状況別の対処法 会社が辞めさせてくれない!辞める方法は?
強引な引き止めを受けたり、退職届を受け取ってもらえなかったり、場合によっては「違約金を払え」「損害賠償を請求するぞ」と脅されたりと、会社が辞めさせてくれない状況はさまざま。
5つの状況別に対処法を紹介します。
会社がなんと言おうと辞めて大丈夫
退職の意思を伝えても会社が辞めさせてくれずに困っている方が知っておくべきなのは、「会社がなんと言おうと辞めて大丈夫」だということです。
法律で会社を辞める権利は保障されており、そもそも会社の許可を得る必要はありません。
正社員は最短2週間で会社を辞められる
法律上、正社員は退職を申し出てから2週間で会社を辞めることができます。その際、会社の許可は必要ありません。民法第627条で、次のように規定されています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。
ただし、引き継ぎなどに期間を要する場合もあるので、本来は申し出から1~2ヶ月程度先を退職日に設定するのがベターです。スムーズに退職するためにも、引き継ぎ資料などは早めに作成しておくようにしましょう。
【状況別】会社が辞めさせてくれないときの対処法
強引な引き止めによって会社が辞めさせてくれない場合でも確実に退職できる方法を、5つの状況別に解説します。
退職届を受け取ってもらえない場合
法律では「退職の意志を伝えたあと2週間たてば退職できる」と規定されており、退職の意思表示は口頭でも構わないとされています。よって、会社に退職届を受け取ってもらえなくても退職することは可能です。
とはいえ、退職届の受け取りを拒否されたままにしておくと、「言った言わない」の問題に発展する可能性も。
退職の意志を伝えたことを確実に証明するためには、内容証明郵便で退職届を送付することが有効です。その際、配達証明も付けておくとより確実な証拠を残すことができます。
内容証明郵便とは「いつ、どんな内容の文書を、誰が誰宛に送ったかを郵便局が証明してくれる」サービスで、配達証明は「配達した事実を証明してくれる」サービスです。いずれも数百円程度の追加料金で利用できるので、両方を利用しても1,000円程度で済みます。
内容証明について|日本郵便株式会社
配達証明について|日本郵便株式会社
なお、退職届に記入する退職日は退職届が会社に到着する日から2週間後にしておくと、最短で辞められます。
指定された退職日までが長い場合
希望する退職日よりもかなり先の退職日を指定された場合でも、それを待つ必要はありません。
「退職は申し出から2週間で可能」とする民法が優先されるため、就業規則に「退職する場合は〇カ月前までに申し出ること」とする記載があっても、社員に強制することまではできません。
過去には「役職者が退職する場合、6カ月以上前に退職届を提出しなければならない」という就業規則が違法だという判決を受けた事例もあります(東京地裁1976年10月29日・労働判例264号、高野メリヤス事件)。
「数カ月以上先にしか退職できない」と就業規則に記載されていたり、上司からそのように伝えられた場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
「辞めるなら懲戒解雇処分にする」と言われた場合
従業員が就業規則に明記されている違反行為をしない限り、会社は社員を懲戒解雇することはできません。
懲戒解雇になるような違反行為の例は、横領や架空取引、著しい経歴詐称、重大犯罪、長期間に渡る無断欠席などです。退職することが懲戒解雇の理由になることは認められません。
万が一不当な懲戒解雇処分をされた場合は、退職金が支給されなかったり、転職に悪影響が出る可能性もあるので撤回させなければなりません。労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
「就業規則に記載の違約金」を請求された場合
会社の就業規則に「申し出から3カ月以内に退職する場合は10万円を支払う」など、違約金についての記載があっても、支払う必要はありません。
労働基準法では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められており、そうした就業規則自体が違法となるからです。
もちろん、給料からの天引きも違法。違約金を求められた場合は毅然とした態度で拒否し、万が一天引きされてしまった場合は労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
「損害賠償請求をする」と言われた場合
退職を理由に「損害賠償請求する」と言われても、会社に明らかな損害を与えた場合を除き、損害賠償が実際に認められることはありません(損害賠償が認められる例:プロジェクトリーダーとして採用されたのにすぐに退職してしまい、取引先との契約が破談になったなど)。
損害賠償請求とは別ですが、研修費用などの会社があなたのために負担したお金を返すように言われた場合は、支払わなければならない可能性もあります。
例えば、
- 会社が費用を負担する研修を自分の希望で受けた場合
- 会社が研修費用を立て替え、一定期間勤めた場合にのみその費用が免除されるという条件がある場合
などです。上記のようなケースでは、研修費用を支払わなければならないケースもあるので注意が必要です。
「対処法はわかったけど勇気が出ません…」という人へ
対処法はわかっても、実際の行動に移すのはなかなか勇気がいるもの。そんなときは、1人で抱え込まずに相談できる人を探すことが、退職のための重要な一歩です。
社内であれば直属上司よりも上の役職者、社外であれば労働基準監督署の職員、弁護士など、あなたの退職をサポートしてくれる人がいます。
弁護士であれば、あなたに代わって会社と退職交渉をすることも可能です。無料相談に応じている弁護士事務所も多くあるので、まずは相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
▼労働基準監督署(労基)に相談したい
こちらのサイトに、各自治体の労基ホームページのリンクが記載されています。
▼弁護士に相談したい
「弁護士 無料相談 (お住いの地域名)」で検索すると、無料相談に応じてくれる弁護士を探せます。
体験談 ~退職できた2人の成功例~
会社に退職を拒否されていたものの、意志を貫いて無事退職できた2人の体験談を紹介します。
退職手続きに応じてくれなかったので強行突破(事務職・28歳・女性)
新卒入社した会社で3年間勤めていましたが、ほかにやりたいことが見つかったので退職を決意しました。ですが、上司がまともに取り合ってくれなかったせいで退職交渉は難航。転職先の入社日が迫っていたため、退職届を内容証明郵便で会社に送って強行退職に踏み切りました。
退職届が会社に届いてから退職日までの2週間は肩身の狭い思いをしましたが、何よりも「早く辞めたい」という気持ちが強かったので乗り切ることができました。
引き継ぎについては、上司と「誰に何を引き継ぐか」という話ができるような雰囲気ではなかったので、資料にまとめてデスクに残してきました。最終出社日は、仲が良かった同僚にだけ挨拶をして、ひっそりと退社。円満退職とは程遠いですが、とにかく辞められてよかったです。
脅迫に怯えながらもなんとか退職(営業職・32歳・男性)
人手が足りないせいで毎日激務。残業続きで体調を崩したのがきっかけとなり、上司に退職を申し出ました。
はじめのうちは「君が会社に必要だ」と優しく引き止められていましたが、それでも退職の意志を曲げないでいるうちに「ウチを辞めるのならこの業界で働けなくしてやる」と脅されるように。怖かったですが、ここで引き下がると一生辞められないと感じたので、思い切って社長に直談判してどうにか退職にこぎつけました。
結局同じ業界内で転職できましたし、上司のセリフはただの脅しだったと後になって気づきました。人手の足りない会社を辞めるのは申し訳なさもありますが、何よりも自分のためを思って行動するのが大切だと思います。
会社が辞めさせてくれないときのQ&A
Q.辞めさせてくれないときはバックレてもいいの?
会社が辞めさせてくれない状況とはいえ、無断で欠勤して一切の連絡を遮断する=バックレることは避けてください。あなた自身に不利益が生じるリスクがあります。
引き継ぎをしなかったことによる会社側の不利益を、損害賠償として請求されてしまったり、懲戒解雇扱いになり転職で不利に働くかもしれません。
退職届を提出すれば最短2週間で退職が成立するので、受け取ってくれない場合は内容証明郵便で上司または人事部宛てに郵送しましょう。内容証明郵便を利用することで、退職届を提出した記録を残すことができます。
Q.転職先に不利なことを言われたりしない?
退職交渉のなかで転職先の企業名を伝えてしまうと、ありもしないことをでっちあげ、転職先に伝えられるという嫌がらせを受ける可能性もあります。
よって、上司から転職先を教えるように強く迫られたとしても、教えてはいけません。もし聞かれた場合は、「まだ転職先は決まっていません」「転職先から口外しないように言われています」などと伝えるようにしましょう。
Q.退職交渉で揉めても有給消化はできる?
退職交渉で揉めたとしても、退職時の有給消化は可能です。退職に関係なく、有給の取得は労働者の権利なので、会社は拒否することができません。
上司に有給消化したい旨を伝えても拒否してくる場合は、さらに上の上司や人事、本社に申し出ましょう。それでも認めてくれない場合は労基に相談することをおすすめします。
実際に労基に相談はしないにしても、上司に「労基、もしくは弁護士に相談します」と伝えれば状況が変わる可能性もあります。
Q.正社員ではなく、契約社員の場合はどうすればいい?
契約社員などの雇用期間に定めのある人は、契約期間が終了するまで、もしくは雇用契約を結んでから1年以内は、やむを得ない事情がないかぎり退職できないルールになっています。
やむを得ない事情として挙げられるのは「怪我や病気で働けない」「職場でハラスメントを受けている」などです。
辞められない会社はない!必要な準備と心構え
この記事では状況別に、会社を辞めさせてくれない場合の対処法を紹介しました。
退職交渉で困っている人向けに参考になる記事をまとめたので、下記もご確認ください。
▼未払いの賃金や残業代は請求できる?
▼嫌がらせで離職票が届かない人へ
(作成:転職Hacks編集部 城間美将)
この記事の監修者
弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。