【速算表つき】わかりやすく徹底解説 給与所得控除とは?

給与所得控除の概要やその他の控除制度についてわかりやすく解説します。

給与所得控除とは?

給与所得控除とは、会社員の税金負担を軽くしてくれるもの

「給与所得控除」とは、所得税や住民税を計算するときに使う所得控除の1つです。会社員や公務員など給与所得者の収入から一定額を引くことにより、課税対象となる金額(課税所得)が少なくなり、所得税・住民税が安くなります

通常、給与所得控除の計算は会社が年末調整の中で行い、所得税や住民税に反映されています。

所得控除とは
個人の事情に配慮して、所得税や住民税を計算する際に収入から一定額を引く制度のことで、全部で15種類あります。

給与所得控除って何のためにあるの?

給与所得控除は、筆記用具やスーツなど、会社員や公務員など給与所得者仕事上で自己負担しなければならない経費を考慮したものです。

自営業者は、このような仕事に関する支出を「経費」として計上することができますが、会社員や公務員は自由に「経費」の計上ができないため、結果として税金の負担が大きくなりがちです。

そのため、給与所得控除が会社員や公務員にとっての経費の役割を果たすことで、会社員・公務員と自営業者の税金の負担が公平になるようにしています。

アルバイト・パートも給与所得控除が受けられる

アルバイトやパートの収入も給与所得控除の対象となります

収入から給与所得控除(最低55万円)と基礎控除(最高48万円)を差し引いた金額が課税対象となりますので、収入が103万円以下でその他の所得がない場合は所得税がかかりません。

アルバイト・パートの収入が103万円を超えた場合、所得税がかかる他、配偶者控除が満額受けられなくなるので注意が必要です。

※配偶者控除について詳しくは→配偶者控除の仕組み徹底解説 いくら働けばトクかすぐわかる!

コラム:所得税・住民税はどうやって計算される?

給与所得控除と所得税・住民税の関係性を理解するために、所得税と住民税の計算方法を押さえておきましょう。

所得税や住民税の計算は以下の手順で行うことができます。
給与所得控除は、所得を計算するときに収入から差し引きます。

※収入と所得の違いについて詳しくは→収入と所得の違いは?働き方別の意味や計算まで解説

所得税の場合、給与所得控除などの所得控除のほかに税額控除も受けられます。

※所得控除・税額控除について詳しくは→所得税の控除とは?控除一覧&計算例

住民税は、調整控除があるほか、自治体によっては税率が異なる可能性もあるため、各自治体のHPなどで確認が必要です。

 給与所得控除額っていくらなの?

給与所得控除額はどうやって計算する?

給与所得控除額は、収入によって決められた計算式を使って算出することができます。この場合の収入金額とは、1年間に会社から受け取った給料やボーナスの合計額を指します。

なお、給与所得控除額の計算式は景気の変動などに合わせてたびたび改正されています。

現在、働き方が多様化し、フリーランスなどの給与所得控除を受けられない人が増えてきました。このような実態から、さまざまな形で働く人を広く支援するため、特定の収入のみ適用される給与所得控除などの控除額は徐々に引き下げられる傾向にあります。

また、2,500万円以下の収入がある人全員が受けられる基礎控除額は2020年から増額されており、フリーランスの税負担が軽減しています。

2020年の給与所得控除の計算式は、以下の速算表の通りです。

自分の収入と照らし合わせて計算してみてください。

収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
162.5万円以下 55万円
162.5万円超180万円以下 収入金額×40%-10万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下

収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

【シミュレーション】給与所得控除額の計算例

年収350万円の場合と年収500万円の場合を例に給与所得控除額を計算してみました。

<年収350万円の場合>
年収180~360万円の控除額=収入金額×30%+8万円
=350万円×30%+8万円
=113万円

<年収500万円の場合>
年収360~660万円の控除額=収入金額×20%+44万円
=500万円×20%+44万円
=144万円

特定支出控除とは?

特定支出控除とは、特定の支出に対する控除のこと

特定支出控除とは、業務上必要なものにかかった支出を自己負担した場合に受けられる控除とのことです。ただし、大きな自己負担があったときのみに適用され、ハードルが高いこともあり、ほとんど使用されていません

以下の対象項目に当てはまる費用のうち、給与所得控除額の2分の1以上の金額がかかった場合に適用されます

<特定支出控除の対象となる支出>

通勤費
通勤に必要な交通機関を利用した際の支出

転居費
転勤に伴う転居の支出

研修費
職務に必要な知識を習得するための研修の支出

資格取得費
職務に必要な資格を取得するための支出

帰宅旅費
単身赴任などの場合、勤務地と家族が住む自宅を行き来するための支出
2020年以降、回数の制限が撤廃され、ガソリン代や有料道路の利用料への適用を拡大

勤務必要経費
職務に関連する書籍などの購入費、勤務時に着用する衣服費、得意先との接待などの交際費など(上限65万円)

業務上の旅費(2020年~)
勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅費

例えば年収400万円の場合は、給与所得控除額124万円の2分の1にあたる62万円を超えた支出が対象です。

よって、特定支出控除の対象となる支出が年間で70万円あった場合は8万円が控除されます。

ただ、通勤費や研修費などの支出は福利厚生として負担してくれる会社も多数あり、転勤や資格取得などの大きな自己負担がない限りは、特定支出控除の対象となる金額に満たないケースが多いです。そのため、給与所得者であれば誰でも活用できる制度とは言えないでしょう。

実際、2018年分の確定申告で特定支出控除の適用対象となった人は全国でわずか1,704人でした。

2020年からは、帰宅旅費の制限緩和や業務上の旅費が追加されたこともあり、今後は対象となる人が増えていくのではないかと考えられます。

特定支出控除を受けるには確定申告が必要

特定支出控除を受けるには、確定申告をしなければなりません

また、その際には領収証のほかに、業務に関する経費であることの証明書を会社に出してもらう必要があります。利用を考えている方は、まずは勤務先に特定支出控除について確認するのが良いでしょう。

まとめ

給与所得控除は、給与所得者の所得税や住民税の計算に必要で、経費のような役割を持っています。

基礎知識を知っておくことだけでなく、今後も税制改正で変化する可能性があることを念頭に置いておきましょう。

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。