違法性と合否への影響も解説 前職調査ってなに?
転職活動をする時に気になってしまう前職調査。かつては一般的でしたが、現在はほとんど行われていないようです。
この記事では前職調査の調査内容と方法、違法性や採用の可否への影響について解説します。
前職調査ってなに?
前職調査とは企業が応募者について調べること
前職調査とは中途採用の選考過程において、企業が応募者の経歴に間違いがないかや現職(前職)での勤務態度、人となりを調べることを指します。
かつて前職調査は、企業が応募者の勤務先に直接電話で問い合わせる方法や、興信所や探偵事務所を利用する方法などで頻繁に行われていましたが、今も行っている企業はごくわずかでしょう。
理由の1つとして、1980年代以降、個人情報について法律が整備され始めたことが挙げられます。社会全体が個人情報の取り扱いに慎重になり、直接電話で問い合わせても情報を得るのが難しくなったため、前職調査が成り立たなくなりました。
タイミングは選考途中が一般的
前職調査が行われるタイミングは、内定が成立するまでの選考途中が一般的です。
前職調査を行う企業は、内定を出す前に調査を行うことで、応募者が自分の会社にふさわしい人物か、不安要素がないかを確認したいと考えています。
警備・金融業界では前職の情報をもとに調査される場合がある
警備業界や金融業界では、選考において応募者の経歴や身の回りに関する情報を入念に確認することが多いようです。
警備業法では過去5年以内に犯歴がある人や依存性薬物の中毒者などは、警備員の業務に従事できないと定められています。また、場合によっては重要な金品の輸送や著名人の警護を行うため、提出した前職の情報をもとに、信用できる人物かどうかを調査されることがあるようです。
金融業界は金銭を扱うため、かつては親族に借金を抱えている人がいないかや、資産をどのくらい持っているかといった調査が当たり前に行われていました。現在そのような身辺調査が行われることはありませんが、前職でお金に関するトラブルを起こしてないかなどを調査される可能性はあります。
コラム:外資系企業でおこなわれるリファレンスチェックとは?
前職調査とリファレンスチェックは、混同されがちですが異なるものです。
前職調査は、履歴書に書いてあることや面接で話していた内容が本当に正しいのかどうか事実確認するものです。
それに対してリファレンスチェックは、履歴書や面接からはわからない応募者の新たな一面を知るために、応募者をよく知る上司や同僚から客観的な意見をもらうものです。リファレンスチェックの方法は、応募者から提示された推薦者に面会・電話で話を聞く方法と、企業が推薦者からリファレンスレター(推薦状)を提出してもらう方法の2パターンが一般的でしょう。
欧米では、転職はスキルアップのための卒業、ヘッドハンティングはその人のキャリアが認められた証拠と捉えられているため、上司や同僚は応募者を推薦するつもりでリファレンスチェックに熱心に応じます。欧米ではリファレンスチェックを選考過程に組み込んでいる企業も多いことから、日本でも外資系企業では、推薦者の提示を求められることがあるようです。
前職調査って違法?
前職調査は厚生労働省の指針に反する行為
職業安定法に基づく指針では、採用活動において個人情報を収集する際は適法かつ公正な手段によらなければならないとしており、前職調査は不適切な行為と考えられています。
この指針では、企業が応募者の個人情報を集める場合は、以下のような手段を取るべきと定められています。
本人から直接収集し、又は本人の同意の下で本人以外の者から収集する
また、(1)社会的身分や出生地など社会的差別の原因となるおそれのあること(2)思想及び信仰(3)労働組合への加入状況といった個人情報は、収集自体が禁止されています。
そもそも企業の採用活動では、前職調査から得た情報によって適性・能力以外の要素を把握すると、採用の可否に影響を与えることがあり、結果として就職差別につながると考えられています。
厚生労働省は「公正な採用選考をめざして」というパンフレットの中で、応募者の基本的人権を尊重することが重要で、転職活動における採用選考は応募者の適性・能力のみを基準として行う必要があるとしています。
事前に同意書へ署名を求められることもある
企業が前職調査を行うのは好ましくありませんが、どうしても経歴の確認が必要な場合は、企業側から前職調査に関する同意書へのサインを求められることがあります。
前職調査に関する同意書は、「個人情報取り扱いに関する同意書」(履歴書などから取得した情報は採用に関する業務以外には使用しないことを記したもの)とは別に用意されていることがほとんどです。
以前の勤務先が第三者に情報を開示することは個人情報保護法違反
前職調査の1つとして、応募先の企業が今(前)の勤務先に直接電話で問い合わせる場合がありますが、本人以外が問い合わせに勝手に応じてしまうのはNGです。
問い合わせてきた第三者に、社員の在席状況や過去在籍していた社員の退職理由、勤務態度などを本人の同意なく開示することは、個人情報保護法に違反します。
従業員を抱える企業は、業務に直接関係のない社員の個人データであっても、あらかじめ本人の同意を得なければ第三者に提供してはいけないと定められています。
前職調査の結果で内定取り消しはあり得る?
経歴詐称が理由で内定取り消しになることはある
前職調査の結果だけが原因とは限りませんが、選考過程で経歴詐称が見つかると内定取り消しになる可能性があります。
ここでの経歴詐称とは、必要な資格を持っていると虚偽の申告をしていた場合など、今後の業務に関わる重大な経歴を詐称していることを指します。また多くの企業では、そのような重大な経歴詐称は、就業規則で懲戒処分の対象になると定めています。
つまり、隠していた事実や嘘が入社後の業務に影響するレベルのものだとわかった場合、内定取り消しになる可能性が高いということです。
前職調査以外でも例えば、応募先に友人がいて隠していたことが人事担当者に伝わったり、SNSに何気なく投稿した内容から嘘が発覚したりすることで、経歴詐称がバレる可能性はあります。後々知られると困るような隠し事はやめ、嘘はつかないようにすべきです。
特に賞罰のうち「罰」にあたる事実は、事前の申告がないと、告知義務違反で解雇になる可能性があるので注意が必要です。事前に伝えておいたほうがいいことはしっかりと話すようにしましょう。※詳しくは→履歴書の賞罰はどう書く?記入例と「罰」の基準
言いづらいことでも嘘はつかず前向きな姿勢で誠意を見せて
面接時は、嘘はつかずポジティブな回答をするよう心がけましょう。
前職の退職理由や家事育児に関することなど、答えづらいことを質問される場合もありますが、前向きな姿勢が伝わる形で事実を答えれば問題ありません。
回答しづらい話題の場合は、特に明るい表情と堂々とした声のボリュームで答えることを意識しましょう。どんな質問であっても、前向きな姿勢が伝わる回答で意欲の高さをアピールすれば、採用に一歩近づくでしょう。
まとめ
前職調査は、応募者の人権の尊重という考え方に反するため不適切な行為ですが、行う企業が全く無いわけではありません。
発覚した嘘が重大な経歴の詐称にあたると、内定取り消しになる可能性もあります。嘘がバレるのは前職調査だけが原因とは限りませんが、よく見せたいがためにつく嘘や事実を盛る行為にはリスクが伴うことを理解しましょう。