リッチ?それともプア? 年収600万円の生活スタイル
国税庁の令和2年分民間給与実態統計調査によると、日本の平均年収は約458万円。年収600万円は、ややリッチなイメージがあります。
では、年収が600万円あると実際にどのような生活が送れるのでしょうか。この記事では、その懐事情を探ります。
日本で年収600万台は10%未満!年代・性別にみる年収
国税庁が2023年9月に発表した「民間給与実態統計調査」によると、年収600万円台の人は約15人に1人という結果となりました。
労働者全体で年収600万円超は約23%
年収600万円超の労働者の割合は全体の22.6%。年収600万円超~700万円の層だけを見るとわずか6.9%です。
給与所得者1人あたりの平均年収は458万円で、600万円台に遠く及ばない人たちがほとんどを占めています。最も多い給与階級は年収300万円超~400万円以下で、現状では一生懸命働いても600万円以上の年収を稼ぐことがいかに難しいかがわかります。
現在、年収600万円台の人の平均年齢は46.3歳と、40~50代の働き盛りの年代が中心。この層は会社員なら何らかの役職に就いていることも多く、役職手当などで給与が優遇されている可能性が考えられます。
キャリアや実績の浅い若手世代が年収600万円を目指すには、なかなかハードルが高いのが現実です。
※参照:国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」(公表:2023年9月27日、参照:2023年10月24日)
20代前半で年収600万円の人はかなり少ない
世代別の平均年収はどうでしょうか。最も年収が低いと思われる20代だけに絞ってみると、働き始めの20~24歳の平均年収は273万円。やはりかなり低めです。
個人事業主の場合など例外も考えられますが、この図から読み解くと、20代前半で年収600万円に到達している人はかなり少ないと言えるでしょう。やはりキャリアの浅い20代の初めのころに高い年収を得ることは非常に困難なようです。
しかし、昨今はIT関連会社や大手メーカー、外資系企業など、能力や実績に応じた昇給システムや年俸制を導入する企業が少しずつ増え、20代でも実力次第で高収入を手にできるチャンスが広がっています。今後働き方が変わるにつれ、若年層にも高収入を得る人がどんどん出てくるかもしれません。
※参照:国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」(公表:2023年9月27日、参照:2023年10月24日)
30代前半でも年収600万円以上はわずか
30代は年収に差がつき始める時期です。昇進が早い人の中には、このタイミングで大きく年収がアップする人がいますが、それでも30代前半で年収600万円を超えるのは、男性でも15%未満(※)です。
そんな中、若くして年収600万円を稼ぐのはどのような人なのでしょうか。30歳時点の年収が高い企業ランキングや、30歳で年収600万円を超える人の特徴などを下記の記事でまとめました。
※参照:【年代別・産業別】年収分布|あなたの年収は高い?低い?
女性で年収600万以上は8.2%とわずか
一方、働く女性の場合はどうでしょうか。下の円グラフは金額ごとの給与所得者の構成比を男女別に示したものです。
年収600万円を超えている女性給与所得者は全労働者のうちのたった6.5%しかいないことがわかります。
さらにデータを深堀していくと、男性の年収分布は300万円以下から600万円以下を中心に広がり、1500万円までばらつきが見られるのに対して、女性の中心層は100万円以下から400万円以下にまとまっています。現状では、女性で年収2000万円を超えている人はかなり少ないと言えるでしょう。
このように、男性と女性の間に歴然とした年収差があるのにはいくつか理由が考えられます。女性の方がパートなど非正規雇用の人が多いことや、結婚や出産、育児でキャリアが停滞しがちなこと、女性の能力が認められにくい職場環境などが挙げられるのではないでしょうか。
女性のキャリア職が増えているとはいえ、年収600万円への壁はかなり高いのかもしれません。
※参照:国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」(公表:2023年9月27日、参照:2023年10月24日)
年収600万円の生活スタイルってどんなの?
多くの若い世代ではいまだ未知の年収600万円生活。実際にどれほどの暮らしが送れるのでしょうか。
年収600万円の手取り額はおよそ470万円
600万円の年収があるといっても、手取りにするとだいたい470万円程度。これは一般的なサラリーマンを想定し、年収から税金や保険料を引いた額です。個人差はありますが、年収が全額手元に入ってくるわけではなく、サラリーマンの場合は、税金や保険料などトータルで130万ほどが天引きされます。意外と少ないと感じるかもしれません。
この手取り額はボーナスを含めたものなので、ボーナスを年2回、2カ月分ずつもらったとして試算すると、月々の手取り収入は約30万円前後といったところでしょう。
年収600万円のリアルな生活1~独身男性の場合~
一般的な会社に勤める年収600万円の単身サラリーマンでは、住まいや車、食費にどのくらい使えるのでしょうか。その内訳を推測してみました。細かな金額は個人によって多少異なるので、あくまで参考としてください。
住まい…月々10万円程度の賃貸1K
一般的に、家賃の目安は「手取りの3分の1程度」と言われます。年収600万円の独身者の場合は、月々の手取り収入を約30万円前後と考えると、およそ10万円。
東京23区内なら便利で華やかな渋谷区・新宿区あたりのワンルームや1Kの賃貸マンションに住めそうですし、立地や築年数にこだわらなければ広めの間取りに住むこともできそうです。
車…300万円までの国産新車や中古輸入車
一般的に、車の購入金額の目安は年収の半分以内と言われています。もうちょっとランクを上げていい車に乗りたいと思っても、維持費などを考慮すると年収の半分までに収めるのが無理のない範囲。
年収600万円の人は300万円までの車にするのが妥当でしょう。これくらいの予算があれば国産コンパクトカーの新車から中古の輸入車まで、好みに応じて幅広く選べるのではないでしょうか。
貯金…毎月6万円程度で余裕があればそれ以上
将来を考えた理想の貯金額は月の収入の約2割。とすると毎月6万円ほどを積み立てていけます。単身者は既婚者に比べると生活費を調整しやすいこともあるので、がんばればもう少し多めに貯金に回すこともできるでしょう。
食費…外食でほどほどにプチ贅沢
単身世帯の食費の目安はひと月あたり2~5万円。光熱費などを差し引いても毎月10万円ほどは自由になるお金がある年収600万円の単身者は、月の食費にかけられるお金にも多少ゆとりがあります。外でのランチや仲間との会食などプチ贅沢を楽しむこともできるでしょう。
年収600万円のリアルな生活2~既婚・子どもアリの場合
独身の場合は年収600万円でゆとりのある生活が送れるようでしたが、既婚者で子どもがいる場合は少し様子が変わってきます。
住まい…住宅ローンの返済額は月々12~13万円
子どもがいれば持ち家願望も高まるもの。住宅金融支援機構フラット35利用者調査によれば、マンションを購入した世帯の年収は600万円以上が50%を超えています。なかでも600~800万円台は約22%です。
住宅ローンを組む場合、返済額の平均的な割合は年収の21~23%。年収600万円の世帯で無理なく返済できる月々の額は10~13万円程度となります。ただし返済期間や金利のタイプ、頭金の額によっても変わってくるので、将来のマネープランを見通し、無理のない計画を立てることが大事です。
車…250万円前後のミニバンが人気
ファミリーカーとして人気が高く、年収に見合うのはだいたい250万円前後の燃費の良いミニバンになります。エコカーやコンパクトカーに乗って維持費を削減している人も多いでしょう。しかし、年収600万円の子どもがいる家庭では一括購入できるほどの余裕はなく、ローンを組む人も多数。最近は車にかかるお金がもったいないと考える人も増え、都市部では“持たない派”や“手放す派”も少なくありません。
貯金…家計に無理なく毎月約4万円
家族が多ければ多いほど日々の生活費が増え、子どもがいれば教育費もかかってくるため、単身者のように月収の2割を貯金に回すと家計は圧迫されます。実際には多くの人の平均貯金額とされる手取り10~15%を目標に、毎月4万円前後を貯蓄していければよいところ。不安を感じる分はボーナスから多めに補てんしている家庭もあるようです。
食費…1カ月約77,000円とやや高め
総務省の調査によると、年収600万円以上700万円未満の食費は、77,310万円と家計で食費の占める割合は高いと言えます。たまの休日には家族そろって外食に出かけることもできそうですし、それほど切り詰めた食生活を送らなくてもよさそうです。
※参照:国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」(公表:2023年9月27日、参照:2023年10月24日)
年収600万円は税金を安く収め、手取りを増やすのに好都合
年収600万円を税金の面から見るとどうでしょうか。所得税などの税金は、年収が高いほど税率が高くなります。家族の人数などによって控除に差が出るものの、年収600万では所得税率が10%になる人が多いようです。
所得税の金額は、単純に「年収×税率」で計算されるわけではありません。年収から給与所得控除や基礎控除などが引かれたものを「課税所得金額」と呼び、「課税所得金額×税率=所得税額」となります。
額面で年収600万円の場合、もろもろの控除額を引いて課税所得金額を算出すると300万円ほどになり、税率は10%で控除額は97,500円になります。実は年収600万円は税率10%で抑えられるギリギリのライン。下の表を見てわかる通り、その額が330万円を超えてしまうと税率が大幅に上がってしまいます。年収600万円は税金を安く納め、手取り額を多くするのに都合の良い額でもあるのです。
※給与の手取り計算方法について詳しくは→「給料の手取り計算方法&平均給与の実態」
※控除額は、1,000円未満を四捨五入した金額です。
※参照:国税庁「所得税の税率」(公表:2023年4月1日、参照:2023年10月26日)
転職して年収600万を目指すには
今の年収に不満を持っている人は、年収アップを目指せるところに早めに転職するのが得策です。どうすれば思い通りの転職が叶うのか探っていきましょう。
年収ベースの高い同業種の会社を狙う
同じ業界であっても業績の良い会社は社員の年収ベースが違います。転職するなら今働いている業界トップの会社に狙いを定めるのも一案。もともと基本給が高くボーナスも良い大手商社やメーカー、マスコミ関係、外資系企業などは若手社員の平均年収が600万円を超えるところもあります。高年収を誇る企業の最新ランキングは次の通りです。
※参照:東洋経済オンライン「平均年収が高い会社ランキング全国トップ500」(公表:2023年3月18日、参照:2023年10月27日)
しかしこのような優良会社は新卒採用が優先であることが多く、転職者にとっては狭き門。自力で求人情報を探すより、大手企業に強いパイプを持つ転職エージェントを活用し、プロの力を借りるのもおすすめです。
また、中には上記の企業ほど年収ベースが高くなくても、実力次第で高い年収を得られる企業があります。そうした企業の特徴や求められる能力については、下記の記事で紹介しています。
▼人事のプロが語る
職種はそのままにキャリアを活かし、年収が良い他業種に的を絞る
現職である程度実績を積んだなら、転職でキャリアを手放すのはもったいないこと。経験やスキルを活かし、年収アップが見込める他業種に飛び込んでみるのもいいでしょう。
営業職にやりがいを感じている人は、今のキャリアに専門的な知識をプラスして活躍できるMR(製薬会社の営業)や証券会社の営業として高収入を目指すのもおすすめです。外資系企業であれば能力に応じた報酬も期待できるかもしれません。また、ITエンジニア系の技術職は現在採用ニーズが高い分野。アプリ開発の会社やモノづくりメーカー、メディア関係など引く手あまたです。
一方で事務職は基本的にどこも年収が低い傾向にあり、転職しても年収アップが見込めるとは限らない職種です。よほどの大手企業の特別なポジションでなければ、年収600万円のラインは超えられないと思ったほうがよいでしょう。
年収600万円台の職業は建築技術者など
まずは厚生労働省の調査から、平均年収が600万円台の職業をピックアップしてみました。
<平均年収600万円台の職種>
- 高等学校教員 :678万円(平均年齢 43.5歳)
- システムコンサルタント・設計者:660万円(平均年齢 40.5歳)
- 発電員,変電員 :635万円(平均年齢 42.9歳)
- 建築技術者 :620万円(平均年齢 43歳)
- 輸送用機器技術者 :612万円(平均年齢 39.3歳)
※参照:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」(公表:2023年3月17日、参照:2023年10月27日)
これらはすべて特別な知識や技術、資格が必要な専門職で、難関資格と言われるものも少なくありません。それぞれの職に就くまでには勉強や試験にそれなりの投資が必要となります。しかし苦労をした分、駆け出しの頃から安定して稼げるのがこれらの職業の特徴でもあります。
現在まったく違う仕事をしている人は、いきなりキャリアチェンジして建築技術者などになるのは難しいでしょう。しかし自分のキャリアの先にある資格や専門職を見据えて転職を考えてみるのもいいかもしれません。
まとめ
年収600万円ある人の日常は決して派手なものではなく、家族を養いながらではシビアな現実も見えました。今後の経済状況の雲行きがあやしい現在、年収がたとえ600万円以上あったとしても将来の安泰が約束されるわけではありません。
年収の高さが必ずしも幸せに直結するとも限らず、高望みはせず身の丈に合った生活を送り、安定した老後に備えることが賢明かもしれません。