スキルだけでは足りない? 転職で年収アップする人がやっていること
転職を考える人の多くが「年収」を転職理由としてあげています。とはいえ、転職したすべての人の年収が上がるわけではありません。
転職して年収が上がる人はそうでない人と何が違うのでしょうか。これまで5000人以上のキャリア相談を受けてきた転職エージェントの山田実希憲さんに聞きました。
転職しても65%の人は年収が上がらない
山田:転職サイトなどが発表している「転職理由のランキング」を見ると、毎回「年収が低い」「昇給しない」といった理由が上位に入っています。それだけ転職する人の多くが「年収アップ」を目的にしているわけですが、どれくらいの人が年収アップに成功しているかご存じでしょうか。
厚生労働省の「令和3年上半期雇用動向調査」によれば、令和3年1月〜6月に転職した人のうち、賃金が増加した人は全体の34.2%。一方、賃金が変わらないと回答した人は28.2%、減少したと答えた人は36.6%でした。つまり、65%以上が転職しても年収が上がらなかったのです。
ただし、転職のタイミングによっては転職後の最初のボーナスが満額支払われなかったり、そもそも支給されなかったりするケースがあるので、それが転職後の年収を引き下げている一因になっていることは十分考えられます。
山田:とはいえ、これまで転職エージェントとして転職市場を見てきた私の実感としては、やはり転職で年収を上げられる人のほうが少ないと言わざるを得ません。
企業も本音ではできるだけ安く人を採用したいと考えているので、年収を上げてまで採用したいと判断するにはそれなりの理由が必要です。
転職する側も年収に対する不満だけでなく、社風や人間関係の問題、労働時間や評価への不満など複合的な理由で退職を決めるのが一般的です。そう考えると、現職へのさまざまな不満から年収を下げてでも転職したい事情を持った人が多いのだと思います。
企業の期待値が高ければ年収は上がる
山田:半数以上の人が転職で年収を上げることができない中、転職で年収が上がるのはどんな人なのでしょうか。まずは転職後の年収はどのように決まるのかというところからお話したいと思います。
転職先での年収は「前職でいくらもらっていたのか」、つまり直前の年収をベースに自社の給与水準と照らし合わせながら、その人を採用した場合に「どれくらい貢献してくれそうか」という期待値を加味して決定するのが一般的です。
山田:ですから、転職で年収アップを実現するには、採用側である企業に「高い給与を払ってでも採用したい人材だ」と評価されなければなりません。言い換えれば、「この人なら求めていた以上の貢献をしてくれるはず」という高い期待値を抱かせることができる人だけが転職で年収アップを実現できるのです。
転職で年収アップする人がやっていること2つ
山田:高い期待値をもってもらうには、仕事上の実績をアピールするだけでは足りません。必要なのは自分の貢献価値を言語化すること。つまり、「自分にはどんなスキル・能力があって何ができるのか、それによって会社にどのように貢献できるのか」ということを明確に伝えなければならないのです。
そのためには、当然これまでやってきた仕事を棚卸しして、自分のスキルと成功パターンを体系化しておくことが必要です。自分が持っているポータブルスキル、つまり会社や仕事内容が変わっても活かせるスキルや能力がどんなものなのか、自分の言葉で具体的に語れるようにしておきましょう。
山田:ただし、ここで注意してほしいのは「自分ができること」を一方的に伝えるだけでは足りないということです。高い期待値を抱いてもらうためには、企業のニーズに応える形で自分の貢献価値を伝えることが重要で、具体的には次の2つの点を満たす必要があります。
〈転職で年収アップする人がやっていること2つ〉
- その企業が今どんな課題を抱えていてどのような人材を求めているか、ニーズを把握すること
- 企業側の課題やニーズに対して、自分のスキルや能力をもってどのように貢献できるかを明確に伝えること
山田:この「自分の貢献価値を伝える」ということについて、私がいつもキャリア相談の場で求職者の方にお伝えしているのは「説明責任は自分の側にある」ということです。
なぜなら、面接官は応募者の普段の仕事ぶりを知りません。つまり、応募者について何も知らないに等しいのです。ですから、履歴書や職務経歴書では伝えられない自分の貢献価値をきちんと言語化して伝えることができなければ、面接官に評価してもらうことはできませんし、当然、高い期待値を抱いてもらうこともできません。
それに、そもそも面接で「あなたの貢献価値を教えてください」と質問されることはまずありません。自分がどんな貢献価値を持っているかは質問されなくても自分から伝えるべき重要なことですから、その意味でも説明責任は自分にあると考えておくべきなのです。
山田:応募先の企業が抱えている課題や求めている人材像については、企業情報や求人票からある程度は推測できる場合もありますし、その求人を紹介してくれた転職エージェントに質問すれば、可能な範囲で答えてくれるはずです。
もちろん、面接の場で「仮に採用された場合、どのような業務に就くことになりますか」とか「今回の中途採用募集にはどのような背景があるのでしょうか」などと質問して、その答えに応じて自分の貢献価値をアピールしてもいいと思います。
いずれにしろ、面接に臨む前に自分の貢献価値をどのように伝えればいいか考え、準備しておくことをおすすめします。
年収が上がる転職の4つのパターン
山田:ここで年収アップが実現できる転職パターンについて考えてみましょう。
企業にはそれぞれ給与制度があり、ポジションや年齢、等級などに応じて給与額が決められています。また、業界ごとにだいたいの給与水準は決まっているので、企業規模や収益性によって多少の違いはあっても同じ業界内の企業であれば給与額にそれほど大きな差はないのが一般的です。
そのため、同業界・同業種でポジションもほぼ同じという横滑りの転職の場合、残念ながら大幅な年収アップは期待できないのが現実です。ですから、大幅な年収アップを目的とするなら、別業界への転職も当然視野に入ってきます。
年収がアップする転職にはいくつかパターンがありますが、ここでは次の4つのパターンをご紹介します。
〈年収が上がる転職の4つのパターン〉
- オンリーワン採用
- リーダー候補として採用
- 給与水準の高い業界を選ぶ
- 成長が見込まれる業界を選ぶ
パターン1|オンリーワン採用
山田:これは、その会社でオンリーワンの存在として採用されるケースです。
たとえば、ある会社が新規事業を立ち上げる際、社内にその事業を経験したことのある人がいなかった場合、社内の未経験人材が担当するよりも、その事業の経験と知見がある人材を外から採用したほうが効率的ですし、成功確率も高くなると考えられます。
このように、その会社に同じ経験を持った人がいないオンリーワン採用は、企業が必要な人材を獲得するための採用なので年収アップが期待できます。採用側にとっては、その人材の経験が必要なので、多少コストがかさんでも採用したいという意識が働くからです。
パターン2|リーダー候補として採用
山田:転職時は役職が付かなくても、リーダーや役職者になる可能性が高いと見込まれての転職は年収が上がっていく可能性が高いと言えます。
たとえば、まだ人材が十分に育っていない新設部署や、そもそもマネジメントできる人が少ないベンチャー企業などに、リーダー候補として転職するようなケースです。
山田:近年では、チームのマネジメントや若手の育成などに携わるだけでなく、自らプレーヤーとして成果を上げることも求められるプレイングマネージャーとしての役割を求められるケースが増えています。
リーダーやマネージャーになれば、プレーヤーとしての業務に加え、役職としてより多くの職務と責任を負うことになるため、給与は上がる傾向にあります。
パターン3|給与水準の高い業界を選ぶ
山田:給与水準の高い業界に転職することで、年収アップを実現できる可能性が高まります。
前述した通り、給与水準は業界ごとにだいたいの相場が決まっています。そのため、年収をアップさせるには給与水準の高い業界に転職するのが近道です。給与水準の高い業界の特徴を一言で言えば利益率が高い業界です。具体的には、コンサルティングや総合商社、金融・保険業などがあげられます。
山田:20代であれば、これまでの経験や実績をアピールできるのと同時に柔軟性があってキャッチアップが早いと期待されるので、業界を超えた転職も実現しやすいと言えます。
30代以降であれば、自分がどのようなポータブルスキルを持っているのか、そのスキルをもとに未経験の業界でどのように貢献できるのかを伝えることが必須です。
パターン4|成長が見込まれる業界や会社を選ぶ
山田:これから成長していく業界、今まさに伸び盛りの業界に転職することで年収アップの道が拓ける可能性が高まります。
時代の流れにあったプロダクトやサービスを開発しているなど、今後の成長が見込まれる業界であれば、現在は給与水準がそれほど高くなくても、業界・会社の成長と共に年収が上がる確率が高いと言えるでしょう。成長して売り上げや利益が伸びれば、その分、人件費を手厚くできるからです。
たとえば、IT業界や電子部品など、今後の成長が見込まれる業界は採用意欲も活発ですし、投資資金も集まってくるので、給与水準が高くなる傾向にあります。
年収が上がる転職を実現するために
山田:転職が年収アップを実現するための手段のひとつであることは間違いありません。
ただし、とにかく今よりも高い年収を取りに行くことだけを目的にすることや、給与水準の高い会社に入れば安泰だと考えて転職することは決しておすすめできません。なぜなら、仕事で成果を上げることこそが年収を上げていくための最大のポイントだからです。
山田:今の仕事がうまくいって成果を上げている状態で転職するのと、あまりうまくいっていない状態で転職するのとでは、当然、前者のほうが圧倒的に年収アップを実現しやすいはずです。
これは、サッカーなどプロスポーツ選手の移籍をイメージするとわかりやすいと思います。プロスポーツの選手が最も高額の移籍オファーを受けるのは高いパフォーマンスを残した時です。そして、これはビジネスも同じで、自分を高く売る、つまり転職で高い年収を提示してもらうためには、それだけのパフォーマンスを発揮することが必要なのです。
逆説的かもしれませんが、転職で年収アップを実現したいのであれば転職を考える前にまずは目の前の仕事に全力で取り組むことです。そして、一つの仕事をやりきったという経験を積み重ねていくこと。それが年収が上がる転職への近道と言えるでしょう。
取材・文/盛田栄一
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この記事の話を聞いた人
転職エージェント
山田実希憲
Gemini Career(GEMINI Strategy Group)代表取締役CEO
1979年生まれ。法政大学卒業後、リフォーム会社を経て人材紹介会社であるJAC Recruitmentに転職。現在はジェミニキャリア(ジェミニストラテジーグループ)で経営、組織、採用に関するコンサルティング、個人の人生経営・キャリア支援を提供。累計5000名を超えるビジネスパーソンの転職相談を受ける。著書に『年収が上がる転職 下がる転職』(すばる舎)、『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(ぱる出版)がある。