転職者の9割が知らない 内定ブルー解消で本当にやるべきこと3つ

「転職したい」と思っていたはずなのに、いざ内定が出ると「本当に転職していいの?」と不安になってしまう「転職の内定ブルー」。転職先についてよく調べておけば、そんな不安は解消できるはず、と思ったら…。

それだけではブルーは解消できません」と言うのは、これまでリクルートやライフネット生命で2万人以上と面接した人事と採用のプロ、曽和利光さん。「転職の内定ブルー」の正しい解消法を聞きました。

「転職の内定ブルー」は誰にでも起こる

曽和利光さん(以下、曽和):私の実感からお話しすると、転職活動を進めていたけれど、いざ内定が出たら「本当にこの会社でいいのか」「今の会社を辞めていいのか」と迷ってしまう、いわゆる「転職の内定ブルー」に悩む人は決して少なくありません。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

曽和:転職は人生に大きな影響を与えるものですから、決断する際に不安や迷いを感じるのはごく自然なこと。つまり、「転職の内定ブルー」は誰にでも起こり得るものなのです。

だからといって軽視していいわけではありません。そうした不安や迷いから目を背けたまま「とにかく転職できればいい」と走り出した結果、「やはり転職しなければよかった」と後悔することになれば、それほど不幸なことはないからです。

曽和:逆に、「本当に転職していいのか?」という漠然とした不安にとらわれて決断できず、せっかくのチャンスを逃してしまうのも残念なことです。

後悔しない転職を実現するために「転職の内定ブルー」とどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

「転職の内定ブルー」の正体は?

曽和:転職の内定ブルーに陥ったとき、ほとんどの人は、転職先の社風や職場の雰囲気など、できるだけ多くの情報を集めることで不安の種を解消しようと考えます。私の肌感覚では、9割の人はそう考えているのではないでしょうか。

もちろん、それは大事なことなのですが、実はそれだけでは転職の内定ブルーを解消することはできないのです。

そこで、まず考えていただきたいのは「転職の内定ブルーはなぜ起こるのか」「本当は何に不安を感じているのか」ということです。「転職の内定ブルー」の正体と言い換えてもいいでしょう。

みなさんの中には、就活時に内定ブルーを感じた方もいらっしゃると思いますが、就活での内定ブルーと比較してみると、「転職の内定ブルー」の正体が見えてくるかもしれません。

曽和:まず就活の場合ですが、希望の会社から内定をもらっていても、社会という未知の世界に飛び込むことへの不安から内定ブルーに陥ってしまう人が多くいます。

ですが、不安だからといって就職せずに、ずっと学生を続けるというのは非現実的な話です。もちろん、卒業しても就職しないという選択肢もありますが、多くの人にとっては、ほぼ強制的に就職という選択肢を選ばざるを得ないというのが現実ではないでしょうか。

一方、転職の場合はどうでしょう。転職しようと考えた何かしらの理由があったとはいえ、思いとどまって会社に残るという選択肢もあります。つまり、環境を変えるかどうかを決めるのは自分であり、その責任を負うのも自分というわけです。ここに「転職の内定ブルー」が起こる理由があると私は考えています。

今の会社が100%嫌いな人はいないはず

曽和:今の会社が100%嫌いで転職するという人はほとんどいないと思います。たとえば給料は安いけれど人間関係は良いといったように、不満を感じる一方で良さを感じるところもあるはず。中には、不満はありながらも、仕事と報酬を与えてくれた会社に恩義を感じている人もいることでしょう。

転職はトレードオフ(何かを得れば何かを失うこと)です。何かを得るために今の会社を離れれば、今手にしているものは失われてしまいます。もちろん、すべての条件でプラスになる転職もあり得ますが、それは非常にレアなケースだというのが現実ではないでしょうか。

仮に、給料は安いけれど人間関係は良好な会社で働いている人であれば、転職によって年収アップは実現できても今の人間関係や居心地の良さを失うことになります。面白い仕事をしたいと転職するケースなら、仕事のやりがいを得るかわりに、これまで築いてきた同僚や仕事相手との信頼関係などはリセットされてしまいます。

曽和:一方で、新しく入る会社の実情や人間関係は未知のものです。面接や会社情報を通して、「きっとこんな会社だろう」というイメージを持つことはできますが、そこで働いているのがどんな人たちで、どんな環境で仕事をすることになるのか、自分はそこでうまくやっていけるのかといったことは、実際に入社してみるまでわかりません。

そう考えると、今の人間関係や給料、仕事上の財産など、これまで築き上げたもの(安定と言い換えてもいいかもしれません)をあえて捨て去ってまで未知の世界に飛び込むことが本当に正しいのかどうか、最後の最後まで迷うのは自然なことです。

そして、この「これまで築き上げたものを捨てることへの不安や恐怖」といったものが、「転職の内定ブルー」の正体だと私は考えています。

自分の選択を前向きに受け入れるには?

曽和:では、「転職の内定ブルー」を乗り越え、後悔しない転職を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。

そのためには「転職の内定ブルー」を味わい尽くすこと、具体的には自分が感じている不安や迷いを直視し、それを前向きな覚悟に変えることが必要です。

アメリカの精神科医であるキューブラー・ロスは「悲しみの5段階モデル」という概念を提示しました。これによると、人は困難に直面したとき、まず否認し、その次に「なぜ自分が」と怒りを感じます。そして何かにすがろうとして、それが通用しないとわかると絶望し、やがて現状を受け入れ、ようやく前向きに生き始めるとされています。

曽和:つまり、人はさまざまな迷いや悩みの過程を乗り越えなければ、前向きに自分の選択を受け入れることはできないということです。

これは転職も同じです。ですから、「転職の内定ブルー」に襲われたら、決して中途半端にやりすごさず、正面から向き合ってください。そしてとことん悩み、迷って、それが前向きな覚悟に変わるまで「転職の内定ブルー」を味わい尽くしていただきたいと思います。

ブルーを乗り越えるためにやるべきこと3つ

曽和:ただ、ブルーを味わい尽くすといっても、転職の場合、一般的には内定が出てから1週間程度で内定を受諾するかどうかの結論を出さなければなりません

限られた時間の中で「転職の内定ブルー」を味わい尽くし、不安や迷いを前向きな覚悟に変えるためにはどうすればいいのでしょうか。ここでは、3つのやるべきことをお伝えしたいと思います。

〈転職の内定ブルーを乗り越えるには?〉

  • やるべきこと(1)|転職先への不安をできるだけ解消する
  • やるべきこと(2)|転職で失うものを書き出す
  • やるべきこと(3)|不安や恐怖を覚悟に変える

やるべきこと(1)|転職先への不安をできるだけ解消する

曽和:新しい環境に飛び込む時、そこにどんな人たちがいて、どんな雰囲気で働いているのか、自分はそこに馴染めそうか、不安を感じるのは当然です。

そこでまずやるべきことは、当たり前と思われるかもしれませんが、解消できる不安はできるだけ解消しておくことです。そうすることで、悩む必要のないことに不安を感じずにすむようにしておきましょう。

具体的には、職場見学をお願いして会社の中の様子を自分の目で確かめる、口コミサイトで実際に働いている人(退職者も含む)の評価を確認するなどして、会社の雰囲気や人間関係など会社情報や求人票からは見えない定性的な情報を集めてみてください。

これは私見ですが、口コミサイトといえば、以前は会社に不満を持って辞めた人たちがネガティブな意見を書いているケースが多かったように思います。ですが、近年ではフラットな視点で書かれた情報が集まっているようなので、どんな会社なのかを知る上では参考になる情報が得られると思います。

曽和:また、転職先が比較的大手の場合に限られてしまうかもしれませんが、OB・OG訪問をするのもいいでしょう。私も、以前在籍していたリクルートの話を聞かせてほしいと求職者の方に依頼されたことがありますが、知り合いのつてを探すなどして、その会社の実情を知る人に、会社の雰囲気や価値観、どんな人たちが働いているのか実際のところを聞いてみてはいかがでしょうか。

やるべきこと(2)|転職で失うものを可視化する

曽和:次にやるべきことは、転職で失うものを可視化することです。たとえば、自分を認めてくれる仲間たち、安定した収入、快適なオフィス環境など、さまざまなものがあると思います。それら、転職によって失うものをすべて書き出していただきたいのです。

転職を考える人は、今の会社に何らかの不満があって次の職場を探すわけですから、どうしても今の会社の悪いところ、不満なところにばかり目が行ってしまいがちです。逆に転職先については今より高い給料やネームバリューなど、自分に都合のいいところばかり見てしまうものです。

そのため、中には転職そのものを目的化してしまい、半ば自己洗脳のように「とにかく転職すればうまくいく」といった根拠のない幻想を抱いたまま会社を辞めてしまう人もいます。

曽和:ですが、前述したようにどんな会社でも良い点とそうでない点があります。そのため、理想を抱いて転職したものの「給料は高いけれど人間関係が殺伐としている」「裁量は大きいけれど仕事がハードすぎる」といった厳しい現実を目の当たりにして、「この転職は間違いだったのでは…」と後悔するケースも少なくないのです。

「失ってみて初めてその良さがわかる」などと言いますが、転職でそんな事態に陥らないためにも、会社を辞める決断をする前に、転職によって失うものを書き出して直視していただきたいのです。

やるべきこと(3)|不安や恐怖を覚悟に変える

曽和:転職によって失うものを書き出したら、本当にそれらを捨ててまで転職すべきかどうか、改めて考えてみてください。

仮に、転職によって得られるものより失うものが大きいと感じた結果、転職を思いとどまったのなら、それはそれで正しい判断だと思います。

逆に、「それでも転職したい」と本気で思えるのなら、迷わず転職するという決断をするべきではないでしょうか。同時に、転職によってこれまで築いてきたものを失う不安や恐怖を、「これだけのものを失ってまで転職するのだから、絶対に後悔しない転職にしよう」という前向きな覚悟に変えていただきたいと思います。

曽和:その覚悟ができなければ、転職した後も会社に対して不満を感じたり、何か別の道があるんじゃないかと迷いが生じたりしてしまいます。前向きな覚悟を持って「何があっても自分はここで頑張るんだ」という境地に達していなければ、転職先で成功することは難しいと言わざるを得ません。

後悔しない転職を実現するために

曽和:最後にあえて厳しいことを申し上げますが、私の肌感覚では、世の中の転職の半数近くは、「本当は辞めなくてもよかったんじゃないか」と言いたくなるような転職ではないかと考えています。

なぜなら、会社に対する不満だけを見て、転職によって失うものに目を向けないまま転職を決めてしまう人が少なくないからです。

自分の理想をすべて満たしてくれる100点満点の会社など存在しませんし、どこで働いていても、地道に努力を積み重ねていかなければ良いキャリアを築けないことに変わりはありません。

「転職の内定ブルー」に正面から向き合い、それでも転職すると決めたのなら「何があってもこの転職を自分の力で後悔しないものにするんだ」という前向きな覚悟をもって新たな道を切り開いていっていただきたいと思います。

取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17

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この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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