非課税上限額・計算方法も紹介 退職金には所得税がいくらかかる?
退職時にもらえる退職金には、退職時に一度にまとめてもらうタイプ(退職一時金)と、定年退職後に少しずつ分割してもらうタイプ(退職年金・企業年金)の2種類があります。
この記事では、退職時に一度にまとめてもらうタイプの退職金にかかる税金の種類と、計算方法をお伝えします。
退職金に所得税はかかる?
ここでは、退職金にかかる所得税のしくみを解説します。
退職金からは「所得税」と「住民税」が引かれる
退職時に一括でもらえる退職金にも、所得税と住民税がかかります。
退職金にかかる所得税・住民税は、普段の給与よりも税の負担が軽い特別な税率で引かれます。これは、退職金が年金をもらうまでの生活資金としての意味合いもあるためです。
退職金にかかる所得税は、勤続年数と受け取った退職金の額によって決まりますが、一定の金額(非課税上限額)に達していなければ、所得税が全くかからないこともあります。
退職所得には退職金のほかに、30日以上前の予告なしに企業から解雇された場合に支払われる手当(解雇予告手当)や、会社が倒産した場合に「未払賃金の立替払制度」で得たお金(未払賃金)も含まれます。
退職金にかかる所得税・住民税の計算方法は?
ここでは、所得税がかからない退職金の上限額と、退職金にかかる所得税と住民税の計算方法を解説します。
そもそも自分の退職金に所得税がかかるのか確認する
会社から受け取った退職金の額が、勤続年数と受け取った退職金の額から算出した一定の額(非課税上限額)を超えていなければ、所得税はかかりません。
例えば4年制大学をストレートで卒業して定年の60歳まで勤めた場合、勤続年数は38年なので、退職金が2060万円以下であれば所得税が引かれることはありません。住民税についても同様です。
下の表から、自分の勤続年数ではいくらまで所得税と住民税がかからないのかを確認してみましょう。
自分がもらう退職金が上限額を超える場合、所得税・住民税の額を計算する必要があります。
退職金にかかる所得税の計算方法
退職金は、勤め先から支払われる前に所得税・住民税が差し引かれますが、どのくらい退職金から所得税が引かれているのか気になりますよね。
下の図は、退職金にかかる所得税の計算方法を図式化したものです。まずはこちらで退職金にかかる所得税の全体像をつかんでみてください。
退職金にかかる所得税額は、以下の4つのステップで算出することができます。自分がもらう退職金にいくら所得税がかかるのか計算してみましょう。
ステップ1:「退職所得控除額」を確認する
退職所得控除額=所得税がかからない退職金の上限額なので、「所得税がかからない退職金の上限額の一覧表」から確認しましょう。
勤続年数には、休職していた期間も含まれます。また、1年に満たない端数は切り上げて計算するので、「24年2ヶ月」は「25年」として計算します。
退職所得控除額を自分で計算したい場合、計算式は以下のとおりです。
ステップ2:「課税退職所得額」を計算する
課税退職控除額(課税の対象となる金額)は、退職金(収入金額)から退職所得控除額を引いた額(退職所得)の半分です。下の式に当てはめて計算してみましょう。
ステップ3:税額表をもとに「税率」「控除額」を確認する
ステップ2で計算したA:課税退職所得額をもとに、税額表からB:税率とC:控除額を確認しましょう。この税率と控除額は、課税退職所得額によって異なります。
ステップ4:所得税額(復興特別所得税も含む)を算出する
退職金にかかる所得税には、東日本大震災の復興特別所得税である2.1%も含まれます。
A:課税退職所得額に、ステップ3で確認したB:税率をかけてC:控除額を引き、102.1%をかけることで、退職金にかかる所得税額の合計が算出できます。
なお、復興特別所得税は、2037年12月31日までかかります。
退職金にかかる住民税の計算方法
退職金にかかる住民税は、所得税の計算方法のステップ2で算出した「A:課税退職所得額」に10%をかけることで算出できます。
退職金にかかる住民税の税率は、受け取った退職金が非課税上限額を超えていれば、全額がいくらであっても一律10%かかります。
退職金にかかる所得税のシミュレーション
ここでは、勤続年数と退職金の額別に、所得税額と手元に残る金額を計算しました。
勤続年数10年・退職金1000万円の場合
勤続年数10年の人が退職金1000万円をもらった場合、手元に残る退職金は949万3248円です。退職金にかかる所得税と住民税は合わせて50万6752円です。
勤続年数10年・退職金1000万円の所得税の計算方法
勤続年数10年・退職金1000万円の人が納める所得税と住民税の額の計算は以下のとおりです。
ステップ1:「退職所得控除額」を確認する
勤続年数10年なので、400万円
ステップ2:「課税退職所得額」を計算する
(退職金―退職所得控除額)×1/2
=(1000万円-400万円)×1/2
=300万円
ステップ3~4:退職金にかかる所得税額を計算する
(課税退職所得×税率-控除額)×102.1%
=(300万円×0.1-97500円)×102.1%
=20万6752円
退職金にかかる住民税を計算する
課税退職所得の額×0.1
=300万円×0.1
=30万円
勤続年数38年で退職金2300万円の場合
勤続年数38年の人が退職金2300万円をもらった場合、手元に残る退職金は2281万8740円です。退職金にかかる所得税と住民税は合わせて18万1260円です。
勤続年数38年・退職金2300万円の所得税の計算方法
勤続年数38年・退職金2300万円の人が納める所得税と住民税の額の計算は以下のとおりです。
ステップ1:「退職所得控除額」を確認する
勤続年数38年なので、2060万円
ステップ2:「課税退職所得額」を計算する
(退職金-退職所得控除額)×1/2
=(2300万円-2060万円)×1/2
=120万円
ステップ3~4:退職金にかかる所得税額を計算する
(課税退職所得×税率-控除額)×102.1%
=(120万円×0.05)×102.1%
=6万1260円
退職金にかかる住民税を計算する
課税退職所得の額×0.1
=120万円×0.1
=12万円
コラム:退職金をもらったら確定申告は必要?
会社員であれば、退職金の所得税と住民税に関して確定申告などの特別な手続きを行うは必要ありません。退職時に会社から渡される「退職所得の受給に関する申告書」を記入し、提出すればOKです。
申告書を提出し忘れてしまった場合は、一律20.42%の所得税が差し引かれますが、確定申告をすることで払いすぎた所得税が還付金として戻ってきます。住民税は、申告書を提出し忘れてしまっても、受け取った退職金が非課税上限額を超えている場合は一律10%が引かれます。
まとめ
退職金からいくら所得税と住民税がかかるのかは気になるもの。自分の勤続年数と退職金の額から、実際にどのくらいの税金がかかるのかをシミュレートしてみましょう。
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。