その転職はNGです! プロが全力で引き止める危険な退職理由3つ
「給料が安い」「やりがいが感じられない」など、転職を考える理由は人それぞれ。
でも、「中にはそんな理由で転職して大丈夫?と思うようなケースもあります」と転職エージェントとして5000人超の相談を受けてきた山田実希憲さんは言います。
転職のプロが不安に思う退職理由とはどんなものなのか聞いてみました。
プロが全力で転職を引き止める3つの退職理由
山田実希憲さん(以下、山田):人が転職を考える理由はさまざまです。「給料が安い」「仕事がつまらない」「会社の将来が不安」など、10人いれば10通りの退職理由があります。
退職理由自体には良いも悪いもありません。人はそれぞれ性格も考え方も価値観も違いますから、第三者から見て「そんなことで転職するの?」と疑問を抱きたくなるような理由であっても、本人にとってはきわめて切実な場合もあるのです。
ただし、例外もあります。次のような退職理由で転職をしようとしている場合、私は「もう一度考えてください」とお願いして全力で転職を引き止めています。それぞれ説明していきましょう。
危険な退職理由1|「上司や会社から思うように評価されない」
山田:一つ目は、「上司や会社から思うように評価されない」という理由で転職を考えている場合です。
「思うように評価されない」「上司や同僚と意見が合わない」と感じた時、転職に成功する人は、まず「なぜ自分は評価されないのか」「自分のコミュニケーションの取り方に問題はないか」と振り返り、自分に原因はないか内省しています。
そうすることで、本当に転職すべきか、転職の前にできることはないか慎重に判断しているのです。
一方、「評価されないのは上司に見る目がないから」「提案が通らないのは周りがバカだから」とすべて他人のせいにしてしまう人は成功できません。自分に原因がある場合、それを自覚しないまま転職しても次の職場でまた同じことを繰り返すことになるからです。
事例1|何でも人のせいにしてしまうAさんの場合
先日、転職の相談を受けたエンジニアのAさんもそうでした。何か問題が発生するとすべて他人のせいにする「他責思考」が強いAさんは、ことあるごとに「あいつが悪い」と周囲への不満を溜め込み、30代半ばにしてすでに5回の転職を繰り返していたのです。
とはいえ、5回の転職を繰り返したということは、それだけの回数の内定を勝ち取ってきたということ。つまり、Aさんはそれだけ高いスキルの持ち主だと言えます。
しかし、高いスキルがあっても、Aさん自身が変わらなければどんな会社に転職してもうまくいくとは思えません。それに、今は転職できたとしても転職回数と年齢を重ねていくうちに少しずつ転職先の選択肢は減っていきます。
私はAさんにそのことを伝え、転職の前に自分自身を振り返ってみることを提案しましたが、残念ながらそれっきりAさんからの連絡は途絶えてしまいました。Aさんの転職が実現したかどうかはわかりませんが、他責思考が変わらない限り、理想の職場を見つけることは難しいのではないでしょうか。
▼転職を決める前にできること
危険な退職理由2|「転職してイチからやり直したい」
山田:私が全力で引き止める2つ目の退職理由は、「転職してイチからやり直したい」というもの。つまり転職することで今の状況をリセットできると考えているケースです。
このようなケースでは、「とにかく今の会社を辞めること」が最大の目標になってしまっていることが少なくありません。厳しい言い方ですが、ただそこから逃げ出したいだけで、「環境さえ変えればきっとすべてうまくいく」と根拠のない幻想を抱いている人が少なからずいるのです。
もちろん、転職する人は何かしら満たされていない要素があるから次の職場を求めるわけですし、実際に転職によって不満を解消することは可能です。ですが、今の状況を改善するために自分にできることはないかと自問自答せずに転職しても、次の職場でもまた「うまくいかないから転職する」ということになりかねません。
事例2|同期に差をつけられて焦っているBさんの場合
営業職のBさんは、20代後半になり同期がリーダーに昇格するなど、周囲と差がつき始めていることを感じていました。仕事には真剣に取り組んでいましたが、思うように営業成績を伸ばすことができず、不安や焦りを感じていたといいます。
そんな時、大学時代の友人が転職したと聞き、Bさんは「自分も転職して新しい環境で頑張ったほうがよいのではないか」と考えたそうです。
「転職でチャンスをつかみたい」と言うBさんに、私は「本当に転職することで問題が解決できるのか」「転職の前に何かできることはないのか」、もう一度考えてみてくださいとお願いしました。
転職すれば良くも悪くも、それまでの評価や人間関係はリセットされます。ただ、同時に信頼関係もリセットされてしまいます。仕事で成果を出すために必要な周囲の人たちとの信頼関係やチームワークを、また一から構築していかなければならないのです。
転職は一発逆転の手段ではありません。転職しても、地道に努力を積み重ねてキャリアを構築していかなければならないことに変わりはないのです。
危険な退職理由3|そもそも退職理由が明確になっていない
山田:そもそもなぜ会社を辞めたいのか、退職理由が明確になっていない場合も、私は転職を引き止めています。
自分がどんなことに不満を感じているのか、その不満は転職することで解消できるのかといったことが、自分の中で明確になっていなければ転職を成功させることはできないからです。
事例3|人に勧められて転職を考えたCさんの場合
不動産投資会社の営業職として働くCさんは、「人材業界に転職したい」と私のところに相談に訪れました。Cさんが現在の仕事に就いたのは、とにかくお金を稼ぎたかったから。人当たりが良く、コミュニケーション能力も高いCさんは営業成績も優秀で、望み通り高い報酬を得ていました。
ただ一方で、良い商品とは言いきれない物件であっても利益のためにとにかく売らなければいけない仕事に100%の誇りを持てず、このまま今の仕事を続けていいのかモヤモヤした気持ちを抱えるようになったそうです。
そこで、なぜ人材業界に転職したいのか聞いてみると、「その仕事に向いているのでは?」と人に勧められたからとのこと。さらに、「今の仕事を辞めたい理由」と「転職でかなえたいこと」を聞いてみても、「う〜ん…」とその場で考え込んでしまいました。
Cさんのように、「なんとなく転職したほうがいいかも…」という気持ちで転職してもうまくいきません。「転職でかなえたいこと」が明確でなければ、転職そのものはできたとしても、その転職が成功だったのかどうか誰にも判断ができないでしょう。
危険な退職理由で転職した人の末路
山田:転職が当たり前のものになり、理想のキャリアを築いていくための選択肢が増えたことは、とても喜ばしいことです。でも、その半面、少しでも仕事がうまくいかなくなると、「今の職場は自分には合わない」と安易に転職を考えてしまう人が増えているようにも感じています。
転職はゲームのリセットボタンを押すのとは違います。転職すれば新しい環境に身を置くことはできますが、それまでのキャリア、職歴が履歴書から消えることはないのです。
ポテンシャルを評価してもらえるのは20代のうちだけ。年齢と経験を重ねるにつれ、「それまで何をしてきたのか」「会社にどんな貢献ができるのか」、その実力が問われるようになってきます。
あえて厳しい言い方をしますが、ちょっとうまくいかなかったからと安易に転職を繰り返してしまうと、仕事の実力が身につかないだけでなく「計画性のない人」「我慢ができない人」と評価されることになりかねません。
そうならないためにも、「今の職場が合わない」と思うのなら、まずは職場に合わせるためにどれだけの努力をしたか、自問自答してみてください。そして「今の仕事が好きじゃない」という人は、その面白さに気づけるほど目の前の仕事に打ち込んでみたかどうか振り返ってみてほしいと思います。
「やれることはやった」と胸を張って言えれば問題ありません。目の前のことに全力で取り組んだ結果、もし思うような結果が出なかったとしても、努力した事実と経験はしっかり残ります。そして、その経験こそが転職という次のステップにつながる第一歩になるはずです。
取材・文/盛田栄一
▼「辞めてよかった」と言える自分になる
▼何のために転職するの?
▼転職すべき?残るべき?
この記事の話を聞いた人
転職エージェント
山田実希憲
Gemini Career(GEMINI Strategy Group)代表取締役CEO
1979年生まれ。法政大学卒業後、リフォーム会社を経て人材紹介会社であるJAC Recruitmentに転職。現在はジェミニキャリア(ジェミニストラテジーグループ)で経営、組織、採用に関するコンサルティング、個人の人生経営・キャリア支援を提供。累計5000名を超えるビジネスパーソンの転職相談を受ける。著書に『年収が上がる転職 下がる転職』(すばる舎)、『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(ぱる出版)がある。