計算方法をわかりやすく解説 就業促進定着手当はいくらもらえる?

再就職手当をもらっていて、さらに再就職後の賃金が離職前より減ってしまった場合にもらえる就業促進定着手当。実際いくらくらいもらえるのでしょうか?

支給額の計算方法についてわかりやすく解説します。

就業促進定着手当の計算の流れ

就業促進定着手当の支給額の計算は、下記の手順で行います。

ステップ1「前職と再就職先の賃金の差額」とステップ2「就業促進定着手当の上限額」をそれぞれ計算して比較します。上限額を超えていれば上限額を、超えていなければ計算した金額がもらえます。

就業促進定着手当の支給額には上限額があるので、前職と再就職先との賃金の差額が大きいほど多くもらえるというわけではありません。

【ステップ1】前職と再就職先の賃金の差額を計算する

まずは、前職と再就職先の賃金の差額を計算します。

この差額は、離職前と再就職後の賃金日額の差額に、再就職後の賃金の支払い基礎となった日数を掛けて計算します。

1離職前の賃金日額(1日あたりの賃金)

離職前の賃金日額は、雇用保険受給資格者証の1面14欄に記載されている金額(離職時賃金日額)となります。雇用保険受給資格者証で離職前の賃金日額が記載されている位置

※出典→就職促進給付|ハローワークインターネットサービス

ただし、就業促進定着手当の計算に使える離職時賃金日額には上限と下限があるため、併せて確認しましょう。上限を超える場合は上限額が、下限を下回る場合は下限額がそのまま賃金日額となります。

賃金日額の上限額と下限額

<上限額>(離職時の年齢)

29歳以下 14,130円
30~44歳 15,690円
45~59歳 17,270円
60~64歳 16,490円

<下限額

全年齢共通で2,869円。

※2024年8月現在。毎年8月1日に改定されます。

2再就職後の賃金日額(1日あたりの賃金)

再就職後6カ月間の賃金日額は、再就職先の給与の支払い方法が月給か日給(時給)かで計算方法が異なります。

<月給の場合>

以下の計算式で求められます。

再就職後6カ月間の賃金の合計額 ÷ 180

<日給制・時給の場合>

以下の計算式で求められる金額のうち、高い方となります。

(a) 再就職後6カ月間の賃金の合計額 ÷ 180
(b)(再就職後6カ月間の賃金の合計額 ÷ 賃金支払いの基礎となった日数)×70%

再就職後6カ月間の賃金日額にも、離職前の賃金日額同様の上限額と下限額があるため、先ほどの表の上限額と下限額の間に収まっているか確認しましょう。

上限を超える場合は上限額が、下限を下回る場合は下限額がそのまま賃金日額となります。

交通費や賞与は賃金に含まれる?

計算で利用する賃金は税金や社会保険料が控除される前の総支給額となりますが、賞与など、手当によっては賃金に含まれないものもあるので注意が必要です。

<賃金の計算に含む>

通勤手当
(事務手続きのために期間ごとにまとめて支払われるものもOK)
皆勤手当
家族手当 など

<賃金の計算に含まない>

3カ月を超える期間ごとに支払われる賞与 など

3再就職後6カ月間の賃金の支払基礎となった日数

支払い基礎日数は賃金形態によって異なります。

<月給制の場合>

欠勤した分が給与から控除されない月給制の場合は、その月の暦日数(28日、29日、30日、31日)が支払基礎日数となります。

<日給月給制の場合>

欠勤した分が給与から控除される日給月給制の場合は、給与が支払われた日数(所定労働日数)が支払基礎日数となります。

<日給・時給制の場合>

日給・時給制の場合、出勤した日数が支払い基礎日数となります。

離職前と再就職後で賃金の差が大きい場合、この計算式で導かれる支給金額はかなり大きくなります。

ただし、支給には上限があるため、算出した金額が満額もらえるとは限りません。次はこの上限額を計算します。

【ステップ2】就業促進定着手当の上限額を計算する

就業促進定着手当の上限額は、雇用保険の基本手当日額に支給残日数を掛け、さらに30%または40%を掛けた金額になります。

就業促進定着手当の上限額計算式:就業促進定着手当の上限額=基本手当日額×支給残日数×30%または40%

計算式の各項目について解説します。

1基本手当日額

基本手当日額は、雇用保険受給資格者証の1面19欄に記載されている金額となります。

雇用保険受給資格者証で基本手当日額が記載されている位置

※出典→就職促進給付|ハローワークインターネットサービス

なお、就業促進定着手当の計算に使える基本手当日額にも、下記の通り上限額があります。

基本手当日額の上限額

<上限額>(離職時の年齢)

59歳以下 6,395円
60~64歳 5,170円

※2024年8月現在。毎年8月1日に改定されます。

2支給残日数

支給残日数とは、失業保険(基本手当)がもらえる残りの日数です。

支給残日数は失業保険がもらえる総日数から再就職までにかかった期間を引いた日数で、再就職手当や就業促進定着手当の金額を算出する際にも必要となります。

自分の支給残日数は、雇用保険受給資格者証の3面に記載されています。

雇用保険受給資格者証で失業保険(基本手当)の支給残日数が記載されている位置

330%か40%か

最後に掛ける比率は、再就職手当の支給率が何割だったかによって決まります。

  • 再就職手当の支給率が70%だった…30%
  • 再就職手当の支給率が60%だった…40%

【ステップ3】差額と上限額を比較する

【ステップ2】で就業促進定着手当の上限額が計算できたら、【ステップ1】で計算した差額と比較します。

差額が上限額より低い場合、差額を満額受け取れますが、差額が上限額より高い場合、上限額がそのまま支給額となります。

就業促進定着手当の計算シミュレーション

最後に、前職で月給27万円だった人が再就職して賃金が減ってしまった場合のシミュレーションを、2つのパターンに分けて考えてみましょう。

条件は下記の通りです。

離職前・再就職時の条件

  • 離職時の年齢 28歳
  • 再就職日 2019年4月1日
  • 離職前の月給 27万円
  • 離職前の賃金日額 9,000円
  • 基本手当日額 5,699円
  • 失業保険支給残日数 60日
  • 再就職手当の受給率 70%

月給27万円から月給25万円になった場合

月給27万円から月給25万円になった場合について、就業促進定着手当としてもらえる金額は102,582円です。

2章で解説した手順に沿って計算してみます。

【ステップ1】前職と再就職先の賃金の差額を計算する

(1)離職前の賃金日額は、9,000円

(2)再就職後の賃金日額は、25万円×6カ月÷180=8,333円

(3)支払基礎日数は、4/1~9/30の183日(再就職後は月給制の場合を想定)

(1)(3)を計算式に当てはめると、差額は(9,000円-8,333円)×183日=122,061円

【ステップ2】就業促進定着手当の上限額を求める

上限額は5,699円×60日×30%=102,582円

【ステップ3】差額と上限額を比較する

差額122,061円は上限額102,582円より高い(差額>上限額)ため、上限額の102,582円が支払われます

月給27万円からパートで時給1,200円になった場合

月給27万円からパートで時給1,200円になった場合、就業促進定着手当としてもらえる金額は102,582円です。

2章で解説した手順に沿って計算してみます。再就職後は時給1,200円、週5日、6時間勤務で、4/1~9/30まで26週間働いたものとします。

【ステップ1】前職と再就職先の賃金の差額を計算する

(1)離職前の賃金日額は、9,000円

(2)再就職後の賃金日額は、
1,200円×6時間×5日間×26週間=936,000円(賃金の総額)
(a)936,000円÷180=5,200円
(b)(936,000円÷130日)×70%=5,040円
(a)>(b)なので賃金日額は5,200円

(3)支払基礎日数は、労働日数=130日

(1)(3)より、差額は(9,000円―5,200円)×130日=494,000円

【ステップ2】就業促進定着手当の上限額を求める

就業促進定着手当の上限額は5,699円×60日×30%=102,582円

【ステップ3】差額と上限額を比較する

差額494,000円は上限額102,582を大きく上回る(差額>上限額)ため、上限額の102,582円が支払われます

このように、収入のダウン幅によって計算上の差額は大きく異なりますが、実際支払われる金額には上限があるため、もらえる金額は同じ結果となりました。

まとめ

就業促進定着手当の支給額は、計算上多く見えても上限額があるために「もらえる金額が少なくなってしまった」と感じるかもしれません。

しかし、雇用保険の給付金としてもらえる手当の合計金額は離職時の賃金や年齢、離職理由によって決まっています。支給条件を満たす場合はぜひ申請してみてください。

※参考:就業促進定着手当とは?計算式や申請方法就業促進定着手当支給申請書の書き方

この記事の監修者

社会保険労務士

山本 征太郎

山本社会保険労務士事務所東京オフィス

静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。

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