2万人の採用面接でわかった 転職してから後悔する人の共通点3つ

「この会社なら」と納得して転職したのに、いざ入社してみると「こんなはずじゃなかった」と後悔する人は少なくありません

なぜそんなことが起きるのでしょうか?後悔しない転職を実現するにはどうしたらいいのでしょう。リクルートやライフネット生命の採用責任者として2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ・曽和利光さんに聞きました。

転職後に後悔する人は珍しくない

曽和利光さん(以下、曽和):「この会社なら」と思って転職を決めたのに、入社前に抱いていたイメージと現実とのギャップに「こんなはずじゃなかった…」と後悔する人は珍しくありません

このように理想と現実のギャップに戸惑う状態をリアリティショックといいます。ある調査によると、転職した人の4人に1人はリアリティショックを感じているそうですが、私の実感ではもう少し多く、転職した3人に1人はリアリティショックを感じているように思います。転職後の後悔は、誰もが経験しうるものなのです。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

なぜ「こんなはずじゃなかった…」と感じるのか

曽和:一般的にリアリティショックは、新卒入社、つまり新社会人に起こりやすい問題とされています。学生から社会人という大きな環境変化の中で、理想と現実のギャップを感じても不思議はありませんし、実際、新卒入社の8割近くがリアリティショックを感じるというデータもあるほどです。

一方で、新卒に比べると少ないとはいえ、ある程度の社会人経験を積んだ人でも転職後のリアリティショックに直面するのはなぜなのでしょうか?

その原因のひとつとして、会社側の受け入れ態勢が挙げられます。

転職して新しい環境に馴染むまでには時間がかかるもの。転職者が入社後に「被受容感」、つまり周囲に受け入れられた感覚を持てるまでに3ヶ月、さらに「この会社でやっていける」という自信を持てるようになるまでには半年かかると言われています。

曽和:にもかかわらず、中途入社の場合、新卒入社時のように丁寧な導入研修を行う会社はほとんどありません。加えて、「即戦力」という言葉の影響か、転職者を受け入れる現場としても、「新卒のように世話を焼くのは失礼だ」とか「どれだけ優秀か見極めよう」といった意識が働いて、「まずは様子見」と距離を置いて接することが多いようです。

その結果、転職者が疎外感を覚えるだけでなく、インフォーマルな社内人脈(仕事とは直接関係ない人間関係)を作れなかったり、「ここだけの話」と噂話的に共有される情報にアクセスできなかったりすることで、思うように仕事を進められないケースは少なくありません。こうしたインフォーマルな人間関係や情報が、実は組織の意思決定に大きな影響力を持っているからです。

このような理由から、「この会社でやっていけるか不安」「こんなはずじゃなかった…」とリアリティショックを感じる人が後を絶たないのです。

転職してから後悔する人の共通点とは

曽和:リアリティショックの原因が、転職者本人にあるケースも存在します。

私の経験上、リアリティショックによって転職を後悔する人には、次の3つの共通点があると言えるでしょう。

共通点1|次の会社のいいところばかり見てしまう

曽和:転職を考える人のほとんどは、現職に何らかの不満を感じています。そのため、今の会社の悪いところばかりに目を向けがちな一方で、転職先に対しては「給料がいい」「経営が安定している」といった具合に、自分に都合のいいところばかりを見てしまうものです。

しかし、転職はトレードオフ(何かを得れば何かを失うこと)です。転職で今の会社に足りないものが埋まったとしても、「給料は上がったけれど人間関係がギスギスしている」といった具合に別の嫌なことが生まれてきます

曽和:残念ながら完璧な会社は存在しません。どんな会社にも良いところとそうでないところがあるわけで、転職を考えるほどの不満を感じている今の会社にも、たとえば「給料は安いけれど人間関係は良好」といったように何かしら良い点はあるはずなのです。

にもかかわらず、次の会社のいいところだけを見て、マイナス面に目を向けていない人ほど、入社後に「こんなはずじゃなかった…」と後悔しているように感じます。

共通点2|どこに行っても不満ばかり言っている

曽和:転職を考える人の中には、いわゆる他責思考の強い人がいます。「評価されないのは上司に見る目がないから」「給料が安いのはダメ経営者だから」と、不満をすべて他人のせいにしてしまう人です。

このタイプの人は、「もっと自分にふさわしい会社があるはず」とまるで青い鳥を探すように転職を決めてしまいがち。ですが、自分に至らない点はないか自問自答したり、状況を改善するために行動したりすることがないので、次の会社でもことあるごとに「周りが悪い」「こんなところに転職しなければよかった」と不満を溜め込むことになります。

その結果、「この会社もダメだった」と、短期間のうちに退職を繰り返すことになる人も少なくありません。

共通点3|違いを受け入れるのが苦手

曽和:「所変われば品変わる」と言いますが、会社によってそれぞれ習慣や決まりごとが違うのはごく当たり前のこと。その違いを柔軟に受け入れることができない人もリアリティショックを感じやすいと言えるでしょう。

というのも、そのような人の場合、「前の会社ではこうだった」「このやり方はおかしい」という意識が先に立って、なかなか新しい環境に馴染めないケースが少なくないのです。

中には、「前の会社では…」とか「この会社のやり方は…」と口にしてしまい、周囲から浮いてしまう人もいます

曽和:まずは違いを受け入れ、周囲に溶け込む努力をすることが大切と言えるでしょう。

転職してから後悔する人にならないために

曽和転職後のリアリティショックを防いで、後悔のない転職を実現するにはどうすればいいのでしょうか?そのためにやるべきことを2つお伝えします。

転職先の実情をできるだけ知っておく

曽和:まずやるべきことは、入社前の情報収集です。そんなことかと思うかもしれませんが、リアリティショックを防ぐには入社前のイメージと現実のギャップをできる限り無くしておくことが重要です。

そのために、まずおすすめしたいのは口コミサイトです。実際に働いている人の書き込みから、会社の雰囲気や人間関係、評価や昇進の実態など、会社情報や求人票からは見えない定性的な情報を集めることができます

曽和:次に、採用面接とは別に、その会社の人に会ってみるのもおすすめです。企業側としても採用のミスマッチを防ぎたいという思いがあるので、内定が出た後に現役社員との面談を設定してもらえないか相談すれば、応じてもらえるのではないでしょうか。

また、以前その会社に勤めていた人に話を聞くのもいいと思います。ある程度の規模がある会社に限られるかもしれませんが、SNSを使えばOB・OGを見つけることもできるでしょう。実際、私もSNS経由で、以前在籍していた会社の話を聞かせてほしいという依頼を受けたことがあります。

転職先に馴染む努力をする

曽和:やるべきことのもうひとつは、当たり前ですが転職先に馴染む努力をすることです。

周囲の人と積極的にコミュニケーションを取るのはもちろん、まずは、その会社のやり方や風土を受け入れてみてください。たとえば、昔の銀行のように白いシャツがドレスコードになっているなら「青いシャツを着たいのに!」と反発するのではなく、白いシャツを着てみてほしいのです。

先程お伝えしたように「前の会社はこうだった」と伝えたり、我を通したりすることは、周囲の反発を招きます。戦略的に「郷に入れば郷に従え」を実践してみましょう。青いシャツを着るのは、その後でも遅くありません。

それでも「こんなはずじゃなかった…」と感じたら

早期退職は、原則避けるべき

曽和:最後に少々厳しいことをお伝えしますが、私は、「100%満足できる転職」などあり得ないと考えています。

どんな会社に転職しても何かしら「思っていたのと違う」と感じることはあるはずです。だからといって、「この転職は失敗だ!」と簡単に会社を辞めてしまえばどうなるでしょう。次の会社を見つけようとしても、「なぜ前の会社はすぐに辞めてしまったのですか?」と厳しい目で見られることは言うまでもありません

もちろん、「年収600万円と言われたのに実際は300万円だった」などと騙されて入社した場合や、「仕事が過酷すぎる」「パワハラや法令違反が横行している」など、そのまま働き続けると心身の健康を損なってしまう場合は別ですが、そうでない限り、早期退職はキャリアにとって大きなマイナスなのです。

まずは3ヶ月、できれば半年待ってみよう

曽和:そもそも、前述したように新しい環境に馴染むには時間がかかるもの。入社して、自分が周りに受け入れられたと感じられるようになるだけでも3ヶ月はかかります

完璧な会社が存在しないように、良いところがまったくない会社というものも存在しません。「こんなはずじゃなかった」と感じることがあっても、決して焦らずに、まずは3ヶ月、できれば半年間、その会社の良いところに目を向けて周囲に馴染んでいくことを考えてみてください。

転職はゴールではなくスタートです。「転職してよかった」と言えるかどうかは自分次第。「この転職を自分の力で後悔しないものにしよう」という前向きな気持ちでキャリアを切り開いていただきたいと思います。

取材・文/久保田敦大

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この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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