事前に準備すべきことや注意点は? 退職時の有給消化マニュアル
退職前に残った有給を消化したいと思っても、「なんだか言い出しづらいな…」「忙しくて取れないかも…」と不安な人も少なくないはず。
この記事では、スムーズに有給消化を進めるためのステップ、上司に申し出る際の注意点、万が一拒否されてしまったときの対応について解説します。
残っている有給は退職時にすべて消化できる
有給休暇の取得は労働者の権利です。「有給を全部消化していいの?」と不安な人も多いと思いますが、残っている有給はすべて消化してから退職しても問題ありません。
ただし、いきなり「辞めます。明日から有給消化させてください!」と言えば、上司や同僚、会社に多大な迷惑をかけてしまいます。
早めに退職の意思を伝えたり、きちんと引き継ぎを行ったり、なるべく会社に迷惑をかけないように配慮することが重要です。
有給日数が多くても全部消化できる?
たとえ有給の残日数が多くても、すべて消化してから退職することに問題はありません。
ですが、有給の残日数が多い場合は消化するだけでも長期間を要するので、より早めに退職の意思を伝えておく必要があります。
例えば、40日分の有給休暇が残っている場合、すべて消化するのに2カ月もかかります(完全週休2日制の場合)。
もし40日分の有給をすべて消化したいのであれば、引き継ぎ期間も考慮し、退職の意思は少なくとも「退職希望日の3カ月前まで」を目安に伝えておく必要があるでしょう。
スムーズに有給消化するには?3ステップで解説
スムーズな有給消化を実現するには、余裕のあるスケジュールを立てることが大切です。
具体的には、次の3つのステップを実行しましょう。
ステップ1.有給休暇の残日数を確認する
まずは、有給休暇があと何日分残っているのかを確認しましょう。
有給休暇の残りの日数は、給与明細書や会社で導入している勤怠管理ツールなどで確認できます。
もしそれらに記載がない場合は、総務部や人事部に直接問い合わせましょう。
ステップ2.退職までのスケジュールを立てる
有給休暇の残日数がわかったら、業務の引き継ぎと有給消化を考慮した退職希望日、退職日までのスケジュールを設定しましょう。
引き継ぎに必要な日数
引き継ぎに必要な日数は職種や役職、会社の人員状況などによって異なりますが、1カ月程度が目安です。
有給消化のパターン
有給の消化方法としてもっとも一般的なのは、残っている有給を退職日までにまとめて消化し、有給消化に入る前日を最終出社日に設定するパターンです。この場合、退職日に改めて出社する必要はありません。
ほかにも、退職日までまばらに有給を取得することもできます。
いずれにしても、まずは残った有給を消化したい旨を上司に伝え、取得時期と日数について早めに相談しておきましょう。その際、なるべく会社やチームの業務に影響が出ないよう配慮をすることが重要です。
退職までのスケジュール例
3月末に退職したい人を例に、まとめて有給消化をする場合の退職スケジュールを見てみましょう。
- 退職希望日:3月末
- 有給休暇の残数:10日(最終出社日の翌日からまとめて消化)
- 引き継ぎに必要な日数:1カ月(20営業日)
3月末に退職したい場合、引き継ぎに1カ月(20営業日)、有給消化に2週間(10営業日)かかるということを考慮して、遅くても退職希望日1カ月半前の2月中旬頃には、退職の意思を伝えておかなければなりません。
実際は、退職の意思を伝えた翌日からすぐに引き継ぎ業務をすることは困難なので、少し余裕を持ち、2月初旬には上司に退職の意思を伝えておくのが理想的なスケジュールです。
2月初旬に上司に退職の意思と退職希望日を伝え、2月中旬から引き継ぎを開始。3月中旬に最終出社日を迎え、有給消化に入るというイメージです。
なお、就業規則で「退職は1カ月(または2カ月)前までに申し出ること」などと定めている会社もあります。このような規則に法的拘束力はないものの、有給消化をしたい場合は、それに引き継ぎ期間をプラスして退職を申し出る日付を設定するのがベターです。
ステップ3:上司に申し出る
退職までのスケジュールを設定できたら、直属の上司に退職の意思を伝えます。
その際、退職希望日と有給消化したい旨も伝えましょう。
上司との話し合いのうえ、退職が確定したら有給休暇の申請を行います。
有給消化を申し出るときの注意点
上司へ退職を切り出すときに押さえておきたい2つの注意点を解説します。
なお、上司に退職を切り出すタイミングや退職理由の伝え方について、くわしくは下記の記事で解説しています。
退職日の調整などを打診された場合は柔軟に対応する
退職の意思や退職希望日を伝えても、すぐには了承されず、以下のような打診やお願いをされるかもしれません。
- 別日にもう一度話し合う場を設けたい
- 退職日を後ろにずらしてほしい(後任が見つかるまでは待ってほしい)
上司からすれば、そもそも部下には辞めてほしくないですし、実際に辞めるとなれば後任探しなどの対応が必要になるので、これらの打診は決して非常識とまでは言えません。
もしこのような打診を受けた場合は、トラブルを避け、円満に退職するためにも、可能な限り柔軟に対応しましょう。ただし、2カ月以上も退職日を後ろに伸ばされたり、後任が決まる目処すら立ちそうにないという状況であれば、きっぱりと断るのが得策です。
退職をなかなか了承してくれない場合の対応については、下記の記事で詳しく解説しています。
引き継ぎのイメージを持っておく
上司と退職日や有給消化について話すなかで、「引き継ぎは退職までに問題なく終えられそうか」といった趣旨の質問を受けるかもしれません。
そのため、引き継ぎの内容や必要な期間については、ある程度のイメージを上司に伝えられるようにしておきましょう。
特に、内定先への入社日の都合などで、引き継ぎ期間が1ヶ月未満になってしまいそうな人は、退職が決まってからなるべく早く引き継ぎを始められるようにしておく必要があります。
ただし、具体的な引き継ぎ内容やスケジュールについては、退職が確定したあとに上司とすり合わせのうえ決まるので、引き継ぎ資料を事前に作っておくことまでは不要です。
業務の引き継ぎを行う際の注意点やよくある疑問について、くわしくは下記の記事で解説しています。
有給消化を拒否された場合はどうすればいい?
本来あってはならないのですが、会社によってはスムーズに有給消化できない場合もあります。
ここでは、退職時の有給消化を拒否されたときの対処法を解説します。
本社や人事部に相談する
退職の申し出をした直属の上司に「有給消化はさせられない」と言われた場合、本社や人事部に相談するようにしましょう。
直属の上司は複数の部下の業務状況を把握しているからこそ「人員不足なので有給消化をさせられる状況ではない」と独自に判断し、拒否している可能性があるためです。
ちなみに、会社によっては有給休暇の時季変更権(労働基準法39条5項)を理由に拒否するところもありますが、法律上の解釈では退職する(=他に有給休暇を使用できる時季がない)場合には認められません(※)。
仮に会社が時季変更権を理由に有給消化を拒否してきた場合には、法的には認められないことを伝えましょう。
※通達(昭和49年1月11日・基収5554号)
有給休暇を買い取ってくれる会社もある
会社によっては、退職時にあまった有給休暇を例外的に買い取ってくれるところもあります。
前例があるかどうかや、交渉次第にはなりますが、有給消化できない場合には買い取りを打診してみてもよいでしょう。
有給の買い取りについて、くわしくは下記の記事で解説しています。
労働基準監督署に相談する
本社や人事部に相談しても有給消化が難しい場合は、労働基準監督署に相談するのも一つの手です。
相談自体は無料で、会社の対応が違法である場合には会社への指導や是正勧告をしてもらえる可能性があります。
※参考:全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省(公式サイト)
コラム:有給消化したくてもできずに退職する人も…
会社が有給の消化を拒否することは本来あってはならないことですが、有給休暇をすべて消化したくてもできなかった人も一定数いるというのが実情です。
J-CASTニュースが行った調査では、退職者の約2割が、会社の圧力によって有給を全消化できずに退職したと回答しています。
※参考:「有給全消化」、5人に1人が会社から圧力 調査で見えた「退職者泣かせ」の実態|J-CAST ニュース
交渉をしても会社が有給消化を拒否し続ける場合、それによって内定先への入社日が決められなかったり、退職そのものを渋られてしまったりする可能性もあります。
そういった不利益を考えると、転職先へスムーズに入社することを優先し、有給を消化せずに退職せざるを得ないケースもあることを理解しておきましょう。
スムーズに退職するために…
トラブルなく退職するためには、退職までの流れを事前に理解しておくことが重要です。
以下の記事では上司への申し出から退職までの一通りの流れをまとめているので、ぜひ参考にしてください。
(文:転職Hacks編集部 城間美将)
この記事の監修者
弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。