違法?過労死リスクは? 残業100時間の実態は?生活&リスク解説

日本のビジネスパーソンの平均残業時間は月約25時間。しかし実態は見えない部分も多く、長時間労動による過労死や残業代の未払いが問題になっています。

2019年4月からは働き方改革関連法が施行され、残業100時間は違法となりましたが、ひと月の残業時間が100時間を超える場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?残業100時間の生活や実態の他、新しい法律や過去の判例なども紹介します。

残業100時間の実態とは?

残業100時間といっても、なかなか想像しにくいかもしれません。月に100時間の残業をこなすと、どのような生活になるのでしょうか?

睡眠時間はわずか。1日の自由な時間はほぼなし

単純計算で月100時間の残業するとなると、以下の通りになります。

1日残業5時間 × 20日以上 = 100時間超

カレンダー通りの出勤日だとしても、1日5時間ほどの残業をしていると、残業時間は100時間に達してしまいます。毎日5時間前後の残業をしている人は、ひと月で100時間を超えているかもしれません。

1日5時間の残業をすると、どのような生活になるのでしょうか?ある男性サラリーマンを例に、1日のスケジュールをグラフにしてみました。

【男性・30歳・営業職・週休2日・所定労働時間9:00~18:00(休憩1時間含む)】

一ヶ月残業100時間の人の一日の生活サイクル

定時で働く8時間に加え、5時間の残業をするとなると、1日の労働時間は13時間にも及びます。残りの11時間で、睡眠や食事、お風呂などをこなさなくてはなりません。

家族との団らんや、テレビを見る時間でさえ、確保するのが難しい状態です。平日にこのような生活をしていては、休日に休養の時間を取らなければならず、自分の趣味やレジャーなどのリフレッシュの時間を取る余裕もないでしょう。

残業100時間超の企業は全体の約12%(法改正前)

2016年に厚生労働省が企業に対し、1ヵ月の残業時間が最長の正社員は何時間だったのか調査を行っています。「80時間超~100時間以下」と答えた企業は10.8%、「100時間超」の企業は11.9%でした

一ヶ月の時間外労働時間がもっとも長かった正規雇用従業員の時間外労働時間の円グラフ

※出典:過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業|みずほ情報総研株式会社(平成28年度厚生労働省委託)

厚生労働省が定めた過労死の労災認定基準である「過労死ライン(※)」は、1ヶ月間で残業100時間以上、または2ヶ月から6ヶ月間連続して残業80時間以上。この2016年の調査では、過労死ラインを超えている人が2割以上いる厳しい実態が浮き彫りになりました。

2019年の法改正によって、この過労死ラインを超える労働が規制されています。

(※)厚生労働省が過労死の労災認定基準として設けたもの

※出典:脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント|厚生労働省

100時間の残業はどんな職場に多い?

残業時間が多くなるのにはいくつかの理由がありますが、労働環境も大きな要因のひとつです。以下に、長時間残業を強いる職場にみられる傾向について挙げてみました。このような環境で働いている場合、転職などを視野に入れてもいいかもしれません。

1人員不足

リストラなどで大幅に人員が減ったまま慢性的な人員不足に陥り、長時間の残業につながってしまうことがあります。働き手世代が減少する今後、人員不足による残業が加速する可能性が高いです。

2仕事量が多い

1人当たりに割り当てられている仕事量が個人の能力のキャパシティーを超えている場合、自然と残業時間が増えていきます。特に大企業では「高収入の代償だから」と正当化されていることも多いです。

3付き合い残業をして当たり前の空気がある

自分は仕事を終えていても上司や同僚が残っていると帰りづらく、仕方なく残業してしまうパターンもあるでしょう。

4クライアントに24時間対応しないといけない

例えば、事故や災害に対応する業務や24時間稼働しているコンピュータシステムの管理などの仕事では、必然的に残業時間でトラブル対応などをしなければならず残業時間が長くなる傾向があります。

5長時間労働が評価される雰囲気がある

「残業をしている社員はよく仕事をする」と、上司や社長から評価される昔ながらの風潮が残っている会社は、社員の残業時間が多くなりがちです。

6仕事の割り振りに偏りがある

職場の環境が悪かったり労働条件が合わないなどの理由から退職する人が多く社員が定着しない会社は、仕事のできる人に業務が集中し残業が増えてしまいます。

残業100時間で過労死の可能性も!

「若いうちに働いておかないと」「今が踏ん張りどころだ」などと思いながら長時間労働を続けている人もいるかもしれません。けれどもそれが100時間にもなると、いつしか心身が悲鳴をあげ、取り返しがつかなくなることもあります。

慢性的な身体疲労やうつのリスクが

自分は問題ないと思っていても、月100時間の残業をしていると、気付かないうちに心身にダメージが蓄積されています

特に長時間労働による睡眠時間の不足は、大きな影響を及ぼします。残業100時間の生活をしていては、日常的に十分な睡眠時間を確保することは難しくなります。休日に寝だめしても、蓄積された睡眠不足をカバーすることができず、慢性的な身体疲労に繋がってしまう可能性があります。

また、長時間の残業によるストレスが蓄積されることで、うつ病や精神疾患を発症するリスクがあります。初期段階では自分自身も周囲の人も気付くことが難しく、病院に行ったときには重症となっているかもしれません。身体がだるい、寝られない、仕事に行くのが苦痛、といった症状があれば、早めに病院に行くことをおすすめします。

最悪の場合、過労死や過労自殺の可能性も…

過度な睡眠不足やストレスによって、過労死や過労自殺につながる可能性もあります

長時間の残業により、十分に休めない状態が続くことで、重篤な心疾患や脳血管障害を発症し、労災認定された事例も多数報告されています。過去には、電通女性社員の過労自殺がニュースで大きく報道されました。

うつや精神疾患により、過労自殺するケースの報告も多数。厚生労働省が公表した働く人の過労死や精神疾患等の労災補償状況によると、2018年に過労死や過労自殺(未遂含む)で労災認定された人は158人にのぼっています。

※出典:平成30年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省

ひと月の残業時間が80時間を超え、心身の疲労を感じる場合、産業医(労働者の健康管理を行う専門医)による面接指導を受けることも可能です。わずかな不調だからと放置せず、産業医ではなくても、早めに病院に行くようにしましょう。

コラム:残業100時間なら手取りはいくら?

100時間もの残業を行い、残業代を満額受け取ったとすると、手取りはいくらになるのでしょうか?残業代を抜いて月収30万円のAさんの場合、手取りは45万円になります

【残業代を除いて月収30万円のAさんの場合】

1日目~12日目

9時-18時:定時

18時-22時:25%増

22時-23時:50%増

13日目~20日目

9時-18時:定時

18時-22時:50%増

22時-23時:75%増

月給 30万円

100時間分の残業代 26万6,250円

額面給与 56万2,500円

手取り 45万円

詳しい計算方法は以下の通りです。

<1時間あたりの賃金=月給÷(1日の所定労働時間×労働日数)>

30万円÷(8時間×20日)=1,875円

1日目から12日目までの12日間

法定時間外労働(25%割増)

1,875円×4時間(18時-22時)×1.25×12日=11万2,500円

法定時間外労働+深夜労働(50%割増)

1,875円×1時間(22時-23時)×1.5×12日=3万3,750円

13日目から20日目までの8日間

月60時間以上の法定時間外労働+法定時間外労働(50%割増)

1,875円×4時間(18時-22時)×1.5×8日=9万円

月60時間以上の法定時間外労働+法定時間外労働+深夜労働(75%割増)

1,875円×1時間(22時-23時)×1.75×8日=2万6,250円

※月60時間超の時間外労働の割増賃金は、現在は大企業のみに適用されていますが、2023年4月から中小企業でも月60時間を超える時間外労働について法定割増賃金率が50%以上となります。

これらを合計して、残業代の平均を算出してみましょう。

11万2,500円+3万3,750円+9万円+2万6,250円=26万2,500円

額面での給与は残業代26万2,500円に加え、残業代以外の月収30万円を足して求めます。

26万2,500円+30万円=56万2,500円

手取り金額は額面の80%として計算してみましょう。

手取り=56万2,500円×0.8=45万円

Aさんのこの月の手取り額は約45万円ということになります。

※残業代の計算について詳しくは→正しい残業代の計算方法【すぐわかる図解つき】

残業100時間は違法ではないの?罰則は?

Q:残業100時間は違法?A:違法です。場合によっては裁判も可能ですので、まずは弁護士や労働組合へ相談しましょう。2019年4月から施行された働き方改革関連法によって、残業100時間は違法となっています。それ以前までは、法律上で残業時間の上限が規定されておらず、行政指導のみで法的拘束力はありませんでした。

働き方改革で残業時間は原則月45時間に!

2019年4月から法律で残業時間が規定され、ひと月の残業時間は原則45時間以内となりました。残業時間の詳しい規定は以下の通りです。

原則 例外
月45時間以内

年間360時間以内

年720時間

複数月平均80時間以内

単月100時間未満

※詳しくは→労働基準法で残業は何時間まで? 手当の計算方法も

原則として、残業時間は月45時間、年間360時間を超えることはできません。例外として、業務量の大幅な増加などによって臨時的に必要がある場合は、残業時間の延長が可能です。例外が認められるのは、1年のうち6ヶ月までで、通常の残業時間に加え、休日労働の合計が規定を満たしている必要があります。

残業100時間を超える労働を行わせた企業には、「6ヶ月以下の懲役」もしくは「30万円以下の罰金」が課せられることになりました。程度によっては、厚生労働省が企業名の発表を行う可能性もあります。

残業100時間を超える場合、弁護士や労働組合へ相談しよう

長時間残業を課せられていることに我慢ができなくなったら、ひとまず専門の弁護士や労働組合に相談してみましょう。会社に労働組合がないときは、1人でも加入できる労働組合(ユニオン)を頼ってみてください。労働局・労働基準監督署、地方自治体の労働相談を利用する手もあります。

その際、証拠として一番有効なのが労働時間の記録。タイムカードや会社の入退館記録をコピーするかスマートフォンで写真を撮っておくとよいでしょう。残業時間の記録に特化したアプリ「残業証拠レコーダー」を活用するのもおすすめ。GPS機能を利用して簡単に会社にいた時間を記録できます。

残業代未払いなら裁判も可能

毎月100時間超の残業を課せられているうえに、多額の未払い残業代がある場合は裁判に持ち込むことも可能です。

ニュースに大きく取り上げられた判例を紹介します。

<現役店長が提訴した残業代未払い>

当時、店長の時間外勤務や休日出勤が恒常化していた日本マクドナルド。ある店舗で店長を務めていた男性(当時46歳)2年間の未払い残業代と慰謝料、合わせて約750万円を求め提訴した(残業時間約1700時間)。

労基法では経営者と一体的立場にある管理監督者には残業代を支払わなくてよいとされているため、男性が管理監督者に当たるのかが争点となったが、裁判官は同社に約750万円の支払いを命じた。

場合によっては高額の慰謝料が命じられることもありますが、裁判を起こすのはたいへんなパワーが必要です。たとえ勝訴となっても同じ会社で働き続けることはできなくなるので、覚悟をもって行動を起こさなければなりません。

違法企業から退職すると会社都合の扱いに

法律を守らず、長時間残業を強いていた企業から退職した場合、会社都合退職として失業保険を受け取ることが可能です。

会社都合退職として扱われる場合、失業保険を申請してから7日間の待機期間を終えれば支給をしてもらうことが可能です。また、失業保険の給付日数や、給付金額なども優遇されています。

※詳しくは→会社都合退職とは?

まとめ

働き方改革関連法の施行によって、法律上で残業時間の上限が規定されました。しかし、上限時間がまだ長いと、働き手から多くの批判の声が上がっています。

自分を守るのは自分自身。長時間残業にも、その意識をもって臨むことが大切なのかもしれません。

この記事の監修者

社会保険労務士

山本 征太郎

山本社会保険労務士事務所東京オフィス

静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。

山本社会保険労務士事務所東京オフィス 公式サイト

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