そろそろ転職?と思ったら プロに聞く「自分に合った仕事」の見つけ方
これといってやりたいことがあるわけではないけれど、「今の仕事は自分に合っていないのでは」「この会社で働き続けていいのか」と考えた経験がある人は少なくないはず。
そんなモヤモヤと向き合って、自分に合った仕事を見つけるにはどうすればいいのか、5000人超のキャリア相談を受けてきた転職支援のプロ・山田実希憲さんに聞きました。
20代のほとんどがモヤモヤしている
山田実希憲さん(以下、山田):私の肌感覚で言うと、20代のビジネスパーソンのほとんどは自分のキャリアや仕事に対して、何かしらモヤモヤしたものを感じていると思います。特にやりたいことはなくても、漠然と「会社を辞めたい」と思ったことのある人が大多数なのではないでしょうか。
20代半ばになれば、会社の同期や大学時代の友人の中から転職する人も出始めます。SNSを見れば、好きな仕事をして輝いている同年代の人を見つけることもあるでしょう。そんなとき、他人と自分を比較して「今のままでいいのか…」と焦りを感じてしまう人は少なくありません。
山田:他にも、上司や先輩の中に「こんなふうになりたい」と思える人がいない、このまま働いていても思ったように年収が上がらないといったことから「今の会社で働き続けていいの?」と不安を感じてしまう人や、仕事で思うように評価されない、仕事が面白いと思えないといったことから「今の仕事は向いていないのでは…」と悩んでしまう人もいます。
このように「今のままでいいのか」「転職したほうがいいのでは」と悩むのはごく自然なことで、ほとんどの人が一度は経験することなのです。
ただし、そのまま転職するのはNG
山田:とはいえ、私のところに転職相談に来る20代の人の話を聞いていると、少々心配になることがあります。それは、自分が感じているモヤモヤの原因を明らかにしないまま転職を考えてしまう人が多いからです。
もちろん、今の会社に対する違和感や不満があるわけですから、それを何とかしたいと考えるのは当然のことでしょう。ですが、自分が何に不満を感じているのかがわからなければ、何を目的にして転職すればいいのか、どんな条件で転職先を選べばいいのかといったことも明確になりません。
中には、漠然と「どこかに自分の理想の会社があるはず」と考えて、「転職エージェントに相談すれば自分にとっての理想の会社を見つけてもらえる」という幻想を抱いているように見える人もいます。
山田:そうした人に、なぜ転職したいのか尋ねると「仕事の幅を広げたい」「新しいことに挑戦したい」といった一見ポジティブな答えが出てきます。
ですが、さらに話を掘り下げて聞いてみると、「どんな会社で働きたいのか」「どんな仕事をしたいのか」という具体的なことは何も出てこないというケースが決して少なくありません。それでは、どんな会社を紹介できるのか、こちらとしても考えようがないのです。
ただし、転職そのものを目的にするのであれば、それを叶えることは可能でしょう。今は売り手市場ですし、20代は求人数も多いので、転職サイトなどで求人を見つけて応募すれば「今の会社ではないどこか」に行くことはできると思います。
ですが、先ほどもお伝えしたように、何を目的に転職するのか、つまり「転職で叶えたいこと」が明確になっていなければ、転職そのものはできたとしても、その転職が成功なのか、転職してよかったと言えるのか誰にも判断できません。
それどころか、転職先でもまた同じようなモヤモヤを抱えて「この会社も理想とは違った」と再び転職することになりかねないでしょう。
山田:厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、もし自分の中で明確に「これを叶えるために転職するんだ」と言い切れるものがないのなら、その状態のまま転職に踏み切るべきではないのです。
自分に合う仕事を見つけるためにやること3つ
山田:とはいえ、会社や仕事に対して違和感や不満を持つこと自体は、決して悪いことではありません。なぜなら、不満は自分自身と向き合い、良いキャリアを構築していくきっかけとなり得るからです。
不満を感じるということは、自分の価値観に合わない何かがあるということ。自分が抱えている不満と向き合って、「何に不満を感じているのか」「なぜ違和感を持ったのか」を掘り下げていけば、自分は本当は何を大切にしたいのか、どんな仕事をしたいのかといったことが見えてきます。つまり、不満の正体を見極めることがモヤモヤ解消の第一歩となるのです。
山田:モヤモヤの正体を見極めて、自分に合う仕事を見つけるためにやるべきことは3つあります。
〈自分に合う仕事を見つけるために〉
- 自分が感じている不満を吐き出す
- 自分の価値観を理解する
- 第三者のフィードバックを受ける
1|自分が感じている不満を吐き出す
山田:まず自分自身と向き合う時間を作って、自分が今の会社や仕事のどこに不満を感じているのか、なぜ会社を辞めたいと思ったのか、不満をすべて吐き出してみてください。
「仕事がつまらない」「忙しいのに給料が安い」「怒りっぽい上司が嫌い」「もっと早く帰りたい」など、どんな小さなことでもいいので、自分の気持ちを言語化してみましょう。ノートに書き出してもいいですし、家族や友人に話を聞いてもらってもいいと思います。
山田:大事なのは本音を吐き出すことです。「キャリアップしたいから」とか「もっと大きな仕事をしたい」とか、カッコつけた理由にする必要はありません。むしろ、そうすることで本当の自分の気持ちがわからなくなってしまうので、この段階でそういった建前の理由を口にするのはNGです。
2|自分の価値観を理解する
山田:2つ目にやるべきは、自分の価値観を理解することです。私がおすすめしているのは、これまでやってきた仕事を振り返ってキャリアの棚卸しをすること。「誰とどんな仕事をして、どのような結果を出したのか」という事実に加えて、その時の感情を書き出してみてください。
その時の感情を見つめ直すことで、自分がやりたくないことや嫌だと思うことはもちろん、自分はどんな仕事をしたいのか、仕事を通して何を得たいと思っているかといったことが見えてきます。
山田:たとえば評価に不満を感じている人でも、わかりやすく「高い報酬が欲しい」という人もいれば、「“ありがとう”と言われるだけで十分に満たされる」という人もいます。そのため、自分は仕事を通して何を得たいと考えているのか、それを確かめずに転職を決めてしまうと多くの場合は失敗します。
ひとつ典型的な例をあげるなら、会社のネームバリューや高い給料につられて転職先を選んでしまうケースです。高い給料に釣られた結果、「給料はいいけれど職場の雰囲気が最悪で毎日がつらい」「利益のためには強引なセールスも厭わない会社のやり方が合わない」といった悩みを抱えて、再び転職を考えるケースは少なくありません。
▼年収やネームバリューに惑わされると…
3|第三者のフィードバックを受ける
山田:やるべきことの3つ目は、第三者のフィードバックを受けることです。上の2つで考えたことを第三者に話してみましょう。「自分はこう感じている」「自分はこういう人間だと思う」ということでも、家族や友人といった第三者からは違う見え方をしていることは少なくありません。
また、不満を吐き出して、自分の価値観を探る際にも、家族や友人など第三者に話を聞いてもらうことは有効です。一人で自分と向き合うのは、とてもしんどい作業ですし、一人で答えにたどり着ける人ばかりではありません。
山田:一人では難しいと感じた場合は、誰かに相談してみましょう。人に話を聞いてもらってフィードバックを受けることで、気持ちや思考の整理ができることは少なくありません。転職エージェントの中にも親身になって考えてくれる人はいますし、最近では、有料のキャリア相談も増えているので、そうしたサービスを利用するのもいいと思います。
転職しなくても解決できないか考えてみよう
山田:これら3つのやるべきことを通して、自分が何に不満を感じているのか、自分はどうすれば満たされるのかがわかったら、まずは今の仕事で不満を解消するためにできることはないか考えてみましょう。
評価に不満があるなら上司とのコミュニケーションの取り方を変えてみる、残業が多くてつらいなら仕事の効率化を考えたり、業務量の調整ができないか周囲に相談したりしてもいいでしょう。
その上で、やはり自分の不満を解消するには転職するしかないという結論に至ったのであれば、前向きに転職を考えてみてはいかがでしょうか。
「やりがい」や「自分の強み」を見つけるには?
山田:最後にあえて厳しいことをお話しします。「適職」という言葉がありますが、私はこの言葉があまり好きではありません。なぜなら、今の仕事にモヤモヤを感じて「他に適職があるのでは?」と、まるで青い鳥を探すように簡単に転職を考える人が少なくないからです。
「適職なんてものは存在しない」と言いたいわけではありません。実際に「適職=自分に合う仕事」があるかといえば、その答えはYesだと思います。ただし、最初からまるでパズルのピースが噛み合うように、自分にカチッとハマるような仕事など存在しないと私は考えているのです。
どんな仕事でも結果が出て評価されたり、誰かに感謝されたりすれば、それが「やりがい」につながっていきます。同時に、その過程で「自分はこういう状況で力を発揮できるのか」「自分はこういう仕事だと頑張れる」と自分の強みや適性に気づいていくものです。
山田:つまり、適職というのは最初からそこにあるものではなく、自分の力で作っていくもの。適職を見つけるには、その仕事を「適職にしていく」ための努力が必要なのです。
もし「今の仕事が合わない」「つまらない」と思っているのなら、その仕事の面白さややりがいに気づけるほど打ち込んでみたかどうか振り返ってみてください。あるいは、「この仕事は自分に向いていない」と明確に言い切れるほど、適職にするための努力を重ねたのか自問自答してみてください。
繰り返しますが、適職を見つけるには、まず目の前の仕事に全力で取り組むことです。結果はどうであれ、「自分はこれだけやりきった」と胸を張って言えるような経験を持つことが、自分の適職を作り出し、キャリアを切り拓いていくことにつながるはずです。
取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17)
▼自分の「やりたいこと」を見つけてみる
▼夢中になれる仕事って?
▼辞めるのは逃げじゃない
この記事の話を聞いた人
転職エージェント
山田実希憲
Gemini Career(GEMINI Strategy Group)代表取締役CEO
1979年生まれ。法政大学卒業後、リフォーム会社を経て人材紹介会社であるJAC Recruitmentに転職。現在はジェミニキャリア(ジェミニストラテジーグループ)で経営、組織、採用に関するコンサルティング、個人の人生経営・キャリア支援を提供。累計5000名を超えるビジネスパーソンの転職相談を受ける。著書に『年収が上がる転職 下がる転職』(すばる舎)、『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(ぱる出版)がある。