意味や違いを解説 わかりやすい諭旨解雇・諭旨退職

ネットやテレビのニュースで耳にする「諭旨解雇」や「諭旨退職」。その意味や懲戒解雇との違い、転職への影響についてわかりやすく解説します。

諭旨解雇・諭旨退職とは?意味や違い

諭旨解雇、諭旨退職はそれぞれ、社内規則に違反行為をした社員に対する懲戒処分の一種です。意味や違いを見ていきましょう。

【諭旨解雇】懲戒解雇よりも一段階軽い懲戒処分

「諭旨解雇」とは、違反行為をした社員への懲戒処分のひとつで、懲戒解雇よりも処分を軽くした解雇のことです。

※懲戒解雇について詳しくは→懲戒解雇とはどういう意味?事例や転職・退職金への影響も

諭旨解雇は会社側の温情措置としての意味合いが強く、たとえば社員が経歴詐称や収賄、セクハラといった、本来であれば懲戒解雇にあたる違反行為をした場合でも、本人が深く反省しており「情状酌量(※)の余地がある」と判断した場合には、「懲戒解雇ではなく諭旨解雇」処分になることがあります。

※情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)とは…主に裁判において使われる用語で、罪人が法を犯した背景・事情(=情状)の同情すべき点を汲み、刑罰を軽くする(=酌量)すること。

【諭旨退職】諭旨解雇よりもさらに軽い懲戒処分

「諭旨退職」とは、会社が社員に退職願を提出するよう促し、社員自らが退職を申し出たものとして扱う、諭旨解雇よりもさらに軽い懲戒処分のことを言います。解雇ではなく自主的な退職、という位置づけになります。

ただし、諭旨退職になるのは会社側の都合であるケースも。「解雇」という処分は解雇予告手当を支払う必要があったり、30日以上前に通告したりと、会社側の負担も少なくないからです。

諭旨解雇も諭旨退職もルールは会社によって異なる

諭旨解雇も諭旨退職も法律で定められた制度ではないため、会社によって判断基準や対応は異なります

また、諭旨解雇も諭旨退職も就業規則にない場合や、どちらか一方しかない場合もあります。

いずれの場合でも、会社の就業規則に諭旨解雇や諭旨退職の要件やルールを明記していなければいけません。

諭旨解雇・諭旨退職で退職金や失業保険はどうなる?

諭旨解雇・諭旨退職の処分を受けると、退職金や解雇予告手当、失業保険はどのような扱いになるのでしょうか。

退職金…支給されるが一部カットされることも

諭旨解雇・諭旨退職になった場合、懲戒解雇と違って退職金が支給されることもあります。ただし、本来支給される金額から一部カットされることもあります。

解雇予告手当…諭旨解雇なら支払われる

諭旨解雇になった場合、解雇を通知(解雇予告)された日から退職日までが30日に満たない場合、その分の解雇予告手当が支払われます。即日解雇の場合は、30日分の解雇予告手当が支払われます。

懲戒解雇の場合は、会社が所轄の労働基準監督署に解雇予告除外認定申請を行い、認定された場合は予告手当の支払いはありません。

一方、諭旨退職の場合、解雇ではないので解雇予告手当は支給されません

雇用保険…2か月の給付制限あり

諭旨解雇・諭旨退職ともに自己都合退職として取り扱われます。基本手当を受け取るには2カ月の給付制限がつきます

整理解雇や普通解雇(※)は会社都合退職の扱いになり、給付制限期間がありません。一方で、諭旨解雇、諭旨退職、懲戒解雇の場合は2カ月間の給付制限がかかることになります。

※整理解雇・普通解雇とは

◆整理解雇
会社の経営悪化により、人件費削減のために行われる解雇。

◆普通解雇
「成績・態度が悪く、何度指導をしても改善されないとき」「病気で職場復帰が難しいとき」など、労働契約の継続が困難な事情があるときに行われる解雇。

【最新情報】自己都合退職の給付制限が2カ月に短縮されました(2020年10月1日更新)

自己都合退職の給付制限が、3カ月から2カ月に短縮されました。なお、期間短縮の対象者は2020年10月1日以降に退職した方です。ただし、最新の離職日からさかのぼって5年以内に3回以上自己都合退職をしている場合は、引き続き3カ月の給付制限がかかります。

※出典:「給付制限期間」が2か月に短縮されます|厚生労働省

諭旨解雇・諭旨退職は転職で明らかになる?再就職への影響は?

諭旨解雇や諭旨退職になった場合、転職活動をするときに履歴書・面接で申告する必要はあるのでしょうか?また、それによって判明してしまうことはあるのでしょうか?

履歴書・面接での申告は不要

諭旨解雇・諭旨退職になった場合でも、その事実について履歴書や面接で積極的に申告する必要はありません。履歴書の職歴欄には単に「一身上の都合により退職」と書けば問題ないでしょう。

諭旨解雇・諭旨退職は、会社が社員の再就職やその後の人生を考慮したうえで、懲戒解雇ほどの社会的制裁を与えないという温情措置です。懲戒解雇よりは再就職の道が開けているといえるでしょう。

ただし、面接の場で懲戒処分を受けたことがあるかを聞かれた場合には、事実を話す必要があります。

刑事罰を受けた場合は履歴書の賞罰欄に記載する

刑事罰を受けて諭旨解雇・諭旨退職になった場合、その事実について履歴書の賞罰欄に記載しましょう。賞罰欄がある履歴書はそう多くはありませんが、会社指定の履歴書などで賞罰欄があった場合、正直に記載をしないとのちのち告知義務違反に問われることもあります。

※刑事罰とは…刑法犯を犯して有罪判決を受けて科された罰のこと。窃盗・詐欺などによる懲役、禁固刑、罰金刑などがこれにあたります。

※履歴書の賞罰欄について詳しくは→履歴書の「賞罰」欄を書く方法 記入例から「罰」の基準まで

離職票・退職証明書を提出すると判明する

離職票には離職理由の記載欄があるため、転職先から提出を求められた場合、解雇で退職したことが転職先にも明らかになります。退職証明書は労働基準法第22条において「労働者の請求しない事項は記入してはならない」とされているので、退職理由を記載しない証明書にしておくことは可能です。

諭旨解雇・諭旨退職にまつわるQ&A

諭旨解雇・諭旨退職にまつわるQ&Aを紹介します。

仕事に関係ない不祥事でも、懲戒処分になる?

私生活で痴漢行為や暴力事件、交通事故などの不祥事を起こした場合も、懲戒処分になるのでしょうか?

私生活の中で起きた業務に直接関係ない違法行為は、原則懲戒処分の対象となりません

ただし、その行為が企業秩序や業務の運営に多大な悪影響を与えると客観的に認められ、就業規則の明記がある場合には、懲戒処分の対象となります

不祥事を起こした社員が指導的な立場にある場合や、業務の内容上、規律を守ることが強く求められる場合などは懲戒解雇も考えられますが、そこまでの判断がためらわれる場合は諭旨解雇や諭旨退職といった温情措置をとることが多いようです。

以下に実際の判例をご紹介します。

<実例1>
通勤時に起こした不祥事による諭旨解雇が【無効】になった例/東京メトロ事件
(東京地裁/平成26年8月12日判決/労働経済判例速報1104号64頁)

▼内容
駅員が通勤中に乗車していた自社の電車内で14歳の女性に痴漢行為をはたらき、迷惑防止条例違反で逮捕起訴され、罰金20万円の略式命令を受けた。

会社は痴漢行為を行った従業員に対しての就業規則に基づき、従業員を諭旨解雇した。これに対し従業員は諭旨解雇が無効だとして裁判を起こした。

▼判決
諭旨解雇は無効。従業員には前科前歴や懲戒処分歴が一切なく、勤務態度にも問題がなかった。さらに、本件刑事事件はマスコミにより報道されることはなかった。これらの点から諭旨解雇より緩やかな処分の選択が可能だったと判断された。

※参考→東京メトロ(諭旨解雇・本訴)事件|全国労働基準関係団体連合会

<実例2>
私生活での不祥事による懲戒解雇が【有効】になった例/小田急電鉄事件
(東京高裁/平成15年12月11日判決/労働経済判例速報867号5頁)

▼内容
従業員が休日に他社の電車内で女子高生に対する痴漢行為をはたらき、迷惑防止条例違反で逮捕され、懲役4カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。その後、従業員が過去にも2回ほど、同様の事件で逮捕されていたことが明らかになった。

そこで、会社は懲戒解雇処分とともに、退職金を不支給とした。これに対し、従業員は退職金の全額不支給は不当として、支払い請求の裁判を起こした。

▼判決
懲戒解雇は有効になったが、業務外の犯罪行為の場合、強い背信性がなければ退職金の全額不支給はできないとして、本来の支給額である3割の支払を命じた。

※参考→小田急電鉄(退職金請求)事件|全国労働基準関係団体連合会

諭旨解雇・諭旨退職に納得できないときは?

諭旨解雇に納得できないときは、どうしたらいいのでしょうか?

会社が諭旨解雇処分をするにあたっては、本人に弁明の機会が与えられることが一般的です。

これは、非違行為の事実確認を行う際に本人から供述を取ることは異なり、懲戒処分の手続きのひとつとして行われるものです。

本人に非違行為についての動機や背景を弁明させ、この弁明を踏まえて懲戒処分が決定されます。決定された処分は拒否することはできません。しかし、他の従業員と懲戒処分の重さが異なる場合や、非違行為と懲戒処分のバランスが著しく不均衡な場合は、裁判を起こして司法の判断を仰ぐことも選択肢です。

まとめ

諭旨解雇・諭旨退職はともに懲戒処分ですが、懲戒解雇にはあたらないとする会社の温情措置としてとられることが多いようです。

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。
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