スピーチコンサルタントが語る! 面接に受かる人が自己紹介で語っていること

転職活動における面接の自己紹介では「職歴やスキルを簡潔に伝える」ことが一般的なセオリーとされています。

しかし、競争倍率1,000倍以上と言われるアナウンサー試験を突破したスピーチコンサルタントの松下公子さんによると、それだけでは不十分だそう。

面接の自己紹介で多くの人が勘違いしていることと、本当に効果的な自己紹介の伝え方について伺いました。

自己紹介は職歴やスキルを伝えるだけでは不十分

――これはどういうことでしょうか?

松下さん:面接の自己紹介では多くの人が、職務経歴や仕事内容を淡々と話しがちです。世の中の面接対策本や転職情報サイトでも、そのように書かれているものがほとんどですよね。

しかし、そうした内容は事前に提出している履歴書や職務経歴書にも書いてあるので、それを伝えるだけでは単なる事実確認になってしまいます。面接官としても「はい、そうですか」という感じで、ほとんど記憶に残りません

化粧品の新商品発表会などで「新しくなった◯◯には、有効成分の△△を××ミリグラム配合。さらに新成分として■■という…」といった説明を受けたときのことを思い出してみてください。

発表会終了後、説明された内容を覚えていないどころか、長い話に飽き飽きして、途中からあまり真剣に聞いていない方もいるのではないでしょうか?

面接の自己紹介もそれと同じで、職歴やスキルを説明するだけでは、面接官の心は動かないんですね。

――なるほど。

松下さん:さらに、職歴やスキルといったスペックを語るだけでは、自分よりもハイスペックなライバルが現れた途端、残念ながら負けてしまいます

現実として、あなたが入りたいと思っている企業には、同じように多くのライバルが応募しています。中には似たようなキャリアを歩んできた方もいるでしょう。

果たして、その中で抜きん出た職歴やスキルがあると言い切れるでしょうか?なかなか難しいですよね。

よって、粒ぞろいの集団の中からたった一人に選ばれ、内定をもらうためには、よくある「職歴やスキルを伝える」だけの自己紹介では不十分なんですね。

面接の自己紹介には「共感ストーリー」を盛り込もう

――では一体、どのような自己紹介をすればいいのでしょうか?

松下さん:多くのライバルの中から面接官に選ばれるためには、自己紹介の中に「共感ストーリー®」を盛り込むことが大切です(※)。

「共感ストーリー」とは、あなた自身の経験と思いを、過去・現在・未来の「物語」として語ることで、相手の共感を得るというプレゼン手法です。例えば「私は◯◯の経験を通じて、△△だと感じた。そして今は××したいと考えている」といった具合です。

自己紹介の中にこの「共感ストーリー」を盛り込むことで、面接官に対して強烈な印象を残すことができるのです。

――それはどうしてでしょうか?

松下さん:「共感ストーリー®」は他の誰とも比べられない、あなた自身の物語だからです。人は物語を聞くと、他人の話であっても感情移入してしまい、自然と記憶に残りやすくなるんです。

日本人の誰もが「桃太郎」を諳んじることができるのは、それが物語だからです。

また「共感ストーリー」では「××したい」といった夢や希望、ビジョンを語ります。こうした「未来」の話は、聞く相手に「もっと聞きたい」「私もその世界を見てみたい」などと思わせ、好奇心を掻き立てることができるんですね。

単なる説明は記憶に残らなくても、物語なら興味を持って聞き入ってしまう――これは人間の習性であり本能です。それをうまく活用しましょう。

(※)「共感ストーリー®」は株式会社STORYの登録商標です。

「共感ストーリー」を使った自己紹介の作り方

――「共感ストーリー」を使った自己紹介とは、具体的にはどのようなものでしょうか?

松下さん:「共感ストーリー®」を盛り込んだ自己紹介は、例えば下記のようなものになります。不動産会社で営業職として働いていた方が、未経験で事務職に応募するシチュエーションです。

▼「共感ストーリー」を使った自己紹介の例文

◯◯と申します。この度は面接の機会をいただき、誠にありがとうございます。

私は現在、株式会社◯◯という不動産会社の営業職として、戸建て住宅や分譲マンションを販売しています。

ただ正直なところ、過度に人の顔色を伺ってしまう性格もあり、お客様に対して強く出れず、ノルマが達成できないこともあります。

そんな中、上司のプレゼン資料の作成を手伝った際に「君の細やかな気遣いのおかげで助かった」と、初めて褒められました。これをきっかけに同じ仕事を依頼されたり、社内ルールや業務フローの見直しといった業務も任されたりすることが多くなり、いつしか「こんな私でも、人を支える事務の仕事なら輝けるかもしれない」と感じるようになりました。

そうした経緯もあり、現在は周囲のサポートをする事務職への転職を考えております。中でも御社の事務職は営業職と関わる機会が多く、営業経験も活かしつつ社員の皆様を支えられると思い、志望いたしました。

本日はどうぞ、よろしくお願いいたします。

「共感ストーリー」を盛り込んだ自己紹介のポイントは、主に3つあります。

【共感ストーリーを盛り込んだ自己紹介3つのポイント】ストーリー仕立てになっている/挫折経験をポジティブな思いにつなげている/登場人物のセリフを引用している

まず大前提として「共感ストーリー」は物語ですから、経験とそこで感じた感情をストーリー仕立てで語ることが大切です。どんな出来事があって何を感じたのか、しっかり起承転結を意識しましょう。

また「挫折経験とそこでの苦悩」と、「その経験から得た学びやポジティブな思い」がセットになっていることもポイントです。人は可能性のある「未来」の話に惹きつけられるので、挫折経験やネガティブな思いだけで終わってしまってはいけません。

さらに、登場人物のセリフや会話を効果的に引用するのも良いですね。単に経験や思いを時系列に沿って語るだけでは、どうしても説明っぽくなりがちです。そこで、あなたの心のつぶやきや、物語におけるキーパーソンが放ったセリフなどを盛り込んでみましょう。

そうすることで現場の空気感が鮮明に伝わり、より人間味があって人を惹きつける「共感ストーリー」にすることができます。

――「共感ストーリー」の題材はどうやって見つけるのでしょうか?

松下さん「共感ストーリー®」は一朝一夕にできるものではないので、焦らなくても大丈夫です。

なぜなら「共感ストーリー」は過去・現在・未来における経験や思いを題材につくるものなので、記憶を頼りにそれらを丁寧に掘り起こし、ひとつひとつ言語化していく必要があるからです。

その作業の助けになるのが「共感ストーリー感情グラフ」です。縦軸を感情、横軸を時間として、これまでの経験と、その中で感じた感情を書き出しましょう。

効率的にこの作業を行うためには、下記のリストにある質問を、一つずつ自問自答してみるのがおすすめです。

【共感ストーリー感情グラフをつくるための質問リスト】1.失敗や挫折経験を乗り越えた経験は?/2.やりがいや充実感があった経験は?/3.怒りを感じた経験は?/4.どんな言葉をかけられて嬉しかったのか?/5.全くの初心者・初めて経験したことは?/6.自分に影響を与えた人は?/7.自分が大切にしている言葉は?/8.会社やチームに何か影響、変化を与えた経験は?/9.会社やチームで表彰など何か選ばれた経験は?

先程の営業職の方を例に、実際に「共感ストーリー感情グラフ」を作成すると、下記のようになります。

共感ストーリー感情グラフの一例。1:内定・入社、2:ノルマが達成できない、3:上司から褒められた、4:存在意義を感じた、5:事務職として活躍したい

グラフでは簡易的に書いていますが、経験や思いは下記のように、できるだけ具体的に書き出しましょう。その方が「共感ストーリー」に使える題材が見つかりやすくなります。

  1. コミュニケーション下手で就職活動もうまくいかなかったが、やっとのことで内定もらえて嬉しかった
  2. 頑張ろうと意気込むものの、過度に人の顔色を伺ってしまう性格もあってノルマが達成できず、上司から「給料泥棒」と言われて泣く毎日
  3. ふと上司のプレゼン資料の作成をサポートして「君の細やかな気遣いのおかげで助かった」と褒められる
  4. 「こんな私でも、人を支える仕事なら輝けるかもしれない」と、自分の存在価値を感じられた
  5. 事務職として周囲のサポートをしたい、働きやすい環境づくりに貢献したいと思うようになった

――なるほど。書き出した経験や思いのうち、どの部分を題材にすべきですか?

松下さん:「共感ストーリー®」として効果的に使える題材は、どんな自分を見せたいのかによって変わりますが、今回は感情がV字回復している部分がポイントになるでしょう。このV字は、マイナスの感情からプラスの感情へと、その起伏が激しくなっていることを示しています。上記のグラフでいうと、黄色く塗りつぶしているところですね。

こうした大きな心の揺れ動きは感情移入がしやすく、聞く相手に興味を持ってもらいやすいんです。

「たしかに以前は◯◯という挫折・失敗を経験して、苦しかった」「それでも、△△という気付きや学びがあった」「今ではその経験を乗り越え、××したいと思っている」――そうしたあなただけの物語を、ぜひ語っていただければと思います。

最後に:自己紹介は最も大切な質問のひとつ

――最後に、転職活動をしている求職者の方に、一言アドバイスをお願いします。

松下さん自己紹介は、面接の中でも大切な質問の一つです。第一印象に影響することはもちろんですが、それ以上に、自己紹介の出来が、その後に続く質問にもきちんと自信を持って答えられるかどうかを左右するからです。

自己紹介は基本的に、面接のはじめに聞かれますよね。最初の質問だからこそ「うまく伝えられた」「面接官がちゃんと興味を持ってくれた」という成功体験を積むことで、多少なりとも緊張がほぐれます。自信が生まれ、その後に続く質問にもうまく答えられるようになるんですね。

そんな出だしの自己紹介で、ぜひあなただけの「共感ストーリー®」を語ってみてください。面接官は必ず興味を持ってくれます。みなさまが自分らしく輝ける企業に入社できること、心より応援しています。

(取材/文:金子龍介)

この記事の話を聞いた人

『「たった1人」に選ばれる話し方』著者

松下 公子

株式会社STORY 代表取締役

アナウンサー歴20年。アナウンサーを目指したのは、大学3年時に彼氏に振られたことがきっかけ。みんなに愛される女子アナになって見返したいと思った。

しかし、第一印象が怖いという見た目コンプレックスに悩む。見た目の印象ではなく、自分のことをわかって欲しいという思いから、面接では自分の経験と思いを熱く語り、見事内定。

現在は大事な場面で選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー®」を通じ、経営者、個人事業主、転職・就職志望に向けコンサルティングを行う。

著書に『「たった1人」に選ばれる話し方』(スタンダーズ出版)がある。2023年6月に新刊「転職面接本」を発売予定。

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