違法では?対策はある? 追い出し部屋の実態

自主退職をさせるための部署、いわゆる「追い出し部屋」。

この記事では、追い出し部屋がつくられる目的や、そこでの仕事内容を企業名とともに紹介します。違法性や、異動になったときの対策も、わかりやすく解説します。

Q1.追い出し部屋って?作られる背景は?

企業側が、辞めさせたい社員を自主退職に追い込むためにつくる部署や部屋のこと。

周囲とのコミュニケーションを取りにくくさせたり、極端に難易度の高いもしくは低い仕事をさせたりすることで働くモチベーションを削ぎ、自ら退職するように差し向けます

追い出し部屋が作られる背景と、実例を紹介します。

【背景】企業は一方的な解雇が難しいから

追い出し部屋が作られる背景は、会社側が社員を一方的に解雇することは法律上難しいとされているためです。

労働者の権利を守るために、企業からの一方的な解雇は法律で厳しく制限されています。単に「能力が低いから」「業績が悪いのでとりあえず人員削減したいから」といった理由では解雇できません。そのため、企業側は辞めさせたい社員を追い出し部屋に集め、働きがいのない状況に追い込むことで、自主退職するように促すのです。

自主的な退職を促す行為は、「退職勧奨」とも呼ばれます。

※詳しくは→退職勧奨とは?受けたときの対処法を解説

【実例】実際にあった追い出し部屋(部署名)

追い出し部屋は、一見すると追い出し部屋だと分からないような部署名をつけられていることが多いようです。

過去には、以下のような大企業での存在が発覚し、話題となりました。

■「追い出し部屋」とされる部署名の例

  • 業務センター(東芝エネルギーシステムズ)
  • 第2営業部(日の出証券)
  • 東京キャリアデザイン室(ソニー)
  • プロジェクト支援センター(NEC)
  • パソナルーム(セガ・エンタープライゼス)
  • サポートチーム(三越伊勢丹) など

Q2.追い出し部屋ではどんなことをする?楽しいって本当?

会社によりますが、追い出し部屋では、主に以下のようなことをさせられることが多いようです。

  • 単純作業をさせられる
  • 達成できないノルマを与えられる
  • 転職活動のようなことをさせられる

それぞれのケースを、実際に行っていた企業の実例とともに見ていきましょう。

ケース1:単純作業をさせられる

誰でもできるような単純作業をさせ、社員の意欲を削ぐケースです。

社員が一日中時間やスキルを持て余す状態にすることで、そのやりがいのなさにより自主退職するよう導きます。簡単で楽な仕事ではありますが、それまで専門的な仕事をしていたり、管理職の立場にいたりした人にとってはつらい環境です。

実例:業務センター(東芝エネルギーシステムズ)

技術管理や営業、事務などを担当していた勤続10年以上・45歳以上の社員を対象に希望退職を募集。希望退職を拒否した社員役20名は、新たに設けられた部署「業務センター」に異動となり、電池工場やグループ外の物流倉庫で、運搬や仕分けなどの単純作業を命じられた。

※参考:東芝系社員、退職拒み単純作業 「追い出し部屋」と反発 [不条理人事 戸惑うあなたへ]:朝日新聞デジタル

ケース2:達成できないノルマを与えられる

到底達成できないような厳しいノルマを設定し、プレッシャーをかけるケースです。

ノルマ未達成であれば上司に過剰に怒られたり、長時間の残業を強いられたりするなど、パワハラのような圧力をかけられることもあります。精神的苦痛は大きいでしょう。

実例:第2営業部(日の出証券)

1998年に大和証券に入社した男性社員が、14年後の2012年にグループ会社である「日の出証券」に出向。実際には、すでに廃止された誰もいない部屋への異動となり、「会議に参加できない」「1日100件という過酷な飛び込み営業ノルマを課せられる」といった嫌がらせを受けた。

※参考:【衝撃事件の核心】「追い出し部屋」で1人勤務、飛び込み営業ノルマ1日100件 証券マンの悲哀…「退職強いる目的」大阪地裁が賠償命令- 産経WEST

※パワハラを受けていて悩んでいる場合は→パワハラで退職すべき?辞めない方法は?

ケース3:転職活動のようなことをさせられる

キャリア面談や定期的な適性診断など、転職活動のようなことさせられるケースです。

「今後のスキルアップのため」「業務の視野を広げるため」など、会社はあくまで本人のキャリアアップが目的であることを強調しますが、実際には退職を促す退職勧奨という行為です。定期的に人事希望を取ったり、大幅な減給など極端な人事評価を行ったりして、居座りづらくすることもあるようです。

実例:キャリアデザイン室(ソニー)

戦力外となった中高年社員が異動となる。在籍期間が長くなるほど、給与が下がる仕組み。担当業務はなく、キャリアアップのためであれば「何をしても良い」とされ、ビジネス書を読んだり、自前の教材で英会話の勉強をしたりする。

※参考:ソニー「中高年リストラ」の現場 | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン

Q3.追い出し部屋は違法ではないの?

違法行為の可能性が高いといえます。実際に「追い出し部屋」への異動や、異動後の解雇が、会社側の権限の濫用として無効になった判決もあります。

以下では、実際の判例を2つ紹介します。

【判例1】リコー、社員の出向取りやめ

■概要
事務機器などを製造するリコーに勤務していた男性2名が、物流関係の子会社に出向させられ身体的・精神的苦痛を与えられたとして、それぞれ慰謝料220万円を請求した裁判

■判決
2013年11月12日、東京地裁は慰謝料の請求は認めなかったものの、男性社員2名の出向については人事権の濫用として無効と認めた。

【判例2】フジクラ、減額分の支払いと解雇の無効

■概要
エネルギー事業会社フジクラの社員が、いわゆる「追い出し部屋」への異動と賃金減額を不服とした裁判

■判決
2020年1月14日、東京高裁は賃金の減額は無効とされた一審判決を維持。減額分の賃金計126万円とバックペイの支払いを命じ、業務態度を問題とした解雇も無効とした。

※バックペイとは…解雇されてから現在までの賃金を支払うこと

Q4.追い出し部屋に異動になったらどうする?

追い出し部屋への異動が決まったら、以下の3つのうち、どれかの選択を考えましょう。

  • 異動を受け入れ、居座る
  • 異動について専門家に相談する
  • 転職を検討する

異動を受け入れ、居座る

1つ目は、追い出し部屋への異動を受け入れ、そのまま居座る選択です。

追い出し部屋は決して居心地が良いものではありませんが、楽な業務を割り当てられることもあり、今までの業務の負担や責任などから開放される場合も

自主退職を目的としているため、昇進や昇給などは見込めませんが、なかには「居座るだけで給料がもらえるので天国だ」「書類のPDF化など単純作業がメインの業務なので楽だ」などといった意見もあるようです。

異動について専門家に相談する

2つ目の選択肢は、追い出し部屋への異動について専門機関に相談することです。

まず会社側に異動理由や異動先での業務内容を説明してもらい、それでも納得がいかないまま異動が決定となってしまった場合、地域の労働局や労働相談を扱うNPO法人、弁護士などに相談しましょう

総合労働相談コーナー

…労働問題の相談に応じてくれる公的な機関。各都道府県の労基署などに設置されており、無料で利用が可能。
※参考:「総合労働相談コーナーのご案内」-厚生労働省

法テラス

…弁護士や司法書士などの専門家に頼む前の一次窓口として相談できる機関。
※参考:日本司法支援センター 法テラス(WEBサイト)

 専門機関に相談した上で、今回の異動の違法性が高ければ「民事調停」や「労働審判」を起こすことも可能です。実際に相談する際には、事前に追い出し部屋行きに至った経緯や日時、上司から言われたことを証拠として記録しておくと、話がスムーズに進むでしょう。

転職を検討する

3つ目は、その企業で働き続けることは諦め、転職を検討するという選択です。精神的に辛いということであれば、転職を考えたほうが健全でしょう。

また、追い出し部屋への異動やそこでの仕事内容が不当であると認められても、自分を退職させようとした会社で、その後もこれまで通りに働き続けられるとは限りません

そもそも追い出し部屋は、グレーまたは違法行為です。追い出し部屋が常態化しているような危ない企業に勤務し続けることで、予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性もゼロではないでしょう。

まとめ

追い出し部屋とは、「企業が辞めさせたい社員に自主退職を促すための部署」のこと。

もしも追い出し部屋行きになってしまった場合、退職強要やパワハラに該当するとして違法である可能性も高いので、一人で悩まず専門機関に相談してみましょう。また、追い出し部屋がある企業からは早いうちに身を引くのも一つの手。違法とも言える行為をしている企業からは身を引き、転職することも考えてみましょう。

この記事の監修者

社会保険労務士

山本 征太郎

山本社会保険労務士事務所東京オフィス

静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。

山本社会保険労務士事務所東京オフィス 公式サイト

  • HOME
  • トラブル対策
  • 「あの会社にも追い出し部屋…?」実態や裁判例、違法性も解説