9割の人が年収ダウンする事実 役職定年制度まるわかり|年齢や退職金も
大手企業を中心に導入されている役職定年制度。この記事では制度の概要や、役職定年によって収入・働き方にどんな変化があるかを解説します。
役職定年制度とは?開始年齢は?
定年退職前に役職から外れる制度のこと
役職定年制度とは、定年退職前のタイミングで部長や課長といった役職から外れる制度です。人件費の削減や、役職の入れ替わり促進などを目的として、大手企業を中心に導入されています。
地方公務員・国家公務員ともに2023年度から制度が導入される見通しです。
人事院の「民間企業の勤務条件制度等調査(2017年)」によると、役職定年制度を導入している企業は全体の約16.4%。規模が大きい企業ほど導入が進んでおり、従業員数500名以上の企業では約30%で導入されています。
役職定年制度の開始年齢は、55歳が多い
役職定年の開始年齢は企業によって異なりますが、50代後半~60歳の間が一般的です。
とりわけ多いのが、55歳で役職定年になるケース。役職定年制度がある企業のうち、部長級で約41%、課長級で約47%の企業が55歳を役職定年のタイミングとしています。
肩書きや働き方は、どう変わる?
役職定年になった後、これまでの肩書きや働き方はどう変わるのでしょうか? 2つのよくある傾向をまとめました。
肩書きが無くなるor降格する
役職定年後は「同格のスタッフ職(※)になる」ケースや、「格下の管理職・スタッフ職に降格する」ケースが大半です。
もとの役職が部長級の人の場合、同格のスタッフ職になる人が約44%、格下の管理職・スタッフ職に降格する人が約41%でした。課長級の人でも、ほぼ同等の割合で肩書きが変化しています。
※スタッフ職…専門知識やスキルを活かして、部長・課長・係長といった管理職をサポートする一般社員。主査や主幹と呼ばれることもあります。
働き方(仕事内容)が変わる
役職定年後の仕事内容で最も一般的なのは、「おおむね同格の専門職」として勤務すること。役職こそありませんが、専門知識を活かした業務に従事するようです。
近年では、役職定年者が持つ高度なスキル・ノウハウを継承するために、若手育成などの教育ポジションを用意する動きもあります。
定年後は給与・退職金・年金が減る?
役職定年後に気になるのは、お金まわりの話。給与や退職金、年金にどのような影響があるのかを、それぞれ解説します。
9割の人が、年収ダウン
役職定年になった場合、一般社員に降格して管理職手当がなくなるなどの影響で、給与がダウンするのが一般的です。
ダイヤ高齢社会研究財団の「50代・60代の働き方に関する調査報告書(2018年)(PDF)」によると、役職定年にともない全体の90%以上の人が年収ダウンしているとのこと。年収ダウンの結果、役職定年前の50%~75%ほどになる人が多いようです。
なお、全体の約40%の人は、年収が役職定年前の50%未満になるということもわかっています。
※出典:公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団「50代・60代の働き方に関する調査報告書(PDF)」
退職金は変わらないのが一般的
役職から退いても、退職金の支給額は変わらないケースが一般的。そもそも退職金の金額は勤続年数で確定することが多いため、定年まで勤め上げさえすれば、減額されることはほとんど無いようです。
ただし、定年退職前の役職・収入に応じて退職金の支給額が決まる場合は、給与にあわせて減額される可能性があるため注意してください。
▼【最新版】退職金の相場額は?
年金は減ることが多い
役職定年で給与が減った場合、連動して年金も減ることが多いようです。
会社員が受け取る年金は老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金(厚生年金)の2種類がありますが、役職定年で影響を受けるのは老齢厚生年金(厚生年金)の金額。
平均標準報酬額(受け取った給与・賞与など)をもとに支給金額が決まるため、給与が減れば連動して支給額も減ることになります。
たとえば月給50万円の人が役職定年後に、給与が以前の75%(月38万円)に下がった場合、受け取れる年金額は下記の通り年14万円ほど減ります。
〈老齢厚生年金の支給額の計算式〉
年金支給額(年額)=平均標準報酬額(月額)×係数(5.481)÷1000×厚生年金加入月数
- 5年前から、給与が以前の75%(月38万円)に下がった場合の計算式
- 厚生年金加入月数は、平成15年4月以降分の216ヵ月(18年)で試算
〈例〉
【1】月給50万円のままだった場合の年金額
・平均標準報酬額(月額)
=50万円
・年金支給額(年額)
=平均標準報酬額(月額)×5.481÷1000×厚生年金加入月数
=50万円×5.481÷1000×216ヵ月
=59.2万円
【2】5年前に役職定年になり、給与が以前の75%(月38万円)に下がった場合の年金額
・平均標準報酬額(月額)
=(月給50万円だった期間の月給×期間+役職定年後の月給×期間)÷総期間
=(50万円×13年間+38万円×5年間)÷18年
=46.7万円
・年金支給額(年額)
=平均標準報酬額(月額)×5.481÷1000×厚生年金加入月数
=46.7万円×5.481÷1000×216ヵ月
=55.2万円
【1】-【2】=約4万円
役職定年しなかった場合に比べ、年金支給額は約4万円低くなる。
役職定年への対処法はあるのか?
役職定年制度がある企業では、定年後の収入ダウンなどを踏まえて、あらかじめ準備をしておくことが必要です。
収入ダウンに向けた計画を
役職定年によって、9割の人が年収ダウンを経験します。対策のポイントは3点です。
ポイント1:収入が以前の50%~75%ほどになることを意識する
ポイント2:年金の受給額が減ることも計画に入れる
ポイント3:老後資金を作るための備えをする
ポイント1:収入が以前の50%~75%ほどになることを意識する
収入が役職定年前の50%~75%ほどになることを踏まえて、生活費を見直す必要があります。子どもの学費や家賃などの固定費を見直しつつ、節約できる部分を削っていきましょう。
ポイント2:年金の受給額が減ることも計画に入れる
年金の受給額が減ることも意識して、定年後の計画を立てることも重要です。
たとえば年収600万円の人が、役職定年後に75%の給与しか受け取れなくなった場合、年金額は1年あたり約4.1万円ダウンします。
仮に65歳~85歳まで年金を受け取る場合は、トータルで約82.2万円の収入減に。これらも踏まえて、役職定年前から生活費の見直しを進めましょう。
ポイント3:老後資金を作るための備えをする
収入ダウンを視野に入れて、積立や投資を行うことも現実的です。40代以降から積み立てを始めても、65歳頃までに数百万円~1000万円近い資産形成をすることができます。
老後資金の作り方について、くわしくは下記の記事で解説しています。
転職するのもひとつの手
収入ダウンを回避するために、役職定年制度のない会社へ転職する手もあります。
ただし、転職市場では長く働ける人のニーズが高い傾向があるため、役職定年前後の年齢での転職は難易度が高いと言えるでしょう。
転職する場合は、知識や能力のある即戦力人材であることをアピールするのがおすすめです。
また、転職のタイミングは役職定年になる前にしましょう。業務内容が変わる前に活動することで、即戦力としてアピールしやすくなります。転職後の年収交渉の際も、役職定年前の水準で交渉しやすいでしょう。
導入している企業は?
実際に役職定年を導入している企業の例として、ソニーと富士通の取り組みを紹介します。
ソニー
ソニーは2000年に役職定年制度を一度廃止しましたが、若手社員の士気高揚・組織の若返りなどを狙って、2013年4月に制度を再導入しています。
役職定年の年齢 |
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役職定年後の処遇 |
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富士通
富士通では「役職離任制度」と称する役職定年制度が存在します。
役職離任によって肩書きが無くなり給与もダウンしますが、関連会社へ転籍することでダウン幅が縮小できる取り組みも行っているようです。
役職定年の年齢 |
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役職定年後の処遇 |
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転籍制度 |
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※出典:日経クロステック「“55歳ショック”の緩和を狙う富士通、50代SEを集めて新会社」(2017.07.06)
公務員にも役職定年はある?
国家公務員・地方公務員ともに、2021年6月に可決、成立した改正国家公務員法・改正地方公務員法によって「役職定年制」の導入が決まりました。
2023年の施行期日以降は、原則60歳で管理職から外れることになります。
【参考】役職定年を見越して、退職する場合は?
役職定年前に自己都合退職する際に役立つ記事を用意しました。これらの記事も、ぜひお役立てください。
▼自己都合退職の概要や、失業保険の受け取りについて
▼早期退職制度の概要・メリット
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。