3つの質問で確かめる 「本当にやりたいこと」の見つけ方

転職やキャリアについて考える際に必ず問われるのが、「やりたいことは何?」ということ。でも、「本当にやりたいこと」を見つけている人はどれくらいいるのでしょうか。

どうすれば「やりたいこと」が見つかるのか、企業の採用責任者として2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ・曽和利光さん本当にやりたいこと」の見つけ方を聞きました。

20代のうちは「やりたいこと」がなくてもいい

曽和利光さん(以下、曽和):これまで多くのキャリア相談を受けてきて感じるのは、非常に多くの人が「やりたいことがわからない」という悩みを抱えているということです。

やりたいことを仕事にする」のがいいことだという風潮がありますし、キャリアや仕事の話になると当然のように「何がやりたいの?」と聞かれるので、多くの人が「やりたいことを見つけなければいけない」と考えるのは自然なことでしょう。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

曽和:ですが、私の肌感覚で言えば20代のうちに「本気でやりたいこと」を見つけている人は全体の1〜2割ほど。ただ、私はそれでいいと思っています。むしろ、20代から30代前半くらいまでは「明確なやりたいことなんてなくていい」というのが私の考えなのです。

「やりたいこと」は作るものではない

曽和:誤解のないように言っておくと、「やりたいことはないほうがいい」というわけではありません。仕事における理想は「やりたいことができる」ことですし、それによってモチベーション高く働けるほうがいいのは間違いありません。

曽和:では、なぜ若手のうちはやりたいことがなくてもいいと言えるのか、その理由は大きく2つあります。

理由1|「やりたいこと」は作るものではない

一つ目の理由は、「やりたいこと」は作るものではないということです。

「やりたいこと」は「好き」という気持ちと同じで自然と湧き上がってくるもの。「好き」とか「やりたい」という気持ちは、「これを好きになろう」とか「これをやりたいということにしよう」と決めて作るものではありません。ですから、今「やりたいこと」がないからといって、焦って無理に作る必要はないのです。

むしろそれをやってしまうと、「やりたいことの捏造(ねつぞう)」になってしまいます。詳しくは後述しますが、「やりたいことの捏造」にはマイナスしかありません。

理由2|「たまたま始めたこと」が「やりたいこと」になる

2つ目の理由は、「たまたま始めたこと」が「やりたいこと」につながるということです。

これまで2万人以上と面接した私の経験から言えば、「やりたいこと」を見つけて良いキャリア(本人が満足しており、社会的にも評価されるキャリア)を築いている人のほとんどは、最初から「やりたいこと」が明確だったわけではありません

むしろ、最初から「やりたいこと」を仕事にしている人はごく少数で、それもデザイナーやコピーライター、技術者といった非常に専門性の高い分野の人たちに限られていると言っていいでしょう。

曽和:そうした一部の人たちを除けば、「やりたいこと」を見つけて良いキャリアを切り拓くことができる人の共通点は「やりたいことにこだわらない」こと。「これは自分のやりたいことなのか?」などと必要以上に悩まず、目の前の「たまたま与えられた仕事」に真剣に取り組むことができる人たちです。

そうして目の前の仕事を一生懸命やっているうちに成果が出るようになり、周囲から評価されたり感謝されたりすることでやりがいが生まれ、仕事が楽しくなることで「たまたま与えられた仕事」が「やりたいこと」になっていくのです。

「捏造されたやりたいこと」は簡単に折れてしまう

曽和:一方、真面目で前向きであるが故に「やりたいことを見つけなければ…」という強迫観念に駆られ、自分でも気づかないうちに「やりたいこと」を捏造してしまう人もいます。

ほとんどの人は就活のタイミングで初めて「どんな仕事に就きたいのか」「自分は何がやりたいのか」と考えるはず。

そのため、イメージのいい優良企業や人気職種への憧れから志望企業や志望職種を選び、そこに「人の役に立てる仕事だから」「環境負荷に配慮した企業だから」というもっともらしい理由を添えて、それが自分の「やりたいこと」だと思い込もうとしてしまうのは、しかたないことかもしれません。

ですが、そのようにして作った「やりたいこと」は表面的なもので、自分の内側から自然と湧き上がったものとは言えません。むしろ「捏造されたやりたいこと」と言うべきでしょう。

曽和:もし心の底から本当にやりたいと思っていることなら、仕事で困難な局面に直面したときでも「この仕事ができるなら…」と最後まで力を発揮できるはず。

ですが、「捏造されたやりたいこと」は会社で何か嫌なことがあったり、仕事で大変なことがあったりすれば簡単に折れてしまうでしょう。その結果、「自分のやりたいことじゃなかった」と会社を辞めてしまうことにもなりかねません。

中には、半ば自己洗脳のように「捏造されたやりたいこと」を自分が本当にやりたいことだと思い込んでしまい、「これ以外の仕事はやりたくない」「自分はこの仕事以外では力を発揮できない」と頑なになってしまう人もいます。

曽和:ですが、「配属ガチャ」という言葉があるように、希望する会社に入ったとしても自分のやりたいことができるとは限りません。それなのに「捏造されたやりたいこと」にこだわり、「ここではやりたい仕事ができない」とやる気を失ったり、早期退職したりすれば、自分から良いキャリアを遠ざけてしまうことになります。

「やりたいこと」が本物か見極める3つの質問

曽和:では、自分の「やりたいこと」が捏造されたものかどうかを見極めるにはどうすればいいのでしょうか。そのためには次の3つについて自問自答してみてください。

〈「やりたいこと」が本物か見極める3つの質問〉

  1.  「やりたいこと」が生まれたきっかけがあるか?
  2.  「やりたいこと」に対する知識や意見があるか?
  3.  具体的に行動に移していることがあるか?

質問1|「やりたいこと」が生まれたきっかけがあるか?

曽和:まず確かめてほしいのは、「やりたいこと」が生まれたきっかけについてです。

たとえば、強烈なインパクトを与えてくれた人との出会いや出来事など、それをやりたいと思うようになった原因やきっかけが、自分の生い立ちの中にあるかどうか自問自答してみましょう。

もし、そうした原因やきっかけが見つからないなら、それは「捏造されたやりたいこと」である可能性が高いと言えます。

質問2| 「やりたいこと」に対する知識や意見があるか?

曽和:次に、「やりたいこと」に対する知識や意見があるか考えてみましょう。

たとえば、本に関わる仕事がしたいのなら、好きな作家や作品について人より詳しい知識があったり、しっかりした意見を持っていたりするはずです。

質問3|具体的に行動に移していることがあるか?

曽和:3つ目は行動の裏付けです。「心の底から好きなこと」「やりたいこと」であれば何かしら行動に現れているはずです。

もし「本が好き」なら、1年間で1冊しか読まないということは考えられません。たとえば「年間200冊は読んでいる」などといった行動の裏付けがなければ、「心の底から好きなこと」「やりたいこと」とは言えないでしょう。

曽和:特に注意してほしいのが、社会的ニーズに惑わされて「やりたいこと」を捏造していないかということ。たとえば「事業を通してサステナブルな社会づくりに貢献したい」などと「こう言えば評価されるだろう」と考えて捏造した「やりたいこと」を自分がやりたいことだと思い込んでいるケースです。

そのような場合には、「なぜやりたいのか」と聞かれたときに「社会に求められているから」「ビジネスチャンスがあるから」と誰もが言えるような「理屈」で答えることしかできません。

「なぜやりたいのか」と聞かれたときに、自分の個人的体験などと紐づいた明確な理由が見つからず、誰もが言えるような「理屈」しか出てこないなら、それは「本当にやりたいこと」ではないと考えるべきでしょう。

「やりたいことはない」と開き直れば「やりたいこと」は見つかる

曽和:もし、自分が考えている「やりたいこと」が実は捏造されたものだと気づいたら、できるだけ早く捨ててしまうことをおすすめします。

そして、「今の自分にはやりたいことはない」と開き直ってしまえばいい。なぜなら、そのように開き直って目の前の仕事に向き合うことが、「やりたいこと」を見つけるための第一歩だからです。

人は他人や社会の役に立ちたいという自己実現・貢献欲求を持った生き物です。目の前の仕事に没頭しているうちに成果が出て、褒められたり感謝されたりすれば嬉しくなります。褒められて嬉しくなればやりがいが生まれ、「たまたま与えられた仕事」が「やりたいこと」になっていくのです。

「本当にやりたいこと」を見つけたいのなら、まずは「やりたいこと」へのこだわりを捨てて目の前の仕事の面白さを見出す努力をしてみてはいかがでしょうか。

取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17

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この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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