労働者にとってのリスクや回避策 二重派遣とは
非正規雇用で働く人が年々増えている中で「二重派遣」という違法行為がたびたび問題になっています。
この記事では、二重派遣が働く人にどのようなデメリットをもたらすのか、回避するにはどうすべきかをわかりやすく解説します。
二重派遣とは?
派遣先の指示で別企業に派遣されること
二重派遣とは、派遣先の企業が、派遣会社から受け入れた派遣社員をさらに別の会社(注文者)に派遣し、その会社の指揮命令下で働かせることを指します。
この場合、もともと派遣先だった企業は「仲介先となる二重派遣元企業」になり、注文者は「派遣先企業」という関係性になります。
例えばIT業界では、客先常駐という形でエンジニアやプログラマーなどを二重派遣しているケースが多くあります。
「契約上の派遣先の会社と実際の勤務先が異なる」という働き方が定着していると、本来働くはずだったところとは別の会社に派遣されても、それが二重派遣だということに気付きにくくなります。
二重派遣のデメリット・問題点
二重派遣で働くことによって、派遣労働者には下記のようなデメリットがあるとされています。
- 給与が本来もらえる金額より少なくなる
- 仕事上のトラブルに対応してもらえない
給与が本来もらえる金額より少なくなる
二重派遣で働くことによって、実際に手元に残る給与の金額が、本来もらえるはずの金額よりも少なくなることがあります。
例えば派遣先Bが派遣会社Aから30万円で派遣労働者を受け入れた場合、通常は派遣会社Aによって30%の仲介・派遣手数料が差し引かれ、21万円が派遣労働者の手元に残ります。
一方の二重派遣では、30万円で派遣労働者を受け入れた派遣先Bが利益を得るために、さらにマージンを上乗せした35万円で、派遣労働者を注文者Cに供給します。
給与の支払いは派遣会社Aが行うため、派遣先Bと注文者Cの間でどのようなやり取りが行われていようと、派遣労働者の手元に残る金額は21万円です。
しかし、仮に注文者Cが派遣会社Aから直接派遣労働者を受け入れていた場合、本来35万円から30%の仲介・派遣手数料を差し引いた24.5万円が、派遣労働者の給与となっていたはずです。
こうした不当な中間搾取(中抜き、ピンハネ)が横行し、派遣労働者の待遇悪化につながりやすいのが、二重派遣の大きなデメリット・問題点です。とりわけIT業界をはじめとする多重下請け構造となっている業界では、さらに仲介会社が介在して「多重派遣」状態になるケースがあります。
仕事上のトラブルに対応してもらえない
二重派遣は契約関係や責任の所在があいまいになるため、仕事上のトラブルが起きた場合、派遣先にも二重派遣先にも対応してもらえないことがあります。
本来であれば、派遣労働者の労働条件や安全衛生に関して、派遣会社と派遣先がお互いの責任範囲を理解した上で、適切な連携を図ることが求められます。
しかし、そこに注文者が新たに加わることで、各社の責任範囲があいまいになり、いずれの会社も責任を取らないというケースが考えられるのです。
例えば、就業中に怪我をしても労災保険で補償してもらえなかったり、給与の未払いが起こってもすぐに振り込んでもらえなかったりする可能性があります。
二重派遣は違法!派遣先と注文者に罰則も
二重派遣はれっきとした違法行為です。
職業安定法第44条違反として、派遣先と注文者が罰則を受けます。
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、またはその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
職業安定法 第44条(労働者供給事業の禁止)
罰則内容は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされています。この他に、事業停止や派遣事業の許認可取り消し処分になることもあります。
また「中間搾取」が認められると、労働基準法第6条に抵触する場合もあります。
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
労働基準法 第6条(中間搾取の排除)
コラム:なぜ企業は二重派遣をするの?
二重派遣が発生する背景として、派遣先や注文者に下記のようなメリットがあることが考えられます。
- 仲介先となる二重派遣元企業が、派遣事業で仲介手数料を得ることができる
- もしくは仲介先となる二重派遣元企業は派遣の許可を取らずに、準委任契約や業務委託で労働者を現場に送り込むことができる
- もし二重派遣先の職場で労働者がトラブルに巻き込まれても、注文者は直接の雇用契約がないため責任を負わなくていい
- 要望に合った人材が提供されるため、注文者は採用の手間が省け、人手不足を解消することができる
企業にとっては上記のメリットがあっても、派遣労働者は安く買い叩かれる一方です。
そのため、厚生労働省は立場が弱くなりがちな派遣労働者を守り、不適切な派遣事業を根絶するための活動を進めています。
具体的には、違反した企業をホームページに公表したり、派遣事業者に対して説明会を開いて派遣法・労働法の周知を徹底したりしています。
ケース別|これって二重派遣?
ここでは、下記の2つのケースについて、それぞれ二重派遣に該当するのかどうかを解説します。
- 派遣労働者なのに出向させられた場合
- 請負契約なのに発注元から指示を受けた場合
派遣労働者なのに出向させられた場合
派遣社員として派遣先に勤務するつもりが、別の会社に出向させられた場合は、二重派遣にあたります。
そもそも別会社への出向命令は、雇用関係のある労使間でのみ認められています。
派遣社員と雇用関係にあるのは派遣会社であって、派遣先ではないため、派遣先は派遣社員に出向命令を出すことはできません。万が一出向を命じられた場合は二重派遣にあたると伝え、きっぱりと断りましょう。
別の会社で働いているが、派遣先の社員から指示を受けている場合
本来の派遣先とは別の会社で働いているものの、業務の指示は派遣先の社員から受けている場合、二重派遣にはあたりません。
これは派遣先が別の会社と請負契約を結び、その業務を派遣社員に担当させているという状態になります。
一方で、派遣先で働いているものの、別の会社(注文者)から業務の指示を受けている場合は、二重派遣の可能性があります。これは二重派遣の抜け道として使われる「偽装請負」と呼ばれるケースで、一見すると派遣先と注文者の間で請負契約の体裁を取っているように見えますが、これも違法行為です。
なお、派遣先企業の人が指示を出している状況であっても、注文者からの指示をただ間接的に伝えているだけで、実態として注文者から指示されているのと同じという場合も、偽装請負にあたります。
また、派遣社員だけではなくフリーランス(個人事業主)も、業務委託として仕事を請けることが多いため、偽装請負に巻き込まれることがあります。
業務委託契約は注文側から業務の指揮命令を受けない契約です。念のため、契約を結ぶタイミングで、指揮命令を受けない契約であることを相手と確認しておきましょう。
二重派遣を回避するためのポイント
二重派遣を未然に防ぐ回避策や、すでに二重派遣として働いている場合の対処法を紹介します。
- 優良派遣事業者として認定されている派遣会社に登録する
- 雇用契約や指揮命令関係を確認する
- 二重派遣に気付いたら相談窓口に問い合わせる
優良派遣事業者として認定されている派遣会社に登録する
二重派遣を回避するためには、優良派遣事業者に認定されている派遣会社に登録するのがベターです。
優良派遣事業者に認定されている派遣会社は、派遣社員として働く人への手厚いサポート体制や、派遣先でのトラブル予防・是正措置などの認定基準をクリアしているため、安心して働くことができます。
雇用関係や指揮命令関係を確認する
まず派遣先が決まった場合、自分がどのような会社で働くのかを把握するために、事前にしっかりと契約書を読むようにしましょう。契約書で確認した会社とは別のところで勤務するという状況になった時に、いち早く二重派遣に気付くことができます。
次に、雇用契約を結んでいる派遣会社から給与がきちんと振り込まれているか確認しましょう。給与が別の会社から支給されている場合、会社間の契約内容があいまいになっている可能性があります。
また、派遣社員は本来、派遣先から業務の指揮命令を受けますが、偽装請負の場合は注文者(第三者)が直接指揮命令をします。普段、業務への指示を出す人が派遣先の人なのかどうかきちんと確認しましょう。
二重派遣に気付いたら相談窓口に問い合わせる
すでに二重派遣になっていると気付いた場合、以下の順番で相談するのが望ましいでしょう。
- 登録している派遣会社に相談
- 一般社団法人日本人材派遣協会や労働組合の派遣ユニオンに相談
- 各都道府県の労働局に告発
派遣会社や労働組合に相談しても解決しない場合は、最終手段として、近くの都道府県労働局に告発しましょう。
まとめ
二重派遣とは、派遣先の企業が、派遣元から受け入れた派遣社員を別の会社に派遣し、その派遣先の指揮命令下で働かせることです。派遣社員にとってはデメリットしかありません。
契約書や勤め先での指揮命令関係をきちんと確認し、すでに二重派遣させられていた場合はすぐに各相談窓口に相談するようにしましょう。
(作成:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。