前兆はある?違法ではない? 「派遣切り」とは?
自由度が高い反面、雇用の不安定さがネックである派遣社員。「派遣切りにあってしまったら」という不安を抱く方もいるのではないでしょうか。
ここでは、派遣切りについての正しい知識や派遣切りが起こる前兆、違法性についてまとめました。
派遣切りとは?
派遣先企業が人件費削減などを理由に派遣社員の契約を打ち切ること
派遣切りとは、派遣先企業がコスト削減などのために、派遣労働者との契約を途中で打ち切ることです。厳密には、派遣先の会社が、派遣元の会社との間で締結した「労働者派遣契約」を解除することを指します。
派遣社員は、派遣会社に雇われながら派遣先となる別の会社で働いている社員のことです。派遣会社と派遣先は労働者派遣契約を結んでおり、この契約が解除されると自動的に派遣社員は元々いた派遣先で働くことができなくなってしまいます。
この労働者派遣契約の途中解約、すなわち「派遣切り」があった場合、派遣社員は以下の2つのケースに陥る可能性があります。
- 派遣会社から解雇される
- 同じ派遣先で働き続けることができなくなる
それぞれについて詳しく解説していきます。
1|派遣会社から解雇されるケース
派遣会社と派遣先の労働者派遣契約の途中解除が起こり、それに伴って派遣会社からも解雇されるケースです。
通常、派遣社員のような「期間の定めのある労働契約」は、特別な事情がない限り、契約期間中に解約することはできない前提となっています。ただし、派遣会社自体が派遣社員を引き続き雇用することが難しく、派遣会社と派遣先の契約解消とともに解雇せざるを得ないという場合があります。
2|同じ派遣先で働き続けることができなくなるケース
派遣先が派遣会社と労働者派遣契約を解約したことで、契約期間満了後は契約期間が更新されず同じ派遣先で働き続けることができなくなるケースです。この状況は一般的に「雇い止め」と言われます。
基本的には、いままで働いていた派遣先との契約が切れても、派遣会社が次の派遣先を紹介してくれます。また、仮に契約期間途中に派遣先の事情で解約となった場合、契約期間満了日までは、派遣元から本来支払われる給与の60%以上の休業手当が支払われます。(労働基準法第26条)
ちなみに、厚労省の指針では、派遣社員の雇用を守るために、更新を1回以上行っていたり、1年以上継続して雇用していたりする場合などは、「派遣会社や派遣先企業は、契約の実態と本人の希望をもとに、契約をできるだけ長くするように努めなくてはならない」とされています。
※派遣社員について詳しくは→派遣社員とは? わかりやすく解説
派遣切りは違法ではない?
派遣切りが違法なのかどうか、「派遣会社からの解雇」と「雇い止め」の状況に分けて解説します。
「派遣会社からの解雇」が違法かは事例ごとに判断される
派遣労働契約の途中解除とそれに伴う派遣会社からの解雇があった場合、それが違法かどうかはケースによって異なります。
ただし、派遣社員のように「期間の定めのある労働契約」は、基本的には契約期間中に解雇することはできません。
また、労働者の働く権利を守る「労働基準法」によると、以下の2つの条件をクリアしていないものは違法であると言えるでしょう。
- 条件1:解雇予定日の30日前に解雇・更新有無についての説明がない
- 条件2:解雇の理由が社会通念上相当であると認められない
※参照:労働者派遣契約の中途解除等に関するリーフレット(派遣先)|厚生労働省
以下でそれぞれについて解説していきます。
条件1:30日前に解雇・更新拒否について説明がない
派遣を「切られる」30日前に、解雇に関する通知(解雇予告)がなかったり、更新の有無について説明されなかったりするケースは、違法となる可能性が高いです。
労働基準法第20条によって、会社側は「社員を解雇する際は、30日前に解雇予告をしなければならない」と定められています。解雇予告ができなかった場合はその代わりに、30日に満たない日数分の解雇予告手当を支給する必要があります。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
労働基準法第20条1項
前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
労働基準法第20条2項
条件2:理由が社会通念上相当であると認められない
解雇する理由が社会通念上相当であると認められない場合、違法となります。
例えば、「寝坊が多い」「就業態度が悪い」といったことが原因であっても、それだけを理由に解雇することはできません。判断材料となる原因そのものが会社に不利益をもたらしたのか、会社による指導があっても改善されなかったのか、などの状況も鑑みて判断されます。
労働契約法の第16条によると、企業側が労働者を解雇する場合は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」ことが条件となっています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法第16条
「雇い止め」は原則としては違法ではない
「雇い止め」は、原則的には違法でありません。というのも、派遣社員は正社員とは異なり、期間の定めのある労働契約を結んでいるためです。
ただし、長年にわたり契約更新をされているなど、事実上「期間の定めのない」といえる状況で働いてきた人の契約は、よほどの理由がない限り、突然打ち切ることはできません。
派遣切りが起こる前兆はある?きっかけは?
派遣切りは「前兆もなく突然起こる」
派遣切りは、派遣先の業績悪化が原因となることがほとんどです。そのため、突然起こることが多く、「前兆」となるものはありません。
しかし、派遣切りのなかでも「雇い止め」にあうタイミングとして可能性が高いのは、労働契約期間の区切りとなる3年が5年のどちらかです。
2015年の「労働者派遣法」改正では、一部の職種に適用されていた「期間制限なし」の条件がなくなり、同一の派遣労働者を派遣先の同じ組織(課・部署など)に派遣し続けられる上限が3年までとなりました(3年ルール)。
また、2013年の「労働契約法」改正では、期間の定めのある労働契約(派遣や契約社員、パートなど)でも、同じ派遣会社からトータル5年を超えて働けば、派遣社員が申し込むことで派遣会社に直接雇用される無期雇用派遣に変更できるようになりました。無期雇用派遣になると、3年を超えても同じ派遣先で働くことができます。
※詳しくは→無期雇用派遣とは?
企業によっては、期間の定めのある従業員を雇う方が、経営悪化などが起きた際に負担が少ないと判断することがあるため、3年ルールの切れ目や無期雇用派遣への転換を依頼される前に「派遣切り」を行うことがあるようです。
派遣切りのきっかけは「2008年のリーマンショック」
■派遣切りの年表
年表 | 原因 |
2009年 |
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2018年 |
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2020年 |
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日本で派遣切りが初めて起きたのは2008年で、リーマンショックによる不況によって人件費削減の一環として派遣労働者が解雇されました。また、その4年前となる2004年の派遣法改正で、製造業での派遣労働が解禁されたことも、リーマンショック時に多くの失業者を出した原因とされています。
2018年には、労働者派遣法改正から3年、労働契約法改正から5年の区切りを迎えました。このタイミングで多くの派遣労働者が雇い止めされてしまう可能性があり、「2018年問題」といわれていました。無期労働契約の従業員よりも、契約期間に合わせて解雇することも可能な従業員を雇う方が、会社の負担が少ないためです。
2020年は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による派遣切りも発生しました。国より不要不急の外出自粛を要請されたことで、無給のまま自宅待機を命じられた人もいました。また、流行が年度末となる2~3月であったことから、翌年度以降の更新を打ち切られた人も多かったようです。
派遣切りにあったときの対処法は?
実際に派遣切りにあってしまった場合はどのように対処すればいいのでしょうか。第一に取るべき行動と、派遣会社に解雇された場合と雇い止めにあった場合に分けて解説します。
派遣切りは、まずは専門機関に相談!
派遣切りに関する問題は、まずは専門機関に相談するのが良いでしょう。派遣会社や派遣先の対応が、不当かどうかを見極めてくれます。
法テラス
…弁護士や司法書士などの専門家に頼む前の一次窓口として相談できる機関です。法律相談や依頼は有料ですが、「自分が利用できる相談先を知りたい」という電話相談は無料になっています。
※参考:日本司法支援センター 法テラス(WEBサイト)
総合労働相談コーナー
…解雇や雇い止めなど、労働問題の相談に応じてくれる公的な機関です。各都道府県の労基署など380ヶ所に設置されていて、無料で利用することができます。
※参考:「総合労働相談コーナーのご案内」-厚生労働省
派遣労働ネットワーク
…派遣労働者の問題解決に取り組むNPO法人です。火曜、木曜の夜にホットラインを開設しています。派遣労働に関わる法律についての情報発信も行っています。
※参考:派遣労働ネットワーク(WEBサイト)
もし解雇された場合は、専門機関に相談する前に派遣会社に「解雇理由証明書」の発行を求めておきましょう。解雇予告の日から実際の退職日までの間に「解雇理由証明書」の発行を求められた場合、派遣会社は遅滞なく交付しなければいけないと定められています。
専門家に相談の上、民事調停・労働審判を検討しよう
もしも不当な解雇や雇い止めが行われた場合は、専門機関に相談した上で「民事調停」や「労働審判」などを行って解雇の無効を主張しましょう。
民事調停手続きは、裁判官と一般市民から選ばれた調停委員で構成される委員会で、解決のための話し合いを行うもの。また、少額訴訟手続きは、60万円以下の支払いを求めるケースでのみ利用できる手続きで、原則1回の審理で完了します。これらは証拠の準備が必要なこともありますが、弁護士などに依頼せずに1人で行うことができます。
労働審判手続きは、労働審判官(裁判官1名)と労働審判員2名で構成される委員会で、原則として3回以内の話し合いで判断をする手続きです。こちらは短期間で裁判に近いしっかりとした準備が必要なため、弁護士に依頼できる場合に適しています。
「派遣会社からの解雇」の場合、手当をもらって次の就職先を探そう
専門機関に相談した上で、派遣会社からの解雇が有効であると判断されてしまった場合は、解雇手当や失業手当をもらいながら、次の就職先を探しましょう。
解雇手当は、解雇予告日から解雇日までの賃金を保証するものです。失業手当は、必要な書類をそろえてハローワークで手続きを行えば、解雇の場合は離職票を提出した日から7日間の待期期間後に受給することができます。
※離職日以前2年間に、雇用保険に加入していた期間が通算して12か月以上ある場合に限る。ただし、特定受給資格者または特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、加入期間が通算して6か月以上ある場合でも可。
※特定受給資格者について詳しくは→会社都合退職とは?
「雇い止め」の場合、まずは派遣会社に次の職場を探してもらおう
雇い止めにあった場合、まずは派遣会社から次の派遣先を紹介されるのを待ちましょう。政府の指針によると、雇い止めが起きた場合、派遣会社は雇い止めを行った派遣先企業と協力して、新しい就業先を見つけなければならないとしています。
もしくは、自ら他の派遣会社に登録して、新しい仕事を探すのも一つの手です。派遣会社によって、持っている求人の種類や数、待遇も異なります。複数の派遣会社に登録して、比較してみるのも良いかもしれません。
まとめ
派遣労働という働き方は、雇用の不安定さというリスクがある一方、たくさんの会社で仕事の経験を積めるなど、派遣ならではの特徴もあります。
ただ、いつ起こるのか、なぜ起こるのかを掴むことが難しいのが「派遣切り」の特徴です。万が一、不当な解雇や雇い止めが起きた場合は、すぐに専門機関や公的なセーフティネットを活用するようにしましょう。
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。