下がる理由やデメリットを紹介 基本給が下がるのは違法?
基本給とは、交通費や残業代などの各種手当を含まない基本賃金を指します。
この記事では、基本給が下がることの違法性、下がる理由やデメリット、対処法などを解説いたします。
※基本給について詳しくはこちら→>基本給とは?手取りや手当との関係も解説 金額に関するQ&A付
基本給が下がるのは違法?
基本給を労働者の同意なしに下げるのは違法
基本給が会社からの告知なしに勝手に下げられることは違法です。なぜなら法律上、会社側が労働者の同意なく、勝手に就業規則や労働条件を変えることはできないからです(労働契約法第9条)。
就業規則の変更には、その必要性や妥当性などの合理的な理由が必要になるため、会社側はむやみに基本給を下げることはできません。
※参考:労働契約法第9条
経営状況によっては違法にならないケースも
会社の経営状況によっては「労働者の同意なしに基本給を下げても違法ではない」とする判例があります(2004年 ノイズ研究所事件)。
全従業員の給料をカットしなければ倒産するほど経営的に追い込まれている会社の場合、労働条件の変更について従業員の同意を得るために説明・交渉を何度も行うなどの努力をしていたり、減給を補填するために各種手当を用意していたりする場合、基本給の減額が認められることも。
逆に、それでも基本給の減額をかたくなに認めず、抗議し続ける場合は、やむを得ず整理解雇される可能性もあります。
下記の記事では、いくつかの質問にYes,Noで答えるだけで違法な給料カットかどうかがわかるフローチャートを紹介しています。給料カットに納得できない場合はチェックしてみましょう。
減給分を手当で補填する企業もある
会社によっては、基本給が下がった分、役職手当などの手当で補填する場合もあります。これには固定給を下げ、変動給を上げることで、業績不振に陥ったときに人件費の調整をしやすくする狙いがあります。
また、一見すると支給額に大きな減りがないので、従業員側の反感を買わないようにするという目的もあるようです。
減給分を補填されることのデメリットは「手当で補填される場合は翌年も社会保険料が維持される」で解説します。
基本給が最低賃金を下回るのも違法
法律上、基本給を最低賃金以下に引き下げることはできません。なお、最低賃金は都道府県によって異なります。
自分の基本給が最低賃金を下回っているかどうかは、月給を時給に換算することで確認できます。ただし、基本給には毎月支払われる諸手当のうち、最低賃金の計算に含まれるものと含まれないものがあるので注意が必要です。
東京都勤務で基本給が18万円のケースについて、実際に計算してみましょう。
時給換算の計算式
(最低賃金の対象となる賃金の合計×12ヶ月)÷(年間労働日数×1日の労働時間)
※最低賃金の対象となる賃金の合計とは、基本給と毎月固定で支払われる諸手当を合計した金額(通勤手当や残業代を除く)
条件
- 東京都勤務(最低賃金1,013円)
- 基本給15万円
- 通勤手当1万円
- 残業代2万5,000円
- 職務手当3万円
※通勤手当と残業代は最低賃金の計算に含まれないため、この場合の月の合計賃金は18万円
- 年間労働日数は250日で、1日の労働時間は8時間
計算式
(18万円×12ヶ月)÷(250日×8時間)=1,080円
→東京都の最低賃金1,013円を上回っているので、合法。
※参考
→最低賃金額以上かどうかを確認する方法|厚生労働省
→最低賃金の対象となる賃金|厚生労働省
会社が基本給を下げようとする理由
会社が基本給を下げる理由としては、下記の2つが考えられます。
業績不振で給料をカットせざるを得ないから
会社の業績が悪く、全従業員の給料をカットしなければ倒産してしまう場合、基本給が一律で下がることがあります。
この場合、基本給を下げざるを得ない理由や期間、減給額(減給率)などを会社から事前に説明されるはずです。労働条件の変更内容や理由について周知されていない場合は、会社側に説明を求めましょう。
個人の成績が悪いと評価されたから
個人としての成績が悪い、または会社にとって不利益となる行動をしたと評価された場合は、懲戒処分として基本給が下げられることも。ただし、懲戒処分による減給の場合、減給総額は月給の10分の1以下とされています(労働基準法第91条)。
また会社側は、懲戒処分として個人の基本給を減額するためには「就業規則に基本給減額の規定があるか」「その決定が合理的で、決定過程に不公正な手続きがなかったか」などの要件を満たす必要があります。これらが守られていないと感じた場合、抗議しましょう。
※参考:労働基準法第91条
コラム:公務員は景気によって基本給が下がることも
公務員の給与は、民間企業の給与に準拠して改定されるため、景気が悪くなると基本給が下がる可能性があります。
例えば、リーマンショックを受けた翌年の2009年の国家公務員の平均年間給与は、前年と比べて15.4万円も下がっています。東日本大震災が起こった後は、緊急事態による特例措置として、2年間で総額101.7万円も減額されています。
また、人事院の2019年の調査によると、公務員の月給とボーナスが民間企業の平均を下回っていることがわかりました。格差を埋めるために、人事院はプラス改定を毎年求めていますが、不景気の影響で民間企業の賃上げの動きが鈍くなっていることも相まって、公務員の2019年度の平均給与は、2018年度からわずか183円上がっただけでした。
経済政策によって景気が回復しているとはいえ、給与が大きく上がることはあまりないということがわかります。
※参考:人事院勧告(国家公務員の給与)
基本給が下がるデメリット
基本給が下がると、労働者にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
残業代、賞与、退職金が減る
残業代や休日出勤手当、賞与(ボーナス)、退職金は基本給をもとに計算されるため、基本給が下がるとそれらの金額も連動して下がってしまいます。
以下では、基本給が20万円から18万円に下がった場合の、残業代・賞与・退職金への影響をシミュレーションします。
残業代
基本給が20万円から18万円に下がった場合の残業代は、月に2,975円下がる。
条件
労働時間が8時間の人が、1ヶ月(21営業日)で20時間残業(※各種手当は除外)
基本給20万円のときの残業代
◇1時間あたりの賃金
20万円÷21日÷8時間=1,190円
◇残業代
1,190円×1.25×20時間=29,750円
基本給18万円のときの残業代
◇1時間あたりの賃金
18万円÷21日÷8時間=1,071円
◇残業代
1,071円×1.25×20時間=26,775円
賞与
基本給が20万円から18万円に下がった場合の賞与は、10万円下がる。
条件
賞与の支給時期は1年のうち夏冬の2回で、あわせて5ヶ月分
基本給20万円のときの賞与
基本給18万円のときの賞与
退職金
退職金の計算方法は会社によって変わりますが、ここでは「基本給×勤続年数と退職理由によって設定された数値」という基本給連動型で計算します。数値も会社によって変わるので、ここでは国家公務員の退職手当支給率を使います。
基本給が20万円から18万円に下がった場合の退職金は、約39万円下がる。
条件
勤続年数20年で自己都合退職。その場合の数値は19.6695。
基本給20万円のときの退職金
基本給18万円のときの退職金
※引用:国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)
手当で補填される場合は翌年も社会保険料が維持される
基本給が下がった分を手当などで補填されてしまうと、年収には変化がないため、毎月給料から天引きされる社会保険料は変わりません。本来、厚生年金や健康保険は基本給や諸手当を含む「報酬」で算定されるため、ただ基本給だけが減額される場合であれば、それに応じて負担が軽くなるはずです。
しかし、減額分を他の手当などで補填されてしまうと、残業代やボーナスなどは減るのに毎月の控除額は変わらないため、収支で見ると損になります。
例えば、基本給が20万円から18万円に下がった人が、下がった2万円分を手当で補填された場合、補填されない場合よりも1年間で社会保険料を3万4,524円多く支払うことになります。補填の割合が高いほど、社会保険料も割高になり生涯賃金が減ってしまうというデメリットがあるのです。
条件
- 基本給20万円から18万円に減額されたが、役職手当2万円で補填された
- 東京都在住の30代
- 賞与は夏冬の年2回で5ヶ月分
基本給20万円の場合
基本給20万円の場合の、1年間の賞与と社会保険料の差額は、65万4,760円。
◇1年間の賞与
20万円×5ヶ月=100万円
◇1年間の社会保険料
2万8,770円×12ヶ月=34万5,240円
◇差額
100万円-34万5,240円=65万4,760円
◇社会保険料の内訳
・健康保険料:(標準報酬月額×健康保険料率9.87%)÷2で算出
→(20万円×9.87%)÷2=9,870円
・厚生年金保険料:(標準報酬月額×厚生年金保険料率18.30%)÷2で算出
→(20万円×18.3%)÷2=1万8,300
・雇用保険料:総支給額×雇用保険料率0.3%で算出
→20万円×0.3%=600円
合計:2万8,770円
※健康保険料と厚生年金保険料は会社と折半するため、半額になる。
基本給18万円の場合
基本給18万円の場合の、1年間の賞与と社会保険料の差額は、58万9,284円
◇1年間の賞与
18万円×5ヶ月=90万円
◇1年間の社会保険料
2万5,893円×12ヶ月=31万716円
◇差額
90万円-31万716円=58万9,284円
◇社会保険料の内訳
・健康保険料
(18万円×9.87%)÷2=8,883円
・厚生年金保険料
(18万円×18.3%)÷2=16,470円
・雇用保険料
18万円×0.3%=540円
基本給18万円に役職手当2万円を補填された場合
基本給18万円に役職手当2万円を補填された場合の、1年間の賞与と社会保険料の差額は、55万4,760円。
◇1年間の賞与
18万円×5ヶ月=90万円
◇1年間の社会保険料
2万8,770円×12ヶ月=34万5,240円
90万円-34万5,240円=55万4,760円
※1年間の社会保険料は基本給20万円の場合と同じ
※健康保険料と厚生年金保険料は、加入している保険組合の保険料金額表を確認すればすぐに金額がわかります。
※参考:令和2年4月分(5月納付文)からの健康保険・厚生年金保険の保険料諸表|協会けんぽ
突然基本給が下がった場合の対処法
知らないうちに基本給が下がっていた時は、以下のフローで対処しましょう。
- 上司や人事・経理担当者に確認を取り、説明を求める
- 納得いかない場合はそのまま上司や人事・経理担当者と話し合う
- 聞き入れてもらない場合は労働基準監督署や弁護士に相談する
会社からの告知なしで突然基本給が下げられていた場合は、上司や人事・経理担当者に確認を取り、どうして基本給が下がったのか説明してもらいましょう。
給料をカットしないと倒産するなどの理由がない限り、告知なしに基本給を下げることは違法であるため、基本給の減額は無効になります。会社に取り合ってもらえず、そのまま基本給の減額が強行されてしまった場合は、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
まとめ
労働者の同意なく基本給を下げるのは違法です。ただし、会社の経営が悪化し、給料をカットしないと倒産するという場合は、同意なしで基本給を下げられることがあります。
基本給は残業代や賞与、退職金を計算する上で基礎となるお金。黙っていると生涯賃金にも大きな影響が出ますので、告知なく勝手に下げられていた場合は、そうしなければならない理由がきちんとあるのか説明を求めましょう。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。