特例も解説 【パート・派遣必見】無期転換ルールとは?
2013年4月に導入された「無期転換ルール」ですが、その概要や目的がわからないという人も多いでしょう。
無期転換ルールをわかりやすくまとめると、以下のとおりです。
無期転換ルールとは?
- 契約期間が通算5年を超えた後に、会社に申し込みをすると無期雇用契約に転換できる
- 無期転換に申し込むには4つの条件がある
条件1:契約期間が通算5年を超えている
条件2:5年の契約期間の中に空白期間がない
条件3:契約が1回以上更新されている
条件4:雇い主が5年間同じ
無期転換ルールの概要や申し込みの条件など、くわしく解説します。
無期転換ルールとは?いつから申し込める?
無期転換ルールとはどのような制度なのでしょうか。
制度の概要や目的、申請方法、申し込みができるタイミングを紹介します。
契約更新が5年を超えると無期契約に申し込める制度
無期転換ルールとは、契約社員やアルバイトなど、期間の決まった労働契約で働く人の契約が通算5年を超えた場合、会社に申し込むことで、期間の定めのない労働契約(無期契約)に切り替わることを指しています。
なお、5年を超えた時に自動的に無期転換されるわけではなく、労働者自身が会社に申し込む必要があります。申し込む時には、無期雇用になった場合には労働条件に変更があるかどうか、会社に確認を取りましょう。
会社に無期転換を申し込んだ場合、その時点で結ばれている有期契約が終了する日の翌日から無期雇用契約に切り替わることになります。
無期雇用契約とは?
無期雇用契約とは、期間の定めのない労働契約のことです。無期雇用になれば、定年を迎えるか自分で退職するまで、その会社で働き続けることができます。
ただし、無期転換ルールで無期契約に転換する=正社員になるというわけではありません。
また、就業規則などに別段の定めがない限り、無期契約になっても必ずしも給与や待遇がアップするわけではありません。
契約期間…通算契約期間5年の数え方
申し込みの条件である契約期間の数え方について、「1年の有期契約」と「3年の有期契約」のケースで説明します。
契約期間が1年の場合
5回目の契約更新後に、無期転換に申し込みできる権利が発生します。
権利発生後の1年間に無期転換を申し込んだ場合、最初の契約開始から7年目の時に、無期雇用に切り替わります。
契約期間が3年の場合
3年更新1回目の更新後の3年間に、無期転換に申し込みできる権利が発生します。
権利のある3年の間に申し込むと、7年目から無期雇用に切り替わります。
この場合、初回契約から6年目(1回目の更新から2年後)を迎えて無期転換を申し込んだとしても、6年目の契約が終わるまでは切り替わりません。
対象者…パート、派遣などの有期契約労働者
無期転換ルールの対象者は、パート、契約社員、アルバイトなど、期間に定めのある雇用形態で働いている人です。準社員やパートナー社員など、会社が独自に位置づけている雇用形態であっても、対象者に含まれます。
ただし、派遣社員の場合、雇用契約を結んでいる派遣会社に無期転換を申し込むことになります。
派遣社員には、同じ職場に3年を超えて働くことができない「3年ルール」がありますが、無期雇用派遣であれば同じ派遣先で3年を超えて働くことができます。
目的…労働者にとって不利な状況を改善するため
無期転換ルールの目的は、有期契約労働者における不利な雇用システムを改善することです。有期契約労働者は、契約が更新されるかわからない不安定な状況下で就労しており、こうした雇用の実態が問題視されていました。
期間の定めがなくなることで、雇い止めによって職がなくなるかもしれないという心配をする必要がなくなります。
定年まで雇用が確保されるので、仕事に対するモチベーションが上がったり、長期的にスキルや経験を積むことができたりといったメリットがあります。
申し込み方法…なるべく書面での申請を行う
申し込みは法律上、口頭でも良いとされていますが、なるべく書面に残しましょう。後から「申し込んだという証拠がないので無期転換しない」と言われるトラブルを回避するためです。
申請方法は、契約を結んでいる事業主に無期雇用契約に転換したいという明確な意思表示をするだけです。
申請のタイミングは、通算の契約期間が5年を超える契約の開始日から満了日までの間です。会社は申し込みを拒否できないので、労働者が申し込んだ時点で承諾されたことになります。
無期労働契約転換申込書の見本
コラム:公務員も無期転換できる?
公務員における非常勤職員や臨時職員は、任期の定めのない公務員に無期転換することができません。
なぜなら、公務員は労働契約法の適用から除外されているため、無期転換ルールの対象外となります。
非常勤職員や臨時職員など、公務員にも民間企業のように任期の定めのある職員がいますが、臨時の欠員補充といった意味合いが強く、繰り返し長く任用することが想定されていません。
民間企業のように無期転換が適用されない状況から、2018年に日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)が、公務員にも無期転換ルールを適用するように人事院に求めました。しかし、その後に公務員にも適用するという改正の動きなどは特にありません。
無期転換に申し込める条件と特例とは?
無期転換に申し込むには、いくつかの条件があり、特例も設けられています。
ここでは、条件と特例の内容について解説します。
無期転換に申し込むための条件4つ
無期転換に申し込める権利は、以下の条件をすべて満たした時に発生します。
- 有期労働契約の期間が通算で5年を超えている
- 通算期間の中に、一定の無契約期間がない(クーリングされる期間がない)
- 契約の更新が1回以上行われている
- 通算5年を超えて契約してきた事業主との間で、現在も有期労働契約が交わされている
「無契約期間」とは、同じ事業主と有期契約を結んでいない期間を指します。
無契約期間が、基準となる日数を超えると、その期間の前の通算契約期間はリセットされてしまいます。このことを「クーリング」と呼んでいます。
クーリングされてしまう日数の基準は、以下のとおりです。
無契約期間の前の通算契約期間 | 契約がない期間(無契約期間) |
2カ月以下 | 1カ月以上 |
2カ月超~4カ月以下 | 2カ月以上 |
4カ月超~6カ月以下 | 3カ月以上 |
6カ月超~8カ月以下 | 4カ月以上 |
8カ月超~10カ月以下 | 5カ月以上 |
10カ月超~ | 6カ月以上 |
例えば、無契約期間の前に2カ月から4カ月の間通算で契約していたとしたら、無契約期間が2カ月以上あると通算契約期間はクーリングされることがわかります。
具体的な例は、「【ケース別】これって無期転換できる?」にて説明します。
無期転換ルールの2つの特例について
無期転換ルールには2種類の特例があります。
「有期雇用特別措置法」により、以下の特例の対象者は、有期契約が5年を過ぎても無期転換申込権が発生しません。
〈特例の対象者〉
- 専門的知識などを有する有期雇用労働者
=高度専門職
- 定年に達した後、引き続いてその事業主に雇用される有期雇用労働者
=定年後に継続雇用される
「高度専門職」の場合
高度専門職の人は、5年を超える一定の期間内に完了する業務(プロジェクト)に従事している期間は無期転換申込権が発生しません。そのプロジェクトの年数上限は10年とされています。
プロジェクトが5年より短い場合は、通常のルールである「通算契約期間5年」で無期転換に申し込むことができます。
高度専門職の範囲は以下のとおりで、年収が1,075万円以上である必要があります。
- 博士の学位を有する者
- 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士または弁理士
- ITストラテジスト、システムアナリスト、アクチュアリーの資格試験に合格している者
- 特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者
- 大学卒で5年、短大・高専卒で6年、高卒で7年以上の実務経験を有する農林水産業・鉱工業・機械・電気・建築・士木の技術者、システムエンジニアまたはデザイナー
- システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタント
- 国などによって知識などが優れたものであると認定され、上記に掲げる者に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者
「定年後に継続雇用される」場合
定年後に同じ会社で継続雇用される高齢者は、定年後5年勤務したとしても、無期転換に申し込めないケースがあります。
この例外措置は、契約している事業主が、適切な雇用管理計画を作成して、都道府県労働局長の認定を受けている場合(※)に実施されます。
※特殊関係事業主(グループ会社)を含む
ただし、この例外措置はあくまで「定年後も継続して雇用される高齢者」を対象としています。
そのため、定年後に他の事業主に雇用されて再就職する場合は、無期転換ルールが適用されます。加えて、事業主が認定を受ける前に申込権が発生した場合でも、無期転換に申し込むことができます。
ちなみに、定年後に無期転換した場合、新たな定年として「第二定年」が設定されます。会社によっては設定していない場合があり、そういった会社では退職のタイミングは自己都合退職か解雇のみです。
【ケース別】これって無期転換できる?
有期契約期間が通算5年を超えていても無期転換に申し込めないケースがあります。
無期転換できるかどうか悩ましいケースについて、無期転換の可否を解説します。
◯通算5年あれば申し込みができるケース
1:無契約期間前の契約期間もカウントされる
〈条件〉
- 2017年4月1日に有期雇用契約スタート
- 無契約期間に入る前にすでに2年間勤務している
- 無契約期間が5カ月
このケースは、クーリングされる条件には当てはまらず、無契約期間前の2年間はリセットされないため、通算契約期間5年を超えた段階で無期転換への申込権が発生します。
2:勤続7年目で申し込みができると後から気付いた
<条件>
- 2017年4月1日に有期雇用契約スタート
- 無期転換できることに気付かず、有期契約7年目に入った
このケースは、いつでも無期転換への申し込みができます。
ただし、契約7年目の時点で申し込みをしても、実際に無期雇用に切り替わるのは勤続8年目の年からです。
3:A部署で2年、B部署で3年働いている
<条件>
- 2017年4月1日に有期雇用契約スタート
- A部署で2年、B部署で3年の合計5年働いている
- 部署異動しただけで同じ会社に勤務している
このケースも、通算契約期間5年を超えた場合、無期転換への申し込みができます。
有期契約している5年の間に、勤務地や職種などの労働条件が変わっても、契約を結んでいるのが同じ事業主(会社)であれば、契約期間はリセットされずにカウントされます。
✕通算5年では申し込みができないケース
1:無契約期間前の契約期間がカウントされない
<条件>
- 2017年4月1日に有期雇用契約スタート
- 無契約期間に入る前にすでに6カ月勤務している
- 無契約期間が3カ月
このケースは、無契約期間前の通算契約期間がクーリングされるため、通算5年を超えても申込権は発生しません。
無契約期間後の契約からまたスタートするため、無期転換に申し込むまでに実質5年以上かかってしまいます。
2:すでに数年契約している高度専門職の人が新たにプロジェクトに従事する
<条件>
- 2017年4月1日に有期雇用契約スタート
- 年収1,075万円以上の高度専門職
- 雇われてから4年目のタイミングで、今後7年続くプロジェクトに参加
このケースでは、契約開始から7年間が経過するまで無期転換を申し込めません。
高度専門職の場合、そのとき従事しているプロジェクトの「開始日から完了日までの期間」が申込権を得るための期間となるためです。
ただし、起算日はプロジェクト開始日ではなく契約を開始した日(2017年4月1日)となるため、そこから7年が経過した2024年4月1日から無期転換を申し込めます。
本来であれば、契約開始からすでに3年勤務していれば残り2年で無期転換の申込権が発生します。しかし、今回のケースでは無期転換の特例ルールが適用されるため、申し込みに必要な通算契約期間はプロジェクトの開始から完了までの期間となります。
無期転換ルールに関するQ&A
ここでは、無期転換ルールについての疑問を解消します。
申し込みを拒否され、雇い止めされたら?
申し込みをした時点で会社側は拒否できないので、たとえ拒否されたとしても無期雇用に転換できます。これは労働契約法第18条1項に定められています。
同様に、申し込みされると困るという理由で契約の更新を拒否された場合(雇い止めされた場合)も、法律によってそれが無効になるケースがあります。
所属している部署の上司に無期転換を申し込んで拒否された場合は、人事担当者に相談しましょう。それでも拒否され、雇い止めすると告げられた場合は、自分が住んでいる地域の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の「無期転換ルール特別相談窓口」に相談しましょう。
※参考:厚生労働省「各種お問い合わせ | 有期契約労働者の無期転換サイト」
更新上限を設けられたら無期転換できない?
就業規則に更新上限が設けられている場合、無期転換に申し込めなくても、それがただちに法律違反になるとは限りません。
無期転換への申し込みを避けるという目的で、就業規則を変更し、雇い止めしようとするのは、労働契約法第19条の雇い止め法理に基づいて許されません。しかし、最初の契約の時に、労働者側と会社側が、更新上限について合意していた場合は労働契約として成立します。
契約内容に同意したことになっているので、その場合は無期転換の申し込みができません。
ただし、その就業規則の内容に合理的な理由があり、会社から従業員に対して周知されている必要があります。
「無期転換を申し込まれたくない」など、理由が合理的でなかったり、就業規則に更新年数に上限があることの説明がなかったりした場合、無期転換に申し込める可能性があります。
無期契約になることのデメリットは?
無期契約労働者になっても、有期雇用契約だったときと労働条件が変わらないことが多く、むしろ仕事量が多くなる割に給与が上がらない可能性もあります。その場合、待遇アップを期待していた人にとって無期転換はデメリットになります。
無期雇用契約になると、有期契約の時と比べて、仕事の責任が重くなったり、仕事を多く割り振られるようになったりする可能性があります。
しかし、無期転換後の待遇が就業規則で定められていない場合、有期契約の時の労働条件のままであることが多く、仕事量と給与が割に合わなくなることもあります。
また、その会社で正社員になりにくくなるというデメリットもあります。会社には、無期転換した人を正社員の待遇に格上げする義務がないため、有期契約時の労働条件で固定されやすいといえます。
まとめ
無期転換ルールとは、通算契約期間が5年を超えた場合、会社に申し込みをすると無期契約に転換されるという制度です。
会社側はこれを拒否することができないので、雇い止めに対する不安解消や雇用の安定化が実現します。自分がいつから申し込みができるようになるのか、契約期間を見直してみましょう。
なお、無期転換後にどのような労働条件になるかは会社次第なので、申し込みをする前に転換後の待遇について会社に確認しておくと安心です。
※参考:厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」
(作成:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。