判例・裁判例から解説 試用期間の延長って違法?解雇フラグ
試用期間の延長ってあり?延長されたってことは、このまま解雇されるのでは?
試用期間の延長や解雇との関係性について、判例・裁判例を紹介しながら丁寧に解説します。
試用期間の延長って違法じゃないの?
試用期間の延長は違法ではありませんが、以下の3つの条件を満たす必要があります。1つでも欠けている場合、その延長は不当かもしれません。
- 合理的な理由・特段の事情がある
- 就業規則で試用期間の延長について規定されている
- 採用時に労働者への事前通知あるいは合意がある
ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
【条件1】合理的な理由・特段の事情がある
1つ目に、試用期間の延長には「合理的な理由」が必要です。具体的には以下のようなものが「合理的な理由」として挙げられます。
- 業務成績や勤務態度が著しく悪く、指導・注意を行っても改善されない
- 無断での欠勤・遅刻が多い
- 病気や怪我による入院・通院で勤務日数が極めて少ない
上記の状況が「合理的な理由」として認められるのは、以下に挙げる2つのケースに該当するためです。
過去の判決から、これら2つのケースに該当するような状況であれば、試用期間を延長する「合理的な理由」として認められるとされています。(大阪高裁昭和45年7月10日判決・判時609号86頁、大阪読売新聞社事件)
- 使用者が、延長した期間で労働者の反省の状況を見たいとき
- 使用者が、労働者を本採用するかどうか、もう少し検討する時間が必要なとき
たしかに業務成績や勤務態度が悪かったとしても、試用期間を延長して引き続き指導すれば改善されるかもしれません。また、入院や通院で勤務日数が少なく、所定の試用期間内では適性を判断できなかった場合でも、延長すれば検討の時間を確保できます。
(前 略)いかなる場合に右合理的理由があるかを本件で問題となっている勤務成績を理由とする場合に即して考えれば、(中 略)その期間の終了時において、
(A)既に社員として不適格と認められるけれども、なお本人の爾後の態度(反省)如何によっては、登用してもよいとして即時不採用とせず、試用の状態を続けていくとき、
(B)即時不適格と断定して企業から排除することはできないけれども、他方適格性に疑問があって、本採用して企業内に抱え込むことがためらわれる相当な事由が認められるためなお、選考の期間を必要とするとき(中 略)が考えられる。
右(A)の場合は労働者に対し恩恵的に働くのであるから、その合理性は明らかであるが、(B)の場合もこれを不当とすべき理由はない。
※出典:全国労働基準関係団体連合会
【条件2】就業規則で試用期間の延長について規定されている
2つ目に、試用期間を延長する場合、延長の可能性についてあらかじめ就業規則で定められている必要があります。就業規則の試用期間に関する項目に、以下のような記載があるかどうかを確認しましょう。
社員としての適格性を判断するため必要と認めたときは、3カ月の範囲内で試用期間を延長することがある。
※出典:社会保険労務士・行政書士ふくした事務所
就業規則ではなく、雇用契約書・労働条件通知書等に試用期間の延長について記載されている場合もあります。あわせて確認しましょう。
また、延長期間の長さについて明示されているかどうかも確認しましょう。試用期間を無期限に延長することは認められていません。
過去の裁判では、期間を定めない試用期間の延長は無効とする判決が出ています。無期限の延長を認めることはつまり、無制限に何回もの延長を認めることに等しいからです(長野地裁昭和48年5月31日判決・判タ298号320頁、上原製作所事件)。
(前 略)期間を定めずになす試用期間の延長は、畢竟何回にもわたる延長を認めることにひとしく、解雇保護規定の趣旨から到底許されないところであり、右期限を定めずになされた延長は、相当な期間を超える限度において無効というべきである。
※出典:全国労働基準関係団体連合会
【条件3】労働者への事前通知あるいは合意がある
3つ目に、試用期間を延長する場合、労働者への事前通知あるいは合意が必要です。試用期間の満了日や、試用期間が終わって数日経った後に「やっぱり延長ね」などと延長を言い渡すことはできません。仮に言われたとしても、法律的な効力はありません。
過去の裁判例からすれば、所定の試用期間を終えるまでに使用者側から延長に関する何らかの意思表示がない限り、自動的に本採用が認められたと考えられるからです(同上、上原製作所事件)。
(前 略)原告は、当初の試用期間を満了するにあたり、右期間を延長する旨の意思表示はもとより解雇する旨の意思表示も受けなかったことは明らかであるから、右期間を満了した翌日である昭和四六年一月一六日本採用の従業員の地位を取得したと解すべきである。
※出典:全国労働基準関係団体連合会
そもそも試用期間についてきちんと定めている会社であれば、就業規則に「新たに採用した者については、採用の日から3カ月を試用期間とする。」といった記載があるはずです。
同時に、たとえ就業規則に定めがあったとしても、一方的に試用期間を延長することはできません。やはり合理的な理由が必要です。よって企業側はリスクヘッジの意味で、試用期間延長の告知だけではなく、試用期間延長に合意する旨の書面に署名捺印するよう、労働者側に求めてくることがあります。
延長の理由や期間、延長後の待遇には納得できましたか?合意書に署名捺印する前に、もう一度確認しましょう。
試用期間の延長は「拒否」できることもある
以上の3つの条件を満たしていない場合、試用期間の延長は不当だと拒否できるかもしれません。
しかし状況の把握や会社との交渉は一人では難しいものです。試用期間の延長に納得できない場合、労働基準監督署や弁護士、社会保険労務士などの法律・労務の専門家に相談しましょう。
コラム:なぜ試用期間の延長は違法じゃないの?
前提として、試用期間の延長を制限する法律はありません。よって「試用期間の延長=違法」とは言えません。試用期間の延長が不当かどうかは、過去の裁判例と個々の状況を照らし合わせて判断するしかないのです。
しかしいくら法律がないからといって、試用期間の延長は自由かつ無制限に行っていいものではありません。過去の裁判例から、試用期間中の労働者は本採用されるかどうかわからないという社会的に不安定な地位にあるため、その期間をむやみに延長することは、民法第90条の公序良俗に反するとされているからです。(名古屋地裁昭和59年3月23日判決・判時1121号125頁 ブラザー工業事件)
(前 略)試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると解するのが相当である。
※出典:全国労働基準関係団体連合会
では実際のところ、どのくらいの企業で試用期間の延長が行われているのでしょうか?
少し古いデータになりますが、2012年の労働政策研究・研修機構による調査では、試用期間を設けている約5200社のうち、延長することがあると答えた企業は約44%でした。試用期間の延長は違法ではありませんが、だからといって当たり前のようにされているわけではありません。
試用期間の延長=解雇フラグ?
試用期間の延長=解雇ではない
試用期間が延長されたからといって、必ずしも解雇(本採用拒否)されると決まったわけではありません。
過去の裁判例から見ても、試用期間を延長することは裏を返せばつまり、「解雇はしない」という使用者側の意思表示だと解釈することもできるからです。(同上、大阪読売新聞社事件)
たとえ試用期間を延長されたとしても、「解雇されるのでは?」と不安になる必要はありません。延長の理由と期限、改善項目をきちんと確認した上で、前向きに仕事に取り組みましょう。
(前 略)試用延長の意思表示は、試用期間の満了によっては本人を不適格として不採用としない意思を表示するものであり、従って、そこには、一応解雇(不適格不採用)事由に該当する様なものがあっても、もはやそれのみを事由としては不採用とはしない意思表示を含むと解すべきである(以下略)
※出典:全国労働基準関係団体連合会
試用期間の延長後に解雇される2つのケース
試用期間の延長は必ずしも解雇フラグではありませんが、試用期間の延長後に解雇されることが全くないとは言い切れません。
過去の裁判例から、以下の2つのケースに該当する場合であれば、試用期間延長後の解雇が認められるとされています。(1970年 大阪読売新聞社事件)
- 試用期間の延長後に新たに発生した事実が、それ自体で解雇の理由となるような場合
- 試用期間の延長後に新たに発生した事実が、延長になった理由とあわせて考えたときに、その労働者を企業から排除するのが相当と認められる場合
具体的には、延長後に懲戒解雇にあたるような行為を行った場合や、延長後も業務成績や勤務態度が改善されず、反省の色も見えないといった場合が考えられます。
しかし「試用期間の延長後に〇〇をやったら(やらなかったら)解雇しても良い」などと明確に定めた法律がないため、実際は裁判によって個々の状況を判断するしかありません。試用期間延長後の解雇が有効となった裁判例もあれば、無効となった裁判例もあります。
もしも試用期間の延長後に解雇通知を受け、その処分に納得できない場合、労働基準監督署や弁護士、社会保険労務士などの法律・労務の専門家に相談しましょう。
参考までに、試用期間延長後の解雇が無効とされた裁判例・有効とされた裁判例をそれぞれ紹介します。
試用期間延長後の解雇が無効とされた裁判例(大阪読売新聞社事件)
大阪高等裁判所判決 昭45・7・10
▼事実の経緯
従業員Xは勤務態度が不良だとして試用期間を1年間延長された。その後延長期間中に「(1)試用期間の延長前にやらなかったことで注意を受けた業務を再度怠った」、また「(2)上司に対して本採用されない理由について詰問するなど、反省の色が見えない」として解雇通知を受けた。Xはこの解雇を不服だと訴えた。
▼判決
解雇は無効。
▼判決の骨子
試用期間を延長することはつまり、延長した理由だけでは解雇しないという意思表示だと解釈すべきだから、試用期間の延長後に新たに解雇にあたるような行為がない限り、解雇は認められない。(1)と(2)が解雇にあたるものかどうかを考えると、(1)については故意ではなく偶然であることや、慣習的に許されていた背景があること、(2)については上司がXの民青(日本民主青年同盟)加入を非難するような趣旨の発言をしたことで、Xが自身の思想・信条を理由に本採用を拒否されているのかと憶測してしまった結果、行動に出たという背景があることや、そうだとすれば元来、思想・信条を理由とした解雇は許されていないことが明らかなため、2件の事実とも試用期間の延長後に解雇できる理由とは言えない。よって解雇は無効だと言わざるを得ない。
※参考資料
裁判所ホームページ
全国労働基準関連団体連合会
試用期間延長後の解雇が有効とされた裁判例(雅叙園観光事件)
東京地方裁判所決定 昭57・7・28
▼事実の経緯
従業員Xは度重なるミスや反抗的な態度を理由に、試用開始1カ目と2カ月目の二度にわたって退職を勧告された。しかしXはこれに応じなかったため、Y社は改善を見込んで試用期間を延長したものの、Xは変わらずミスを連発し、上司と掴み合いの喧嘩を起こしたため、Y社は再度退職を勧告した。しかしXはまたも応じなかったためにY社は再び試用期間を延長したが、その後もパートタイマーとの激しい口論などトラブルが絶えなかったため、Xを解雇処分とした。Xはこの処分を不服として、地位保全を求めた。
▼判決
解雇は有効。
▼判決の骨子
まず二度にわたる試用期間の延長が合理的かどうかを考えると、一度目の延長については、Y社は所定の試用期間満了時にすでに従業員として不適格だとしてXを解雇できたものの、Xの懇願によって解雇ではなく延長という措置をとったのであるから、その合理性は明らかである。二度目の延長については、Y社は同様に従業員として不適格だとしてXを解雇できたものの、退職勧告をかたくなに拒むXに対して解雇という強力な手段に訴えることができず、やむなく再度の延長を決断せざるを得なかったのであるから、同様に合理性は明らかである。またXの従業員としての不適格性が明らかであること、Y社は円満退職を望んで努力を重ねていたことを考慮すると、Xの解雇はY社による解雇権の乱用とは認められないため、解雇は有効である。
※参考資料
全国労働基準関連団体連合会
雅叙園観光事件
試用期間中の解雇について、詳しくは下記の記事で解説しています。
自主退職を迫られたら?
試用期間を延長した上で自主退職を促す企業もあります。これを退職勧奨と言います。解雇は簡単に行えるものではないため、労働者が自己都合で退職するよう促すのです。
企業と労働者の間で公平に話し合いが行われ、円満退職できる場合は問題ありません。しかし以下のような度が過ぎた退職勧奨は、退職の強要として不当性があると言えるでしょう。
- 無視されたり冷たい態度を取られたりするようになった
- 数時間に及んで退職するよう説得された
- 仕事をもらえない、恫喝してくるなど上司のパワハラを受けるようになった
- 精神疾患ではないかと休業を勧められた
こうした脅迫・暴力行為が繰り返し行われた場合、損害賠償を請求できるかもしれません。一人で悩まずに労働基準監督署や弁護士、社会保険労務士に相談しましょう。
また、万が一裁判になった際に、自己都合退職だと解釈され不利にならないように、退職届には絶対サインしてはいけません。
まとめ
試用期間の延長は違法ではないものの、(1)合理的な理由(2)就業規則での規定(3)事前通知と合意が必要です。また試用期間が延長されたからといって、即時解雇されると決まったわけではありません。
それでも試用期間の延長や解雇は誰でも不安になってしまうもの。少しでも納得できない点があれば、早めに労働基準監督署や法律・労務の専門家に相談しましょう。
試用期間中の給料や社会保険など、試用期間中に知っておきたいことを、下記の記事にまとめています。こちらもあわせてご確認ください。
この記事の監修者
弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。