心も体ももう限界… 「残業が嫌」で会社を辞めていいケース3つ

毎日続く残業に、「なぜこんなに働かなければいけないんだろう」と鬱々とした気分になった経験がある人は少なくないはず。

でも、「残業がつらい」という理由で転職を考えてもいいのでしょうか。

日本で唯一の「退職学(R)」の研究家として1,200名以上の働き方相談(有料)を受けている佐野創太さんに聞きました。

残業を理由に転職を考える人が増えている

佐野創太さん(以下、佐野):私のところに来られる相談者さんの中には、残業や休日出勤が原因で転職を考えている方が少なくありません。

自分にとって、プライベートと仕事のバランスがうまく取れるような「ちょうどいい働き方」を模索する人が増えていると言ってもいいでしょう。

佐野創太(さの・そうた)。退職学(R)の研究家。2012年にパソナグループに入社、転職エージェントとして従事。研修会社などを経て独立。著書に「ゼロストレス転職」(PHP研究所)など。

佐野:以前は、仕事を人生の中心と捉え、「どんどんスキルアップして良いキャリアを築いていこう」「自分の市場価値を高めよう」という風潮が強かったように思いますが、最近はそうした「キャリア」を重視する人たちと「ちょうどいい働き方」を大切にする人たちとが二極化してきているというのが私の実感です。

念のために申し上げておくと、残業や休日出勤で悩んでいる人たちは、決して「働きたくない」「仕事が嫌だ」と考えているわけではありません

もちろん、中には恒常的な長時間残業や休日出勤に心身ともに疲れ切って、そこから抜け出したいと悩んでいる人もいます。ですが、そうしたケースを除けば、ほとんどの人は残業や休日出勤を否定しているわけではないのです。当然、仕事を進める上で、どうしても残業が必要な場面があることも理解しています。

ただ、仕事もしっかりやりたいと思いつつも、その忙しさから思うようにプライベートとのバランスが取れないことに頭を悩ませているのです。

佐野:そうした状況を解決する方法のひとつとして、転職を考える人が増えているのはごく自然なことではないでしょうか。

会社を辞めるべき残業の3つのケース

佐野:一方で、本当に残業や休日出勤を理由に転職していいものか悩んでしまう人も決して少なくありません。

中には、上司や先輩に「ここで頑張れないならどこに行っても通用しないぞ」と言われたり、周りが当たり前のように残業しているのを見たりすることで、残業が嫌だというのは甘えなんじゃないか自分も周りと同じように頑張らなければいけないんじゃないかと考えてしまう人もいます。

佐野:ですが、これまで多くの相談を受けてきた経験から言えば、残業や休日出勤を理由に転職すること自体には何の問題もありません。それどころか、次の3つのケースに当てはまる人は、できるだけ早く会社を辞めることを検討したほうがいいと思います。

ケース1|法令違反の残業が横行している

佐野:ひとつ目のケースは、残業代が支払われない、違法な長時間残業が恒常化しているなど、法令違反が横行しているブラックな会社で働いているケースです。

法令違反が論外というのはもちろんですが、残業時間が長すぎると他の問題も生じます。それは、転職活動そのものができなくなってしまうということです。

働きながら転職活動する場合、企業側の配慮で面接を就業時間後に設定してくれるケースもあります。とはいえ、それでも平日の18〜20時頃というのが一般的ですから、連日深夜まで拘束されていたら面接を受けることができません。それどころか、転職活動の準備さえままならないでしょう。

佐野:そのような場合には、いったん休職もしくは退職してから転職活動を始めるのも現実的な選択肢のひとつだと思います。

また、違法な残業を強いるような会社の中には、法令に違反した広告を出したり、強引な営業活動を行うことで利益を上げているところも少なくありません。そのような会社に長く留まることで、あなた自身もその会社に「染まっている」と見られてしまい、転職活動に支障を来たす可能性があるということも知っておいてほしいところです。

ケース2|残業が原因で心身の健康に影響が出ている

佐野:できるだけ早く辞めたほうがいいケースの2つ目は、残業によって心身の健康に影響が出ているケースです。

残業や休日出勤が多いと、必然的に睡眠時間も少なくなり、無気力になる時間が増えてきます。

頭痛や腹痛、夜眠れないといった体の不調はもちろん、大好きだった趣味を楽しいと感じなくなった、友人からの連絡に返信するのが億劫に感じるといったメンタル面の変化など、普段とは違う兆候が出てきたら危険です。

そこで休職や退職という選択ができればいいのですが、責任感が強く頑張りすぎてしまう人は、「自分が辞めたら仕事が回らなくなる」「仕事が終わらないのは自分の力不足のせい」などと考えてしまいがちです。そのため、不調を感じながらも無理して働き続けてしまうことさえあります。

佐野:そんな真面目で責任感が強すぎる人に、私がいつもお伝えしてるのは「いったん他責にしてみましょう」ということです。他責というと、あまり印象が良くないかもしれませんが、ここで言う他責とは「健全な他責」のことです。

もし、社員の一人が辞めただけで仕事が回らなくなるとしたら、そんな組織を作った会社に責任があります。社員一人ひとりに過剰な負荷がかからないように、業務を遂行するために必要な人員を確保することも会社の責務なのです。

そう考えると、心身の健康に影響が出るほど仕事を頑張っている人が、「辞めたら迷惑がかかる」とか「自分は力不足だ」などと自分を責める必要なんてないと思いませんか?

「健全な他責」とは、単に「人のせいにしていい」ということではなく、その原因が本当に自分にあるのか組織の仕組みやマネジメントに問題があるのかを見極めてほしいということ。そして、自分に非がないことにまで責任を感じる必要はないということなのです。

心身の健康を犠牲にしてまで続けなければいけない仕事なんてありません。今すぐにでも辞めることを考えてみてください。

▼辞めるのが怖いと思ったら

ケース3|無駄な残業をやらされている

佐野:会社を辞めることを考えたほうがいい3つ目のケースは、意味のない残業や休日出勤を強いられているケースです。

以前と比べると、残業に対する意識はだいぶ変わったとはいえ、いまだに残業が美徳とされている会社が残っているのも事実です。

佐野:もちろん、会社で働いていれば、繁忙期や事業の立ち上げ期など、どうしても残業が発生してしまう時期はあるでしょう。ですが、「若手は残業するのが当たり前」「残業が多い人ほど評価される」といった風潮のある会社では、そうした時期的な要因とは無関係に、意味のない残業残業のための残業が横行していることが少なくありません。

そんな会社では、自分の仕事が終わっても雰囲気的に帰りづらいもの。それどころか、私のところにいらした相談者さんの中には、帰ろうとすると上司や同僚に「暇なの?」と嫌味を言われた上司に業務量の調整を相談したら「甘えるな」と叱責された、といった経験をした人もいます。そのような環境で働き続けることをつらいと感じるのは当然のことでしょう。

30代、40代のマネジメント層であれば、自ら会社の価値観を変えて、残業時間を管理していくことも求められますが、20代のうちならさっさと見切りをつけて辞めてしまっていいと思います。

なぜこの残業が必要なのか自分の中で意味付けできないまま、「周りがやってるから」「上司に言われたから」と、やらされているだけの残業に時間を使うくらいなら、もっと自分を活かせる場所に移動することも大切です。

辞めるべきかどうかの判断基準は?

佐野:ここまで、会社を辞めたほうがいい残業の3つのケースを見てきましたが、もし会社を辞めていいのか悩んでいるのなら、残業に対する適正な「報酬」が得られているか考えてみることをおすすめします。

体を壊すような長時間の残業や、違法な残業は論外ですが、人によっては少しの残業でも「会社を辞めたい」と思うほどつらく感じることもあります。

佐野:なぜそんなことが起こるかといえば、それは「報酬」と「苦労」のミスマッチが起きているからです。

自分が納得できる報酬を得ていれば、人は多少の苦労は我慢できますし、乗り越えられるものです。ですが、あえて乱暴な言い方をしますが、納得できる報酬のない残業はただの奴隷労働でしかないのです。

ここでいう「報酬」とはお金(=残業代)だけではありません。もちろん、お金という報酬がいちばんわかりやすいのですが、その他にも「成長が実感できる」「他ではできない経験が積める」「尊敬できる人や大切な仲間と働ける」など、さまざまな報酬があります。「これだけの苦労をしても納得できる」価値と言い換えてもいいでしょう。

報酬を得たことで頑張れた2人のケース

佐野:たとえば、キャリア相談で話を聞いたAさんにとっての報酬は「人脈」でした。Aさんの担当は法人営業。かなり業務が忙しく残業も多いけれど、いろいろな会社の役職者の方と会って話ができることが刺激的だし、人脈を築けている実感があるので、残業もまったく苦にならないと話してくれました。

佐野:また、同じくキャリア相談にいらしたBさんは、「尊敬する上司と働くこと」を報酬と感じていました。Bさんの上司は、自らハードワークをこなしながら「この仕事でこんな世の中を作りたい」「お客さんがこんなふうに喜んでくれたら最高」と、仕事の意義や楽しさを語ってくれるそうです。

実は転職を考えていたBさんですが、楽しそうに働く上司の姿を見て、「今は大変だけど、何年か後にこんなふうになれるなら」と転職を思い止まったのでした。

自分が望んでいる「報酬」を知っておこう

佐野:ここでご紹介した2人のように、残業に対してポジティブに意味づけができるのであれば「今は頑張り時」と考えて会社に留まるという選択肢もありだと思います。逆に、報酬があってもポジティブな意味づけができない場合、たとえば残業代はたくさん入ってくるけれど「お金じゃないんだよな…」と感じてしまうといった場合には、転職を前向きに考えていいのではないでしょうか。

その判断をするためにも、自分が「報酬」として何を求めているのか、自分自身と向き合って考えてみることをおすすめします。自分が求めている「報酬」がわかれば、今の仕事の捉え方が変わるのはもちろん、転職先も選びやすくなるはずです。

転職を考えている人に伝えておきたいこと

佐野:転職を考えている人が、退職を決意する最後の一押しがどんなものかご存知でしょうか?

それは、「この先も今の状態は変わらない」と気づいてしまうこと。つらい状況に耐えている中で、この状態がずっと続くと悟った瞬間に退職を決断する人が圧倒的に多いと言えます。

逆に言えば、たとえば繁忙期など、ゴールが見えている場合には大変な状況でも頑張れることが少なくありません。もちろん、過重労働で心身の健康を損なうことがあってはいけませんが、実は苦しい思いをしながらもゴールに向けて頑張り切った経験というのは、その人にとって大きな報酬となり得るのです。

なぜなら、頑張り切ったことで達成感や自信が得られる、スキルや能力面で成長できるといったことはもちろん、何よりも仕事に正面から向き合って、やり切った経験そのものが、その後のキャリアにとってプラスになるからです。

佐野:特に、新規事業の立ち上げや既存事業の変革、撤退といった、何かを「始める」「変える」「終わらせる」仕事を経験しておくと、その渦中にいる間は本当に大変なのですが、スキルや能力面でプラスになるだけでなく、転職市場での評価も高くなる傾向があります。事実、「始める」「変える」「終わらせる」といった経験を持つ人を求める企業は決して少なくありません。

もし今、多くの仕事を抱えて大変な状況にあるのなら、その状況にゴールはあるのかゴールの先にどんな報酬があるのか、俯瞰して考えてみてください。その経験が未来の自分にとってプラスなものになるとポジティブに受け止められるのなら、今の状況を乗り越えた先にある報酬を手にするために頑張るのも意義のあることではないでしょうか。

自分らしい働き方を実現するために

佐野:働き方を選ぶことは、どんな生き方をしたいかを選ぶことでもあります。働き方、生き方は人それぞれです。スキルや能力を身につけるために残業も厭わずに働くのもいいですし、プライベートの時間がしっかり確保できる仕事に転職するのもいいと思います。

自分はどんな働き方をしたいのか、どんな毎日を送りたいのか、自分の本音と向き合ってみてください。そして、自分が望んでいる働き方を実現するために転職が必要だと思えたなら、それがあなたにとっての転職すべきタイミングと言えるはずです。

取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17

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この記事の話を聞いた人

退職学(R)の研究家

佐野創太

1988年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、現株式会社パソナJOB HUBで転職エージェントに従事するも早期離職、無職を経験。出戻り後は新規事業担当兼Webメディア編集長となる。2017年に介護離職を機に独立。「退職後も声をかけられる最高の会社の辞め方」でつくる「セルフ終身雇用」を1000名以上に伝授。50社以上の「悪い退職」をなくす組織開発パートナーでもある。著書の『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』(サンマーク出版)はAmazon、楽天、書店ランキングで1位となる。静岡県生まれ、神奈川県育ち。1児の共働き夫。

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