税・社会保険は?家族はどうする? 海外転勤が決まったらどんな準備が必要?
海外転勤が決まったら、どんな準備が必要になるのでしょうか。
この記事では、海外に転勤する前に必要な準備や手続きについて紹介します。また、家族や恋人についての悩みにもお答えします。
海外転勤が決まったらどんな準備が必要? 家族は連れていくべき?
ここでは、海外転勤が決まったら、どのような準備や手続きが必要なのか紹介します。
まずは会社側がおこなう手続きを確認
海外への転勤が決まったら、まずは会社が行ってくれる準備や手続きを確認し、自ら準備しなければならないことを明確にしておきましょう。
海外転勤に必要な準備や手続きを、自分でやることと会社がやってくれることに分けると以下のようになります。
会社によっては、ビザの取得、転勤先の住居や引越し業者探しも自分でやらなければならない場合もあります。
自分で行う準備・手続きについて、以下でそれぞれを詳しく説明していきます。
海外転勤に伴う「住民票の除票」
1年以上の転勤になる場合は、最寄りの役所で「海外転出届」を提出し、住民登録を抹消する手続き(住民票の除票)を行いましょう。出国の2週間前から、住んでいる地域の役所で手続きすることができます。
1年以内の転勤であれば、住民票について、特に手続きをする必要はありません。ただし、海外転勤を機に自宅の賃貸契約を解除する場合は、実家の市区町村などに住民票を異動させる必要があります。
ちなみに、住民登録を抹消すると、役所で印鑑証明が取れなくなります。印鑑証明は、自家用車の廃車手続きで必要になるため、除票は廃車の手続きを行ってからにしましょう。
海外転勤に伴う「引っ越し」の準備など
海外転勤に伴う引っ越しの準備や手続きには、次のようなものがあります。
賃貸住宅の解約・持ち家の売却検討
賃貸物件に住んでいる場合は、出国日から逆算して解約日を決めます。解約日を決めたら、不動産屋に連絡しましょう。あわせて、電気・ガス・水道などの停止手続きも忘れずに行います。物件を解約してから出国日までは、ホテルやウィークリーマンションで生活することになります。その費用は、会社が負担してくれる可能性があるので確認しましょう。
持ち家がある人で家族も連れて海外転勤する場合は、家を売却するのか、誰かに貸すのか、業者や親戚に管理してもらうのかを決めましょう。住宅は、最低でも月に1度以上は換気や通水などの手入れをしないと傷んでしまうもの。空き巣などの被害に合わないためにも、空き家のままにしておくのはやめましょう。
ローンを払いながら空き家を管理する業者を利用するとなると、出費は増えますが、急に帰国が決まってもすぐに住み始めることができるので、賃貸に出すよりもスムーズです。
家具・家電の処分や譲渡
自宅で使用していた家具や家電は、処分するのか、実家などで保管してもらうのか、または誰かに譲るのかを決めましょう。転勤先に送るのも一つの手ですが、海外転勤者向けの賃貸マンションには、家具が備え付けられているのがほとんど。家電も、電圧などが異なるので使用できない場合があります。
荷造りや荷物の輸送
引っ越しの荷造りは余裕を持って行いましょう。海外に荷物を送る場合、到着までに船便では1〜2ヶ月、空港便では1〜2週間ほどかかります。
赴任先で調達できるものは、日本から送らなくてもOK。衣服など、荷物が届くまでに必要なものは、機内持ち込み用のキャリーケースに入れて持っていきましょう。
自動車の売却や廃車の手続き
自家用車を持っている人は、売却するか廃車の手続きをするかを選びましょう。売却する際は、買い取りサービス業者に依頼します。複数の業者に見積もりを出してもらい、比較・検討するのが良いでしょう。
車を残しておきたい場合は、自動車税がかからないよう、廃車=一時抹消登録の手続きを行いましょう。手続きは、業者に依頼することもできますし、近くの運輸支局で自ら行うこともできます。廃車にする際は、同時に自動車保険の停止や解約などの手続きも必要になります。
税金や社会保険料の支払いはどうなる?
ここでは、税金や社会保険料の支払いについて解説します。手続き自体は会社が行ってくれますが、海外転勤を機に仕事を辞めた配偶者を扶養に入れるなど、今までと異なる状況になる場合は早めに会社に伝えましょう。
住民税・所得税の納め方
住民税は、1月1日時点で住民票がある場所に、その年の6月から納めるのが基本。1月1日よりも前に「海外転出届」を提出し、住民登録を抹消する場合は、その年の6月から翌年5月までの住民税を支払わなくていいことになります。
住民登録を抹消した人であれば、所得税は徴収されません。その代わり、転勤先の国に、その国の税制度に従って所得税を納める必要があります。家賃収入や持ち家の売却収入など、海外転勤中に国内で得た収入は日本での課税対象になります。
住民登録を抹消していない場合は、日本と転勤する国の両方に納税する二重課税になってしまうので、日本と転勤先の国の租税条約にしたがって手続きする必要があります。
住宅ローン控除
住民登録を抹消しても、単身赴任で家族が家に住み続けるなら、住宅ローン控除が受けられます。ただ、海外転勤すると日本で所得税を納めることがなくなるので、住宅ローン控除の恩恵を受けることはありません。
家族を連れて海外転勤する場合は、「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」などの書類を近くの税務署に提出しましょう。この手続きをしておくと、帰国後に再び住宅ローン控除が受けられるようになります。ただし、海外転勤中の期間も対象期間に含まれてしまうので注意しましょう。
ふるさと納税
1月1日よりも前に住民登録を抹消した場合、その年の6月から住民税を納める必要がなくなり、ふるさと納税をしても住民税の控除を受けることはできません。
社会保険料の支払い
海外転勤をしても、日本の健康保険と厚生年金には加入し続けることになります。保険料も給与から天引きされます。
日本の健康保険を海外で使うことはできませんが、帰国後に手続きをすれば海外での治療費の一部が払い戻されます。ただし、自分で負担した金額がすべて支給されるわけではないので注意しましょう。
厚生年金は、日本の制度に加入し続けながら、転勤先の国の制度にも加入するのが原則。ただし、社会保障協定を結んでいる国に転勤する場合、5年以内であればその国の年金制度への加入は免除されます。
海外転勤が5年を超える場合は、日本の年金からは外れ、転勤の先の国の年金に加入します。海外の年金に加入している期間は、日本の年金への加入期間としては認められないので、将来の受給額が減らないよう、転勤中は国民年金に任意加入することもできます。
また、例外的に、日本と転勤先の国に申請すれば、転勤先の国の年金への加入を免除される期間が延長されることもあります。
コラム:転勤前にリサーチしておくべき3つのポイント
ここでは、転勤前に赴任先の国についてリサーチしておくべき3つのことを紹介します。
ネットなどで事前にリサーチしておくと安心でしょう。社内で同じ国に転勤したことがある人に話を聞いてみるのもいいでしょう。
治安
家族がいる人の場合、転勤先の治安は、一緒に連れて行くかどうかを判断するためにも重要になります。転勤先の国の情報は、日本在外企業協会のHPから確認するのがおすすめです。地震などの災害、テロや感染症に関する情報を閲覧することができます。また、現地の駐在員のブログなども参考になります。
食生活
転勤先の食文化や居住地周辺の飲食店なども、事前に調べておくことをおすすめします。海外でも日本食を出す飲食店が増えてきていますが、値段は高めです。もしも、日本食が恋しいということであれば、スーパーで買った日本の食材や日本から調達した調味料などを使って料理するといいでしょう。
マナーや文化
転勤先の国のマナーやルール、文化を知っておくことも大切です。日本では問題のない行為が、国によっては犯罪になることもあります。また、転勤先の国の人の会社での立ち居振る舞いや休日の過ごし方も調べておくと良いでしょう。例えば、平日の夜に、会社の同僚や取引先の人と会食することが多い国もあれば、家族と過ごすために出来るだけ早く帰宅するのが当たり前の国もあります。
海外転勤するとき、家族は連れていく?
海外への転勤となると、家族を連れて行くのか、それとも日本に残して単身赴任するのか悩む人が多いようです。ここでは、海外転勤者が家族を連れて行く際の判断基準を紹介します。ぜひ参考にしてください。
家族で行くか単身赴任するかは半々
2016年に労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った調査によると、海外転勤した人のうち、家族を連れて行った人の割合(52.5%)と単身赴任した人の割合(44.2%)はほぼ同じでした。
「配偶者の仕事の有無」と「転勤先の生活環境」から考える
家族を連れていくかどうかは、「配偶者の仕事の有無」と「転勤先の生活環境」から考えましょう。
配偶者が仕事をしている場合、仕事を今すぐ辞められるのか、仕事を辞めても良いと思っているかを話し合いましょう。また、転勤先の生活環境も、家族を連れて行くか判断する上では重要です。国によっては、女性や子どもが犯罪に巻き込まれやすいため、夜間の外出が禁止されているような治安の悪い地域もあります。日本とまったく異なる気候や環境の国では、ストレスを感じたり体調を崩したりしてしまう可能性もあるので注意が必要です。
子どもを連れて行くかどうかは年齢で決める
子どもを連れて行くかどうかは、年齢が大きなポイントになります。
前出の調査では、海外転勤者が単身赴任を選んだ理由の第1位は、「子どもの就学・受験のため」(50.3%)でした。また、男性の場合、乳幼児・小学校就学前の子どもがいた人の半数以上が家族を連れて行ったのに対し、小学校以上の子どもがいた人の過半数が単身赴任を選びました。
子どもが受験をして入学した学校に通っている場合は、退学や休学をしてまで海外転勤に連れて行くのはもったいないと考えたり、そもそも帰国後に復学することが認められていなかったりするため、配偶者が子どもとともに国内に残るケースが多いようです。
海外転勤に関するQ&A|拒否できる?給料は?
ここでは、海外転勤にまつわる4つの疑問を、Q&A形式でお答えします。
Q.海外への転勤、拒否できる?
辞令で海外転勤を言い渡されたときは、原則として拒否することができません。
ほとんどの会社では、就業規則で「転勤は正当な理由なく拒否することができない」と定められています。海外転勤の場合は、一旦「打診」として話があることが多いので、海外に転勤できない事情があれば、その段階で相談してみましょう。
※詳しくは→転勤は拒否できるのか【判例あり】
Q.海外転勤すると収入は増える?
海外転勤では、様々な手当がつくため、収入が増えることが多いようです。
転勤先で住む家の家賃は、基本的には会社が負担してくれます。一時帰国のための旅費も支給されますが、支給額や支給回数に限度があるのが一般的です。家族を連れていく場合は家族帯同手当、単身赴任する場合は単身赴任手当や、日本に残った家族の生活を支えるための家族残留手当が支給されることがあります。中には、子どもの養育費や英会話スクールの費用を支給してくれる会社もあるようです。
Q.海外転勤するとキャリアアップする?
海外転勤後にキャリアアップするかどうかは、企業の制度や本人の能力によるでしょう。
JILPTの調査では、転勤後に役職が上がったと回答した人の割合は、国内転勤者に比べて海外転勤者のほうが14.9%高くなっています。また、海外転勤者の86.5%が、転勤後に職業能力が上がった・やや上がったと回答しています。
Q.どんな企業・業界が海外転勤の可能性がある?
海外転勤の可能性が高いのは、海外に工場を持つ製造業や、電気・ガス・水道などライフライン関連の業界、金融業です。製造業では、主に製造・生産現場の管理職として海外転勤を命じられることが多いのが特徴です。
まとめ
- 海外転勤が決まったら、まずは会社側が行ってくれる手続きと、自分で行わなければならない準備や手続きを明確にしましょう。税金や社会保険の手続きは、基本的には会社が行ってくれます。
- 家族を連れていくかどうかは、「配偶者の仕事の有無」と「転勤先の生活環境」から考えてみるといいでしょう。海外転勤で家族を連れて行った人と単身赴任した人の割合はほぼ同じでした。
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。