今すぐできるあがり症対策 面接の緊張は「最初のひと言」でほぐせる!

 面接で緊張してしまい、うまく話せないことにもどかしさを感じる人は少なくないでしょう。そもそも人はどうして緊張するのでしょうか?何か対策はないのでしょうか?

あがり症に関する数多くのセミナーを開催されてきた桐生稔さんに、お話を伺いました。

面接で緊張するのはヒトの「生存本能」

――面接のことを考えるだけで緊張します。そもそも人はどうして緊張するのでしょうか?

桐生さん:緊張は、ヒトを含むすべての生物に備わっている生存本能です。

暗い森に入っていくときを想像してみてください。視界が真っ暗で前が見えないと、怖くて不安になり、自然と腰をかがめてファイティングポーズを取りますよね。身体は硬くなり、脈や呼吸も早くなって汗も出てくるはずです。リラックスしていたら獣に食べられてしまいますから(笑)

面接もこれと同じで、初めて行く会社で初めて会う面接官と話すという、いわば「見えないもの=不確定要素」が多い状況です。

暗い森の中でいつ獣が襲ってくるかわからないように、どんな部屋に案内され、どんな面接官が現れるのかは想定できません。さらに言えば、どんなことを聞かれるのか、聞かれたことにきちんと答えられるかもわかりません。自分ではマネジメントできない要素が多くあるんですね。

ヒトはこうした不確定要素が多い状況になると、緊急事態に備えて戦闘モードになる、つまり緊張が始まります。

でもその生体反応のメカニズムがあったからこそ、人類は淘汰されずに今日まで生き長らえています。緊張は心地良いものではありませんが、生物として当たり前のことだと理解しておきましょう

面接の緊張は「最初のひと言」でほぐせる

――緊張するのは仕方ないにせよ、どうにか緊張をほぐす方法はないのでしょうか?

桐生さん:緊張をほぐすためにはズバリ、「最初のひと言」を意識しましょう。自分から何か話し始めるとき、あるいは相手から聞かれたことに答えるとき、ひと言目で何を言うかによって、緊張をコントロールすることができます。

例えば誰かと会ったときの挨拶ですが、緊張しない「最初のひと言」は「はようございます」「疲れ様です」になります。最初の「お」が抜けていますね。「お」や「あ」といった母音は発声するときにお腹に力を入れる必要があり、緊張している状態では出しにくい音です。

無理に正しく言おうとすると「お、お、おはようございます」などとなってしまい、うまく言えなかったことで余計に緊張が高まってしまいます。

よって、緊張しているときは「お」や「あ」を抜いて発音してしまっても大丈夫です。たとえ最初の母音を抜いたとしても、意図はきちんと伝わります。出だしの挨拶がスムーズに言えれば、その後の会話も気が楽になりますよね。

――どうして「最初のひと言」が大切なのでしょうか?

桐生さん「実行性=実現可能性」が高いからです。緊張しない方法や緊張をほぐす方法はこれまでもたくさんありましたが、どれも「自信を持ちましょう」「失敗を恐れずに」といった具体性に欠けるものが多かったんです。理屈としてはわかっても「はい、緊張しなくなりました」とはならないわけで(笑)。

こであえて「最初のひと言」に絞ってアプローチすることで、すぐに具体的な行動を起こせるようにしたのがこのメソッドです。

「最初のひと言」メソッドでは、文字通り話し始めの一言だけではなく、身体の動かし方や呼吸法もあわせてご紹介しています。話す言葉だけではなく、身体の使い方すべてが緊張に関わっているからです。それらはみな「すぐに実践できる」という点で共通しています。

考え方や行動すべてをいきなり変えることはできなくても、話し始めの一言目やちょっとした動き出しくらいなら、なんとか頑張れそうじゃないですか?

【場面別】面接の緊張をほぐす「最初のひと言」集

ここからは、面接前から面接当日の場面別に、緊張をほぐすための具体的な「最初のひと言」を紹介していきます。

面接前日まで

桐生さん:面接前はまだ面接官と会っていないので、「最初のひと言」ではなく「想定外を想定内にしておく」ことがポイントです。緊張の原因となる不確定要素の解像度を、できる限り上げておくということです。

例えば「箱の中身は何だろなゲーム」をするとき、手を入れるまではヒントが何もないので当然緊張します。でも「こんにゃくかタワシが入っている」という事前情報があれば、多少緊張がほぐれる気がしませんか?(笑)

それと同じで、面接当日に緊張しないようにするためには、想定外を想定内にできるまで準備を徹底することが大切です。今はインターネットで調べれば面接の体験談を読むこともできますし、面接官になるであろう社長や役員がSNSをしていることもあります。面接のトレーニング講座を受けるのも良いですね。

そうした情報を事前に仕入れておくと、応募先企業の解像度がどんどん上がっていき、次第に緊張がほぐれていきますよ。

面接前日までの、緊張しない「最初のひと言」:想定外を想定内にしておく

面接当日:会場に向かうまで

桐生さん:面接の当日、会場に向かうまでにできることとしては「動作をゆっくりにする」というものがあります。  

人は緊張すると脈が速くなり、呼吸も早くなることで焦って早口になります。そうすると面接でもうまく話せず、ますます緊張してしまいます。でも、だからといって「落ち着こう」と念じるだけで早口が治れば、苦労しませんよね。

そこで大切なのが「動作をゆっくりにする」ことです。話すスピードは手足などの動作に連動しているため、まずはコントロールしやすい手足の動作をゆっくりにすることで、強制的に落ち着いた話し方ができるようになります。

ためしに自宅から駅まで向かうまで、さらに電車を降りてから会場に向かうまで、早歩きではなくゆっくり歩くようにしてみましょう。エレベーターもそそくさと乗り込まず、むしろ「どうぞ」だなんて譲るくらいでいいかもしれません(笑)

気付けば自然と呼吸がゆっくりになり、緊張もほぐれて落ち着いた話し方ができるようになっているはずです。ゆっくり歩くためにも、時間には余裕を持って出発するようにしましょう

もし到着が早すぎたときは、会場であるオフィスビルの周りを散歩してみるのもいいかもしれません。そうすると「こんな看板が出ている」などと、応募先企業の情報を何かしら仕入れることができます。それが面接で話すネタにつながることもありますし、応募先企業の解像度をさらに上げる=緊張をほぐすことにもつながりますからね。

面接当日:会場に向かうまでの、緊張しない「最初のひと言」:動作をゆっくりにする

面接当日:待機中

桐生さん:面接当日、受付を済ませて待機しているときは「息を吐き切ってから、さらに3秒吐く」ことで緊張をほぐすことができます。

緊張すると呼吸が早くなりますから、それを落ち着けるためには深呼吸が有効です。ただ、実際に正しい深呼吸をできている人は多くありません。

例えば山で「ヤッホー」と叫ぶとき、息を吸い込みますよね。しかし大抵の場合、横隔膜を使わない胸式呼吸になっていて、きちんと息を吸えていません。

息をたくさん吸うためには、横隔膜を上下させて腹式呼吸をする必要があります。そのためには息を吐き切ったところから、さらにダメ押しで3秒くらい息を吐き出すことがポイントです。もう限界だと思っても、案外まだ息を吐けるものです(笑)

こうして呼吸を整えることで、徐々に緊張がほぐれてくるかと思います。

面接当日:待機中の、緊張しない「最初のひと言」:息を吐き切ってから、さらに3秒吐く

面接中:はじめの挨拶や自己紹介をするとき

桐生さん:いざ面接官が入室して挨拶をするとき、緊張をほぐす「最初のひと言」は「(名前)と申します。本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます」というものです。

単なる普通の挨拶に聞こえますが、大切なのは「句点や読点で文章を区切る」ことです。人は緊張しているときほど早口になり、畳み掛けるように話してしまいがちですが、それでは下り坂を走っている車と同じで、話すスピードはどんどん早くなってしまいます。

そうではなく、意識的に句点や読点というブレーキを踏むことで、強制的に話すスピードをゆっくりにしてみましょう。

また、はじめの挨拶や自己紹介には必ず「ありがとうございます」などの感謝の言葉を盛り込むのもポイントです。2020年にアメリカで行われた実験で、人は感謝の言葉を聞くほど、その言葉を発した人を支援したくなるという結果が出ているからです。

面接の場合、感謝の言葉を伝える相手はもちろん面接官ですが、その言葉を聞いた面接官はたとえ無意識でも、あなたを支援=応援したくなるはずです。そう思うと、なんだか緊張せずに話しやすく思えてきませんか?

面接中:はじめの挨拶や自己紹介の、緊張しない「最初のひと言」:「(名前)と申します。本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます」

面接中:想定外のことを聞かれた

桐生さん:面接官に想定外のことを聞かれたときは「ありがとうございます。ご質問の意図としては、◯◯ということでよろしいでしょうか?」が、緊張をほぐす「最初のひと言」です。

ここで意識したいのは「感謝・確認・回答」の「3Kです。想定外のことを聞かれたときは、回答を考え組み立てる時間が必要です。よって、焦って思いつきのことを口走ったり、黙ったままうつむいてしまうのではなく、まずは質問してもらったことに対する感謝の言葉を伝えます。その上で質問を繰り返し、その意図を確認しましょう。

この感謝と確認をしている間に、考える時間が生まれます。そして最後に落ち着いて、回答を述べるわけです。

また、回答に自信がないときは、話し終えたあとに「こういった回答であってますでしょうか?」などと質問で返すのもおすすめです。そうすることで、質問された面接官は何かしら答えなくてはいけないので、会話のラリーが生まれます。このラリーによってさらに考える時間を確保し、回答を軌道修正することもできるでしょう。

面接中:想定外のことを聞かれたときの、緊張しない「最初のひと言」:「ありがとうございます。ご質問の意図としては、◯◯ということでよろしいでしょうか?」

面接中:言いづらいことを聞かれた

桐生さん:退職理由など、本音では言いづらいことを聞かれた際には「こんなことを言うべきではないかもしれませんが…」といった「最初のひと言」が有効です。

これは心理学でよく登場する「プリフレーム」といって、本題を伝える前に添える前置きのフレーズです。例えば退職理由を聞かれたとき、焦っていきなり「上司との人間関係が悪かったので」などと直球で伝えたら、面接官も戸惑ってしまいますよね。面接官の微妙な反応を見て、自分もさらに緊張してしまいます。

そうではなく、前置きのひと言を添えるだけで、面接官は聞くための心の準備ができるわけです。面接官もこうした心遣いを感じ取って「正直に話してくれた」などとポジティブに捉えてくれるでしょう。

プリフレームによって話を聞く相手の気持ちに寄り添うことで、そこに信頼関係が生まれます。良好な関係性が前提になっていれば、自分も緊張せずに話しやすくなるというわけです。

面接中:言いづらいことを聞かれたときの、緊張しない「最初のひと言」:「こんなことを言うべきではないかもしれませんが…」

面接中:用意していた内容が飛んでしまった

桐生さん:用意していた内容が緊張で飛んでしまったときは「繰り返す」のが「最初のひと言」になります。

例えば伝えたい3つのポイントがあって、その3つ目を忘れてしまったときは「1点目は◯◯、2点目は△△です」と言った後に「まずそちらの2点について詳しくお伝えすると、1点目については◯◯ということで、2点目は△△ということです」といった具合ですね。

こうすることで、3点目を思い出したり気持ちを落ち着けたりする時間を確保するわけです。言ったことを繰り返しているうちに思い出したら「そして3点目ですが~」などと話を続けます。

それでも思い出せないようだったら、素直に「3点目については申し訳ございません、忘れてしまいました。思い出したらまたお伝えいたします」などと謝って話題を終わらせる勇気も必要です。

面接官からしたら沈黙が続く方が困ってしまいますよね。「この無言の時間はなんだろう?」「何か失礼なことを聞いたかな?」などとモヤモヤしてしまい、決して良い評価にはつながりません。そうした印象を持たれてしまうくらいなら、忘れてしまったことを正直に伝えた方が得策でしょう。

面接中:用意していた内容が飛んでしまったときの、緊張しない「最初のひと言」:繰り返す

面接中:聞き返されてしまった

桐生さん:一生懸命伝えたのに「…どういうことですか?よくわかりません」などと面接官から聞き返されてしまったときは「わかりづらくて申し訳ございません」といった「最初のひと言」で緊張をほぐしましょう。

これは初頭効果といって、人ははじめに言われたことが強く印象に残るというものです。面接官から聞き返されたとき、悔しいですが伝わらなかったことは事実です。でもそこで慌ててしまうのではなく、まずは謝罪をすることで、面接官に「きちんと謝罪し、真摯に向き合って丁寧に対応してくれた」という印象を持ってもらうことができるわけです。

謝罪を通して面接官がそう思ってくれているとわかれば、緊張せずに話すことができるのではないでしょうか。

さらに、謝罪のあとには先程ご説明した「3K」でいう、確認をはさんでもいいかもしれません。言いたいことが伝わらなかったということは、面接官の質問の意図を理解できていない可能性があります。それをもう一度確認し、考える時間を確保しながら落ち着いて再度回答すればいいわけです。

面接中:聞き返されてしまったときの、緊張しない「最初のひと言」:「わかりづらくて申し訳ございません」

もし面接が10秒しかなかったら…?

――最後に、面接を控える求職者の方に向けてメッセージをお願いします。

桐生さん:ここまで様々な「最初のひと言」を紹介しましたが、最後にもう一つだけ、面接前に考えて欲しいことがあります。それは「面接がもし10秒しかなかったら、何を伝えるか」ということです。

「絶対にこれだけは伝えたい」というポイントとも言えるでしょう。志望動機や自己PRなど何でも構いませんが、せいぜいワンフレーズが限界かと思います。

実はこのワンフレーズを考えることで、緊張が「緊張感」に変わります。人は緊張しているとき、あれこれと考えて意識が散漫になっています。「うまく話せなかったらどうしよう」「変に思われたらどうしよう」…そんな不安が次々出てきて、ますます緊張してしまう状態です。

一方「このワンフレーズは絶対に伝える」と決めると、それを伝えることに自然と意識が集中します。嫌でたまらなかった緊張が、気付けば良いパフォーマンスを生む「緊張感」に変わっているでしょう。失敗への不安や恐怖に意識が向かなくなり、代わりに「覚悟のオーラ」が生まれます。「とにかく自己ベストを更新する」ことに意識を向けている、スタート直前のアスリートと同じ状態です。

そうした「緊張感」が生まれれば、面接も切り抜けられるに違いありません。しっかり準備してきたみなさんなら、きっと大丈夫。応援しています。

この記事の話を聞いた人

株式会社モチベーション&コミュニケーション代表取締役

桐生 稔

日本能力開発推進協会メンタル心理カウンセラー/上級心理カウンセラー

全国で年間2,000回に「伝わる話し方」のセミナーや研修を開催するビジネススクールを運営。
著書に『雑談の一流、二流、三流』『説明の一流、二流、三流』(以上、明日香出版社)、『緊張しない「最初のひと言」大全』(Clover出版)など多数。

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