退職金はいくら?生活できる? 早期退職にメリットはあるのか
近年、ニュースでよく耳にする早期退職。実際に早期退職者を募集した企業では、どのような条件が提示されたのでしょうか?また、生活できるだけの退職金はもらえるのでしょうか?気になる実態をまとめました。
早期退職とは?どんな内容?
早期退職には、人員整理を目的とした「希望退職」と、企業の人事制度として運用されている「選択定年」の2種類があります。それぞれどのようなものなのか、くわしく見ていきましょう。
【希望退職】人員整理が目的の施策
希望退職とは、人員削減や事業改革のために、企業が実施する短期的な人事施策のこと。
特定の部署や年齢の社員を対象に、一定期間退職者が募集されます。退職の交換条件として、退職金の上乗せや転職支援などが提示されるのが一般的です。
希望退職は、一方的に辞めされられる解雇とは違い、自分の意思で退職するかしないかを選択できるのが特徴。
ただし、会社から希望退職に応募するよう促されるケースや、反対に会社に残ってほしい従業員が応募した場合に引き止められるケースがまったく無いわけではありません。
▼希望退職が実施されたときの対処法
2020年は上場企業93社が実施
東京商工リサーチの調査によると、2020年に早期・希望退職を行った上場企業は93社でした。
2019年と比べて2.6倍以上に増えており、リーマンショック直後の2009年と2010年に次ぐ水準。新型コロナウイルスの影響で、業績が悪化した企業が多かったと考えられます。
※参考:
東京商工リサーチ「2020年上場企業の早期・希望退職93社 リーマン・ショック以降で09年に次ぐ高水準」
希望退職を実施した企業の具体例
実際に、これまで大手企業がどのような条件で希望退職者を募集したのか、具体例を紹介します。
パナソニック
対象者
勤続10年以上かつ59歳10ヶ月以下の社員と、再雇用者(64歳10ヶ月以下)
条件
- 退職金の上乗せ
- 再就職の支援
- 転職活動に必要なキャリア開発休暇の取得
※参考:
ダイヤモンド・オンライン「パナソニック『割増退職金4000万円』の壮絶リストラ、年齢別加算金リスト判明【スクープ完全版】」
富士通
対象者
間接・支援部門に所属する45歳以上の正規従業員と、定年後再雇用従業員
条件
- 退職金の上乗せ
- 再就職の支援
※参考:
富士通「『成長に向けたリソースシフト』の実施に伴う費用計上に関するお知らせ」
武田薬品工業
対象者
勤続年数が3年以上(定年後再雇用者含む)の国内ビジネス部門所属社員
条件
- 退職金の上乗せ
- 再就職の支援
※参考:
武田薬品工業「フューチャー・キャリア・プログラムの実施について」
【選択定年】企業の人事制度
選択定年とは、定年前でも希望するタイミングで退職できる企業の人事制度のことです。
定年自体は65歳に設定されているものの、本人の希望があれば60~65歳の間で自由に定年時期を選べるようになっているのが一般的。
希望退職と同じく、選択定年を利用すれば退職金が上乗せされるケースが多いようです。
選択定年制度の例
定年時期
60~65歳の間で自由に選択できる
条件
退職金の上乗せ
このように、希望退職と選択定年は厳密には異なるものですが、実は明確な定義がないため、混同されてしまうことも少なくありません。「選択定年制度の導入」という名目で、短期的な人員整理を図っている企業もあるのが実情です。
コラム:公務員の早期退職事情は?
国家公務員にも「応募認定退職」と言われる早期退職制度があり、地方公務員もこれに準じています。
応募認定退職では、各大臣などから省庁単位で募集がかかり、応募者には民間企業と同じく退職金が上乗せされるのが基本。
公務運営上必要な人材以外は原則退職が認められ、2020年度は全体で1,601人の早期退職が認定されました。
なお、退職金の割増率は、勤続20年以上で定年まで15年以内の場合は定年前1年につき3%(定年まで1年を切っている場合の割増率は2%)となっています。
退職金はいくら上乗せされる?
早期退職では多くの場合、退職金が上乗せされますが、実際のところどのくらいもらえるのでしょうか。
厚生労働省の調査によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者で、早期優遇(早期退職)を利用した人の退職金平均額は2,326万円でした。
※参考:
厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」
これに対し、定年退職した人の平均額は1,983万円。早期退職に応募した人のほうが勤続年数は短いものの、退職金は300万円以上多く受け取っていることがわかります。
とはいえ、上乗せ額は企業によって異なります。数年分の年収が上乗せされることもあれば、数十万円のプラスに留まることも。
上乗せされた金額が妥当かどうかを判断するには「早期退職せず定年まで勤めた場合、これからの給料と退職金を合わせていくらもらえるのか」「退職金と早期退職後の自由な時間が、収入のマイナス分に見合うのか」をじっくり考える必要があるでしょう。
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早期退職に応募するメリット・デメリット
早期退職に応募するかしないかは、今後の生活に関わる大きな決断。判断材料のひとつとして、早期退職をするメリット・デメリットを紹介します。
メリット1|人より早く自由な時間を得られる
早期退職に応募する最大のメリットは、早いうちに自由な時間を得られること。
アーリーリタイアすれば定年退職よりも若くして仕事から開放されるため「趣味のスポーツに没頭する」「山登りを極める」など、アクティブなことにも挑戦できる可能性が高まります。
メリット2|退職金が上乗せされる
早期退職に応募すれば、自己都合退職や会社都合退職(=解雇など)よりも高い金額の退職金が受け取れることもメリットのひとつ。
定年退職まで勤めた場合と比べれば総収入は減るかもしれませんが、それと引き換えに自由な時間が手に入るのであれば、魅力的な点だといえるでしょう。
メリット3|次のキャリアに挑戦できる
早期退職後も働き続ける場合は、次のキャリアに挑戦できるチャンスも広がっています。
これまでの経験を活かしてキャリアアップするのはもちろん、未経験の仕事にキャリアチェンジできる可能性も。早期退職の条件に再就職の支援が含まれているのであれば、活用してみてもいいかもしれません。
メリット4|失業保険を早く受け取れる
退職後も就業意欲がある場合、早期退職は「会社都合退職」となるので、失業保険(雇用保険の基本手当)を給付制限なしで受け取ることができます。
転職や体調不良など自分の希望で「自己都合退職」すれば2ヶ月の給付制限がかかるため、失業保険を生活の足しにするのであれば、早期退職に応募するのは賢明だと言えるでしょう。
▼失業保険の期間・日数や手続き方法
デメリット1|生活の支えがなくなる
早期退職に応募する最も大きなデメリットは、毎月の収入が途絶え生活の支えがなくなること。
退職金や失業保険で当面の生活費はまかなえるとしても、十分な余裕がなければ病気や事故など想定していない事態が起こったときの資金を捻出するのは難しくなるかもしれません。
また、これまで人生の大半の時間を費やしていた仕事が突然なくなるため、空いた時間に何にをすればいいのかわからず、生活にハリがなくなってしまう可能性もあります。
デメリット2|年金の支給額が減る
年金は、20~60歳までの間に支払った保険料に応じて支給される「老齢基礎年金」と、厚生年金の被保険者期間が1年以上あれば上乗せで支給される「老齢厚生年金」の2種類があります。
このうち「老齢厚生年金」は被保険者期間の月数と退職前の給料をもとに支払われるため、早期退職後に無職になった場合や、転職して給料が下がった場合は、年金支給額が減ってしまいます。
また、収入が減って保険料が免除された場合は「老齢基礎年金」の支給額も減ることになります。
さらに、年金の受給開始時期を65歳より前に繰り上げると、受給率自体も減ってしまいます。
開始時期によってどのくらい受給率が変動するのか、くわしくは「厚生年金(老齢厚生年金)をもらえるのはいつ?いくら?」を確認してください。
デメリット3|転職の難易度が高い
転職は、年齢が上がるにつれて求められるスキルや経験のレベルが上がるのが一般的。
このため、早期退職後も働き続けようと考えている場合、若いうちに転職する場合と比べて転職活動の難易度が高くなってしまうのです。
企業からの引き合いが強いハイスキルな方は話が別ですが、そうでない場合は転職先が見つからない、見つかっても年収が下がってしまうリスクもあるでしょう。
デメリット4|カードなどの審査が通りづらくなる
クレジットカードや住宅・車などのローンは勤務先や現在の収入をもとに審査されるため、早期退職で無職になったり、転職して年収が下がったりした場合は審査に通りづらくなる可能性があります。
早期退職に成功する人の条件とは
早期退職に成功する人が満たしている条件は、つぎの通り。あてはまらない項目がある場合は、早期退職への応募は踏みとどまったほうがいいかもしれません。
早期退職に応募するにせよ、しないにせよ、老後の資金形成については早めに考えておきたいところ。参考になる記事を紹介します。
▼周りはどのくらいの退職金をもらってる?
▼今から始められる資産形成とは?
▼会社を辞めるべき? 残るべき?