転職者の9割が勘違い 面接官を失望させる志望動機のワースト1

転職活動で必ず聞かれる志望動機。実は多くの人が共通して勘違いしていることがあるんです。

その勘違いとはどんなものなのか、リクルート、ライフネット生命の採用責任者として2万人以上と面接した「人事と採用のプロ」、曽和利光さんに聞きました。

「その会社でなければならない理由」なんて必要ない

曽和利光さん(以下、曽和):転職を考えている人が、履歴書や面接で必ずと言っていいほど聞かれるのが「志望動機」です。実はこの志望動機について、多くの人が共通して勘違いしていることがあります。

それは、「志望動機とはその会社でなければならない理由を伝えるもの」という勘違いです。私の実感では、転職を考える人の9割がこの勘違いをしていると言っていいかもしれません。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

曽和:こう言うと驚く人もいると思いますが、面接や応募書類で志望動機を問われても、「その会社でなければならない理由」を伝える必要はないのです。

転職の場合、応募のきっかけは「転職エージェントから紹介された」「求人情報を見て興味を持った」という人が多数派です。つまり、たまたまその会社の求人を知って、軽い気持ちで応募している人がほとんどと言えるでしょう。ですから、応募の段階で明確な志望動機がなくても、それはおかしなことではありません

もちろん、最終的には「なぜその会社で働きたいのか」を自分の言葉で語れなければ内定を取るのは難しいでしょう。それでも、伝えるべきは「その会社に魅力を感じた理由」であって、「その会社でなければならない理由」ではないのです。

そもそも、これだけ多くの会社がある中で、「その会社でなければならない理由」なんてあるはずがないのですから。

曽和:履歴書には志望動機を書く欄がありますし、初期段階の面接でも志望動機を聞く質問が定番になっています。

つまり、応募者は、その会社のことをよく知らない段階で、「なぜうちの会社を志望したの?」という質問に答えなければならないわけです。

これを恋愛に置き換えるなら、合コンで初めて出会った人が「なんで私のことを好きなの?」と聞いてくるようなもの。聞かれた側としては困惑して当然ですし、「まだわかりません。これからいろいろ知った上で判断します」というのが本音ではないでしょうか。

ですが、選考の場では、その本音をそのまま伝えると、コミュニケーションが取れない人と思われて落とされてしまいます。だからといって、無理に志望動機を考えようとすると、「典型的な失敗」をしてしまうのです。

面接官を失望させる志望動機のワースト1は?

曽和:志望動機の典型的な失敗とはどんなものでしょうか。最も面接官を失望させる志望動機と言ってもいいかもしれません。

それは「御社はこんなビジネスを展開している会社なので志望しました」「御社はこういった経営理念を持った会社なので志望しました」と、その会社の事業や経営理念を説明してしまうこと。どういうことなのか具体例を見てみましょう。

〈失敗例1〉メーカーの場合

面接官:「なぜうちの会社を志望したの?」

応募者:「貴社は高い付加価値をもった製品を開発することで、人々の生活と社会を豊かにしている企業だからです」

〈失敗例2〉出版社の場合

面接官:「なぜうちの会社を志望したの?」

応募者:「貴社は読者の心と生活を豊かにするという理念を掲げ、多くのベストセラーを出版している企業だからです」

曽和:一見、きちんと答えているように思えるかもしれません。しかし、厳しい言い方をするなら、これではその企業の事業内容や経営理念を説明しているのと何も変わりません。

このような志望動機では誰が話しても同じですし、その人の価値観や考え方が何も伝わってきません。企業側から見れば何も言っていないのに等しいものです。面接ではもちろん応募書類の段階でも、企業から評価してもらうことはむずかしいでしょう。

初期段階の志望動機は「選社理由」を伝えればいい

曽和:では、まだその会社のことをよく知らない段階で志望動機を聞かれた場合、どのように答えればいいのでしょうか。

結論からお伝えすると、応募書類や初期段階の面接では「選社理由」を伝えれば問題ありません

選社理由とは、「会社を選ぶ基準」のことです。たとえば、「私は△△といった点を重視して会社を選びたいと考えています。御社は××な点で私の希望に合っているので応募しました」といった形で、自分がどういう考え方で会社を選ぼうとしているのかを伝えればいいのです。

〈初期段階の志望動機の例〉

面接官:「なぜうちの会社を志望したの?」

応募者:「私は、顧客との信頼関係を何よりも大切にしています。顧客の潜在ニーズにフォーカスした提案営業で成果をあげている貴社であれば自分の経験・能力を活かせるのではないかと考え、応募しました」

なぜ企業は志望動機を聞きたがるのか

曽和:実は企業側としても、最初から明確な志望動機を持って応募してくる人など、ほとんどいないということはわかっています

また、近年は人材不足からどの企業も採用に苦戦しています。そのため、特に選考の初期段階では、企業が応募者を一方的に評価するのではなく、自社の事業内容や入社後の業務イメージなどを伝えて、自社への志望度と理解度を深めてもらうことを重視している企業が増えているようです。

むしろ、志望動機から自社に対する理解度や志望度をチェックして応募者を選別する企業は少数派と言えるかもしれません。

曽和:それなのに、なぜ企業は志望動機を聞くのでしょうか。

それは、志望動機を通して、応募者自身の「価値観」や「考え方」を知りたいと考えているからです。その人の価値観や考え方を聞くことで、自社にマッチしそうか、自社の仕事に適性がありそうかを見極めようとしているのです。

先ほどと同じく合コンにたとえると、「なぜ私のことを好きなの?」と聞かれているのではなく、「どういう人がタイプですか?」と聞かれていると考えればわかりやすいのではないでしょうか。

その意味でも、選考の初期段階では「選社理由」を志望動機として伝えればいいことがおわかりいただけるかと思います。

説得力ある志望動機を語るには?

曽和:とはいえ、選考が進んで最終的に内定が出るかどうかのタイミングになれば、説得力ある志望動機を伝えなければなりません

選考の最終段階で志望理由を企業が志望動機を聞くのは「どういう人がタイプか?」を知るためではありません。恋愛にたとえるなら、もはや婚約するかどうかの段階です。少しおおげさかもしれませんが、「何があっても添い遂げるだけの覚悟がありますか?」と聞かれていると考えてください。

逆に言うと、たとえば「何となく憧れて」とか「脚光を浴びている業界だから」といった浅い志望動機では(もちろん、そのまま伝える人はいないと思いますが)、何か困難なことに直面したら心が折れて、簡単に会社を辞めてしまうのではないかと企業側は懸念しているのです。

曽和:そこでお伝えしたいのは、企業側が納得するような説得力ある志望動機を作るには、「what」と「why」の二軸で考えていただきたいということです。

「what」はその会社の「何に魅力を感じるか」、「why」はその会社に「なぜ魅力を感じるか」ということですが、特に大切なのが「why」です。

「what」だけを語っても、企業が知りたがっているあなた自身の価値観や考え方を伝えることはできません。ですが、「なぜそこに興味を持ったのか」「そう思うようになったきっかけは何か」という説得力ある「why」を語ることができれば、何があっても折れずに頑張り切るだけの「思い入れ」があると感じてもらえるはずです。

▼説得力ある「why」を考えるには?

心から魅力を感じる会社を見つけよう

曽和:軽い気持ちで受けた企業であっても、選考の過程で魅力を感じて「この会社で働きたい」と思うようになるケースもあるでしょう。その場合は、改めてどんな企業なのかしっかりリサーチした上で、「その会社のどんなところに、なぜ魅力を感じたのか」を自分の言葉で語れるようにしてください。

逆に、「この会社は自分には合わないかも」と思ったら、たとえ条件のいい企業であっても、自分に嘘をついてまで転職する必要はないと私は思います。なぜなら、ミスマッチな会社で働き続けることほど不幸なことはないからです。

心から魅力を感じる会社で長く活躍できてこそ、「この転職は成功だった」と言えるのではないでしょうか。そのためにも、しっかり自分と向き合って、本当に魅力を感じる会社を見つけていただきたいと思います。

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この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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