メリット・デメリットを解説 持株制度は得なのか損なのか
社員持株制度とは、社員が自社の株式を購入できる制度のことです。入社時に紹介され、よくわからないまま加入したという方も少なくないでしょう。
実際お得なのか損なのか、持株制度の仕組みやメリット・デメリットを解説します。
持株制度とは?
まずは持株制度の意味や仕組みを解説します。
社員が自社の株式を購入できる制度のこと
持株制度とは、社員が勤務先の株式(自社株)を購入できる制度のことです。上場企業を中心に福利厚生の一環として導入されるケースが多く、東京証券取引所に上場している企業の約9割に持株制度があります。
※出典:2019年度従業員持株会状況調査結果|株式会社東京証券取引所
持株制度は会社員が気軽に始められる投資方法のひとつ。自社株は売却時期の制限こそあれど、株価の上昇時に売却することで利益を得ることができます。
会社にとっても、社員のやる気を高めることができ、安定株主も得られるというメリットがあります。
持株制度の仕組み
【購入から売却まで】
持株制度を利用して自社株を運用したい場合は、具体的にどのような手順で行うのでしょうか。
「購入」と「売却」の2つのステップにわけて見ていきましょう。
■ステップ1:購入
持株制度は、一般的に従業員持株会が中心となって運用しているため、自社株を購入するには、まず持株会に加入します。
持株会の会員になると、毎月の給与から一定の掛け金が天引きされ、持株会を通して株式を購入することができます。
会社によっては掛け金に上乗せして奨励金が支給される場合もあり、支払額以上の株式を取得することができます。
奨励金の金額は会社によってまちまちで、多い場合で掛け金の20%ほどが支給されます。
■ステップ2:売却
取得した自社株を売却する手順は、上場企業と未上場企業で異なります。上場企業では以下のような手続きが必要です。
- 証券口座を用意する
- 株式を持株会の口座から証券口座へ移す
- 売却する
インサイダー取引防止のため、売却には上司の承認や人事部への事前申請が必要な場合が多く、売却回数やタイミングが制限されることがあります。
また、証券口座の開設手続きから売却完了までに1ヶ月以上かかる点にも、注意しましょう。
ストックオプションとの違いは?
持株制度とストックオプションは自社の株式を購入できる点では似ていますが、購入するタイミングが異なります。
持株制度は加入時点から定期的に株式を購入しますが、ストックオプションは自分の好きなタイミングで株式を購入できます。
ストックオプションはあらかじめ決められた価格で自社株を購入する権利が与えられるため、株価が上昇した時に元の価格で株式を購入し、上昇後の価格で売却することができます。
売買のタイミングが自由なので、持株制度と違って売却時に購入時の価格を下回る「元本割れ」のリスクがありません。
また、持株制度は社員なら原則誰でも利用できますが、ストックオプションの対象はベンチャー企業の初期メンバーや高いスキルを持つ人など、一部の社員に限定されるという違いもあります。
※ストックオプションについて詳しくは→ストックオプションとは 株価や新株予約権なども簡単に説明
コラム:そもそも株式って?どうやって利益が出るの?
そもそも株式とは、会社が資金を調達するために発行するものです。
株主は株式を購入して会社に出資する代わりに、会社の経営方針を決める権利や、利益に応じた配当金を得る権利などを与えられます。
株式投資によって得られる利益は主に2つあります。
1つは株式を保有している間に得られる配当金や株主優待(インカムゲイン)、もう1つは株式を売却した際に得られる売却益(キャピタルゲイン)です。
売却益は株価の変動によって発生します。株価は会社の業績や経済状況などによって上下するため、株式を購入した時の金額よりも株価が上がると、売却時にキャピタルゲインを得ることができます。
一方で、購入時よりも株価が下がると損失を被ることになります。
株株制度のメリット・デメリット
持株制度はほかの投資方法と比べてお得なのでしょうか。メリット・デメリットを解説します。
持株制度の3つのメリット
株式投資をすると配当金や売却時の利益を得られますが「持株制度ならではのメリット」にはどのようなものがあるのでしょうか。
奨励金が出る
持株制度の最大のメリットは、会社から奨励金が出ることです。持株制度がある会社の96.6%が奨励金を支給しています。
奨励金の金額は拠出額の4~15%が支払われるケースが多く、例えば5%の場合、1万円を拠出すると500円の奨励金が会社からもらえます。
たとえ株価が横ばいだったとしても、奨励金分の利益は得られるわけです。
出典:2018年度従業員持株会状況調査結果|株式会社東京証券取引所
会社によって奨励金の割合は異なるため、詳しく知りたい場合は持株会の事務局に問い合わせをしましょう。
強制的に資産形成できる
持株制度なら掛け金が給与から天引きされるため、株価が大きく下がらない限りは強制的に資産形成できるのもメリットのひとつ。
一度拠出額を決めてしまえば放置していても勝手に積み立てられるため、貯金が苦手な人でも無理なく継続できます。
少額から株式を購入できる
持株制度を利用すると、まとまった資金がなくても少額から株式を購入することができます。
通常、株式は100株単位でしか売買できないため、1株1,000円の株式を購入するには、最低でも10万円の資金が手元に必要です。
一方で持株制度は「ひと口1,000円」など少額でも購入できるため、高額を投資することによるハイリスクを負わずに済みます。
持株制度の4つのデメリット
株式投資には株価が下落して損をするリスクがあるのはもちろん、持株制度ならではのデメリットもあります。
収入と資産のリスクが集中する
持株制度とは基本的に自社の株式を購入する制度なので、給与による収入と投資を1つの会社に集中させてしまうことになります。
会社の業績が悪化してしまうと、給与収入が減少するばかりか、株価の下落によって資産も減少してしまう可能性があります。
利益に対して税金がかかる
持株制度に限らず、株式を利用して配当金や売却益を得ると、利益に対して原則20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の税金がかかります。
一方で、持株制度と同じように比較的気軽に投資を始めることができるiDeCoやNISA、つみたてNISAなどの投資制度は、運用益が非課税になります。そのため、これらの制度で得た運用益は税金が引かれず、丸ごと利益になります。
持株制度は運用益が非課税になる投資制度と比べると、税金面で不利といえます。
好きなタイミングで売却できない
持株制度は株式を売却する際の手続きが複雑で、好きなタイミングで売却することができません。
持株会から自分の証券口座に移す際に上司や経理部の承認が必要な場合があり、時間がかかります。
そのため、株価が上がった/下がったタイミングで売却したくても、手続きをしている間に売り時を逃して損をする可能性があります。
また、自社の決算内容や新商品の情報などを公表前に知った場合は、情報が公表されるまで株式を売却することができません。
会社関係者が未公表の重要情報を利用して株式を売買する「インサイダー取引」は、ほかの投資者が不利になるため厳しく規制されています。
持株会によっては、決算時期や新商品の発売前など、株価の変動が予測される時期に売却を一律で禁止される場合もあります。
株主優待を受けられない
会社によっては株主に自社製品や商品券を贈る「株主優待」を実施している場合がありますが、持株制度は持株会の名義で株式を購入するため、株主優待を受けられません。
また、株主総会にも参加することができません。
まとめ
社員持株制度は会社から奨励金が出るため一見お得に感じられますが、通常の株式投資とは違って売却に手間がかかったり、株主優待が得られなかったりといったデメリットもあります。
持株制度を利用する際は、運用のイメージをつけてから購入したり、掛け金を少額にする、ほかの企業の株式にも分散投資するなど、リスクが集中しないように慎重に検討しましょう。
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。