期限はいつ? 退職を撤回できるケース・拒否されるケース
退職を上司に申し出た後に、やはり思いとどまって撤回することはできるのでしょうか。
退職の申し出が撤回できる場合とできない場合、退職を撤回した後の注意点について解説します。
退職の申し出は撤回できる?期限はある?
退職を申し出た後、いつまでなら撤回できるのでしょうか。退職の申し出を撤回できるケース・できないケースを紹介します。
退職の申し出を撤回できるケース
まずは退職の申し出が撤回できるケースをくわしく解説します。
退職願の承諾が本人に伝わっていない場合
退職「願」を受理・承諾したという会社側の意思が、まだ退職を申し出た本人に伝わっていない場合は、退職の申し出を撤回できます。
一方、退職「届」を提出していた場合、退職の申し出を撤回することは困難でしょう(※くわしくは「退職届を提出していた場合」にて解説)。
退職交渉や退職願の提出は、直属の上司に対して行うのが一般的ですが、雇用主として承諾するのは、社長や人事部長などの人事権者です。
退職願が人事権者に渡り、退職の申し出が承諾された旨が労働者本人に伝わると、退職が決定したことになります(1987年 大隈鉄工所事件)。
※承諾された後でも会社の同意があれば撤回できます。
退職の申し出を撤回したいと思ったら、退職願が受理・承諾されてしまう前に、すぐに上司や人事部長に伝えましょう。
なお、退職の申し出の撤回を伝えたつもりでも、後になって「撤回と言われた記憶はない」と言われるトラブルに発展する可能性があります。これを回避するために、「撤回通知書」を上司や人事部長に提出し、書面に残しておくのも選択肢のひとつです。
ただし、撤回通知書はあくまで念書で、法的効力があるわけではありません。
撤回通知書は以下の雛形を参考にしてください。
しつこく退職勧奨された場合
会社から「自主的に退職しなければ解雇する」と脅されるなど、しつこく悪質な退職勧奨の末に退職願(届)を提出してしまった場合、退職の申し出を取り消すことができます。
なぜなら、しつこい退職勧奨は労働者の権利を侵害する不法行為とされているからです(民法第709条)。
不法行為として、退職を取り消すことのできるケースは以下の通りです。
- 強迫(「退職しなければ解雇する」と脅されて退職願を提出させられた)
- 詐欺(騙されて退職願を提出させられた)
- 錯誤(本当は何の過失もないのに、退職させられる原因は自分にあると勘違いして退職願を提出してしまった)
上記にあてはまらない退職勧奨の場合でも、退職「願」であれば、会社に承諾される前なら撤回できます。
ただし、会社が退職を勧めてくる状況(経営不振による人員整理など)を考慮すると、退職の承諾までのスピードは通常よりも速くなる可能性があります。
※参考:民法第709条
退職の申し出の撤回が拒否されるケース
退職の申し出の撤回が拒否されてしまうケースを解説します。
退職届を提出していた場合
しつこく悪質な退職勧奨を受けていた場合を除いて、退職「届」を提出してしまっていた場合、退職の申し出の撤回は難しいでしょう。
退職届は労働契約を労働者側から一方的に解約する書類です。会社の承諾は必要ないため、受け取った人の人事権の有無にかかわらず、提出した時点で退職が受理されたことになります。
そもそも、退職届と退職願にはどのような違いがあるのでしょうか。下記の表で、それぞれの役割や撤回の可否などを確認しておきましょう。
退職届は、上司にパワハラを受けているなど「一刻も早く会社を辞めたい」「今後退職を撤回することはない」と確信している場合に限って、提出するのがいいでしょう。
しかし、会社によっては退職届を退職願と同じく「退職させてほしい」とお願いするための書類として扱われていることもあるので、もし撤回したい場合は早めに申し出るのが大切です。
すでに後任が決まっていた場合
退職の申し出を撤回することで会社に迷惑がかかる場合は、撤回が拒否されることがあります。
例えば、すでに後任の担当者に業務が引き継がれてしまった場合や、代わりとなる新しい人材の採用選考が終わって内定を出してしまっていた場合などです。
一般的に、退職の申し出を撤回することで会社に大きなダメージを与え、多大な迷惑をかけるような特別な事情や、退職手続き・次の採用選考を進めていることを労働者が十分に知ることができる状況だった場合は、退職の申し出の撤回が難しくなるとされています(1986年 佐土原町土地改良区事件)。
※参考:(81)【退職】退職届の取下げなど|雇用関係紛争判例集|労働政策研究・研修機構(JILPT)
退職の申し出を撤回する場合の注意点
退職の申し出を撤回するデメリットを3つ紹介します。退職の申し出を撤回すべきかどうか迷った場合は、モチベーションや職場での人間関係などを基準に考えましょう。
働くモチベーションが保てない
退職の申し出を撤回しても退職しようと思った根本原因が解消されない限り、また退職が頭をよぎる可能性は捨てきれません。
働くモチベーションを維持できるか不安があるのなら、安易に退職の申し出の撤回をしない方が良いでしょう。
会社からの信用を失って気まずい
退職の申し出を撤回したとしても、退職を考えていたという事実を会社に知られてしまうため、社内で信用を失い、上司と気まずくなることも。
また、長期的に会社に貢献する気がないと見なされ、出世コースから外されることもあるでしょう。
肩身が狭い思いをしながら会社に居続けることは、大きなストレスになります。そんな思いをしてまでして会社に残るメリットがあるのか、もう一度よく考えましょう。
次に退職するときに伝えづらい
退職の申し出の撤回により上司と気まずくなることで、再び退職を考えたときに相談・報告がしづらくなる可能性もあります。
次は本当に退職したいと思っていても、どうせまた撤回するのではないかと疑われ、退職交渉をまともに取り合ってもらえない可能性も。その場合、やりがいを感じられないまま無理をして仕事をし続けなければなりません。
特に待遇の改善を条件に退職の申し出を撤回していた場合、次の退職の申し出はさらに切り出しにくくなります。その時のことまで考えて、退職の申し出を撤回するかどうか決めましょう。
コラム:退職の申し出を撤回したら減給された…違法?
「退職の申し出の撤回を認める代わりに減給する」などの懲戒処分があった場合、その処分は違法として無効にできます。
法律で、労働者の同意のない不利益変更は違法だと定められているからです(労働契約法第9条)。
会社の承諾の意思が本人に伝わるまでは、退職の申し出の撤回は本人の自由。そもそも懲戒処分をしていい理由にはなりません。退職の申し出を撤回することで、少なからず会社に迷惑をかけてしまったと負い目を感じるかもしれませんが、減給などの労働条件の変更に同意する必要はありません。
まとめ
退職は、会社が退職願を受理・承諾したという旨が本人に伝わる前であれば、撤回できます。ただし、迷っている間に手続きが進められていて、いつのまにか撤回ができなくなる可能性も。
手遅れになって後悔しないように、撤回したい場合は上司や人事権を持つ人にいち早く伝えましょう。反対に、撤回した後のことが少しでも不安な場合は、会社に残るメリット・デメリットを慎重に考えてから判断しましょう。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
社会保険労務士
三角 達郎
三角社会保険労務士事務所