実際に働く際の注意点も紹介 業務委託とは?
働き方が多様化してきた現代では、「業務委託」を受けて働くフリーランスも増えてきています。しかし、その仕組みや契約について正確に理解していないと、思わぬトラブルが起こることも。
この記事では、業務委託とはどのような働き方なのか、メリット・デメリットなどを解説します。さらに、実際に業務委託を受けて働く際に確認すべきポイントも紹介します。
業務委託とはどんな働き方?
業務委託とは「社内の業務を外部の企業や個人に代わりに行ってもらうこと」
業務委託とは、社内の業務を外部の企業や個人に代わりに行ってもらうことです。
企業は、自社の本業に専念するため、一部の業務を他の会社に依頼することがあります。例えばテレビ局は、情報番組のコーナーやバラエティ番組の再現VTRなどを自社では作らず、専門の制作会社に作成を依頼しています。
また、企業が業務委託する相手は企業だけではなく、フリーランスとして働く個人の場合もあります。フリーランスのデザイナーやエンジニアなどは、業務委託契約を結んだクライアントから仕事を受注して働くケースが主流です。
業務委託をする、もしくは受ける際は、両者の間で仕事の内容や報酬など、業務委託に関する契約を結ぶ必要があります。業務委託を受ける企業や個人(受任者)は、「作成した成果物」や「業務の遂行」の対価として、クライアント(委任者)から報酬を受け取ることになります。
業務委託には「請負契約」と「委任契約」がある
「業務委託契約」は実際の業務を行う際によく使われる言葉ですが、それ自体に関する法律はありません。民法に書かれている「請負契約」と「委任契約」の2つが業務委託に当たります。
端的には「完成」を目的とするものが請負、「遂行」を目的とするのが委任(もしくは準委任)と言えます。
それぞれについて、以下で詳しく解説します。
請負契約|成果物の完成を目的とするタイプの契約
請負契約は、「成果物の完成を目的とする」業務委託で、民法第632条に由来します。例えば、ライターやイラストレーターなど、依頼に対して制作した物を納品するような働き方をする職業などが該当します。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法第632条【請負】
請負契約は、成果物を契約内容に適合するよう完成させ納品されれば報酬が支払われるもので、それまでの過程は問われません。ただし、成果物に不備や欠陥などの契約不適合があった場合、修正を求められたり、報酬を減額されたりするケースがあります。
委任契約|業務に報酬が支払われるタイプの契約
委任契約は、成果物の納品ではなく「業務を行ったという事実」に対して報酬が支払われる業務委託のこと。「弁護士にトラブル解決を依頼する」といった法律に関する業務(法律行為)を委託する際に結ばれるもので、民法第643条に由来します。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
第643条【委任】
請負契約と異なり「成果物の完成」ではなく「業務の遂行」を目的とするものなので、業務の達成率や質に関わらずに報酬が支払われますが、業務を遂行する上で、善管注意義務を負います(民法644上)。
また、法律上「いつでも無条件で」契約の解除ができるため、業務の途中で突然契約を打ち切られる可能性があります。
ただし、受任者にとって不利な時期に解除したときなどは、委任者は損害賠償義務を負います(民法651条)。くわえて、改正民法下では成果報酬型の委任契約が認められているため、場合によっては、解除したときまでの業務内容に応じて報酬を請求できる可能性があります(民法648条の2、634条)。
準委任契約とは?
法律行為以外の業務に対して報酬が支払われるものを「準委任契約」と言います。具体的には「システム開発を行うエンジニア」などが当たります。
改正民法では、成果に対する報酬を支払う内容の委任契約について定められ、請負契約の規定を準用しているため、請負契約に当たるのか、委任契約のいずれに当たるのかに大きな違いはなく、どちらに当たるかはケース・バイ・ケースです。
業務委託契約と「雇用契約」の違いとは?
労働法が適用されるかどうかが異なる
企業と業務委託契約を結んで働くことと企業の社員として働くことの違いは、その企業に雇用されているかどうかです。会社員として働く=労働者として企業と雇用契約を結んでいるため、労働基準法や労働契約法といった労働法が適用されますが、業務委託契約を結んで働く場合は、労働法が適用されません。
雇用契約の場合、労働者は労働法によって守られる代わりに、雇用されている企業の指示に従って働くのが原則です。また、労働力を提供する代わりに給与をもらうという主従関係があります。ちなみに、派遣社員も外部の会社に派遣されて働きますが、派遣会社と雇用契約を結んでいます。
その一方で、業務委託を受けて働く際は、業務を委託してきた企業に雇用されているわけではない=その企業の労働者ではないので、労働法が適用されません。また、両者に主従関係はなく、業務に関する細かい指示などを受けることもありません。残業や休日という考え方はなく、期限までに求められている業務を遂行すれば、報酬を受け取ることができます。
しかし実態として、委任者の指揮監督下に置かれて稼働時間を管理されたり、業務を押し付けて残業させられたりするなど、実質的に直接雇用と同様の扱いを受けているのにも関わらず「業務委託」という理由で残業代を払ってもらえないケースがあります。
万が一不当な扱いを受けた場合は、公正取引委員会や労働基準監督署などの専門機関に相談しましょう。
コラム:業務委託で多い業種・職種
業務委託の中でも「請負契約」は、情報通信業や生活関連サービス業・娯楽業などに導入されることが多く、具体的には以下のような職種に多い傾向があります。
- Webデザイナー
- プログラマー
- ライター
- アニメーション制作
- DTPオペレーター
- パソコンの設置
- エアコン工事
- 配送ドライバー
- 美容師
- ネイリスト など
例えば、美容師やネイリストの場合、美容室やネイルサロンと業務委託の契約を結び、売り上げの何割かを美容室やネイルサロンに納めるという働き方もあります。会社によっては、予約数に応じて業務委託で働くスタッフを出勤させるところもあるようです。
一方「委任契約」は、法律に関する業務を受ける際に結ばれる契約なので、以下の職種が当てはまります。
- 弁護士
- 会計士
- 税理士
- 司法書士
業務委託で働くメリット・デメリットとは?
業務委託を受けて働く場合、メリットもデメリットも「労働基準法が適用されないこと」に関係します。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
業務委託を受けて働く3つの「メリット」
業務委託を受けて働く際のメリットは、主に以下の3つです。
1|自分の得意な仕事に特化できる
業務委託の最大のメリットは、自分の得意な仕事に特化できる点です。
会社員の場合、労働法が適用されるため、経営者や管理者の指揮命令で仕事が決められてしまいます。その結果、自分の得意でない仕事や望まない仕事もこなさなければなりません。一方、業務委託の場合、自分の希望に合う仕事を引き受けることが通常であるため、得意な仕事に特化することができます。
2|実力次第で高収入が得られる
業務委託契約は月給や時給などの一定報酬が決められておらず、成果物や業務に対して報酬が決められるので、実力次第では短時間で高収入を得ることができます。特に委任契約は、高い知識と技術が要求される専門職で導入されていることが多く、高収入が期待できます。
また、請負契約も特定の技術が必要なスキルが必要な専門職が多いため、クオリティーの高い成果物を納品したり、仕事量を多くこなしたりすることで高い収入を得ることが可能です。
3|ストレスのない生活を送りやすい
業務委託の働き方を通じて、ストレスのない生活を送ることできます。
仕事内容によっては会社に出勤する必要がないため、通勤ラッシュに見舞われることもなく、期日内に成果物を納品できるのであれば、いつ休みを取っても問題ありません。また、企業のような特定の組織に所属しないため、人間関係のトラブルに巻き込まれることもほとんどないでしょう。
業務委託を受けて働く3つの「デメリット」
ここでは、業務委託で働く場合のデメリットを3つ紹介します。
1|月によって収入が変動するため生活が安定しない
業務委託は、雇用契約を結んで働く会社員とは違って、一定の期間に対して決められた報酬が支払われることがありません。そのため、月によって収入の増減が激しかったり、生活が安定しなかったりすることがあります。継続的に仕事依頼があるわけではないので、契約内容によっては突然収入がゼロになることもありえるでしょう。
2|税金などの手続きを自分で行う必要がある
業務委託を受けて働く場合、確定申告や保険料の支払いを自分でしなければいけません。
会社員の場合、社会保険や税金の手続きは基本的に会社が行ってくれますが、業務委託では仕事をしながら各種手続きを行わなければならないため、わずらわしく感じる場合があります。
3|仕事がなくなっても失業保険などの保証がない
業務委託という働き方は、企業に直接雇用されているわけではないので、雇用保険に加入することができません。このため、業務委託の契約が終了したり任せてもらえる仕事がなくなったりした際に、原則として会社員の失業保険のような「いざというときの保証」がありません。フリーランスの多くが業務委託を受けて働いていますが、収入を途切れさせないためには、つねに複数の企業と契約して、報酬を得続ける必要があります。
業務委託を受けて働く際に確認すべきポイントは?
業務委託を受けて働く場合、契約時に十分注意しないと仕事をしても報酬の支払いがなかったり、逆に賠償金を請求されたりするといったケースもありえます。
ここでは、業務委託で働く場合にチェックするべき5つのポイントを紹介します。
1:業務内容
2:成果物の詳細
3:委託期間や納期期日
4:契約内容の変更・更新
5:報酬額と必要経費の請求
ポイント1:業務内容
依頼される業務内容が具体的かどうかを確認しましょう。契約の際に「そもそもの話と違っている」というトラブルが起きないように、どのような業務を行うのかは納得がいくまでしっかりと確認しておくべきです。
というのも、委任者は受任者よりも優位な地位にあることが多く、場合によっては不当に報酬を低く設定されたり、本来行わなくて良い業務をさせられたりすることがあるためです。
ポイント2:成果物の詳細
「成果物」とされるもの、すなわち、業務委託を受けた際に報酬が払われる対象について確認しましょう。そもそも、なにをもって「成果物(完成品)」とするのか、委任者と事前にすり合わせておくと安心です。
サイトの作成や原稿の執筆(請負契約)などの形になる場合もあれば、法律に関する顧問業務(委任契約)やサイトの企画・運用(準委任契約)といった無形の場合もあります。請負契約の場合は、成果物への修正があった際にどのような対応が求められるのかもチェックしておきましょう。
ポイント3:委託期間や納品期日
いつからいつまでの期間に対して設けられている契約なのか確認することも大切です。「委託期間は4月1日から3ヵ月とする」「納品期日は10月末日とする」といったように明確に書かれていないと、契約書の効力がいつまで発揮されるのか分からずにトラブルのもとになります。
「委託期限が切れるのと自動的に期限を○ヵ月更新する」と取り決めているケースも多いようなので、自動更新があるのかどうかも確認しましょう。
ポイント4:契約内容の変更・解除
契約期間・期日に関連して、「契約内容の変更・解除」についても重要です。契約の解除にともなって損害賠償の請求があるのかどうかを確認することも大切です。
このほか、のちのちのトラブルになりやすい「機密保持事項」や「知的財産権」などの権利についてもチェックしましょう。
ポイント5:報酬額と必要経費の請求
業務委託の契約を結ぶ際の報酬額は、支払期限も合わせて確認しましょう。成果物の作成や業務の遂行にかかる経費を請求できるのか、振り込みなどにかかる手数料が企業持ちなのか自分持ちなのかは、のちのちトラブルになりやすいので、事前にチェックしておくと安心です。
コラム:業務委託契約書の種類は主に3つ!
業務委託の契約を結ぶ際の契約書の種類は主に3つあります。
1|単発業務型
単発業務型は、単発の業務を委託するタイプの業務委託契約となります。「設計監理業務」や「デザイン業務」といった短期間のプロジェクトなどに関わりながら、業務を受ける際に使われることが多い契約です。
2|成果報酬型
成果報酬型は、業務の成果によってもらえる報酬の金額が変わるタイプの業務委託契約のことです。「営業」など成果が数字として見える業務などに適用されることが多いのが特徴で、自分の頑張り次第でより多くの報酬を受け取れる場合もあります。
3|毎月定額型
毎月定額型は、毎月定額の報酬を支払うタイプの業務委託契約で、毎月決まった額をもらうことができる契約方法です。「システムなどの保守業務」や「コンサルティング業務」などに多い契約となっています。
「業務委託」にまつわるQ&A
ここでは、業務委託にまつわる、よくある疑問を解説します。
Q1.請負契約で報酬がもらえないことはある?
請負契約では、成果物を納品することが報酬を得る条件であるため、成果物が完成しなかった場合はもちろん、内容が契約と異なる場合は報酬が支払われない可能性があります。
ただし、もし契約通りに成果物を納品したにもかかわらず、報酬が未払いであるという場合は、契約に不備があると考えられるので、契約書を持って弁護士や行政書士、法テラスなどに相談しましょう。場合によっては、未完成であっても途中までの報酬を部分的に支払ってもらえることがあります。
Q2.委任契約で契約を解約されることはある?
「委任契約」は請負契約と異なり、法律にまつわる業務を受けることを前提とした契約であることから、業務をする際に不正を行うと契約を解除されてしまう可能性があります。
委任契約(もしくは準委任契約)で特に注意すべきなのは「善管注意義務」です。「善管注意義務」とは、簡単にいうと「プロとしてしっかりと仕事を遂行すること」で、これに違反すると損害賠償義務などの法律上の責任を負うことになります。
Q3.業務委託で働くと税金はどうなる?
業務委託の報酬にかかる所得税は、業務委託をする企業側が、報酬を支払う際に納めてくれています(所得税の源泉徴収)。ただし、業務委託を受けた側は、所得税や経費の精算を行った上で、1年間の報酬にかかる正確な額の税金を納める必要があり、自ら確定申告をしなくてはなりません。
確定申告の際は、業務委託をする企業からもらう、報酬額と徴収された税額が書かれた「支払調書」を提出する必要があります。確定申告の詳しい方法については、最寄りの税務署に問い合わせてみましょう。
※参照:
所得税の確定申告|国税庁
業務委託で所得税の源泉徴収をされる報酬
業務委託の際に源泉徴収される報酬は、以下のとおりです。
- 原稿料・講演料・デザイン料など
- 弁護士・税理士・司法書士などに支払う報酬
- 社会保険診療報酬支払基金法によって支払われる診療報酬
- スポーツ選手・モデル・外交員などに支払う報酬
- 芸能人や芸能プロダクションへの報酬
- コンパニオン、ホスト、ホステスなどの報酬
- プロ野球選手の契約金
- 広告宣伝のための賞金 など
ちなみに、源泉徴収されるかどうかは、報酬の金額によって異なります。例えば、「原稿料・講演料・デザイン料など」であれば、1度に支払う額が5万円以下であれば源泉徴収されません。
※参照:
No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
業務委託における源泉徴収額の計算式
源泉徴収される額は、一回に支払う報酬が100万円を上回るか下回るかによって異なります。計算式は以下のとおりです。
▼報酬が100万円以下の場合
源泉徴収税額 = 支払金額 × 10.21%
▼報酬が100万円を超える場合
源泉徴収税額 =(支払金額 – 100万円)× 20.42% + 10万2100円
まとめ
業務委託は企業と雇用契約を結ばず、請負契約や委任(準委任)契約を結ぶ働き方です。労働法が適用されないため、会社に縛られず自由な反面、収入や仕事量が安定しないこともあります。
業務委託契約を結ぶ際には、メリットやデメリットを理解しておきましょう。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。