勤務先は?求められる能力は? 30歳で年収600万円稼ぐ人の条件
2021年に国税庁が発表した民間給与実態統計調査(令和2年分)によると、30〜34歳男性の平均年収は458万円。平均年収(男性)が600万円を超えるのは45歳を過ぎてからです。
そんな中、30歳で年収600万円を稼ぐのはどんな人なのでしょうか。
人事コンサルタントの西尾太さんにお話を伺いました。
Q.30歳で年収600万円は本当に実現できる?
西尾太さん(以下、西尾):30歳は会社の中ではまだまだ若手と見なされます。その年齢で年収600万円を実現するハードルは高いですが、不可能なことではありません。
仕事で高い成果が求められるのは言うまでもありませんが、実はそれだけでは足りません。どんな業界・会社で働いているかで年収は大きく左右されます。言い換えれば、努力しだいで年収を伸ばせる環境で働いていることが前提条件なのです。
年収の相場は、業種・業界によってだいたい決まっています。また、一定規模以上の会社であれば、給与制度が整備され、年齢やポジション、能力に応じて給与の額が決められています。そのため、高い成果を上げても、決められた給与水準から逸脱した給与が支払われることは基本的にありません。
もし今の業界・会社では制度的、給与水準的に「30歳で年収600万円」を実現するのが難しい場合は、転職も視野に入れておくとよいと思います。
Q.30歳で年収600万円を実現できる会社とは?
西尾:給与水準が特別高い会社でなくとも、年齢に関わらず成果に応じて給与を支払う「時価払い型」の給与制度を採用している会社であれば、「30歳で年収600万円」を実現できる可能性はあります。
かつては、定年退職まで同じ会社で働き続けるのが当たり前でした。いわゆる終身雇用です。
そのため多くの会社では「後払い型」の給与体系が採用されていました。若手のうちは給与の額を低く抑えて、子どもの教育費や住宅ローンなどで出費がかさむ40代、50代の給与を手厚くする、「年功序列」の給与制度です。
こうした給与制度では、一定の年齢にならないと高い年収を得られません。実際、私が新卒で入社した自動車メーカーでは、若手のうちはほとんど給料が上がりませんでした。
一方、ベンチャーやスタートアップ企業の多くが採用している「時価払い型」の給与制度であれば、企業の業績にもよりますが、若手でも成果に応じて高い年収を得ることが可能です。「30歳で年収600万円」を実現するには、こうした「時価払い型」企業への転職も選択肢のひとつと言えます。
ただし、若手社員の転職が当たり前になった現在では、多くの企業で「時価払い型」の給与制度へ移行する動きが出ています。年齢の高い社員の給与を抑えて、若手社員にも成果に応じた給与を支払うことで、若手社員の流出を防ごうとしているのです。
完全に「時価払い型」へシフトするには時間がかかると思いますが、自分の勤務先が「時価払い型」への移行を進めているか、移行がいつ完了するのかを把握した上で転職すべきかどうか判断しましょう。
Q.年収600万を実現するために必要な能力は?
西尾:年齢に関わらず、会社組織の中で年収600万円超を実現するには、マネジメント能力を磨くか、高度な専門性を持ったスペシャリストになるしかありません。
真面目に主体性をもって仕事をするのは大切なことですが、それだけではせいぜい年収400〜500万円ほどで頭打ちになってしまうでしょう。
ただし、求められる専門性は時代の変化と共に変わるもの。たとえば、AIの実用化が進んだことで機械学習やディープラーニングに関するスキルが求められるようになりましたが、10年後にはまた違う専門性が求められることでしょう。
つまり、生涯ひとつの専門性だけで高い年収を維持するのは現実的ではないということです。
その点、マネジメントスキルはいつでもどこでも通用します。一人のプレーヤーとして業務のPDCAを回すだけでなく、チーム全体・組織全体のPDCAを回せるようになれば、自ずと年収は上がっていくはずです。
若手のうちからマネジメント層の視点を意識して、マネージャーを目指すことが年収600万円へのファーストステップと言えるでしょう。
Q.成長のために20代が意識しておくべきことは?
西尾:単刀直入に言えば、会社が20代に求めているのは「明るく元気で素直」なことです。「そんなこと?」と思うかもしれませんが、案外これができていない人が多いんです。
もう少し具体的に説明すると、20代で評価される人材とは以下の項目に当てはまる人だと言えます。
積極的に周りに働きかけることができる
いい意味で物事を楽観的に捉えることができる
厳しい局面も切り抜けられるエネルギーがある
労働契約をまっとうしてくれる元気(体力)がある
人の話を聞ける、反省できる、謝罪できる
とりわけ人の話を聞き反省、謝罪できる「素直さ」がある人は、物事を吸収してスキルを高める力があると評価できます。「ポテンシャルが高い人は素直さがある」と言っても過言ではありません。
また、「自分が何のために働くのか」といったことについても考えを深めておくといいでしょう。
研修などで「あなたは何のために働いていますか?」と聞くと、「生活のため」「趣味のため」などいろいろな答えが返ってきます。ですが、「自分のため」という意識で働いている人よりも、「仕事を通して社会に貢献したい」「自分の仕事で社会を豊かにしたい」といった意識を持った人のほうが、結果的に年収が上がる傾向にあります。
さらには、自分が働いている会社の経営理念に強く共感できる人がいちばん強いと言えるでしょう。自分が働く目的が企業理念と一致していれば、自分の仕事が社会の役に立っているという確信を持って働くことができます。
そのような人は収入を第一に考えなくても、仕事そのものに没頭できるので、結果として収入が上がっていくのです。
Q.30歳の平均年収が600万円を超える業界・会社は?
西尾:たとえばコンサルティング業界や総合商社など、コストがあまりかからず利益率の高い業界は給与水準が高い傾向にあります。40歳モデル年収での比較ですが、給与水準の高い業界は次の通りです。
また、給与水準が高い会社としては、キーエンスやM&Aキャピタルパートナーズ、GCAなどが有名です。これらの企業では、30歳時点の推計年収が1000万円を超えています。
※出典:平均年収「全国トップ500社」最新ランキング/東洋経済オンライン
キーエンスはFA(ファクトリー・オートメーション)センサーや測定器が主力のメーカーです。ファブレス経営(生産施設を自社で持たない経営)でコストを抑えると同時に、高い開発力と営業力で顧客企業に付加価値の高い製品を販売して高い利益率を実現しています。
また、M&AキャピタルパートナーズやGCAといったM&A関連企業も、設備投資がほとんど必要ないビジネスモデルによって高い利益を上げています。
ここで紹介した他にも、大手商社や外資系企業の中には若手社員の平均年収が600万円を超える会社があります。非常に狭き門ですが、「30歳で年収600万円」を実現するには、そのような給与水準が高い業界・会社で働くのが近道と言えるでしょう。
もちろん年収のことだけを考えて転職するのはおすすめできませんが、「今の会社では成長できない」と感じているなら転職を検討してもいいと思います。
同じことの繰り返しが続く、新しいことに挑戦させてもらえないといった環境では、年収も上がりづらいもの。自らの成長のために、思い切って一歩踏み出すことを考えてみましょう。
取材・文/藤田佳奈美(@yakou_chuu_)
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この記事の話を聞いた人
人事コンサルタント
西尾太
フォー・ノーツ株式会社
フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。いすゞ自動車、リクルートを経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブにて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事の超プロが明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。