Q&Aで解説 試用期間の給与はどうなる?
試用期間中の給与は、本採用時より低くても問題ないのでしょうか?試用期間における給与やボーナスについて、くわしく解説していきます。
Q.試用期間中の給与はどうなる?
本採用時より低い会社もある
試用期間中の給与は、本採用時より低い場合があります。
そもそも試用期間を設ける場合、企業側は期間や賃金などの条件について、就業規則や労働条件通知書に明記し、労働者に合意してもらう必要があります(労働契約法15条)。このため、労働者が同意していれば、試用期間中の給与が本採用時より低くても、違法ではないのです。
かなり前のデータにはなりますが、2005年の調査によると、試用期間終了後に昇給や手当の増額をする企業は35.3%。およそ4割の企業で、本採用時に比べて試用期間中の給与が低いことになります。
※参考:調査シリーズ No.4 従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査 ― 労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ) ―|労働政策研究・研修機構(JILPT)
試用期間でも残業代は支払われる
法定労働時間である「週40時間、1日8時間」を超えたときの残業代は、試用期間であろうと必ず支払われます。また、固定残業代が給与に含まれている場合でも、その時間を超えた分は必ず別で支給されます。残業代を支払わなければ、企業側は労働基準法違反となり、労働基準監督署から行政指導や是正勧告を受けることになります。
試用期間中の残業でも、残業代がしっかり支払われているか給与明細を確認しましょう。
最低賃金以下の場合もありえる
企業が労働局長の許可を得ている場合に限り、時給換算した試用期間中の給与が、各都道府県の最低賃金よりも低いことがあります(最低賃金法第 7 条)。
これは「最低賃金の減額の特例」と呼ばれており、「試の使用期間中の者(=試用期間中の者)の場合、最大で最低賃金の20%を減額することができる」というものです。ただし、期間は最長でも6ヶ月が限度とされています。
この特例は、都道府県労働局長の許可を得ていないケースはもちろん、求人票や労働条件通知書に記載がない場合、労働者が合意していない場合も違法です。
※参考:最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領|厚生労働省
給与の計算例|最低賃金の減額の特例
ここでは、最低賃金の減額の特例が適用された場合の基本給を紹介します。
〈条件〉
- 東京都
- 減額率20%
- 所定労働時間8時間
- 月の出勤日数22日
2021年10月現在、東京都の最低賃金は1,041円。減額率は20%なので、減額される金額は208円です(1,041円×0.2=208.2円≒208円)。
※1円未満は切り捨て
〈計算結果〉
減額適用された賃金額(時給)
…1,041円-208円=833円
基本給
…833円×8時間×22日=14万6,608円
東京都で最低賃金の減額の特例が適用された場合、計算上では基本給が14万6,608円となることがあります。
コラム:「試用期間中は無給」はもちろん違法
試用期間中だからといって、給与がまったく支払われないのは違法です。企業は、労働の対価として労働者に賃金を支払うこととなっています(労働基準法第11条)。
仮に「試用期間は半人前。会社の役に立っていないから給与は払わない」「本採用になったら、試用期間中の給与も含めてまとめて支払う」などと言われた場合は、厚生労働省の労働条件相談「ほっとライン」や、近くの労働基準監督署に連絡しましょう。
労働契約を結んだ時点ではそのような話はなく、直属の上司がそのような発言をしている場合は、人事担当者や本社に連絡するなどの行動も有効です。
Q.試用期間中に解雇された場合の給与は?
解雇通知されれば、通常通り支給される
試用期間中に解雇される場合、解雇日の30日前までに「解雇する予定である」と通知され、解雇日までの給与が通常通りの月給として支払われます(労働基準法第20条)。この通知を解雇予告といいます。
30日前までに解雇予告がなかった場合でも、最低保証として、解雇予告された日から解雇日までの日数分の平均賃金と、30日から解雇日までの実労働日数を控除した日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当の合計額が、必ず支給されます。
※平均賃金=直前3ヶ月に支払われた賃金総額÷3ヶ月の総日数(暦日数)
例えば「今日付けで解雇する」と言われた場合、今日までの給与とは別に、最低でも30日分の解雇予告手当を受け取ることができます。
▼解雇予告手当についてくわしくは…
Q.試用期間中でもボーナスはもらえる?
もらえるかどうかは、企業による
試用期間中にボーナスがもらえるかどうかは、企業によって異なります。
そもそも法律上、試用期間中か本採用後かにかかわらず、企業にボーナスの支払い義務はありません。よって、試用期間中のボーナスがないことや、減額されることは違法にはならないのです。
仮に試用期間中のボーナスが出ない企業の場合、就業規則などに「試用期間中はボーナスを支給しない」といった規定があることが多いでしょう。就業規則に違反する内容のボーナスの不支給・減額は、違法となる可能性もあるので、就業規則を確認しましょう。
また、たとえ支給されたとしても、試用期間であることを理由に、満額はもらえない可能性が高いでしょう。
Q.試用期間中、社会保険はどうなる?
試用期間中でも加入し、給与から保険料が引かれる
試用期間でも原則、入社1日目から社会保険には加入します。そのため、試用期間中であっても給与から社会保険料が引かれます。
加えて税金も引かれるため、手取り給与は本採用時と同様に、支給額(額面給与)の7~8割程度になるので注意しましょう。
試用期間中の社会保険の加入条件など、くわしくは下記の記事で解説しています。
もしや違法?不安であれば専門家に相談
試用期間中の給与が低いことは、労働条件通知書や就業規則などに条件が明記されていない場合や、事前に説明などがなく合意していない場合は違法となります。
試用期間中の給与について不安があれば、まずは上司に確認し、企業の対応が不当だと感じる場合は、厚生労働省の労働条件相談「ほっとライン」や、近くの労働基準監督署に相談しましょう。
このほか、試用期間に関する疑問やよくあるトラブルについては、下記の記事でも解説しています。
▼試用期間中なら簡単に退職できる?
▼試用期間中の解雇ってアリ?
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者

弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。
