リスク・失敗例も紹介 引き抜き転職にどう応じる?
引き抜きによる転職の打診があったけれど、応じてもリスクはないのだろうか? そもそも違法になるのでは?
そう悩んでいる方に向けて、引き抜きに応じて転職することに違法性があるかどうかや、そのリスク、成功のコツといった基礎知識をご紹介します。
引き抜きによる転職は違法行為?
引き抜きに応じて転職することは違法行為に該当しません。
その理由は、職業選択の自由が日本国憲法で保障されているからです。
日本国憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する
つまり「企業がどんな規則を設けても、憲法で守られている職業選択の自由は侵害できない」ということです。そのため、たとえ引き抜きであっても転職は違法とは言えません。
ただし、前職の顧客リストを転職先に売り込んだなど、職務上知り得た情報を利用して競合他社に転職した場合は、競業避止義務に抵触し、賠償責任を問われる可能性があります。
※競合他社への転職について詳しくは→競合他社への転職は裏切り?うまく転職する方法を徹底解説
引き抜きによる転職の3大リスクとは?
引き抜きによる転職を打診されると「自分の能力を高く評価してもらえた」と嬉しくなりますが、転職にはリスクがあることも忘れてはなりません。
引き抜きによる転職に際して、特に注意すべき3大リスクをご紹介します。
詳しく見ていきましょう。
引き抜き先の期待値が大きい
引き抜き先の企業は、引き抜く人材の「有能さ」に相当大きな期待を持っています。だからこそ、その能力が期待外れだった場合、風当たりが強くなるだけでなく、仕事がやりづらくなったり、評価が下がって想定していた報酬が受け取れなくなったりする可能性もあります。
引き抜きによる転職に踏み切る前に、自分の能力や新しい環境への順応性にどこまで自信があるのかを、自問自答してみましょう。
もし「あまり期待されても困る」という気持ちが少しでもあるのなら、無理をせず断るのも一つの手。引き抜きによる転職には相応の覚悟が必要であることを理解しておきましょう。
提示条件と入社後の条件の相違
「引き抜きの際に提示された条件と実際の条件が違っていた」というのも、引き抜きによる転職にありがちなトラブルです。
「引き抜き打診時に提示されていた給与は、ありえないレベルの時間外手当まで含んだものだった」「聞いていた業務と違う業務を担当させられた」といった事態にならないよう、収入やその他の労働条件は口約束ではなく書面で通知してもらい、その内容をしっかり確認することが必須です。
※詳しくは→雇用契約書がない会社は辞めるべき?対処法・トラブル例も紹介
人間関係のリスクが高い
あなたが「他社から引き抜かれてやってきた人材」であることが社内に知られている場合、周囲はあなたのことを非常に能力が高い人だと認識します。
その結果として「能力が高いのだからこのぐらいの仕事はできて当然」と思われ、少しでも失敗すると「実は仕事ができない人なのでは?」と落胆されるといったケースも少なくありません。
「引き抜きによって転職してきた自分は、周囲からの見られ方が違う」と心に留めておくこと。その上で謙虚な姿勢で仕事に臨み、周りに溶け込むために積極的にコミュニケーションをとることが大切です。
引き抜きによる転職のメリット・成功のコツ
ここでは、引き抜きによって転職する3つのメリットと、成功させるためのコツを紹介します。
引き抜きによる転職の3つのメリット
まずは、引き抜きに応じるメリットを3つに分けてご紹介します。
1収入がアップする
引き抜きによる転職の最大のメリットといえるのが収入アップです。
引き抜きは転職者側が企業に応募する一般的な転職と違い、会社側から能力や経験を認められた結果行われるものです。
引き抜きを行う企業には「どうしてもこの人材が欲しい」という強い意思があるため、高い報酬が提示されるケースが多く、特に大手企業から中小企業に引き抜かれた場合、1.5倍もの収入アップを叶えた人もいるようです。
2キャリアアップできる
引き抜きによる転職では、管理職として大きな仕事を任されるなど、現職よりもキャリアアップできる条件を提示されるケースも少なくありません。
キャリアアップのしやすさも、通常の転職よりも有利といえます。
3転職活動の手間を省ける
「転職の手間が省ける」というのも引き抜きに応じるメリットのひとつ。通常、転職は書類選考や面接というステップを経て行います。準備には多くの時間がかかりますし、平日しか面接ができない場合、仕事を早退したり休んだりする必要も出てきます。
こうした手間を省いて転職することができるのは、引き抜きによる転職の大きな利点といえるでしょう。
引き抜きによる転職に成功するコツ
引き抜きによる転職の成功のコツは「条件だけに飛びつかず、広い視野を持って検討する」ことです。
引き抜き先の企業は収入面やキャリアなど、自社に転職するメリットを強調してスカウトしてくるでしょう。しかし、そうした売り文句を鵜呑みにして入社したせいで、隠されていた問題に気づけず転職を後悔したというケースもあります。
転職先の経営状況やコンプライアンス、社風などをしっかりと調べ、その会社や仕事内容に本当に魅力を感じているかをよく考えましょう。
コラム:引き抜きとヘッドハンティングはどう違う?
引き抜きとヘッドハンティングは、どちらも「人材を引き抜く」という行為ですが、その違いは「引き抜き対象の人材に一定以上の役職がついているかどうか」です。
ヘッドハンティングとは、その名の通り会社の「ヘッド=指導者やリーダー」を引き抜く行為のこと。役員や幹部クラスなど、その会社の経営や存在に大きく関わる人材が対象となります。
これに対して引き抜きは、役員や幹部クラスに限定されず「広く優秀な人材を引き抜く」場合によく使われます。
とはいえ、はっきりとした区別があるわけではないため、混同されて使われているのが現状です。
引き抜きによる転職を断りたいときの対処法
引き抜きによる転職を断る際、相手との関係性を考えてなるべく波風は立てたくないと思う方は多いはずです。そんなときの断り方をご紹介します。
引き抜きによる転職の断り方
「この引き抜きの話は断りたい」と思った場合は、なるべく早く口頭(電話)で断るのが良いでしょう。お互い「結論が出るまでの時間が無駄だった」と感じずに済みます。
辞退の意志の伝え方は「今後その企業に転職する可能性があるかどうか」で変わってきます。それぞれの場合の例文とポイントは以下の通りです。
A今後その企業に転職することはない場合
「今後もそこには転職しない」という意思がある場合は、丁寧さは心がけつつも、含みを持たせずはっきりと断ることが重要です。
Bいずれその企業に転職を希望するかもしれない場合
また、将来的な転職の可能性に備え、引き抜き先との良好な関係を維持するため、メールでも連絡を入れておくことをおすすめします。
「今回は断りたいが、いずれはそこに転職を希望するかもしれない」という場合は、引き抜きによる転職の話を完全にシャットアウトするのではなく、あくまで「見送り」であるという意思を伝えましょう。
<メールでの断り方例文>
先日、取り急ぎ電話にてご連絡致しました通り、今回の転職のお話は見送らせていただくという結論に至りました。
大変光栄なお話をいただきながら、ご期待に沿えない返事となりましたことを重ねてお詫び申し上げます。
しかし、今後さまざまな条件が整えば前向きに転職を検討させていただきたいと考えております。
もしまたこのような機会がございましたら、その際は何卒よろしくお願いいたします。
メールでは見送り理由を述べた上で、将来的には転職を希望する可能性もあるという含みを持たせておくのがおすすめです。
引き抜きによる転職を断ることは失礼か
引き抜きによる転職を断っても失礼ではありません。転職は人生を大きく左右するため、慎重に検討することは当然ですし、その結果として断ることもあり得ます。
ただし、返事をいつまでも引きのばすことは失礼にあたります。断る場合、数日から遅くとも1週間以内には返事をすること。もちろん、先方から「〇日以内に返事をしてほしい」といわれた場合、その期日までに結果を伝える必要があります。
まとめ
引き抜きによる転職は収入アップ・キャリアアップなどの大きな魅力もある反面、さまざまなリスクもはらんでいます。
メリットとリスクの両面を冷静に見据え、社風や転職後の自分の立場など「条件だけでは見えない部分」にも想像をめぐらせた上で、転職を決断しましょう。