確認すべきポイントも紹介 雇用契約書と労働条件通知書の違いは?
内定通知後に企業から渡される「雇用契約書」や「労働条件通知書」は、それぞれどのような書類なのでしょうか?また、企業から署名捺印が求められている場合、そのまま対応しても問題ないのでしょうか?
この記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違いや、それぞれの書類の特徴、確認すべきポイントを解説。書類が届いていない場合の対処法についても紹介します。
雇用契約書と労働条件通知書の違いは?
雇用契約書と労働条件通知書は、どちらも労働条件が書かれた書類です。
ただし書類を発行する目的が異なり、雇用契約書は「労働条件を確認し、雇用契約を結ぶための書類」、労働条件通知書は「労働者と企業間のトラブルを防止するために、労働条件を共有するための書類」という違いがあります。
また、2つの書類のうち労働条件通知書は法律で発行が義務付けられている点も大きな違いです。
雇用契約書・労働条件通知書の具体的な違いは、下記の通りです。表の下では、各書類の目的や特徴についてくわしく解説します。
雇用契約書は「企業と雇用契約を結ぶための書類」
雇用契約書は企業と雇用契約を結ぶための書類です。給料、仕事内容、昇給の条件などの労働条件や、会社と取り決めしておきたい事項が明示されているので、内容に認識の齟齬がないか確認できたら、署名捺印をして企業に提出しましょう。
雇用契約書を受け取るタイミングは、内定後~入社までの間と幅広いのが特徴。内定通知のタイミングや、入社日に受け取るのが一般的です。ただし、法的に発行の義務はないため、雇用契約書が無い企業もあります。
労働条件通知書は「労働条件を確認するための書類」
労働条件通知書は、業務内容や賃金の計算方法などの労働条件が記載された書類です。働く前に労働者が労働条件を確認することで、「事前の話と条件が異なる」「賃金の計算方法について説明が無かった」といった労使間のトラブルを防止する目的で発行されます。
必ずしも署名・捺印が求められる書類ではありませんが、企業から求められた場合には、労働条件に合意した旨を示す意味で署名・捺印しましょう。
なお、労働条件通知書は法的に発行することが義務付けられている書類です。基本的に内定通知の際に発行されますが、入社直前になっても渡されていない場合は、必ず転職先の人事・総務に確認しましょう。
記載すべき項目が揃っているか、必ず確認する
労働条件通知書に記載すべき項目は、労働基準法で定められています。
具体的には、必ず記載すべき「絶対的明示事項」と、「退職手当」や「賞与」などの制度を会社が設けている場合に記載する必要がある「相対的明示事項」の、合わせて最大15項目が記載されているので、書類が届いたら項目が揃っているか確認しておきましょう。
【絶対的明示事項】
- 労働契約の期間
- 有期雇用契約を更新する場合の基準
- 勤務場所及び仕事内容
- 始業・終業時間、休憩、休日などに関する内容
- 賃金の計算方法・支払方法・締切日・支払日
- 退職や解雇の条件
- 昇給に関する事項
【相対的明示事項】
- 退職手当に関する事項
- 賞与に関する事項
- 労働者が負担するべき食費、作業用品などに関する事項
- 安全・衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
- 休職に関する事項
雇用契約書と労働条件通知書は、兼用の場合もある
企業によっては「雇用契約書 兼 労働条件通知書」として2つの書類を1つにまとめたものが送られてくることもあります。
兼用の場合は、雇用契約書の役割も担っているため、該当箇所に署名捺印して転職先の人事・総務の担当者に提出しましょう。
書類でなくメールで届くことも
現在は紙の郵送に限らず、企業から電子メールで送られてくることもあります。
その場合は、誤ってメールを削除してしまった・メールを保存していた端末をなくしてしまったなどのデータ紛失トラブルを防止するため、データのバックアップを取っておくと安心です。万が一データを紛失してしまった場合は、転職先の人事・総務の担当者に正直に伝え、再発行を依頼しましょう。
雇用契約書と労働条件通知書が届いていなくても大丈夫?
入社日が近づいているのに書類が届いていない場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
ここでは「雇用契約書」「労働条件通知書」それぞれの対処法を紹介します。
「雇用契約書」は発行しない企業もあるので大丈夫
雇用契約書は法的に発行の義務は無いため、届いていなくても問題ありません。雇用契約自体は、当事者双方の合意があれば口頭でもOKと法律で定められており、そもそも発行しない企業もあります。
ただし、入社後に雇用契約関係のトラブルがあった際には、捺印済の雇用契約書は正式な書類として強い効力を持ちます。雇用契約書が欲しいのに届いていない、という場合は転職先の人事・総務の担当者に確認すると良いでしょう。
労働条件通知書がもらえないのは違法
前述の通り、企業には賃金・労働時間などの労働条件を書面などで明示することが労働基準法で義務付けられています(労働基準法第15条)。もし入社日を過ぎても労働条件通知書が貰えなければ労働基準法違反となるので、早めに労働条件通知書の発行を依頼しましょう。
目安として、内定の通知から1~2週間経過した時点で労働条件通知書を受け取っていない場合は、人事担当者や転職先の上長に連絡をとり、労働条件通知書をいつ頃もらえそうか確認するのがおすすめです。
何度依頼しても労働条件を提示してもらえなかったり、取り合ってもらえなかった場合は、最後の手段として労働基準監督署に相談することも検討しましょう。
雇用契約書・労働条件通知書で確認するべきポイント
雇用契約書や労働条件通知書を受け取ったら、まず一通りの項目を確認しましょう。
その際、給料・ボーナスなど下記の7項目はトラブルが起きやすいので、念入りに確認するのがおすすめです。事前に伝えられていた条件や求人票の内容と差異がないか、必ずチェックしておきましょう。
〈雇用契約書・労働条件通知書で特に確認するべきポイント〉
- 給料・ボーナス
- 入社日
- 雇用期間・試用期間
- 休日・休暇
- 労働時間
- 残業関連
- 就業場所
労働条件通知書については、法的に通知が定められている項目(絶対的・相対的明示事項)が間違いなく書かれているかも確認しましょう。
1.給料・ボーナス
給与・ボーナスに関する内容を確認しないと「給与にみなし残業代が含まれていた」「年収が賞与込みの金額だった」「賞与の支給基準が提示されておらず、満額支給されなかった」といったトラブルに繋がり、生活に支障をきたす可能性があるため、必ず確認してください。
具体的には、下記の8つの内容を確認しておくと安心です。
- 月給制か年俸制か
- 基本給の金額
- 毎月の給与締切日(締め日)
- 毎月の給与支払日
- 昇給の有無
- 退職金の有無
- 賞与の有無・金額<
- 諸手当やインセンティブの支給条件
2.入社日
入社日の項目では、書面に書かれている日程が事前に合意していた内容とずれていないかを確認しておきましょう。もし万が一、退職日から入社日の期間が短くなっていれば、引き継ぎや入社準備を進められず、周囲に迷惑をかけることになりかねません。
書類に記載された入社日を見て、もし事前に合意していた内容と変わっていれば、早めに転職先の企業に連絡してください。
3.雇用期間・試用期間
入社日とあわせて、雇用期間についても確認しておくと安心です。正社員なら「雇用期間の定めなし」となっているか、契約社員など有期雇用の場合は「有期雇用の期間がいつまでか」を必ず確認しておきましょう。
また、「試用期間があるかどうか」も忘れずチェックしておきましょう。もし試用期間がある場合、期間中は給与額や賞与の支給要件などが異なるケースがあるので、記述がないか確認しておいてください。
4.休日・休暇
休日はプライベートの過ごし方に直結するため、入念に確認しましょう。
特に休日関連でトラブルになるのが「週休2日制」を「完全週休2日制」だと勘違いしているケースです。「週休2日制」とは、1カ月の間に週2日の休みが1回以上、ほかの週は毎週1回の休みという制度のこと。毎週2日以上の休みがある制度は「完全週休2日制」であり、別物なので注意しましょう。
書類を確認する際は、完全週休2日制か週休2日制か、休日に祝日は含まれるのか、年間休日数はどのくらいなのか、といった観点で、求人票に書いてあった条件と違いがないかチェックしましょう。
また、「慶弔休暇」「育児休暇」などの休暇制度がある場合、それらの利用条件などもあわせて確認しておくのがおすすめです。不明点があれば、人事担当者に制度の詳細を質問しましょう。
5.労働時間
基本的な確認となりますが、トラブル防止のために労働時間(始業・終業時刻)は必ず確認しておきましょう。
なお、企業によっては裁量労働制やフレックスタイム制を導入している可能性もあります。自分がそれらの制度を利用できるかどうかや、利用できる場合はどのような条件があるのか(フレックスタイム制のコアタイムなど)もあわせて確認してください。
6.残業関連
残業関連の確認を怠ると、入社後に「想定したよりも残業が多い」「残業代が少ない」といったギャップが生じ、私生活に支障が出たり、心身の不調につながったりする可能性があります。
まずは労働条件通知書で「みなし残業制(残業代があらかじめ給与に含まれている制度)になっていないか」「残業時の賃金の割増率が法定以上になっているか」を確認するのがおすすめです。
残業時間の目安となる「平均残業時間」や「繁忙期の時期と残業時間」は書面に記載されていないケースが多いため、人事担当者に直接確認しましょう。
7.就業場所
就業場所(勤務地)についても、事前に合意した内容と相違がないか必ず確認しておきましょう。確認を怠ると、最悪の場合入社後すぐに転居が必要になる可能性があります。
現住所からの転居が必要な場所かどうかを確認しておくほか、転勤の有無や頻度・期間なども確認しておきましょう。
【コラム】求人票や事前に聞いた条件と違っていたら?
雇用契約書や労働条件通知書の内容が、求人票や事前に聞いた条件と異なっていた場合は、速やかに転職先の採用担当者に確認しましょう。
疑問点がある場合や、労働条件の変更を願い出る場合も同様です。内定承諾後(雇用契約の締結後)からでは変更が難しくなるため、その前に確認する必要があります。
先方からの印象を損ねずに、雇用条件を確認する方法は、下記の記事で紹介しています。口頭・メールでのやり取り例を紹介しているので、参考にしてください。
内定通知から入社までに必要な手続きは?
内定通知を受け取った後には、雇用契約書や労働条件通知書以外の書類の対応も必要です。
代表的なものとして「採用通知書」と「内定承諾書」の対応方法については、下記の記事で解説しています。
また、内定通知を受けてから入社するまでに必要な手続きについては、下記の記事で紹介しています。全体の流れを知りたい場合は、こちらも確認してみてください。
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。