社風が合わないなら辞めていい ただし転職を決める前に考えるべきこと3つ

「社風が合わない」と感じながら働くのはつらいもの。ならば転職するのはアリなのか、リクルートやライフネット生命で人事と採用の責任者を務めたプロ、曽和利光さんに教えてもらいました。

「社風が合わないから転職」はアリだけど…

転職サイトなどが実施している「転職理由ランキング」を見ると、ほぼ毎回「社風が合わない」という理由がランクインしています。

合わない環境で仕事を続けるのはつらいものです。まして、会社は自らの価値観やビジョンに共感できる人材を採用するため、会社が採用を頑張れば頑張るほど、社風は浸透していきます。その結果、合わない人の居心地は悪くなっていくことでしょう。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

仏教では「怨憎会苦(おんぞうえく)」といって、「嫌な人に会わなければならない苦しみ」を人間の最大の苦しみのひとつとしています。相性の悪い人と一緒に仕事をすることは、それほど大変なストレスになることだと言えますし、実際に職場の居心地や人間関係は仕事のパフォーマンスにも大きく影響します。

「社風が合わない」ことで転職したくなるのはよくわかりますし、居心地の悪い環境で我慢して働くくらいなら転職して伸び伸びと働ける職場に移るのもよいかもしれません。

「転職だ!」と走り出す前に考るべき3つのこと

しかし、一時の感情に引っ張られて会社を辞めてしまうのは考えものです。もし、後悔することになっても元には戻れないからです。

ですから、「社風が合わないから、ちくしょう転職だ!」と走り出す前に、本当に辞めるという選択をしてもいいのか、次の3つの点から慎重に考えてみてください。

〈転職を決める前に考えてほしい3つのこと〉

  • 嫌な上司や同僚を見て「社風」と決めつけていないか
  • 会社の中に自分と合う人はいないか
  • なぜ社風に合わない自分が採用されたのか

1|嫌な上司や同僚を見て「社風」と決めつけていないか

まず考えてほしいのは、「社風」とはそもそも何なのか、あなたが感じている「社風」は、本当に会社全体に共通したものなのかということです。

社風というものは、そもそも実体がなく、目で見たり手で触れたりできるものではありません。会社の中にいる人たちの日々の行動や発言から、個々人が頭の中に作り上げる「この会社の人たちはこういう思考パターン、行動パターンを持っているのだ」という、ある意味で勝手なイメージです。

もちろん、長年その会社にいてさまざまな場面で多面的にその会社を見てきた人であれば、組織内の人々が一貫して持っている特徴のようなものを把握しているかもしれません。それを社風と言うのなら説得力もあります。

ですが、特に社歴の浅い若い社員の場合、「社風が合わない」と決めつける前に、自分はそう言い切れるほどに会社を見てきたのかということを改めて考えてほしいのです。

「上司の特徴=会社の特徴」ではない

心理学の言葉で、「過度の一般化」というものがあります。簡単に言えば、たった数個のサンプルで全体の傾向を推定して決めつけてしまうということです。特に注意してほしいのは、自分がこの「過度の一般化」に陥っていないか、つまり目の前のことだけを見て「この会社はこうだ」と決めつけていないかということです。

たとえば、自分の上司がどんなに細かいことでも把握していないと気が済まない人だからといって、会社全体がそうとは限りません。それなのに、上司一人を見て「この会社は管理主義で社員を信用していない」と決めつけてしまうことは往々にして起こりえます。まさに過度の一般化ではないでしょうか。

私は、自社のメンバーやクライアント企業の社員が「うちの会社のこういうところが嫌だ」と言った時には、「うちの会社って誰?」と聞いてみることにしています。「うちの会社はこう」と思い込む前に、誰のどんな言動を見てそう感じたのかを考えてほしいからです。

そうして冷静になって考えてみると、「うちの会社の社風だ」と思っていたことが、実は特定の誰かにだけ当てはまることだったというケースは多々あります。

「人は仕事を辞めるのではない。嫌な上司のもとを去るのだ」という転職格言のような言葉もあるくらいですから、人間関係や居心地の悪さは、たとえ特定の誰かが原因であっても会社そのものに嫌気がさすほどの強いストレスになるということなのでしょう。

誤解で会社を辞めるのはもったいない

それでも誤解は誤解です。誤解をきっかけに会社を辞めてしまうのはもったいないと思います。ストレスを感じながらも頑張って、ある程度は適応した組織なのに、一時の思いで去ってしまえばその苦労は水の泡です。

もし今の居心地の悪さの原因が上司や同僚なら、異動希望を出すなどして原因になっている人から離れることで、会社を辞めずに解決できるかもしれません。

そもそも転職をして環境を変えること自体も強いストレスです。もし、今よりも社風が合いそうな会社に転職できたとしても、またゼロから人間関係を構築しなければなりませんし、転職先がどんな会社なのか、本当のところは入ってみなければわかりません。新しい会社に適応できるかどうかもひとつの賭けなのです。

もし、次の職場でも「ここの社風も合わなかった…」と転職を繰り返すようになってしまえば、ジョブホッパーへの道まっしぐらです。誤解から会社を辞めたことで、そんな結果を招いてしまったら、それは悔やんでも悔やみきれないことではないでしょうか。

2|会社の中に自分と合う人がいないか

特定の誰かが原因ではなく、本当に社風が合わないために居心地の悪さを感じている場合、次に考えてほしいのは、本当に会社の中に自分と合う人がいないのかということです。

私は人事コンサルタントとしてさまざまな会社の組織分析を行い、「この会社はどんなパーソナリティの人たちから構成されているのか」ということを日々調べています。それでわかったのは、たいていの会社にはいろいろな人がいて、正反対とも言えるような性格の人たちが並存している場合もめずらしくないということです。

そう考えると、会社の中で同じように居心地の悪さを感じている人はいるはずです。そういう人を探してみてはどうでしょうか。

たとえば、「少々強引なやり方でも、とにかく売って利益を上げるんだ」という肉食系の人たちの中で居心地の悪さを感じているのなら、自分と同じような違和感を持っている草食系の人たちを探してみればいいと思います。

もしかしたら会社の中では草食系は少数派のパーソナリティかもしれません。ですが、たとえ少数派だったとしても仲間はいます。今までは一人で悩んでいたとしても、共感してくれる人が見つかれば、「もう辞めるしかない」と思い詰める以外の選択肢を探そうという気力も出てくるはずです。

3|なぜ社風に合わない自分が採用されたのか

3つ目に考えてほしいのは、なぜ社風に合わない自分が採用されたのかということです。

居心地の悪さに共感してくれる人が見つかって、愚痴を言い合って慰め合うことができれば短期的には気が紛れても、結局は「自分が多数派になる会社に行きたい」と思い続けることでしょう。

しかし、ここでも考えてみてほしいのです。「なぜ会社は社風に合わない自分たちを採用したのか」ということを。

会社というものは人々が思っているよりも合理的なものです。そうでなければ競争に負けて滅びてしまうからです。ですから、あなたを採用しているのにも理由があるはずです。

もちろん、運悪くミスマッチな会社に入ってしまったという可能性もあります。ですが、私の経験から言えるのは、会社には「絶対に欲しい重要な人材だけど、たくさん採用するのは難しい人材」が存在するということです。たとえば「将来の幹部候補」や「貴重な技術を身につけたスペシャリスト」「異能の変革人材」などです。

もしかしたら、あなたが「必要だけど採用が難しい人材」だからこそ、「少しくらい社風に合わなくても採用したい」と会社は考えたのかもしれません。だとしたら、本当に辞めてしまっていいのか考え直す必要があるのではないでしょうか。

今の会社に採用されたのはラッキーかもしれない

もうひとつ私が言えるのは、あなたが「必要だけど採用が難しい人材」と評価されていた場合、今の会社に採用されたのはラッキーなことかもしれないということです。

「必要だけど採用が難しい人材」であるということは、ライバルが少ないということです。組織は上に行くほどポストが少なくなっていきます。たとえば人事部という組織の中で、課長は課の数だけ存在しますが、人事部長は一人しかなれません。

ライバルが多ければ一番になるためには多大な努力が必要ですが、ライバルが少なければ相対的に少ない努力で一番になれるかもしれません。

たとえば私は所属した会社の中で人事部長や採用責任者といったポジションに就くことができましたが、それは人事というライバルが少ない職種を歩んできたからではないかと思います。

私が「必要だけどなかなか見つからない人材」と評価されたのかどうかはわかりません。ですが、もし営業部など多くの猛者が揃った部署に配属されていたら、その中で抜きん出た存在になることなどできなかったことでしょう。

「それでも合わない」なら転職してもいい

まとめますと、「社風が合わない」と転職するのはアリですが、それでも実際に転職を決める前に考えるべきことがあるということです。

ここでお伝えしたことを考えた上で、「それでもこの会社とは合わない」と思うのであれば、悶々としながら働くのではなく新天地を探してみるのもアリでしょう。

とはいえ、くれぐれも転職は慎重に考えてからにすることをおすすめします。

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この記事の執筆者

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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