スピーチトレーナーに聞く 面接官を不快にさせる「あるクセ」とは?
スピーチトレーナーの高津和彦先生によると、ある「クセ」のせいで、面接でマイナス評価を受けてしまう人が多いそうです。
それが何なのか、どうやって改善するのか、くわしく聞きました。
面接官を不快にさせてしまうクセとは?
――面接官を不快にさせてしまう「クセ」とは、一体何でしょうか?
高津:スバリ「まぁ」「あのぉ~」「え~っと」といった、いわゆるつなぎ言葉です。言語学の分野では「フィラー(filler)」とも言われていて、他にも「~といったところ」「私の中では~」など、さまざまな種類があります。
下記の文章は、面接で自己紹介を求められたときに、フィラーが出る一例です。途中から、これ以上聞いていられないような気持ちになってきませんか?
〈フィラーが多い自己紹介の例文〉
はい、ありがとうございます。え~、そうですね、はい、△△と申します。現在はですね、あのぉ~、株式会社△△という、まぁその、冷凍食品やお惣菜といったですね、こう、いわゆる加工食品みたいな部分というんですかね、そういった商品をメインにですね、あのぉ~、取り扱っている食品加工会社でですね、はい、営業職としてですかね、え~っと、だいたいそのぉ~、5年間くらいですかね、勤めていてですね、はい。そんな感じなんですけれども…
あっ、それで仕事内容みたいな部分としてはですね、まぁなんと言いますか、取引先のスーパーなどにですね、こう…新規商品のご提案みたいなことをさせていただいたりですね、あのぉ~、市場のトレンドについてまぁ、資料などをえ~、作成してみたりといったこととかですね、あとはそうですね、すみません、他にも売り場の運営業務のサポートだったり、
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(続く)
――たしかにダラダラ話している印象かもしれません…
高津:フィラー自体はあってもなくても変わらない無意味な言葉なので、フィラーを連発するほど、話す時間が伸びて相手をイライラさせてしまいます。
それだけではなく、こうしたフィラーの多い話し方は、面接官からすると自信がなさそうに見えるんですね。「言い訳がましい」「嘘をついているのでは?」とも感じられるでしょう。
――たしかに。
高津:面接はある意味、その人の「自信」を見る場です。面接官は募集しているポジションの仕事を問題なくやってくれる人を探しているわけですから、不安げな人をわざわざ採用しようとは思いませんよね。
例えば管理職候補の面接で「マネジメントのご経験はありますか?」と聞かれたときに「え~っと、そうですね、マネジメントということですよね、まぁはい、自分としてはですね、こう…はい、だいたい3年ほど前からですかね…まぁ、5人くらいのですね、そのぉ~…営業チームのですね、はい、マネジメントみたいなことはまぁ、やってきてはいるんですけれども…」などと答えたらどうでしょう?
本当に管理職が務まるのか、心配になっちゃいますよね。面接官としては「はい、(マネジメントの経験は)あります」と言って欲しいだけなのに(笑)。
まずは聞かれた通りに「あるかないか」だけを答えれば、面接官は「何年くらいあるのか」「何人のチームなのか」も続けて聞いてくるでしょう。詳細については、そのときに答えれば良いのです。
フィラーが出てしまう原因
――どうしてフィラーが出てしまうのでしょうか?
高津:面接でフィラーが多くなるのは「心理的圧迫が強い」からです。
面接というと「面接官に見られ、試され、合否を決められる場」という認識が一般的ですよね。面接官の立場が上で、受ける側の自分は下という上下関係を感じる人も多いでしょう。
上司と話すときに胃がキリキリするのと同じで、人は目上の人と話すときに、心理的圧迫が強くなります。いわば主導権を握られている、受け身の状態です。
すると途端に「上手に話さなきゃ」「変なこと言ってないかな」といった不安で頭がいっぱいになり、言葉が出てこなくなってしまうんですね。
――たしかに心当たりがあります。
高津:他にも、過去にうまく話せなかった失敗経験があると、それがトラウマになってしまう人もいます。実際は大した失敗じゃなくても、本人がそう思い込んでしまうと「また同じ失敗を繰り返してしまうんじゃないか」という思考回路になってしまうんですね。
その結果、心理的圧迫が強くなり、フィラーが出てきて遠回しな言い方になってしまいます。
フィラーをなくすためにできること
――明日の面接までにフィラーをなくす方法はありますか?
高津:残念ながら、ありません。フィラーが出る原因である心理的圧迫は、考え方の癖のようなものなので、一朝一夕で治せるものではないんですね。
「明日、一乗寺下り松の決闘だけれど、宮本武蔵に勝つ方法はありますか?(※)」などと言われても、98%不可能でしょう(笑)。
※一乗寺下り松の決闘…江戸時代初期の剣豪、宮本武蔵が吉岡一門数十人と戦い勝利したとされる伝説の決闘
本当にフィラーを改善したいのであれば、1か月程度の時間をかけてトレーニングをする必要があります。
でも残りの2%として、心理的圧迫を和らげるために、手始めにできることを3つ紹介しますね。
心理的圧迫が和らげば、フィラーが改善されることはもちろん、自信をもって生き生きと話すことができるようになりますよ。
改善策1:質問と同じ時間で回答する
高津:フィラーを出さないようにするには、面接官の質問文と同じくらいの時間で回答することを意識してみてください。「◯◯のご経験はありますか?」と5秒で聞かれたら、5秒で「はい、◯年あります」と答えるといった具合です。
面接はあくまでコミュニケーションの場なので、自分だけがダラダラと長く話すのは不自然ですよね。短いフレーズで雑談のように言葉のキャッチボールを行い、気付けば面接が終わっていた…といった状態が理想でしょう。
心理的圧迫が強い面接の場では「失礼にならないように丁寧に話さなきゃ」「誤解のないように正しく伝えなきゃ」という意識が大きくなり、ついつい言い訳がましく長々と話してしまいがちです。
でも、そのように事の始終を1回で伝えようとしなくても、本当は大丈夫なんです。家族や友人との雑談を思い出せばわかりますが、会話というものは双方の掛け合いによって成り立つものです。
わからないことや気になることは面接官が後から聞いてくれるので、まずは端的に答えることを心がけましょう。
改善策2:普段から思いをストレートに伝える
高津:フィラーを改善するには、普段の日常会話から思いをストレートに伝える意識も大切です。在職中の転職活動であれば、面接前にも当然働いているでしょうから、例えばオフィスで同僚から「ランチでもどう?」と聞かれたら、「ごめん、今忙しいから行けない」などと、自分の思いを端的に伝えるようにしてみましょう。
間違っても「ああ、ランチね…そうだな、本当は行きたい気持ちも山々なんだけれど、その、なんというか課長からついさっき、今日中に片付けなきゃいけない仕事を依頼されちゃって、それに実は今日、夜に予定があってあんまり遅く残れないこともあって…そうだな、だからちょっと、申し訳ないんだけれど、ランチを一緒に行くのは難しいかもしれない」などと答えない方が良いでしょう(笑)。
そもそも人とのコミュニケーションに苦手意識がある方は「嫌われたくない」「相手は自分より上位だ」といった心理的圧迫のせいで、どうしてもフィラーが出やすく、話も長くなってしまいがちです。
しかし、だからといってフィラーの多い話し方を続けたり、そもそも人と話すシチュエーションを避けたりしてしまうと、改善はやはり難しくなってしまいます。はじめは緊張するかもしれませんが、「なにくそ、負けるものか」くらいの強気な心で、どうかはじめの一歩を踏み出してみてください。
家族や友人との会話、職場での会議や美容院など、人と話すタイミングはたくさんあります。少しずつでもいいので、遠慮せず、自分の思いをストレートに伝える意識を持ってみましょう。
改善策3:暗記をしない
高津:面接で答える内容を暗記しないことも、フィラーを出さないためには有効です。
面接でうまく話せるか不安な方ほど、つい自己紹介や志望動機といった質問に対する回答をノートなどに書き出し、一言一句覚えようとしますね。
しかし、覚えることと忘れることは隣り合わせです。面接当日は緊張していますから、余計に忘れやすい状況でしょう。暗記できていたはずのことを忘れると、人はパニックになり、ますますフィラーが出やすくなります。沈黙しちゃうことだってあるでしょう。
また、暗記した内容を諳(そら)んじるとき、文の切れ目やイントネーションがどうしても不自然になるので、誰が聞いてもすぐに暗記してきたことがわかります。
面接官からすると付け焼き刃な印象になり、「この人が話していることは本当だろうか」という疑念につながってしまいます。
もちろん「何も準備するな」とは言いませんが、伝えたいポイントや話の流れだけを整理しておけば、むしろ面接でしどろもどろにならずに話すことができると思います。
例えば志望動機であれば、はじめに伝えたいワンフレーズと、そう断言するに至った背景や理由を2~3個箇条書きにしておく…程度にしましょう。
最後に:面接で怖がる必要はまったくない
――面接を控えている求職者の方に、ひとことアドバイスをお願いします。
高津:面接は本来、企業とあなたのマッチングの場であり、上下関係はありません。もちろん最低限のマナーは大切ですが、面接官に気を遣うあまりフィラーが出て、ダラダラと話してしまっては本末転倒です。
こう考えてみてください。あなたは書類審査に合格したからこそ、面接に呼ばれているわけです。すなわち経験やスキルは問題ないと評価してもらえているわけで、怖がる必要はないでしょう。
むしろ「しっかり私を見てください」「なんでも聞いてください」…そんな風に強気になってもまったくおかしくありません。
あなたが仕事で当たり前のようにやってきたことを、ただ聞かれた通りにシンプルに答えればいいんです。どうか自信をもって、面接を楽しんできてください。
(取材・文/金子龍介)
この記事の執筆者
スピーチトレーナー
高津 和彦(こうず かずひこ)
株式会社ベストスピーカー教育研究所 代表取締役
関西大学法学部卒業、カナダ・アルバータ州立カルガリー大学政治学科卒業。大手企業にて海外勤務に従事。日本テープ株式会社代表取締役を経て、DJ・キャスター・司会・通訳として活躍しつつ、ベストスピーカー・ベストプレゼン主任講師を兼任。2013年、株式会社ベストスピーカー教育研究所を設立し代表に就任。『スピーチや会話の「えーっと」がなくなる本』(フォレスト出版)他著書多数。