<学部学科別>理系の職業 農学部系出身者の職業図鑑

「農学部からなれる職業」について、情報をお探しではありませんか? 農業や畜産といった食料生産分野から、環境、食品、生物・バイオなど幅広い学問領域を持っている農学部。

大学で勉強したことを活かせる職業は一次産業や食品メーカーが中心のイメージですが、意外と幅広い業種からオファーがあるものです。

このページでは農学部出身者(獣医・水産を除く)の進路や職業を解説していきます。

農学部出身者の進路内訳

文部科学省の調査によると、全国の大学の農学部卒業生の進路は次の通りです。

  • 大学院修士課程への進学…25%
  • 製造業(食料品・飲料メーカーなど)…13%
  • 卸売・小売業…12%
  • 公務員(農林水産省、林野庁、水産庁・地方公務員)…7%
  • 学術研究・専門・技術サービス…6%
  • 農業・林業…3%
  • 複合サービス業…3%
  • 教育・学習支援業…3%
  • その他…15%
  • 未定・一時就職など…13%

農学部出身者の進路内訳グラフ

このように、幅広い業界へと進むのが農学部出身者の特徴です。中でも就職先として最も人気が高いのは食品メーカー・飲料メーカーを中心とした製造業。一部学科では専門性を活かし、製薬系企業への就職も盛んです。

農学部は、大学で学んだ内容が直接仕事に活きる工学部や建築学系とは異なり、科学に関する知識を広く学ぶため、学んだ内容が仕事に直結しないケースがほとんどです。

そのため、特定の職種を目指すだけでなく、「職種問わず食品業界で働きたい」というように、業種を第一にして決める人も少なくありません。

それでは、業種ごとに農学部出身者の職業を見ていきましょう。

農学部出身者が多い食品業界の職業

農学部の学生にとって人気の就職先である、食品業界。たとえば食品メーカーでも、飲料・製粉・冷凍食品・調味料・菓子・パン・健康食品など…様々な種類があります。飲料メーカーも同様です。

近年では、飲料メーカーがサプリメントの開発に乗り出したり、製菓メーカーがコンビニとタイアップして新商品を開発したり…業界が複雑化。幅広い企業で農学部出身者が活躍しています。

なお、食品業界は他の業界と比べて給与水準が低めの傾向にあります。

品質管理…食の安全性への意識の高まりからニーズが増加中

品質管理イメージ工場で製造された商品の品質を、国際的な安全管理手法であるHACCPに基づいて管理する職業です。勤務地は工場が基本。出荷前の製品を検査・分析し、腐敗や病原菌といった危険が潜んでいないかを確認すること。問題点があれば原因を究明し、対策を立案します。

また、そもそも問題が起こらないよう、日頃から品質を高く保つのも、品質管理の役目です。工場内の衛生管理や作業ルールの指導徹底、従業員の健康管理など…生産工場全体のクオリティアップがミッションと言っても過言ではありません。

▼品質管理の平均年収

品質管理の平均年収グラフ。平均年収は20代で339万円、30代で427万円、40代で532万円、50代で768万円(素材・化学・食品系全体)です。

製造技術職…効率的な大量生産を支える製造業の要

製造技術職イメージ製品を大量生産する際に重要な役割を持つのが、製造と呼ばれる職種です。

工場に勤務し、生産ラインに立って製品の製造を担いますが、実際に食品を加工したり混ぜ合わせたり…といった工程は機械やアルバイト・パートが担うことがほとんど。

正社員としての製造の役割は、作業員の管理に加え、製造ラインや機器のメンテナンス、異物の混入や品質のチェックなど…製品を高品質かつ効率的に生産するためのしくみづくりを行います。

経験を積み、職位が上がっていくことで、生産コストの抑制や生産装置の見直しや工場全体のFA化などを企画・提案する、工場そのものの運営役となることができます。

営業職

食品メーカーや飲料品メーカーの営業とは、自社の製品の売上を左右する大切な職業です。

そのためにもまず、もっと多くの店舗で取り扱ってもらえるよう、スーパーやコンビニ、問屋、卸などと商談をします。飲料や酒造メーカーでは小売店だけに留まらず、外食チェーンやレストラン、居酒屋などの飲食店にも営業を行います。

単に販路を拡大するだけでなく、自社商品の陳列方法や店舗でのPR方法など、店舗で商品が顧客に選ばれやすくなるような企画提案も行います。

流通各社が相手となるため、基本的にはBtoB(法人営業)ですが、時には自ら店頭で販促活動を行うケースもあります。

研究職

研究職は、研究所に勤務し、新商品開発のための研究を行う職業です。

研究職は、新しい食品の開発に繋がる発見を模索する基礎研究、新商品の味や見た目・香りといった処方を決める製品開発研究、新商品を製品化するのに必要な技術を研究する技術研究の3つに分かれます。

食品メーカーの職種の中でも特に人気が高いこと、食品化学を初めとする高度な専門知識が必要なことから、学部卒よりも大学院卒の方が有利だと言われています。

農学部出身者が多いその他の職業

種苗メーカーの職業…新しい野菜や果物の品種を作り出す

苗全国の田畑で生産される野菜や花き、穀物などの元となる種・品種を作り出すのが種苗メーカーです。

有名な企業では、タキイ種苗やサカタのタネ、カネコ種苗など。バイオの知識を活かした品種改良の研究や、田畑でのフィールドワークなど…農学部出身者にとって学んできた知識と経験をフルに活かせる職場と言えるでしょう。

研究職

害虫に強い、病気に強いなど…品種改良で新品種を生み出すための研究をする職業で、全く新しい技術を模索する基礎研究と、過去の技術の実用化を目指す応用研究とにわかれます。

近年ではデザイン育種(マーカー育種)への注目から、基礎研究ではDNAマーカーやゲノム編集といったバイオ系のアプローチも多く行われています。

育種

育種と呼ばれる技術職も、農学部出身者に人気の職業です。

様々な育種素材を交配させて新たな品種を誕生させます。品種改良して終わりではなく、協力農家のもとで試験栽培に立ち会い、生育状況や味などをチェックします。畑や田んぼ、ビニルハウス内など農業の現場で働くことができる点が魅力です。

この他、産地や小売店への新品種の提案など品種推進を担う開発職や、実際に種を製造する生産部門、発芽・病理・生化学・成苗検査を通して製品の品質を担保する品質管理なども農学部出身者が多く活躍しています。

観葉植物のリース・レンタル関連の職業…企業や店舗を緑で満たす

観葉植物オフィスや店舗、結婚式場、レストラン、ホテル、モデルルームなどに観葉植物やお花の貸し出しを行う企業。

業界大手企業としては、400名以上の従業員を抱えるユニバーサル園芸社や1969年創業の花門フラワーゲート、グリーンポケット(国土緑化株式会社)などがあります。

様々な職種がある中でも農学部出身者が多く活躍するのは、メンテナンススタッフと営業職。

メンテナンススタッフ

メンテナンススタッフは、取引先(観葉植物を貸し出している店舗や会社など)へ定期的に訪問し、植物の点検・世話や交換などのメンテナンスを行う職業です。

植物の交換や追加貸し出しにあたっては、取引先の「こんなグリーンが欲しい」というニーズを汲み取って品種を提案するため、植物に対する造詣が問われます。また、多くの企業では自動車運転免許が必須とされます。

営業職

一方、営業職は、取引先に対し、コストやニーズに合わせて観葉植物のレンタルを提案する職業です。

取引先は、オフィスやホテル、レストラン、ショールーム、大型商業施設など。単に営業をかけるだけでなく、様々な業態・空間・目的に対してグリーンを用いたインテリアの提案を行えるのが醍醐味です。時には空間プロデュースと呼べるような大がかりな提案を行うことも。

※企業によっては、大規模なプロジェクトや高いデザイン性が問われる仕事に関しては、社内のインテリアデザイナーが手がける場合もあります。

この他、メンテナンススタッフや営業職からの注文を元に植物の仕入れを行う購買スタッフや、ガーデニングや造園を手がける造園工事スタッフなども農学部出身者が多く活躍しています。

ファーム(大規模農家)…「やっぱり第一次産業でしょ」という人に

農家農家の中でも「○○ファーム」など会社組織化されたところは、農学部出身者を採用しています。

代表的な職業は、実際に田畑に出て農作業全般を行う、フィールド職。その仕事は幅広く、トラクターなどの農業機械の運転や収穫をはじめ、生産工程の管理や製造管理、農園見学者の接客、販売など多岐にわたります。

農家は休みが少ないイメージがありますが、ファームによっては年休120日近いところも少なくありません。繁忙期は週休1日、そうでないときは週休2日をシフト制で勤務し、オフシーズンは長期休暇…と、一般的な会社とは異なる休暇形態となる場合が多いです。

上記は農園を例に説明しましたが、同じく「有限会社○○畜産」といった会社組織化された酪農家・畜産業者でも同様のポジションで募集が行われています。

飼育員…給与も休みも高望みできないものの動物好きにはパラダイス

飼育員動物園や水族館などの飼育員。動物の世話をするイメージが強いですが、ショーに向けた動物たちのトレーニングやショーでのパフォーマンス、イベント企画・運営、園内ガイド、水槽や檻の掃除など…多岐にわたる業務を行います。

水族館の飼育員/学芸員の場合は、調査のために漁船に乗ったり潜水を行ったりする場合も。土日も開園しているため休みは不定期、また給与もそこまで高くないというデメリットはありますが、動物好きにはたまらない職業です。

文部科学省の分類では、動物園・水族館は博物館に分類されるため、実際に飼育員として働くためには大学で学芸員の資格を取得している必要があります。また、公立の動物園・水族館で働くためには公務員試験にパスする必要があります。

製薬・化粧品業界の各職種

化学や、生物・バイオの知識をフルに活かすなら、化粧品・製薬業界も選択肢の1つです。主な職業は、次の通り。

研究職

研究職新製品の元となる発見を目指す、研究職。人気ではあるものの、製薬メーカーの場合、薬学系大学院出身者が歓迎されるため、農学部の、ましてや学部卒だとかなりの難関になります。

化粧品業界の研究職や、大学院卒のポスドクが多くなることで知られるテクニシャン(研究補助)と呼ばれる職業の方が、多少なりともチャンスはあるでしょう。

MR(医薬情報提供者)

MR製薬業界だけでいえば、MR(医薬情報提供者)という職業があります。

MRは、病院のドクターに自社の薬の情報(効果効能や副作用情報)を届けたり、副作用情報を収集したりして、新薬の普及に努めます。薬や疾病についての知識が必要なため理系が有利。

MRは高収入の職業ですが、その分、多忙な医師にアポ取りし、各地の医療機関訪問しなければならない大変さがあります。

▼MRの平均年収

MRの平均年収グラフ。20代で平均年収521万円、30代で704万円、40代で963万円、50代で1037万円。

農薬などを開発する化学工業や肥料メーカーの職業

農薬農芸化学系の学科で学んだ知識を直に活かすなら、農薬や肥料を作るメーカーに就職するのも手です。

農家のニーズを元に新たな製品の開発や既存製品の改良を行う研究開発職、農協や肥料・種苗店、ホームセンターなど…取引先を訪問し、自社製品の販路を拡大する営業職などが人気です。

土木系建設会社の各職種

環境系の学科など、土木や測量について学んだ人は、土木学科同様、土木系の企業にも進路が開かれています。いわゆる土木系のゼネコン、サブコンなどが該当します。

特に農学部としての強みを活かしたいのであれば、農業土木を得意とする建設コンサルタントの門を叩くのも良いでしょう。

※参考:土木系学科の職業

JA(農協)の各職種

JA全国34都道府県の組合本部からなる農業生産者団体・JAグループ。信用事業や共済事業など事業は多角化していますが、農協の名で親しまれ、事業の根幹をなすJA全農が、農学部出身者の活躍の場です。

JA全農も建築設計から生活用品の供給までかなり幅広く事業を構えますが、その中でも農学部出身者が多いのは、農畜産物の運搬・加工・貯蔵・販売、海外と連携した農業の開発協力、農業技術向上のための講習指導、農業倉庫の運営、畜産市場の運営といったフィールド。

JA全農の組織は、国内外から日本の農業を支える「全国コース」と、各都府県に密着し地域の暮らしを支える「県域コース」とに分かれています。コースによって携われる仕事は異なります。

全国に広がる8000名を超える巨大な組織ですから、興味がある場合は事前にどこでどのような仕事に携われるか、チェックしてみると良いでしょう。

農学部から目指せる公務員の職業

農学部から公務員を目指す場合、農林水産省や国土交通省、環境庁、地方公務員として各都道府県庁などで行われている採用が当てはまります。

たとえば農林水産省では、農業の振興・発展や農業経営のサポート、農業生産技術の普及に努める『農業技術職』や、食糧生産の確保や農地・かんがい排水施設の整備、農村振興などの業務に従事する『農学土木職』をはじめ、『林学職』『植物防疫』などの職業が募集されています。

国土交通省の場合は河川や道路、公園などのインフラの整備と管理を行います。教員免許を持っていれば、農業高校の教師という選択肢もあります。

農学部から就職できる職業は意外と幅広い

学問領域の広さから、近年では農学部出身者の評価が見直されつつあります。

「農学系は学問領域が広いため、就職先も幅広い。たとえば東大の12年度学部卒業生の就職分野を比較すると、工学が13、理学が6なのに対して、農・獣医学は官公庁やメーカー、商社のほか、一見農学と関係のなさそうな流通や金融、保険なども含めた15分野にまたがっている。(中略)企業からのアプローチも多く、農学専門の東京農業大学(東京都世田谷区)は13年卒有効求人倍率が2.28倍と、全国平均の1.27倍(リクルートワークス研究所調べ)を大きく上回っている。」

※引用元:AERA「意外?就職に強いのは『農学部』企業から人気」より抜粋

農学部出身者や学生側の就職希望で圧倒的に多いのは製造業・卸売業・小売業などですが、企業側のニーズとしては実に様々な業界から熱視線が送られていると言えるでしょう。

まとめ

農学部出身者の職業は実に幅広く、最も人気がある食品業界を筆頭に、化学メーカーや製薬メーカー、種苗メーカー、観葉植物リース業、農薬・肥料メーカー、ファーム、さらには土木系や飼育員など多岐に渡ります。他にも、農学部出身者はその学問領域の広さから、多方面で活躍できる可能性があります。

まずは興味のある業界や製品で目指すべき方向に当たりを付け、それから自分に合う職種が何か考えると、ピッタリの職業が見つかりやすくなるでしょう。

※各職業の平均年収は、特に注釈がない限り、DODA調べ「平均年収ランキング2015」による。