弁護士に聞く、間違いない対処法 「明日から来るな」は解雇宣告?

「明日から来るな」と上司から突然のクビ宣告? 本当にその一言で解雇は成立してしまうのでしょうか。

実際に明日から来るなと言われた場合に取るべき行動について、労働問題に詳しい鈴木悠太弁護士に解説していただきました。

仕事でミスをしてしまい、社長から長時間叱責されたあげく、最後には「明日から来るな」と言われました。

過去には同じように社長に叱責されて退職した社員がおり、本当にクビにされるのか不安です。社長の一言で会社は社員を解雇できるのでしょうか?

もし解雇が成立するのであれば、明日から給料はもらえなくなりますか? 今日付けで退職したことになるのでしょうか?

まずは「明日から来るな」の意味を確認する

鈴木悠太弁護士(以下、鈴木):「明日から来るな」という発言は非常に曖昧で、その解釈は状況によって変わります。そのため、まずは本当に解雇の意味合いで「明日から来るな」と言ったのかをはっきりさせる必要があります。

言葉通りに捉えると「労働者が何と言おうと明日から会社に来ることは許さない」、すなわち即日解雇の意思表示だと考えられそうです。

ただ、単に感情的になって言ってしまったという可能性も十分に考えられるので、自分で勝手に解雇されたと解釈して、出社を止めてしまうといったことは避けてください

後々「明日から来るななんて言っていない」「叱責しただけで本当に解雇したわけではない」などとはぐらかされて、欠勤扱いにされた日数分の給料が支払われなかったり、最悪の場合、無断欠勤を理由に懲戒解雇を言い渡されてしまったりする可能性があります。

鈴木:また、解雇が成立しているのかどうか曖昧なまま、別の会社に入社してしまうのもNGです。

健康保険や年金などの公的な手続きがスムーズに進まないだけでなく、どちらの会社に在籍しているのかが曖昧な期間の社会保険料などを前職と転職先のどちらが負担するかトラブルになる可能性もあります。

もし対面で会社の意思を確認することに抵抗がある場合は、メールで確認しても問題ありません。例えば「明日から来るなと言われたのですが、解雇されてしまったということでしょうか?」といった文面を送って会社の意思を確認してください。

解雇の事実やその理由が分かる証拠を残す

鈴木:会社に解雇の意思がない場合には、通常通り出勤すればいいでしょう。逆に、もし会社に解雇の意思があると明らかになった場合は、解雇通知書を提出してもらいましょう

法律上、解雇は口頭でも通知できますが、後々「解雇の通知があったかどうか」「会社に解雇の意思があったかどうか」をめぐってトラブルになる可能性もあります。

そのような事態を避けるためにも解雇通知書を受け取っておきましょう。仮に会社と裁判になった場合、解雇通知書は重要な証拠となります。

鈴木:また、解雇通知書に具体的な解雇理由が記載されていない場合には、別途具体的な解雇理由を記載した解雇理由証明書を発行してもらってください。

会社は労働者を解雇する場合、その理由を説明しなければならず、かつ求められれば書面でも伝えなければならないと法律で決まっています。

詳しくは後述しますが、会社は従業員を簡単に解雇することはできず、解雇が成立するにはそれ相当の理由が必要です。解雇が不当なものであると証明するためにも、解雇理由を記載した解雇通知書や解雇理由証明書は重要な証拠となるのです。

繰り返しになりますが、「明日から来るな」と言われたら、まずはその発言が解雇通告を意味しているのか会社の意図を明らかにする必要があります。もし解雇通告ならば、その旨が書かれたメールや解雇通知書を証拠としてとっておくなど、記録を残すことが大切です。

労働者の解雇が有効になることは稀

鈴木:とはいっても、仕事でミスをした程度であれば、解雇の理由として認められることはまずないと言えるでしょう。

労働契約法第16条では解雇権濫用法理というものが決められており、そこでは「合理的な理由がないと解雇は認められない」と定められています。

実際に会社が有効に解雇を行うことはかなり難しく、例えば会社のお金を横領するなどの重大な罪を犯したような場合でない限り、一発で解雇にすることはできません。

例えば無断欠席や遅刻などの勤怠不良や仕事のミスなどは、注意したが改善されない、懲戒処分を行ったが反省の色が見られないといった「会社側が色んな手を打ったけどどうしようもできない」場合でないと解雇が有効だと認められないでしょう。

鈴木:もし、思い当たる節がないのに会社から解雇通告された場合には、弁護士などの専門家に相談の上、解雇を争うことをおすすめします。

解雇を争うといっても、必ずしも裁判を起こさなければならないわけではありません。まずは弁護士や個人で加入できる地域の労働組合などを介して、会社と交渉することをおすすめします。

とはいえ、会社から解雇通告を受けるのは尋常ではないことですし、解雇が撤回されたからといってその後の関係性が改善するとも思えません。そのため、実際には職場復帰はせずに、会社から一定の解決金を払ってもらい、合意退職をしたことにして和解する事例が多いです。

一概には言えませんが、具体的には給与の半年~1年間分を解決金として支払ってもらうケースが多く、そのお金を生活費に充ててゆっくりと転職活動を進めることもできるでしょう。交渉次第では次の会社が見つかるまで、退職時期をずらしてもらうことも可能です。

ちなみに、過去には私のもとに、社長から「転職先から前職照会があったらトラブルを起こして辞めたと伝える」と脅迫されている方から、相談が寄せられたこともあります。

ここまで悪質なケースは決して多くはないため、心配しすぎる必要はありません。ですが、もし心配であれば、交渉時に「不利益なことを第三者に言わない」「過去に在籍していた事実だけを伝え、あとは個人情報なので答えられないと回答する」と会社に約束させることもできるので、安心してください。

解雇で再就職が難しくなる可能性がある

鈴木:正当な理由がないまま解雇を受け入れてしまった場合、解雇予告手当はもらえますが職歴に傷がつくことになり、再就職が難しくなる可能性があります

※解雇予告手当:解雇を言い渡されてから解雇日までの日数が、30日に満たない場合に支払われる手当のこと。即日解雇の場合、会社は原則その日中に30日分の給与を支払う

自分から解雇されたことを伝える必要はありませんが、企業の中には、転職活動の際に離職票の提出を求めたり、退職事由について前職照会をしたりするところもあるため、解雇された事実を知られてしまうリスクはゼロではありません。

また、解雇が通知されてから解雇日まで間がある場合、自ら退職届を提出し、自主退職とすることもできます

ただ、解雇日までに再就職先が見つからず、無職となってしまった場合には、収入が途絶えたまま、もしくは失業給付だけで生活しなければならなくなるリスクがあることは知っておいてください。また、職歴にブランクが生じることで転職先が決まりづらくなる可能性もあります。

もし転職活動が上手くいかず「やっぱり解雇は無効だと認めさせたい」と思っても、自主退職した場合には解雇の事実すらなくなってしまい、争うことは難しくなります。不当な解雇であれば、自主退職は選ばずに早めに専門機関に相談して対応するのがベストです。

鈴木:ちなみに「明日から来るな」と誰が言ったのかは、その発言が会社からの解雇通告にあたるかどうか判断する一つのポイントになり、一定の権限を持つ人の発言でないと会社全体の意思表示として解釈されない可能性が高いです。

社長はもちろん、上司や管理職など、部下を指導するような立場にある人が言うのであれば、基本的にそれは会社としての発言だと判断されます。一方で、例えば同僚と喧嘩した際に言われたとしても、それは個人的な発言で、会社の意思を表していることにはならないでしょう。

もし社長や管理職から「明日から来るな」と言われた場合は、先に述べたとおり、まずはそれが本当に解雇の意味なのか、確認しましょう。その上で納得がいかない場合やトラブルになりそうな場合には、弁護士などの専門家に相談いただければと思います。

(文:転職Hacks編集部)

この記事の話を聞いた人

弁護士

鈴木悠太

旬報法律事務所

一橋大学卒業、一橋大学院法学研究科修了。人の人生に寄り添う仕事がしたいという思いから弁護士を志す。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、医療問題弁護団幹事などを歴任。年間100件近くの労働事件を扱う労働問題のプロフェッショナル。

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