拒否された時の対処法は? 退職時の有給消化マニュアル
「残っている有給休暇は退職までに全部取得できる?」「有給消化について会社に言い出しづらい…」。
そんな退職時の有給消化に関する疑問や、円滑に退職できる有給消化のスケジュールの立て方について解説します。
退職時に残っている有給休暇はすべて使える
退職時に残っている有給休暇は、すべて使い切ってから退職することができます。有給休暇の取得は労働者の権利だからです。また、取得する際に理由を伝える必要はありません。
なお、年5日以上の有給休暇の取得は会社に課せられた義務です。そのため「有給休暇はいらない」という場合でも、すでに年5日は取得しているのか確認してください。取得済みの有給休暇が5日に満たない場合は、取得してから退職するようにしましょう。
有給休暇の残日数はどこで確認する?
有給休暇の残りの日数は、給与明細書や勤怠を管理しているWebツールなどで確認できます。自分で確認できない場合は、総務や人事部に直接尋ねましょう。
なお、有給休暇の最大保持日数は40日。完全週休2日制の場合、月間の営業日は20日前後のため、40日すべて使って退職するのであれば、有給消化だけでも2カ月かかります。
そのため、退職の意志は少なくとも3カ月前を目安に伝えておく必要があるでしょう。
退職時に円滑に有給消化するには?会社にどう伝える?
円滑に有給消化するためには、あらかじめ退職までのスケジュールを立てておくことが大切です。
退職までの流れに沿って、やるべきことを解説します。
〈退職までの流れとやるべきこと〉
- 上司に退職の意志を伝える
- 退職までのスケジュールを逆算して立てる
- 退職までの計画を上司に伝える
ステップ1:上司に退職の意志を伝える
まずは就業規則などに書かれている「退職する場合は◯日前までに伝える」などの規定をもとに、直属の上司に退職の意志を伝えます。すでに転職先が決まっている場合や退職日の目安がある場合は、その旨をあわせて伝えましょう。
なお、この時点では有給消化について、くわしい話はしなくてOK。まずは退職したいと伝えることが重要です。
退職を切り出すタイミングや言い方について、くわしくは下記の記事で解説しています。
ステップ2:退職まで逆算してスケジュールを立てる
退職について会社と合意が取れたら、退職日から逆算してスケジュールを立てましょう。
この際、自分の業務状況と残っている有給休暇の日数を確認した上で、退職日までのスケジュール表を作成するのがおすすめです。引き継ぎの進め方や、希望する有給消化の期間を具体的に伝えられるように、計画を立てましょう。
上記のスケジュール例のように、例えば有給休暇の残りが20日程度あれば、退職日前の1ヵ月間はまるまる有給消化にあてるとよいでしょう。引き継ぎ期間は1ヵ月前後を目安に設定します。
なお、有給休暇を消化する方法には2つのパターンがあります。現在の業務状況なども踏まえて、どちらがよいのか選びましょう。
パターン1:退職日までにまとめて取得する
退職日までにまとめて消化するパターンでは、有給休暇の取得開始日の前日を最終出社日に設定するのが一般的。この場合、最終出社日≠退職日になりますが、退職日に改めて出社する必要はありません。
長期の休暇になるため、まとまった時間を引っ越しや旅行などにあてたい場合は、こちらのパターンがおすすめ。ただし、最終出社日までにすべての引き継ぎや手続きが終わるように、無理のないスケジュールを立てる必要があります。
パターン2:退職日までにまばらに取得する
退職日までにまばらに取得するパターンでは、最終出社日=退職日になることが一般的です。
絶対に出社しなければならない曜日がある場合などは、こちらを選択しましょう。
ステップ3:退職までの計画を上司に伝える
無理のない退職スケジュールが立てられたら、直属の上司に退職日までの計画を伝えます。その際、下記の3点については必ず触れるようにしましょう。
- 退職予定日(何月末になるのか)
- 有給消化にあてたい有給休暇の日数と期間
- 有給消化までの引き継ぎ事項やその計画
業務の引き継ぎを行う際の注意点やよくある疑問について、くわしくは下記の記事で解説しています。
退職時の有給消化を拒否されたら?買い取ってもらえる?
会社によってはスムーズに有給消化できない場合もあります。
ここでは、退職時の有給消化を拒否されたときの対処法を解説します。
ステップ1:本社や人事部に相談する
退職にまつわる相談をした直属の上司に「有給消化はさせられない」と言われた場合、本社や人事部に直接相談するようにしましょう。
直属の上司は複数の部下の業務状況を把握しているからこそ「人員不足なので有給消化をさせられる状況ではない」と独自に判断し、拒否している可能性があるためです。
ちなみに、会社によっては有給休暇の時季変更権(労働基準法39条5項)を理由に拒否するところもありますが、法律上の解釈では退職する(=他に有給休暇を使用できる時季がない)場合には認められません(※)。
仮に会社がそのことを引き合いに出してくる場合には、法的には認められないことを伝えましょう。
※通達(昭和49年1月11日・基収5554号)
退職の引き止めにも注意
有給消化がうまくいかないような人手不足の会社では、退職自体を引き止められることが少なくありません。
引き止めにあいそうだと感じる場合は、下記の記事もあわせてチェックしておきましょう。
ステップ2:労働基準監督署に相談する
本社や人事部に相談しても有給消化が難しい場合は、労働基準監督署に相談するのも一つの手です。相談自体は無料で、会社の対応が違法である場合には会社への指導や是正勧告をしてもらえる可能性があります。
※参考:
全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省(公式サイト)
しかし、現実的には有給消化を諦め、会社と合意したスケジュールどおりに退職したほうが円満に辞められる可能性も。有給休暇をすべて使い切ることなく、退職せざるを得ない状況もあることを覚えておきましょう。
離職期間ができる場合は転職先に相談も
有給消化を拒否されて退職することになった場合、想定外の離職期間ができてしまうケースがあります。このような場合には、転職先に入社日を早められないか相談しましょう。
離職期間ができると、年金や保険、税金などの手続きが発生してしまいます。会社によっては、手続きの煩雑さを鑑み、離職期間ができないように取り計らってくれる場合もあるので、相談してみるのも一つの方法です。
有給休暇を買い取ってくれる会社もある
会社によっては、退職時にあまった有給休暇を例外的に買い取ってくれるところもあります。
前例があるかどうかや、交渉次第にはなりますが、有給消化できない場合には買い取りを打診してみてもよいでしょう。くわしくは下記の記事で解説しています。
有給消化中の給料は通常どおりもらえる?
「働いた」とみなされた分の給料がもらえる
有給休暇はその名のとおり「給料をもらいながら休める制度」です。そのため、退職に伴って有給休暇を取得した日も「働いた」とみなされ、その分の給料がもらえます。
有給取得分の給与の算出方法は会社によりさまざまで、就業規則などで規定されています。
基本的には以下の3パターンのどれかになります。
- 基本給をもとに支払われる
- 平均賃金(日別平均額)をもとに支払われる
- 標準報酬月額の日割りで換算されて支払われる
(1)に残業代は含まれないため、それまでの通常の勤務時に残業が多かった場合、有給消化分の給料は比較的少なくなる可能性があります。
また(2)(3)の場合は算出するための日数が営業日ではなく総日数や月の日数になるため、基本給よりも少なくなる可能性があります。
コラム:有給消化中にボーナス支給日がきたら?
退職の有給消化中にボーナス支給日がきた場合、ボーナスをもらって退職できるかどうかは会社によります。有給消化中であろうと、支給日に在籍していれば支給されるのが基本ですが、そもそもボーナスの支払いは会社の義務ではありません。
「個人の今後の業績・成果への期待」を込めてボーナスを支給している場合には、退職する(=今後の成果を見込めない)ために通常もらえる金額より少ない、あるいはまったくもらえない可能性もあるでしょう。
退職にまつわるボーナスの仕組みや、もらって辞めるためのスケジュールなど、くわしくは下記の記事で解説しています。
退職までにやるべきことも確認しておこう
業務の引き継ぎや有給消化など、退職日までのスケジュールを立てたら、最終出社日にやるべきことを確認しておきましょう。
▼当日の挨拶の仕方
▼退職の挨拶メールの送り方
▼お礼用のお菓子の準備
▼退職前に読んでおきたい
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者

弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。
