利用できる手当・給付金も紹介 産休中も給料はもらえる?金額や条件は?
産休・育休を取得するにあたって心配になるのが、休んでいる期間中の収入について。
この記事では、「育休・産休中に給料・給与はもらえるのか?」という疑問に答えつつ、産休中・育休中にもらえる手当・給付金や、受け取れる金額について紹介します。
Q. 産休中・育休中に給料・給与はもらえる?
基本的には、産休中・育休中に給料・給与は支払われない
一般的な企業の場合、産休中・育休中は基本的に給料が支払われません。
産休・育休ともに法律で定められた労働者の権利ですが、その期間内の給料の支払いについて規定は無く、企業側も「労働なくして賃金はない」と考える「ノーワーク・ノーペイの原則」を給与計算の基本としているため、休業中には給与を支払わないところが大半です。
一方で、給料の代わりに、健康保険や自治体から手当・交付金を受け取ることが可能です。もらえる手当・交付金の詳細は【産休中・育休中にもらえる、手当・給付金は?】の章でご紹介します。
公務員の場合は、給与が支払われる
公務員の場合、産休(産前・産後休業)は有給休暇扱いとなるため、給料が支払われます。
一方で育休中は、給料は支払われません。その代わりに「育児休業手当」として、標準報酬の日額の50%(育児休業期間が180日に達するまでは67%)を受け取ることができます。一般的な企業とは制度が異なるため、注意しましょう。
コラム:そもそも、産休・育休制度とは?
産休(産前・産後休業)とは、出産予定日の6週間前から出産後8週間まで休業することを指します。
一方で、育休(育児休業)は、産後休業の翌日(産後57日目)から子どもが1歳になるまで休業することで、出産した女性はもちろん、男性も取得可能です。また、保育所に入れないなどの特別な事情がある場合には、最長で子どもが2歳になるまで休業を延長することができます。
加えて、育休とは別に、子どもの出生から8週間以内に男性が休みを取得できる産後パパ育休(出生時育児休業)も新設されました。この制度では、期間内に最長4週間(28日)ずつ、2回に分けて休業を取得することができます。
育休・産休ともに、原則として転職直後でも取得可能ですが、育休は労使協定によっては「入社1年未満」のタイミングでは取得できないケースがあるので注意しましょう。
産休中・育休中にもらえる、手当・給付金は?
上述したように、産休中・育休中は、健康保険や自治体から手当・給付金を受け取ることが可能です。
ここでは、(1)出産育児一時金、(2)出産手当金、(3)育児休業給付金、(4)出産・子育て応援交付金の4種類の手当・給付金を紹介します。支給の対象者や支給金額、申請方法などをそれぞれ確認しておきましょう。
(1)出産育児一時金
出産育児一時金は、分娩・入院費用や、出産前後の検診費用など、出産にかかる費用の負担を減らすために支給される手当です。
対象者は、「健康保険または国民健康保険に加入している人(被扶養者を含む)」かつ「妊娠4カ月(85日)以後に出産した人」で、健康保険または国民健康保険から給付金が支払われます。
支給金額は、原則子ども1人につき50万円(生まれた人数分支給)(※)です。
※産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産した場合や、妊娠週数22週未満で出産した場合、支給額は子ども1人につき48万8000円になります。
出産育児一時金の支給額
▼産科医療補償制度に加入している医療機関で出産した場合…
- 子ども1人につき50万円 × 人数
※妊娠週数22週未満で出産した場合は、子ども1人につき48万8000円
▼産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産した場合…
- 子ども1人につき48万8000円 × 人数
申請のタイミングは、基本的には出産前です。医療機関などで申請方法に関する説明を受けたタイミングで書類を作成しましょう。なお、出産の翌日から2年以内であれば産後でも申請が可能です。産前に申請し忘れてしまった人も安心してください。
出産育児一時金の申請方法は、2パターン
出産育児一時金の申請方法は、医療機関が手続きを行ってくれる「直接支払制度」を利用するパターンと、自分で申請を行う「受取代理制度」を利用するパターンの、計2パターンがあります。
どちらも申請することで、出産費用の支払いに出産育児一時金を充てられるようになり、医療機関の窓口で支払う金額を抑えることが可能です。ただし「受取代理制度」を利用する場合は、出産予定日の2カ月前までに申請する必要があるので、注意しましょう。
基本的には、申請手続きの負担が小さくなる「直接支払制度」を利用するのがおすすめですが、小規模の産院など医療機関によっては利用できないケースがあります。事前に医療機関に確認するようにしてください。
〈出産育児一時金の申請の流れ〉
▼「直接支払制度」を利用する場合
- 医療機関に「直接支払制度」を利用したい旨を伝え、「直接支払制度合意書」に署名・提出する
- 出産費用の支払いに、出産育児一時金が充てられる(出産費用が出産育児一時金を超えた場合、超過分を退院時に支払う)
- 出産費用が出産育児一時金より少なかった場合、差額分を健康保険側に申請する
- 差額分が口座に振り込まれる(出産から約2~3カ月後)
※小さな規模の産院の場合、直接支払制度が利用できないこともあります。
▼「受取代理制度」を利用する場合
- 医療機関に「受取代理制度」を利用したい旨を伝え、受取代理の申請書を自分で作成する
- 申請書を健康保険側に提出する
- 出産費用の支払いに、出産育児一時金が充てられる(出産費用が出産育児一時金を超えた場合、超過分を退院時に支払う)
- 出産費用が出産育児一時金より少なかった場合、差額分が口座に振り込まれる(出産から約2~3カ月後)
※利用できるのは、厚生労働省へ届け出を行った一部の医療機関のみ。
※受取代理制度の申請期限は、出産予定日の2カ月前まで。
(2)出産手当金
出産手当金は、産休中に給料が支払われない女性に対して、出産や生活にかかる費用を援助するための給付金です。
対象者は、勤務先の健康保険の加入者かつ、産前・産後休業を取得した人となっており、勤務先が加入する健康保険から支払われます。
ただし、下記に該当する人は手当金の支給対象外となるので注意してください。
〈出産手当金の支給対象外になる人〉
- 国民健康保険の加入者
→出産手当金は、勤務先が加入する健康保険から支給されるため。 - 産休中に、出産手当金よりも多く給与を受給している人
→産休中にも給与が支払われる会社や、産休が有給扱いとなる公務員など。 - 家族の健康保険の扶養に入っている人
→支給対象は、健康保険の加入者のみのため。 - 健康保険を任意継続している人
→原則、任意継続の被保険者には支給されないため。 - 申請期限が過ぎている人
→申請期限は「休業していた日の翌日から2年以内」。
支給金額は、下記の計算式によって計算されます。たとえば、標準報酬月額の平均額が30万円の場合、1日あたりの支給額は「30万円÷30×2/3 = 0.66万円」となり、産休を取得した日数分だけ受け取ることが可能です。
ただし、すぐに受け取れる訳ではなく、申請から1~2カ月後に振り込まれる点に注意してください。
1日あたりの出産手当金の支給額
=直近12カ月の「標準報酬月額(※)」の平均額 ÷ 30日 × 2/3
※標準報酬月額:被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬の月額を、区切りのよい幅で区分した額のこと。くわしくは「標準報酬月額・標準賞与額とは?|全国健康保険協会」を確認してください。
出産手当金の申請方法
出産手当金の申請を行うには、産休前に「申請用紙」を入手し、医療機関で必要事項を記入してもらう必要があります。下記の「出産手当金の申請の流れ」に従って、事前に準備しておきましょう。
〈出産手当金の申請の流れ〉
- 産休前に、勤務先や加入している健康保険の公式サイトから申請用紙を入手する
※参考:協会けんぽ「健康保険出産手当金支給申請書」
- 入院時に、担当医に申請用紙を提出し、必要事項を記入してもらう
- 産後56日経過したタイミングで、申請用紙を「勤務先の健康保険窓口」または「加入している協会けんぽ・健康保険組合」に提出する
なお、申請の手続きは勤務先が代理で行ってくれる場合もあります。申請用紙を入手する際に勤務先に確認し、対応してもらえるようであればお願いするのがおすすめです。
出産手当金の支給期間は、社会保険料も免除される
出産手当金の支給期間中は、健康保険料・年金保険料・雇用保険料の支払いも免除されます。
なお、支払いが免除されている間も、各保険の保障はそのまま受けられるほか、加入実績も継続されます。将来的な年金支給額などへの影響はないので、安心してください。
(3)育児休業給付金
育児休業給付金は、復職が前提の育児休業を取得した人に対して、休業中の育児や生活にかかる費用を援助することを目的とした給付金です。
対象となるのは、「(1)雇用保険に加入している人」かつ「(2)育休に入る前の2年間で、11日以上働いた月(ない場合は、就業した時間数が80時間以上の月)が12カ月以上ある人」で、加入している雇用保険から給付金が支給されます。
ただし、下記に該当する人は手当金の支給対象外となるため注意してください。
〈育児休業給付金の支給対象外になる人〉
- 育休中でも会社から給料が8割以上出ている人
- 雇用保険の加入期間が1年未満の人
- 育休対象期間中、ひと月の勤務日数が10日を超えている人
※ただし、10日を超える場合でも、就業時間が80時間以下であれば支給対象になります
- パートやアルバイトなど有期雇用の人で、子どもが1歳6カ月になるまでの間に契約が満了する人
支給金額は、育休開始から180日目までは「休業前の賃金×67%」、育休開始から181日目以降は「休業前の賃金×50%」となります。
育児休業給付金の支給金額
▼育休開始から180日目まで
「育休取得前6カ月の賃金」 ÷ 180 × 67% × 支給日数
※1カ月あたりの育児休業給付金の上限額は、31万5369円(2024年11月現在)
▼育休開始から181日目以降
「育休取得前6カ月の賃金」 ÷ 180 × 50% × 支給日数
※1カ月あたりの育児休業給付金の上限額は、23万5350円(2024年11月現在)
支給期間は、状況によって異なる
育児休業給付金の支給期間は、母親の場合は「産後休業の翌日(産後57日目)から、子どもの1歳の誕生日前々日まで」です。父親の場合は「出産日当日から、子どもの1歳の誕生日前々日まで」の期間内で、実際に休んだ日数分の給付金が支給されます。
また、母親・父親ともに育休を取得する場合は、「パパ・ママ育休プラス」という制度によって、育休の期間(=給付金の支給対象期間)が「子どもが1歳2カ月になる日の前々日まで」に延長されます。
さらに、保育園に入所申し込みをしたが入所できなかった場合や、病気などで養育が困難になった場合など、一定の要件を満たす場合は、子どもが1歳6カ月になる前々日、または2歳の誕生日前々日まで支給期間の延長が可能です。一定の要件についてくわしくは、厚生労働省のQ&Aページを確認してください。
育児休業給付金の申請方法
育児休業給付金の申請を行うには、育休に入る前に勤務先に育休予定を伝えて、「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業基本給付金支給申請書」を勤務先に提出しましょう。その後の手続きは、勤務先の企業が行ってくれます。
給付金の支給時期は、受給決定から約1週間後。出産から3~4カ月後に振り込まれるケースが多いようです。
また、育休を継続する場合、2カ月ごとに育児休業給付金の申請を行う必要があります。こちらも通常は企業側が行ってくれるため、特に手続きする必要はありません。
〈育児休業給付金の申請の流れ〉
- 育休前に、勤務先に育休予定を伝えて「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業基本給付金支給申請書」を受け取る
- 必要事項を記入して、勤務先になるべく早く提出する(※)
※勤務先を経由して申請を行う場合、申請期限は「休業開始日から4カ月を経過する日の属する月の末日まで」となります。
- 受給決定後、約1週間で指定した口座に振り込まれる
男性が育休を取得する場合も、育児休業給付金はもらえる?
男性が取得できる育休は、通常の育休(育児休業)と、産後パパ育休(出生時育児休業)の2種類があります。
このうち、育児休業給付金の対象となるのは通常の育休(育児休業)で、女性と同様に給付金を受け取ることが可能です。
一方で、産後パパ育休(出生時育児休業)を取得している場合も、一定の要件(※)を満たすことで、別の給付金である「出生時育児休業給付金」を受給できます。支給金額は、下記の計算式をもとに算出されます。
※「休業開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月(ない場合は、就業した時間数が80時間以上の月)が12カ月以上ある」人かつ、「休業中の就業日数が、最大10日(10日を超える場合は、就業した時間数が80時間)以内」の人
出生時育児休業給付金の支給金額 「育休取得前6カ月の賃金」 ÷ 180 × 67% × 休業日数 |
(4)出産・子育て応援交付金
出産・子育て応援交付金は、子育て家庭が安心して出産・子育てできる環境を整えることを目的として、2023年4月にスタートした支援制度です。定期面談や相談を行う「伴走型相談支援」と、出産・育児用品の購入や子育て支援サービスの利用負担を軽減するための「経済的支援」の2本柱で子育て家庭を支援します。
ほかの手当・給付金との大きな違いは、働いているかどうかにかかわらず受給できる点です。
出産・子育て応援交付金の支給金額は、妊娠届出時と出生届出時に、それぞれ5万円ずつ、合計10万円相当となっています。
出産・子育て応援交付金の支給金額
10万円(妊娠届出時:5万円、出生届出時:5万円)
ただし、支給の方法は自治体によって異なり、商品券・クーポンとして支給するケースや、ベビー用品などの購入費補助、支援サービスの利用料助成などの形で支給するケースなどさまざまです。必ずしも現金で支給されるわけではないため、利用前に自治体のホームページや窓口で確認しましょう。
申請のタイミングは、自治体によって異なる
出産・子育て応援交付金の申請方法は、自治体によって異なるのが特徴です。
たとえば東京都の場合は、1)「妊娠届」「出生届」を自治体の窓口へ提出→2)保健師の面接や家庭訪問のタイミングで「ギフト申請書」を提出→3)専用Webサイトへアクセスするためのカードを受け取るという流れになっています。
自治体によって申請が原則オンライン申請だったり、アンケートへの回答などが必須だったりと、細かな条件が異なるので注意が必要です。妊娠届出時や出生届出時に、窓口で案内があるケースが多いので、そのタイミングで不明点があれば遠慮なく質問するといいでしょう。
産休中・育休中の給料に関する、Q&A
ここからは、「産休中・育休中の給料」に関するよくある質問に、Q&A形式で回答します。
Q.転職直後でも、産休・育休に関する手当・給付金は受け取れる?
A.育休が取得できず「育児休業給付金」を受け取れない可能性がある。
転職直後のタイミングでは、そもそも育休を取得できず、「育児休業給付金」を受け取れない可能性があるので注意が必要です。
まず産休の場合は、女性社員から産休の申し出があれば企業は応じることが労働基準法で定められているため、転職直後であっても問題なく休みを取得可能です。そのため、勤務先の健康保険に加入している人であれば、産休に関する給付金である「出産育児一時金」を受け取ることができます。
一方で育休の場合、原則として転職直後でも取得可能ですが、労使協定によって「入社1年未満」の労働者が育休取得の対象外となるケースがあります(育児介護休業法第6条1項)。加えて、パート・アルバイト・契約社員など有期雇用の人は、子どもが1歳6カ月になるまでの間に契約が満了する場合、育休を取得できないので注意してください。
Q.産休に入る月の給料は、いくらもらえる?
A.日割りで計算した金額が支給されるケースが多い。
月の途中で産休に入る場合の給料額は、勤務先の就業規則によって異なります。
一般的なのは、勤務した日数分だけ日割りで計算するケースです。
たとえば、出勤日数が20日の月に、10日出勤して産休に入った場合は、「月給÷出勤日数(20日)×実際の出勤日数(10日)」といった形で支給額を計算します。
支給方法は企業の就業規則に明記することが義務化されているため、くわしくは勤務先の就業規則を確認しましょう。
Q.アルバイト、パート、派遣社員、契約社員の場合、注意点は?
A.保険の加入状況や、契約期間によっては、手当・給付金をもらえないので注意。
この記事で紹介している4つの手当・給付金(出産育児一時金、出産手当金、育児休業給付金、出産・子育て応援交付金)のなかには、「そもそも社会保険に加入していないと受け取れない」「被扶養者だと受け取れない」「育休の取得期間内に、有期雇用の契約期間が満了すると受け取れない」といった条件つきのものもあります。
4つの手当・給付金の支給条件をまとめたので、自分がもらえるかどうか確認しておきましょう。
Q.産休中・育休中も、年次有給休暇は付与される?
A.原則、年次有給休暇は付与される。
産休中・育休中は出勤日として計算されるため、ほかの出勤日と合わせて「その期間の全労働日の8割以上出勤」していれば、年次有給休暇は付与されます。
ただし、出勤日の合計が「全労働日の8割」に満たない場合や、「雇入れの日から6カ月経過していない」場合には、年次有給休暇は付与されません。
この記事の執筆者

ライター・編集者
久保田 敦大
株式会社クイック
転職Hacks編集部のライター・編集者。
大手求人メディアにて求人票や転職ノウハウ記事の制作を手掛けたのち、転職Hacks編集部に参画。自身の転職経験を活かした「実践的なノウハウ記事」が強みで、企業研究から入社の手続きまで、転職活動の全体をフォローしている。
転職時に自身も感じていた「わかりにくい!」というモヤモヤを解消すべく、どこよりも分かりやすい記事づくりに日々邁進中。