拒否できる?希望の出し方も解説 配置転換とは?
もしも会社から配置転換を命じられた際、異動したくないと思ったら拒否できるのでしょうか?また、逆に配置転換の希望を出すことはできるのでしょうか?
配置転換の意味やメリット・デメリット、配置転換を拒否できる可能性や、希望の出し方などについて解説します。
配置転換とは?
配置転換の意味や、配置転換が行われる理由を説明します。
職務内容・勤務地を変更する人事異動のこと
配置転換とは人事異動の一つで、とりわけ職務内容や勤務地が変わる異動を指します。配転とも呼ばれ、大企業ほど頻繁に行われる傾向にあります。
ただし、配置転換の定義は曖昧で、具体的に何を指すのかは会社や個人の認識によって異なります。配置転換が限定的な意味で使われる場合の例を紹介します。
<配置転換の例>
1「勤務地の変更」を配置転換と呼ぶA社の場合
東京営業所から大阪営業所に異動する=配置転換
2「職務内容の変更」を配置転換と呼ぶB社の場合
営業課からマーケティング課に異動する=配置転換
3「職位の変更」を配置転換と呼ぶC社の場合
一般社員から管理職に昇進する=配置転換
配置転換が行われる理由
配置転換は、労働力の調整や能力開発を理由に行われます。具体的には以下のような理由が挙げられます。
「欠員を補充するため」の配置転換は、労働力が足りていない部門に人材が異動することで、社員一人ひとりの労働量を適切なレベルに保つことを目的としています。
「赤字部門の雇用を調整するため」の配置転換は、人材の配置を変えることによって、各部門の売上と雇用のバランスを取ることを目的としています。
「社員の能力を伸ばすため」の配置転換は、各社員が自分の能力を生かせる環境で働いてもらうことを目的としています。
配置転換と聞くと「仕事ができないから異動になった」と思い込みがちですが、実際はさまざまな会社の事情・背景から行われていることがわかります。あまりネガティブに捉えすぎないようにしましょう。
配置転換にメリットはある?
配置転換は基本的に会社の都合で命じられますが、働く人にメリットはあるのでしょうか?ここでは、配置転換のメリット・デメリットを紹介します。
配置転換の3つのメリット
配置転換には「多方面の能力が身につく」「自分の適性がわかる」「社内に人脈ができる」の3つのメリットがあります。
多方面の能力が身につく
配置転換を通してさまざまな職場・業務を経験することで、多方面の知識や技術が身に付き、結果的に自分の能力を高めることができます。
例えば、以前の部署では得られなかった知識や新しい環境への適応力・コミュニケーション力は、配置転換がきっかけになって身に付くことがあります。
自分の適性がわかる
配置転換で複数の業務をこなすことで、作業の得意・不得意といった自分の適性がわかるようになります。
自分の適性を把握できると、得手不得手を前提に仕事の進め方を考えられたり、苦手な部分は周りに協力してもらったりと、効率的に働くことができます。
また、自分の得意な部分を積極的に伸ばしたり、能力を活かしてチームに貢献したりすることもできます。
社内に人脈ができる
配置転換ではさまざまな部署に異動するため、社内に知り合いが増え、人脈が広がります。
社内に人脈ができると、普段の仕事を行う上で協力してもらいやすくなったり、異動を考えたときに希望の部署の情報を手に入れられたりするため、より会社で働きやすくなります。
配置転換の3つのデメリット
配置転換は個人の意思にそぐわない形になることもあり、「専門性を磨けない」「転勤で生活環境が変わる」「精神的な負担がかかる」といったデメリットも発生します。
専門性を磨けない
配置転換が頻繁に行われると、一つの業務にじっくり取り組むことができないため、専門性を磨くのが難しくなります。
また、自分に向いている仕事が見つかっても、次の異動を命じられたらその業務を続けることはできません。
転勤で生活環境が変わる
配置転換で勤務地が変わると、生活環境が変わり私生活に影響が出ることも。
子どもがいる場合、新しい保育園までの距離が遠く迎えが遅くなったり、実家から遠ざかって親の介護に充てられる時間が減ったりします。
配置転換によって生活に大きな支障が出る場合は、まず上司に事情を相談してみましょう。
精神的な負担がかかる
配置転換後は仕事内容や人間関係などが大きく変わるため、新しい環境に慣れるまでは気を張って精神的な疲れがたまります。
特に転勤になった場合は生活環境も変わるため、仕事を終えても不便・不慣れなことが続き、さらに疲労を感じることもあります。
異動後は自分だけで抱え込まず、周りに頼ることが大切。仕事でわからないことがあれば積極的に質問しましょう。
仕事を早く覚えようとする前向きな姿勢が伝わり、受け入れてもらいやすくなるはずです。
配置転換を拒否することはできる?
望まない配置転換を命じられた場合、拒否することはできるのでしょうか?
実際に「拒否できた・できなかった」ケースとあわせて紹介します。
配置転換は原則として拒否できない
正社員の場合、会社から命じられた配置転換を拒否することは原則できません。
なぜなら、企業は労働者に対して配置転換を命じることができる「配転命令権」を持っているためです。
一般的には、業務上の都合によって配置転換を命じられる旨が就業規則に定められています。
命令に従わない場合は解雇の可能性も
配置転換の命令に従わない場合は、最悪の場合、解雇される可能性もあります。
難しい配置転換を命じられたときは、まずは人事や上司に事情を相談してみましょう。相談の結果、会社が配置転換の内容を考え直してくれる場合もあります。
相談を尽くしても会社との折り合いがつかない場合、その後の流れは会社や個々の状況によって異なります。
すぐ解雇通知を渡される場合もあれば、諭旨退職といって会社から退職を勧告され、自主退職を促されることもあります。勧告に従わない場合は懲戒解雇になります。
※諭旨退職について詳しくは→諭旨退職なら再就職に影響ないって本当?
※懲戒解雇について詳しくは→懲戒解雇とはどういう意味?
配置転換を拒否できる5つのケース
配置転換は、例外的に拒否できるケースがあります。拒否できるのは、以下5つのいずれかに当てはまる場合です。
1、2は書面で確認できるため、条件に当てはまるか判断することは簡単です。3~5に当たるかどうかは、以下の判例のように個別の事情に大きく左右されます。
配置転換を拒否できた判例
やむを得ない事情がある場合は、配置転換に従わなくて良いこともあります。
ネスレ日本事件は、家族の介護を理由に「5.労働者が大きな不利益を負う場合」に当てはまるとされ、配置転換が無効になった判例の一つです。
〈ネスレ日本事件の概要〉
姫路工場から茨城県霞ヶ浦工場への異動を命じられた従業員2人が、配置転換命令は無効であるとして提訴した。
〈裁判の結果〉
従業員の家族介護の状況を考えると、従業員は転勤に伴って非常に大きい不利益を被ると判断された。会社の配置転換命令権の濫用として認められ、異動は無効になった。
※参考→2-2「配置転換」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|裁判例|厚生労働省
配置転換を拒否できなかった判例
配置転換に業務上の必要性がある場合、異動したくない理由があっても配置転換命令を拒否できないこともあります。
東亜ペイント事件は、配置転換を拒否できなかった例の一つです。
〈東亜ペイント事件の概要〉
家庭の事情を理由に神戸営業所からの転勤命令に2回応じず、懲戒解雇された元従業員が、転勤命令と懲戒解雇は無効であるとして提訴した。
〈裁判の結果〉
勤めていた会社は転勤が頻繁に行われており、元従業員は勤務地の限定なしでこの会社に採用された。そのため、転勤には業務上の必要性が十分あると判断され、配置転換は無効にならなかった。
※参考→2-2「配置転換」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|裁判例|厚生労働省
配置転換の希望を出したいときは?
自分から希望を出した異動についても、配置転換と呼ぶ場合があります。配置転換の希望(異動希望)の出し方や、希望が通った事例を紹介します。
配置転換の希望の出し方【3つのステップ】
配置転換の希望を出すときは、以下3つのステップを踏みましょう。
まずは異動希望にまつわる人事制度がないか調べた上で、その内容について理解しましょう。
上司に相談するときは、異動を考えている理由を伝え、具体的な動き方について確認しましょう。
その上で、必要な場合はフォーマットに沿って異動希望(異動願)を提出しましょう。組織への貢献意欲が伝わるような内容にすることが大切です。
※配置転換を希望する理由の書き方や例文について詳しくは→異動希望の出し方ガイド|理由の例文・書き方のコツ
コラム:特別な事情で配置転換の希望を出す場合
うつ病やパワハラなどの特別な事情がある場合は、上記3つのステップだけでなく、以下の内容も参考にして配置転換の希望を出しましょう。
うつ病などの病気の場合
うつ病で配置転換を考えているなら、医師の診断書を用意し、今の職場では心身への影響があると人事に伝えましょう。特別に配慮してもらえる可能性もあります。
配置転換の希望が通らなかった場合は、在宅勤務に切り替える、休職するなどの選択肢もあります。これらの選択肢を取っても事態が好転しない場合や、そもそも在宅勤務や休職が難しい場合は、退職・転職を検討しましょう。
パワハラを受けている場合
パワハラを受けている場合、被害について人事に相談し、配置転換の希望を伝えましょう。
異動すると仕事内容や勤務地は変わってしまいますが、同じ会社にいながら新しい環境で働くことができます。
中には、パワハラの加害者とは距離を置きたいけれど、今の仕事や職場からは離れたくないと考えている人もいるかもしれません。その場合は、パワハラの加害者を配置転換させることはできないか人事と相談してみましょう。
※パワハラの対処法や相談先など詳しくは→パワハラで退職すべき? 辞めない方法は? 事例から対処法まで
配置転換の希望を通しやすくするポイント
配置転換の希望を通しやすくするポイントは、自分が異動する利点を会社に理解してもらうことです。そのために、以下1、2を実践してみましょう。
- 自分の異動によるメリットが伝わる資料を用意する
- まずは今の仕事で成果を出してから希望を出す
自分が異動するメリットをわかりやすく伝えるために、資料は数字で裏付けされたものを用意しましょう。
例えば、これまでの営業成績が一覧化された書類や、自分が異動した場合の利益を計算した事業計画書などが資料として有効です。
これまでの実績や能力に自信が持てない場合は、いきなり配置転換の希望を出すのではなく、今の部署で結果が出るまで努力するのも一つの手です。
実力がつけば、希望の部署が配置転換を喜んで受け入れてくれるかもしれません。
まとめ
配置転換は、社員の勤務地や仕事内容がこれまでと変わる状況を指します。
正当性のある配置転換の命令は基本的に断ることができません。
デメリットのイメージが強い配置転換ですが、能力を高められる、人脈が広がるといったメリットも考慮しつつ、配置転換を受け入れるか、それとも退職・転職するかを慎重に考えましょう。
この記事の監修者

社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。