退職金、失業保険はどうなる? 依願退職とは|正確な意味と手続き方法

退職の仕方にもいろいろありますが、その一つに「依願退職」という形があります。普段はなかなか使わないこの言葉、あなたはその正しい意味を理解していますか?

ここでは、依願退職という言葉の意味と具体的な手続き、そして気になる退職金や失業保険の扱いについてご紹介していきます。

依願退職とは…退職願を出し、会社が承諾することで成立

定年退職や解雇といった場合を除けば、ほとんどの退職は依願退職に該当します。

依願退職は自己都合退職の一つ

退職は、その原因が従業員側にあるか会社側にあるかによって、「自己都合退職」と「会社都合退職」に分けられますが、依願退職は自己都合退職の一つです。

■自己都合退職

  1. 従業員が退職を申し入れ、会社側の承諾を得て行う退職
  2. 従業員が退職を申し入れ、会社側の承諾を得ないまま行う退職

■会社都合退職

  1. 会社の倒産に伴う退職
  2. 事業所の閉鎖に伴う退職(例:働いていた工場や支店が閉鎖された)
  3. 解雇(人員整理など、労働者に責任を負わなければならない理由がなく行われる解雇)
  4. 退職勧奨に応じて行う退職  など

依願退職とは文字通り、従業員の「願いに依(よ)る」退職のことで、従業員からの申し出によって従業員と会社が合意した上で雇用契約を解除することです。ちなみに、自己都合退職は民法627条1項で次のように規定されています。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

このように、法律上は申し入れさえすれば会社が認めなくても2週間後に退職することが可能です。

※自己都合退職について詳しくは→自己都合退職とは?

※会社都合退職について詳しくは→会社都合退職とは?

手続きには「退職願」。退職金・失業保険は自己都合退職扱い

依願退職は会社と合意したうえでの退職のことを指すので、退職願を提出して会社と話し合いをする必要があります

また依願退職をすると退職金や失業保険はどうなるのか、と気にしている人も多いと思います。

退職金は会社によって制度内容を定めているため、自己都合退職であれば受け取れなかったり、一部減額されたりする場合もあります。また、失業保険では、受け取るまでに2カ月ほどかかるなど、会社都合退職よりも不利な条件になる場合が多いです。

依願退職という言葉が懲戒処分とセットで使われるワケ

使用者側の温情で依願退職になる場合も

本来であれば懲戒解雇のところを、使用者が停職処分にとどめる代わりに「依願退職」として退職願を提出させる場合もあります。「自分の意思で辞めたことにしておけば、履歴書や面接で別の退職理由を説明することができるため、依願退職にしてはどうか」と勧めることがあるのです。

依願退職には「本人からの申し出」を強調する意図

懲戒処分を受けた公務員の退職をメディアに公表する際、役所などは依願退職という言葉を使用する傾向があります。

公務員は、法律で規定されている原因以外で、本人の意向に反して降任させられたり、免職(民間企業でいう解雇)されたりしないと定められています。

そのため、公表する際には「本人の意思による退職である」ということを明確にする必要があり、それを強調するために依願退職という言葉を使っているのです。

懲戒処分は労使ともに退職に流れやすい

不祥事のニュースに限って依願退職という言葉が使われるのはなぜなのでしょうか。

懲戒解雇(公務員の場合は懲戒免職)でない限り、懲戒処分を受けたとしてもその職場で働き続けることは可能です。

しかし、懲戒処分を受けた社員としては職場を居心地が悪いと感じたり、その後の昇進や昇給に悪い影響が出ることを心配したりするため、退職したいと考えることも少なくありません。一方、会社側も懲戒免職した社員に対して不信感を持っていたり、「辞めてもらいたい」と思っているかもしれません。

このような理由から、懲戒処分を受けると、双方の同意による依願退職に至ることが多いようです。

依願退職の手続き|まずは「退職願」の提出から

理由は「一身上の都合」で

依願退職は、退職の申し入れを会社側が承諾することで成立します。法律上は、退職の申し入れは口頭でも構わないとされていますが、「言った」「言わない」のトラブルを避けるためにも、書面で申し入れを行うべきです。

退職願の書き方は、通常の自己都合退職の際と同じです。退職理由は「一身上の都合」とし、具体的な理由を書く必要はありません

※退職願の詳しい書き方は→【見本つき】退職届・退職願の書き方まとめ

依願退職の退職金|会社の規程を確認

会社都合退職に比べて低くなる場合が多い

会社に退職金制度がある場合、支給条件を満たしていれば依願退職でも退職金をもらえます。ただ、支給条件や退職金の算出方法、具体的な金額は企業によって大きく異なっています

退職金の額を算出する際、依願退職は自己都合退職として扱われますが、多くの企業では会社都合退職に比べて自己都合退職の退職金は低く設定されています。具体的には、同じ勤続年数でも退職理由によって支給率に差をつけたり、会社都合退職の場合を満額として自己都合退職の場合はそこから一定割合を減額したり、といったケースがあります。

また、勤続年数によっては退職金を一切支給しない企業もあります。1年以上勤めていれば退職金が支給される企業もあれば、3年以上たたないと退職金を支給しない企業もあるなど、こちらも企業によってまちまちです。

退職金は法的に企業に義務付けられているものではありません。このため、一律の決まりはなく、どのような制度にするかは企業に委ねられています。

退職金制度がある場合、会社には支給の条件や支給率を定めた「退職金規程」というものがありますので、確認してみることをお勧めします。

依願退職の失業保険|自己都合扱い

支給開始まで2ヶ月かかる

依願退職の場合でも、失業保険を受け取ることができます。ですが、自己都合退職として扱われるので、支給開始までには2ヶ月程度かかるので注意が必要です(※会社都合退職の場合、ハローワークに離職票を提出して7日後)。

失業保険は、離職した人が次の職を見つけるまでの生活を支えるための制度です。雇用保険に一定期間加入していれば、1日6,000~8,000円程度を上限に、直近半年間の給与の50~80%の給付金を受け取ることができます。

また、自己都合退職の場合は会社都合退職に比べて支給期間が短くなりますし、給付金を受けるために必要な雇用保険の加入期間も、自己都合退職の方が長く設定されています。失業保険は、会社都合でやむを得ず離職した人に手厚い制度になっているのです。

※会社都合退職と自己都合退職の失業保険の違いについては→自己都合でも失業保険で損しないための3ポイント

【最新情報】自己都合退職の給付制限が2ヶ月に短縮されました(2020年10月1日更新)

自己都合退職の給付制限が、3ヶ月から2ヶ月に短縮されました。なお、期間短縮の対象者は2020年10月1日以降に退職した方です。ただし、最新の離職日からさかのぼって5年以内に3回以上自己都合退職をしている場合は、引き続き3ヶ月の給付制限がかかります。

※出典:「給付制限期間」が2か月に短縮されます|厚生労働省

まとめ

依願退職は、従業員が退職願を提出し、会社がそれを承諾することで成立する退職の形態で、自己都合退職の一つとして位置付けられます。

依願退職は決して悪いことではありませんが、不祥事とセットで使われることが多いため、マイナスイメージを持っている人がいることも事実。退職の話をする際には、わざわざ依願退職という言葉を使わない方が無難かもしれません。

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。
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