退職時に迷わない 健康保険手続き4パターン
退職時に必要な、健康保険の切り替え手続き。この記事では、退職時の状況に応じて「どんな手続きをすればいいか」を、4パターンに分けて解説します。
退職時の健康保険手続き4パターン
退職時の健康保険の切り替えについて、フローチャートを作成しました。この流れに沿って、4種類の手続きパターンのうち自分がどれを選べばいいか確認しましょう。
それそれのパターンについて、手続き内容などを下記で詳しく解説していきます。
離職期間が無ければ、手続きは不要
退職日の翌日から次の職場で働き始める場合、健康保険の切り替え手続きは転職先の企業が行ってくれます。
在職中の会社(退職済みの人は、前の職場)から「健康保険資格喪失証明書」を受け取り、転職先に提出しましょう。
扶養に入る
家族の扶養に入る場合、家族が加入している社会保険の被扶養者になる手続きをしましょう。ほかの選択肢に比べて【自分が保険料を支払わなくていい(家族が払う保険料も変わらない)】というメリットがあります。
ただし、扶養に入るには「退職後1年間の見込み年収が、130万円未満」などの条件※があるため注意が必要です。
※健康保険の扶養に入れる続柄の人は、被保険者と同一家計の「配偶者、子、孫、兄弟姉妹」、または「被保険者と同居している三親等以内の親族」です。詳しい条件は、全国健康保険協会のHP等、被保険者が加入している協会の情報を確認しましょう。
任意継続する/国民健康保険に加入する
扶養に入れない場合、現在加入している健康保険を【3)任意継続する】か、【4)国民健康保険に切り替える】必要があります。
それぞれの手続き内容について見ていきましょう。
※どちらを選べばいいかは、年収や扶養親族の人数で変わります。詳しくは【どちらがお得? 任意継続と国民健康保険】で解説します。
任意継続する
任意継続とは、退職後の最大2年間は前職と同じ健康保険を利用できる制度です。国民健康保険と比較して「扶養親族が何人いても、健康保険料が一定」という特徴があります。
なお、退職前に加入していた健康保険を「継続する」という手続きではあるものの、以下のような注意点があります。
任意継続の注意点
- 月々の健康保険料が、退職前の約2倍になる(退職後は、雇用主が負担していた分の健康保険料も、被保険者本人が負担することになるため)
- 「保険料の減免制度」が無いため、収入が減ると相対的に負担が大きくなる
- 再就職先で新たに社会保険に加入した場合を除いて、2年間は他の健康保険に切り替えることができない
- 保険料の支払いが1日でも遅延すると、即座に被保険者資格を失う
国民健康保険に切り替える
市町村が運営している健康保険で、一般的に「国保」と呼ばれているものです。会社を辞めて任意継続をしない場合や、家族の扶養に入れない場合は、こちらの保険に加入することになります。
住んでいる自治体によって保険料に差があるほか、扶養制度が無いため「世帯人数が増えると、それに応じて支払う保険料も増える」点には注意が必要です。
手続き自体は、市区町村役所の「健康保険窓口」で、健康保険資格喪失証明書・加入用の書類を提出するだけで終了します。なお、健康保険と国民年金の加入手続きは同じタイミングで行えるため、「年金手帳」を持参すると年金の切り替え手続きも同時に行えて便利です。
コラム:個人事業主の場合、職業団体の健康保険組合に入る
会社を辞めて個人事業主になる場合は、職業団体が運営する健康保険組合に加入するのもひとつの手です。建設業や医師、美容、税理士、芸能人など、さまざまな職業ごとに組合が結成されています。
組合によって保険料が異なりますが、所得に応じて保険料が決まる国民健康保険よりも安くなるケースもあるようです。
利用を検討する際は「職業+国民健康保険組合」で検索して、自分が加入できそうな組合を探してみるといいでしょう。現在は下記の164組合が存在しています。
なお、職業団体別の国民健康保険組合には、下記のような特徴があります。加入の前に確認しておきましょう。
- 家族を扶養に入れても、保険料は一定額
- 収入の増減に関わらず、保険料は一定額
- 健康保険組合の加盟団体の会員になる必要があり、保険料とは別に入会費・年会費が発生するケースがある
どちらがお得? 任意継続と国民健康保険
多くの人が悩むのが「任意継続するべきか、国民健康保険に切り替えるべきか?」という疑問です。
ここでは、退職後の年収が400万円(月収約33万円)の人を例に、保険料の観点から両者を比較してみました。
独身なら、国民健康保険の方が安い
試算:転職Hacks ※実際の金額と異なる場合があります
参考:平成31年度の東京の保険料額表、世田谷区平成31年度の保険料計算式
※国民健康保険の保険料は、自治体によって異なります
年収400万円で独身の場合、年齢に関わらず「国民健康保険」に加入した方が、保険料を抑えることが可能です。任意継続に比べ年間で約7.3万円・月額で約6000円ほど安くなります。
40歳を境に介護保険料の徴収が始まると、任意継続・国民健康保険ともに支払い総額は高くなりますが、国民健康保険の方が保険料が安い状態は変わらないようです。
年収500万円あたりで「任意継続」の方がお得に
年収が約500万円を超えるあたりから「任意継続」の方が保険料が安くなります。自治体によって国民年金の保険料に差があり、安くなる境目が異なるので、気になる方は調べてみましょう。
扶養親族が2人以上なら、任意継続の方が安い
試算:転職Hacks ※実際の金額と異なる場合があります
参考:平成31年度の東京の保険料額表、世田谷区平成31年度の保険料計算式
※国民健康保険の保険料は、自治体によって異なります
扶養親族※がいる場合、その人数によってお得な健康保険が変わります。
「扶養親族が1人」の場合は、国民健康保険の方が保険料が安くなります。任意継続と比べて年間で約7.3万円・月額で約6000円ほど安くなる計算です。ただし、年収額によっては任意継続の方が安くなるので注意が必要です。
「扶養親族が2人以上」の場合は、年収額に関わらず任意継続の方が保険料が安くなります。39歳以下の場合は、年間で約3万円・月額で約3000円の差。介護保険料の徴収が始まる40歳以降は、年間で約6.4万円・月額で約5000円ほどに差が開きます。
扶養親族が増えるほど任意継続の方が保険料が抑えられる理由は、扶養親族分の保険料が一定額で変わらないから。国民健康保険は「加入する家族の人数に対して保険料を納める」形ですが、任意継続の場合は「1人分の保険料を納める」だけで済むため、扶養親族が増えるとそれだけ保険料が割安になります。
※扶養親族:被保険者の「配偶者、子、孫、兄弟姉妹」や「被保険者と同一の世帯で、養われている三親等以内の親族」等のこと。詳しくは、全国健康保険協会のHP等で確認してください。
扶養親族1人だと、年収410万円を超えたあたりから「任意継続」が安くなる
年収400万円で扶養家族が1人だけなら、国民健康保険の方がお得ですが、一定の年収を超えると任意継続の方が保険料が安くなります。
ボーダーとなる年収は、年齢によって変わる(=介護保険料の支払いが始まっているかどうかで変わる)ので、下記を確認しておきましょう。
- 39歳以下の人:おおよそ年収430万円以上なら、任意継続の方が安い
- 40歳~64歳の人:おおよそ年収410万円以上なら、任意継続の方が安い
コラム:保険証を早く受け取りたい人は「国民健康保険」を
保険証の発行が早いのは国民健康保険。自治体によりますが、本人確認書類があれば、窓口で当日中に受け取れることがあります。発行に時間がかかる場合でも「医療機関にかかりたいのですぐに必要」だと申請時に申し出ると、仮の健康保険証や書類を発行してもらえるようです。
一方で任意継続の場合、受け取りまでの所要期間は1~3週間ほど。退職を証明する書類があれば約1週間、なければ約2~3週間かかります。
また、健康保険証の切り替え手続きを行うと、申請した本人だけでなく家族全員分の保険証を再発行することになります。書類の提出遅れや不備があると家族全員の再発行が遅れるので、気を付けましょう。
※なお、保険証が無い期間の医療費は10割負担になりますが、後日払い戻しが受けられます。詳しくは・・・Q:保険証なしで受診した場合、医療費はどうなる?
【Q&A】退職前後によくある悩みと、解決策
Q:以前の健康保険証はどうするの?
A:元の会社または健康保険協会に返却する
以前の健康保険証は退職した時点で、元の会社または健康保険協会に返却してください。退職日に会社に返却できなかった場合は、後日郵送しましょう。
万が一廃棄・紛失してしまった場合は、紛失届関係の書類を書く必要が生じることがあります。扶養親族分も含めて、必ず返却するようにしてください。
また、古い保険証で医療機関を受診してしまった場合、医療費の返還請求が発生します。手続きに時間がかかるため気を付けましょう。
Q:保険証なしで受診した場合、医療費はどうなる?
A:全額を一時立て替え、後日払い戻しを申請する
健康保険証が無いときに医療機関を受診した場合、一時的に医療費を全額支払うことになります。このとき、領収証の原本などは必ず保管するようにしてください。
その後、新しい健康保険証が届いたら、所属する健康保険協会に連絡して「療養(医療)費支給申請」を行います。後日、支払った医療費のうち7割(本来、健康保険で引かれるはずだった金額)が返金されます。
返金方法は各健康保険協会で異なるので、HPや窓口で確認しましょう。
Q:退職前から継続している治療は、どうすればいい?
A:薬を多めに処方してもらう等、医師と相談しておく
持病などで定期的に通院している場合、退職後の通院日は「新しい健康保険証が届く頃(退職から1~2週間後)」にするのが得策です。その上で、現在薬を服用している場合は、医師に健康保険が切り替わることを相談して、次回の通院まで過ごすのに十分な量の薬を処方してもらいましょう。
Q:健康保険資格喪失証明書をもらえなかった…
A:自分で発行申請する
退職手続きの時点で「健康保険資格喪失証明書」をもらえなかった場合、まずは会社に確認しましょう。発行手続き中だった場合、届くのを待ってください。
一方、会社から「自分で取り寄せてください」と言われたら、最寄りの年金事務所へ行って、自分で発行申請をします。手続きには下記の書類・持ち物が必要になるので、忘れずに持参しましょう。
- 身分証明書(運転免許証、マイナンバーが記載された住民票など)
- 印鑑
- 年金手帳
まとめ
退職時に発生する「健康保険の切り替え手続き」は4パターン。自分がどのパターンに当てはまるかを押さえれば、手続き自体は難しいものではありません。
- 退職日の翌日から、転職先で働く場合 ・・・ 1)手続きなし
- 家族の扶養に入れる場合 ・・・ 2)扶養に入る
- その他の人 ・・・ 3)任意継続する または 4)国民健康保険に切り替える
3、4のどちらかを選ぶ場合は、保険料を比較して決めるといいでしょう。【どちらがお得? 任意継続と国民健康保険】を読んで、自分の状況だとどちらが安くなるかを確認してみてください。
▼辞める時に読んでおきたい
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。