業に訪問をし、経営者にヒアリング。そこから得た情報やIRをもとに、経営方針、財務、物流、店舗・工場運営など、いろいろな視点から課題を分析し、その課題解決方法を提案します。上記を行うために2次試験合格者・担当官で5日間集まり、ほぼ1日中会議室で話し合いをしていきます

このコンサルティングを計3回行うため、実務補習を通じて約15名の2次試験合格者と3名の担当官、3社の経営者・従業員密な関係を築くことができます

※参照:中小企業診断士とは(一般社団法人 中小企業診断協会)

中小企業診断士資格の試験内容

転職で有利になる場合が多いが、取得に労力がかかる中小企業診断士。

ここでは資格取得を検討する人のために、中小企業診断士資格の試験内容について説明します。

【1次試験】
■受験資格
年齢、性別、学歴等に制限はありません。

■試験実施日
8月上旬の2日間(※2020年は東京オリンピックとの日程調整のため、7月中旬の2日間に実施予定)

■合格率
約30%(2019年度)

■受験料
13,000円(税込)

■試験科目(配点:各科目100点)
下記7科目の試験があります。
四肢択一または五肢択一のマークシート形式による試験です。

<1次試験科目>
A.経済学・経済政策-試験時間:60分
B.財務・会計-試験時間:60分
C. 企業経営理論-試験時間:90分
D. 運営管理(オペレーション・マネジメント)-試験時間:90分
E. 経営法務-試験時間:60分
F. 経営情報システム-試験時間:60分
G. 中小企業経営・中小企業政策-試験時間:90分

実際の過去問を見たい人は下記サイトからPDFをダウンロードしてください。
中小企業診断士試験問題-一般社団法人 中小企業診断協会

■合格ライン
[1]総点数による合格ライン
総点数が60%以上であり、かつ1科目でも40%未満の科目がないことを基準とし、試験委員会が相当と認めた得点比率。

[2]科目ごとの合格ライン
満点の60%を基準とし、試験委員会が相当と認めた得点比率。

■合格の有効期間
・1次試験全科目合格の有効期間は2年間
・1次試験合格までの科目合格の有効期間は3年間
(翌年度と翌々年度まで合格した科目を免除申請できます。)
※3年以内に7科目のすべてに合格することで1次試験合格となります。
※免除科目を除く全科目を受験していない場合、「[1]総点数による合格ライン」は適用されません。
※科目合格は、1次試験合格となった時点で、それまでの科目合格による受験免除の権利はなくなります。

【2次試験(論述)】(配点:各科目100点)
■受験資格
1次試験合格者

■試験実施日
10月中旬~下旬の1日間

※1次試験全科目合格年度とその翌年度に限り有効
※2001年度以前の1次試験合格者は1度だけ有効

■合格率(下記口述試験も含めた、2次試験の合格率)
約19%(2019年度)

■受験料
17,200円(税込)

※下記口述試験分も含む

■試験科目
下記4科目の試験があります。試験時間はそれぞれ80分。
設問に対して15~200字程度で解答する論述式の試験です。
<2次試験(論述)科目>
【事例Ⅰ】組織(人事を含む)を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
【事例Ⅱ】マーケティング・流通を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
【事例Ⅲ】生産・技術を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
【事例Ⅳ】財務・会計を中心とした経営の戦略および管理に関する事例

実際の過去問を見たい人は下記サイトからPDFをダウンロードしてください。
中小企業診断士試験問題-一般社団法人 中小企業診断協会

■合格ライン
総点数の60%以上、かつ1科目でも満点の40%未満がない。

【2次試験(口述)】(配点:各科目100点)
■受験資格
同年度の2次試験<論述>合格者

■試験実施日
12月中旬
※口述試験を受ける権利は同年度のみ有効。
翌年に持ち越すことはできません。

■試験科目
同年度の2次試験<論述>で出題された事例をもとにした面接官との質疑応答

■合格ライン
口述試験における評定が60%以上。

まとめ

いかがでしたか。
中小企業診断士資格の取得は、転職の有無に関わらず、メリットは多くあります。
ただし、試験科目が多く、難易度も高いため勉強期間が長く、労力がかかるのも事実。
取得を検討している人は労力を考慮したうえで、資格取得にチャレンジするか判断しましょう。

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